勇者旅立つ
シャガールⅣ世「では勇者よ!頼んだぞ」
レイ「はい、お任せ下さい」
(・・・・はぁ、まったく馬鹿馬鹿しい。)
堂々と勇ましいフリをして俺は玉座の間を後にする。
ここは人間と魔族がひしめき合う世界。
そして複数の魔王が互いに覇権を争っている。
魔王とは魔族の頂点であり第一権力者であるが、魔族のルールというのは至って単純で、要は強いやつが偉いのだ。
また、魔族は単体の力がなまじ強いため、人間のように集団でいる必要はなくほとんどが単独で行動している。
しかしそれぞれの魔族の種別差、また性格差によるものもあるが集団を形成している連中も存在する。
よって大概の魔王は自意識が高いのか単なるバカなのか分からないが、自ら魔王または魔王の器と名乗っているにすぎない。
一方人間の方はまぁ、魔物が散在している世界で一定の空間を確保し、寄せ集まって生活している。
あまりにも小さなコロニーだと魔物に襲撃され全滅する可能性が高いので自然と大きなコロニーが形成される。
政治形態によりそれが王国だの帝国だの呼ばれているが、散在する魔族に遮られ各国の繋がりは薄い。
よって人間特有の利害関係もあまり生まれないため国同士の戦いは非常に希である。
レイ「う~ん、1000Rも入ってるが何に使おう」
王様からとあるミッションの準備金を頂いたがこれをしょーもないものに使うのも一興だ。
でもまぁ、ここは真面目に傷薬や魔術子の元でも調達しておこうか。
城門をくぐって、外れの市街地へ歩き出す。
ここはアストリア王国
広大な平野の東方に位置し、南方は海、残り三方が巨大な防壁で囲まれている。
海底は急に深くなっており天然の良港となっていることから交易の中心を担っているようだ。
人口は一万人程度。温暖な気候で作物もよく育ち、魔族の襲撃も少ないことから人間の生存環境に非常に適しており年々人口が増えている。
レイ「このあたりだったっけかな」
壁門付近に位置する道具屋へたどり着いた直後・・・
ソフィア「あ、レイだ!なにその格好」
レイ「・・・・なんだソフィアか」
こいつはソフィア
記憶がおぼつかないぐらいの小さい頃から一緒に居るヤツだ。
俗に言う幼馴染みだがそんな大層なものでもなく単なる腐れ縁と言った方が正しい。
俺が何かしようとすると必ず何かしら絡んでくる。
俺が先に魔術学校に入っては後からあいつが入ってきて、先に王国騎士団に入っては後から入ってくる。(何をやっても大概あいつの方が成績が良いのが悲しいところだが・・・)
レイ「・・・ちょっと暮用でな。アクア山へ行ってくる」
ソフィア「アクア山かぁ~魔族の巣窟だね。じゃあちゃんと準備しなきゃ。魔術杖のチャージと黄昏頭巾とあとそれからそれから~」
レイ「・・・・おまえ、まさかついて来るつもりじゃないだろうな」
もう記憶がおぼつかないような幼い頃からだが、こいつは実に苦手だ。
突拍子のない発言や行動ばかりで一体何を考えているのか分からない。
俺と波長が全く合ってないというか、いつも反応に困って調子が狂う。
ソフィア「大丈夫!今日と明日はOFFの日だから」
レイ「おいおいおい。俺も遊びでやってるんじゃねーんだぞ?大体、これからたくさんの魔族と戦いに行くわけで」
別にこいつの身が心配ではなくただ単についてこられるのが鬱陶しいだけである。
ソフィア「でもレイ、魔術弱いじゃん。私のほうが魔術子多いし、ちょっとは回復術もできるし」
レイ「そんなもん近接戦と強化魔術でなんとかなる」
ソフィア「まったくレイは相変わらずノウキンだね。遠くから魔術で倒したほうがすぐ終わるじゃん」
・・・・・といった押し問答が少し続いたがめんどくさくなったので好きにさせる事にした。
人間が魔術というものを手にし極め始めてからは人間と魔族の間に力の差は確実に無くなってきている。
いや、集団戦法が効率的に取れる人間の方が戦いに分があり、本格的な戦闘になれば大概人間側が勝利する。
しかし原因は分かっていないが、魔族というのはまるで一定数を保つ作用が働くがごとく、何処からともなく無制限に発生しており倒しても倒してもきりがない。
もはや魔族を絶滅させようと言い出す者は皆無であり、それが人間と魔族の不気味な均衡を保っている。
魔術とは言われているが、その性質から空間操作術と言った方が一部正しいようである。
"とある空間"から何かを取り出す技術のようで、そこから炎を取り出して攻撃する。吹雪や旋風を取り出して攻撃するというのが一般的な使い方である。
しかし炎や吹雪などが詰まっている"とある空間"とやらの正体は判明されておらず、そもそも純粋な空間操作術なら二点間の瞬間移動は可能だし、空間と関係ない回復魔術や身体強化魔術などが使えるのはおかしい。
魔術の正体を解き明かそうと各国の研究者が日々しのぎを削っているが国同士の繋がりが薄いため効率が悪く、一向に進んでいないのが実態だ。
レイ「アストリア平原か。相変わらず青々とした所だな」
王様から頂いた脱壁許可書を提出して巨大な門をくぐる。
ていうかソフィアのやつが特に許可書無しで壁の外に出れるのは貴族の娘だからか?
ソフィア「ん~心地よい風だなぁ~。さーていっちょやりますか!」
レイ「何をだよ」