第六章 年越し支援村 第七章 自首
リーマンショック殺人事件(四)
第六章 年越し支援村
1
久美は、首を締め付けているヒモを両手で掴もうとして、死に物狂いでもがいた。
ブルブル震えている手が、捩れて細くなったネクタイを握りしめて、懸命に首を絞めつけている。
その手の甲がすぐ口の前にあった。
締めた首が想定より細くて、ネクタイを握りしめた両手が交差して、前に出てしまったようだ。
久美は、気が遠くなりかけていたが、無我夢中で、その手に噛みついた。
前歯が折れてもいい、と思った。
男が、思わず、うっ、と抑えた悲鳴を上げた。
ヒモが弛んで、呼吸が楽になるのと同時に、左手で、ネクタイをつかんで、思いっきり引っ張った。
這うようにして、前方に体を投げ出して、伸ばしてきた男の手を右足で蹴りつけた。
立ち上がって、駆け出そうとしたが、足がもつれて、前につんのめった。
久美は、助けて!、助けて!、と悲鳴を上げながら、前に這った。
男が背後から覆い被さってきた。
もう駄目だ、と思った。
なんとか体を回して、仰向けの姿勢になると、低ヒールの靴を履いた両足をばたつかせて、めちゃくちゃに蹴った。
バタバタと駆け寄ってくる乱れた靴音が聞こえた。
竹添が、男に飛びついた。
竹添にタックルされた男が前にのめるところを、左の方に駆け寄った牧山が、男の後首筋に、情け容赦のない手刀を二、三回打ち込んだ。
尾形は、声も上げずに、うつ伏せに、長々と伸びていた。
久美は、尾形が拘置されてからの供述の概要を聞かされて、改めて戦慄を覚えた。
尾形恵一は、学生時代と、その後の数年間、社会変革を目的とする左翼系の活動に加わっていた時期があった。
派遣会社に登録して働き始めた頃は、妻子を持つ身になっていて、折り合いをつけて生きていくしかない、と考えるようになっていた。
献身的に、真面目に働いていたつもりだった。
シグマでは、尚更だ。
そんな尾形の身に、再就職先の当てがないと明白にわかる状況の中で、寝耳に水の解雇という事態が、それも不沈空母のような企業と思っていたシグマで起こった。‘派遣’という立場の弱みにつけ込んで、非情に徹した扱いをされた。
その後も、まともな職にありつけなかった。
左翼思想が蘇った。
Σ《シグマ》自動車工業は、不条理な格差社会を構成している代表的な企業の一つであるという思いが日増しに募った。
やり場のない怒りが、捌け口を求めた。
憤りにまかせてやったことが、尾形の想定をはるかに越える結果を惹き起こした。
事件直後は、テレビや新聞が、忌むべき無差別殺傷事件として、連日、過熱気味に報道していた。そんな全国注視の凶悪事件が、自分の犯行として暴かれることが確実になった時、それが、尾形にとって、どれほどの脅威だったか容易に想像がつく。
パニック状態に陥った尾形は、『なぎさ』を走り出た後、久美と松嶋の周辺をうろついているしか、取るべき行動を思いつかなかった。
二人が『なぎさ』を出て来るまで、近くのビルの陰に隠れていた。
尾形は、出て来た二人を、細心の注意を払いながら、尾行した。
人混みに紛れて、同じ電車にも乗った。
ソノヤマ、と名乗った若い女が学生マンションに入るところを見届けた。
安全管理がしっかりしていて、外部の者が館内に入れそうもないことは一目でわかった。
物陰に隠れて、あの若い女が外に出て来るのを、当てもなく、待った。
なぜ、そのような愚かなことをしているのか、尾形自身にも説明がつかなかった。想像を絶する絶望感と恐怖感に、現なく動かされていたと言うしかない。
尾形のDNAの鑑定結果が判明し、事件当日のアリバイ等も証明されて、尾形が薗田恵美の事件に関わりがないことが明らかになった。
久美は、尾形の家庭事情を知っていた。派遣社員に対する不公平な扱い、など、格差社会に対する怨嗟の声があることも知っていた。いろいろな社会思想に疎いわけでもなかった。
しかし、暗澹とした気持ちになりながらも、尾形がやったようなことを許せるわけがなかった。
2
夏期休暇期間が半ばを過ぎた頃から、久美の次の対象は久山俊彦に移った。
危険は、もとより、覚悟の上だった。
久美は、日比谷公園の年越し支援村に関わった人々を探し始めた。
久山が、大晦日から正月にかけて、派遣切り支援のテント村にいたらしいことがわかっていたからだ。
久美は、この当時の久山に接した人物を探し出すことができたなら、何か重要な情報が得られるかもしれない、少なくとも、何か手がかりになりそうな情報が聞き出せるはずだ、と考えていた。
久美の執念から生まれた直感だった。
久美が厚生労働省の代表局番に電話を入れて、ボランテイア活動に関わっているNPO法人を教えてほしいと頼むと、関係部局に電話を回してくれた。
電話に出た係官は、吉松と名乗り、お役人臭は全くなく、親切だった。
久美が‘年越し支援村’に関わった団体とその活動内容を教えてほしいと頼むと、細かいことまで、詳しく教えてくれた。
派遣切り支援村は、二〇〇八年十二月三十一日に日比谷公園の霞門付近に開設され、自立生活サポートセンター・M、全国コミュニテイ・ユニオン連合会などが中心になって組織された実行委員会が、炊き出しや生活・職業相談、生活保護申請などの支援活動を行った、また、ハローワークが業務を開始する一月五日までの簡易宿泊所としてテント村を開設していた。
久美が、日比谷公園以外にも開設されたようですが、と言うと、吉松は、実行委員会から厚労省への要請もあって、日比谷の支援村が撤去された一月五日以降は、中央区京華スクエア体育館、中央区十思スクエア体育館、東京都石神井学園用体育館、山谷地域越年越冬対策宿泊援護事業なぎさ寮の四ヶ所を開設して、十二日まで活動を継続していた、期間中に派遣村を訪れた失業者はおよそ五百人、参加ボランテイアは百六十人、寄せられた義捐金は二千三百十五万円、などと、具体的な数字まで交えて、さらに詳しく、教えてくれた。
久美が、電話の冒頭で、ボランテイア活動に関心を持っているT大生と名乗ったので、吉松は気を遣ったようだ。
吉松は、さらに、日比谷公園の年越し支援村は、厚労省が開設したものではない、NPO法人と労働組合によって組織された実行委員会が、イベントとして企画したもので、厚労省も意義を認めて、協力した、派遣切りの問題をクローズアップしたという意味で、評価している、と付け加えた。厚労省としては、問題の本質はわかっていて、こういう一時的な方法で、お茶を濁すようなイベントの音頭を取ったわけではない、と言いたかったようだ。
自立生活サポートセンター・M、全国コミュニテイ・ユニオン連合会の事務局の所在地と連絡先も教えてくれた。
久美と松嶋は、新宿区新小川町の自立生活サポートセンター・Mの事務局を訪ねて行った。
K荘という民間のアパートが本部になっていた。
そのたたずまいを見ても、営利を目的にしていないことがよくわかる。代表だと聞いていたY氏は不在だったが、ボランテイアらしい青年がいて、応対してくれた。
事情をあらまし話すと、悪用される恐れがないとわかってもらえて、活動者の名簿を見せてくれた。とりあえず、名簿に記載されている人々の中で、年末年始の派遣切り支援村に関わったと思われる人々の名前と連絡先をメモさせてもらった。
日比谷公園の年越し支援村の活動には、「M」以外にも、全国コミュニテイ・ユニオン連合会関係の人々、他のNPO法人に所属している人々、全くのボランテイア精神で関わった人々もいた。
全国コミュニテイ・ユニオン連合会や各NPO法人の事務局にも電話を入れて、事情をあらまし話し、久山俊彦の特徴を言って、何か少しでも情報があれば、知らせてほしい、と依頼した。
当面は、電話による情報収集を続けるしかなかった。
『美人OL殺人事件』は、事件直後、テレビや新聞が、連日、大々的に、それも過熱気味に報じていたので、どの事務局も予想以上の強い関心を持ってくれた。
都内の公園を回って、ホームレス生活を送っている人々にも接触した。
口を固く閉ざして何も語ろうとしない人もいたが、身の上話を聞かされたり、窮状を訴えられたりすることもあって、久美は、その差し入れに、かなりのお金を使った。
この方面の情報収集に夏期休講期間の後半の大半を使ったが、久山らしい人物についての情報は得られなかった。
久山の人物像が漠然としていた。
決め手になりそうなのは、鹿児島弁だけだった。
雲を掴むような話だとわかってきて、久美は諦めかけていた。
3
九月に入って、大学の講義が始まってから十数日経った頃、港区のNPO法人から連絡が入った。
それらしい人物に出会ったと言っているボランテイアの大学生がいる、というのだ。迫田智宏、という名のK大生だという。
事務局では、依頼されたことを忘れていず、情報集めを続けてくれていたらしい。
久美は、早速、事務局から迫田に連絡してもらって、約束を取り付けた。
K大構内の中央広場に大きな噴水があって、翌日の午後四時過ぎに、迫田が、その周辺で待っている、ということだった。
久美は、徒労に終わることになるかもしれないとは思ったが、松嶋と出かけて行った。
正門からキャンパス内に入ると、かなり先の方に、噴水が見えた。
打ち上げ花火のしだれ柳のように、八方に水を散らしている。
午後の四時を過ぎていたが、西から照りつけている日射しは真夏の日中と変わらず、歩いていると、腋の下や背中に、汗が自然に滲み出てくる。
近づくと、噴水の周囲は、かなりの面積の大きな丸い池になっていて、五、六十センチほどの高さの部厚いコンクリートの縁で囲まれていた。
コンクリート縁の目立つ場所に、男子学生が一人、こちらを向いて、座っていた。胸に紫色の文字のロゴが入った白いTシャツに、洗いざらしのブルージーンズ。それが迫田智宏だろうと思って、久美がちょっと頭を下げて会釈すると、その学生は、白い歯を見せて、すぐに立ち上がった。
迫田智宏は、法学部の二年生だと聞かされていたが、背が高く、体型もがっちりしていて、一見して、体育会系に見えたが、眼差しが優しく、どことなく安心感を与える風貌をしていた。
迫田は、挨拶を抜きにして、
「ここは暑いから、木陰に移りましょう」
と、言って、先に立って、歩き出した。
池の周辺は手入れの行き届いた芝生が密生していて、見事に剪定された樹木や灌木が、適度な間隔を置いて、植わっている。
ところどころに、木製のベンチが置いてあった。
迫田は、芝生の中をしばらく歩いて、枝が大きく張った樹木の下のベンチを選んだ。
三人は、迫田を真ん中にして、そこに腰を下ろした。
木々が、時折、葉裏を見せるほどの風があった。
それが心地よく感じられて、木陰は意外に涼しかった。
迫田に労いの言葉をかけてから、久美と松嶋は、それぞれ、自分たちの名前、所属大学、学部、学年を言って、簡単な自己紹介をした。
迫田が同じように自己紹介するのを待ってから、久美が、早速、用件を切り出した。
どんな用件で来たか、迫田は知っている、とわかっていたが、久美は、改めて、その当時の久山の風体、鹿児島弁がかなりひどい、ということなどを話して、そういう人は支援村にいなかったか、と聞いた。
「それ、事務局で聞かれた時、久山さんのことじゃないかと思ったんです」
驚いたことに、迫田は、最初から、久山の名前を事も無げに口にした。
「えっ・・・・!」
久美は、大きく目を見開いて、絶句した。
「久山さんとは、ちょっとした出来事があって、あの派遣村と鹿児島弁と言えば、久山さんを思い出さざるを得ないのです。ぼくは、それほどたくさんの人と関わったわけじゃありませんが・・・・」
「びっくりしたわ! その人に会った人を、ずっと、探してたのよ! その人と、何があったの? なんで、そういうことになったの?」
久美は、興奮して、初対面の迫田に、友だちのような口のきき方をした。
迫田は、それで、かえって気が楽になったようだ。
「・・・・年越し支援村が開設されていた頃、ぼくは、冬期休暇で宮城県に帰省していました。その頃、年越し支援村のことが、新聞やテレビで、連日のように、報道され始めました。ぼくは、ボランテイア活動を目的とするNPO法人に登録していたこともあって、そんな報道を見ると、現場に行けないのが悪いような気がして、気になっていました。しかし、久しぶりの帰省を切り上げてまで、帰って来る気になれず、その上、日比谷のテント村が一月の五日には撤去されるとわかったんで、つい、のんびり構えてしまって、結局、東京に帰って来たのは、一月の十日過ぎでした。それでも、ずっと気になってたことがあったんで、東京に帰って来た次の日に、テント村跡に行ってみました」
「撤去されていることがわかっていたのに? ・・・・なんで?」
「居残ってる人がいるんじゃないか、と思ったんです」
「えっ? ・・・・どうして?」
「日比谷公園のテント村は、一時的な救済で、次へ移ったところで、根っこの状況が変わるわけじゃない、そのことが気になっていたんです」
「読みが深いな。もう少し、どういうことなのか、聞かせてもらえないかな」
松嶋が、感心したような顔をして、言った。迫田の人柄が屈託を感じさせず、学年が下だという意識もあって、松嶋も仲間同士で使うような言葉遣いになっていた。
「派遣切りの問題は、ボランテイア精神でなんとかなるというような問題じゃない、将来に明るい展望が持てないっていうんですかね、一時的に開設される次の支援村に移ったところで、根本的な問題が解決するわけじゃない。次に移る気が起こらず・・・・と言うより、移る気力が萎えて、生きる望みさえ失ったような人が残ってるんじゃないか・・・・報道を見る度に、そんな風に思われて仕方がなかったんです」
テント村が撤去されてから、日数も経っている。想像が豊かに働くような若者でなければ、迫田のような考え方はしないだろう。
「久山・・・さんも・・・・そういう人の一人だったってわけね」
「どうやら、そうだったようなんです・・・・公園の中を歩き回っていると、防寒着を着た人が、片隅のベンチに、落ち込んだ様子で座っていました。近づいて行っても、反応がなくて、元気がありません。それで、大丈夫ですか、って声をかけたんです。すると、生気のない顔を上げました。ぼくは、ちょっと、驚きました。目に涙を溜めていて・・・何か言いたそうでした」
「・・・何か言ったの?」
「ええ・・・思い詰めたような顔をして、しばらく躊躇ってたんですが、突然、旅費を貸してくれないか、って。・・・唐突に左手首から腕時計を外して、それをぼくに差し出して、これを預けるから、って・・・」
「旅費? どこまでの?」
「大南まで行きたい、って・・・」
「えっ! 大南!」
久美は、大きく目を見開いて、叫ぶように言った。
迫田は、久美の反応の方に驚いたようだ。
「ぼくは驚いて、R県の大南市、ですかって、思わず、聞き返しました。見ず知らずの者に、旅費を貸してくれ、というには行き先が遠すぎたからです」
「その通りだったわけね!」
「ええ」
「なんで、大南へ行きたいのか、その理由は聞かなかった?」
「もちろん、聞きました。理由を聞かなきゃ、相談に乗ってあげようがありません」
「何て言ったの!」
「言葉に特徴があったんで、郷里はどこですか、って聞くと、鹿児島だ、ということでした。わかりにくい言葉が出て来たりして、聞き返したりしながら聞きましたが、だいたい、事情がわかりました。・・・シグマの大南工場で働いていたが、十一月に解雇になった、郷里には妻子がいる、妻は健康が優れず、寝たり起きたりで、農作業がまともにできなくなっている、息子は高校の二年生、娘は中学の三年生、仕送りをしてやらなければならないが、それができなくなっている、仕事を探したが、この年齢で、定住するところも、技術も資格も持ってないから、どこも相手にしてくれなかった、このままでは、自分も、家族も生きていけない、シグマの大南工場の人事管理部長に目をかけてもらっていたので、大南市に帰って、また雇ってくれと頼むつもりでいる・・・」
久美は、その当時の人事管理部長が自分の父親だったとも言えず、言葉を探していると、松嶋が訊いた。
「それで・・・お金・・・その旅費、ってのを出してやったの?」
「話を聞いてしまった手前、それだけのお金が手元にあれば、出さないわけにはいかないと思いました。旅費の見当がつかなかったんで、ケータイで番号を調べて、JRの東京駅に電話を入れて、だいたいの運賃を聞きました。
ぼくの財布の中には、一万円札が一枚と千円札が何枚かしか入ってなかったんですが、久山さんの名前を確認しておいて、一万円札一枚と千円札を二枚渡しました。急行や特急の料金には足りませんが、鈍行を乗り継げば、往復の運賃には少し余るくらいの額でした。ぼくの手元には、千円札が一枚と小銭しか残らないことになったんですが・・・」
久美は、感心しながら聞いていたので、味も素っ気もないことは言いたくなかったが、結局、こう聞くしかなかった。
「・・・そのお金、受け取ったのね?」
「ええ、泪目になって、受け取ったんですが、腕時計をぼくに渡そうとしました。もちろん、断ったんですが、どうしても、譲ろうとしません」
久美も松嶋も、その場面を想像した。
「今時、そんな腕時計を預かったところで、意味がないと思ったんですが、ぼくは、こう言うしかありませんでした。・・・じゃあ、預かっておくことにします。後で連絡していただけば、お返しします。お金を返せないときは、それで結構です、復職できるといいですね、って・・・」
「時計を返す、って言っても、返しようがないんじゃない? あなたがどこの誰だかもわからないんだから」
「ええ、そう思ったんで、手帳に、ぼくの名前とケータイの番号を書いて、そこを一枚破り取って、渡したんです」
「なるほど・・・それで、その後、何か、連絡があったのかしら?」
久美は、そんなことなどあるはずがないと思いながら、訊いた。
「 ありました」
「えっ・・・・!」
「日比谷公園で、また、会いたい、と連絡が入ったんです」
「それって、ほんとのことなの!」
久美は、思わず、ベンチから腰を浮かした。
「それで、日比谷公園で会ったんですが、仕事がなんとかなった、と言って、何度もお礼を言って、一万円札一枚と千円札二枚を返してくれました。ぼくも、時計を返したんですが、どこかで買ってきたらしい菓子折までくれました」
「それって・・・いつのことなの!」
「えーと、確か、一月の中旬頃の・・・午前十一時過ぎ・・・」
「一月の中旬! 一月の何日だったか、正確にはわからないの!」
久美は、息が止まりそうになった。
久美の様子がただ事ではないので、迫田は驚いたようだ。
迫田も懸命に記憶をたどらざるを得ない。両手で、刈り上げ頭を抱え込むようにして、視線を下に落として、考え込んだ。
久美は、ふと、思いついて、ショルダーバッグの中から手帳を取り出して、カレンダーの出ているページを開いて、迫田に渡した。
迫田は、それを受け取って、しばらく見ていたが、
「・・・えーと・・・確か、部活をしたり、友人たちと外出したりした日の次の日、つまり、講義のなかった日の次の日・・・月曜日・・・十九日だったということになりますね。その日は、十時半まで講義に出る予定があったんで、午前十一時頃でいいですか、って聞いたら、久山さんも、それで、いいというこでした」
「それで、久山が連絡してきたのは、いつなの!」
久美は、興奮して、久山に敬称をつけるのを忘れてしまった。
「その前の日、日曜日の夜、つまり、一月十八日だったことになりますね」
久美は、真っ暗なトンネルの中から、唐突に外に連れ出されたような気がした。
「・・・そう・・・そういうこと・・・」
久美は、真剣な顔をして、しばらく考え込んでいた。
「それで、久山・・・さんに会ったとき、特に何か気づいたことなかったかしら? 服装とか、様子とか・・・」
「そう言えば、二度目に久山さんに会った時は、あれ、と思いましたね。ボサボサの髪の毛はそのままだったんですが、頬や顎や鼻の下のヒゲを剃っていました。それに、防寒着を着ていませんでしたね。その日は、雪空の寒い日で、凍えるような冷たい風が吹いてたんで、それで、強く印象に残ってるんですが・・・濃紺のヨレヨレの背広姿で・・・上着の下には白シャツを着ていて、襟首や袖口が薄黒く汚れていました。唇が紫色になって、寒そうで、気の毒でしたね・・・仕事があってよかったですね、と言うと、あいまいな笑い方をして、ほんのこて、あいがとごわした、と言いながら、何度も頭を下げて・・・それから、すぐ帰らないといけない、と言って・・・何か急いでいるようでしたね、落ち着きがなくて・・・」
第七章 自 首
1
事件は、思わぬ展開を見せ始めた
R県警は、車の手配書を、東海各県の中古車販売会社、修理工場、板金塗装工場などに配布し、聞き込みや情報収集を続けていた。
名古屋市郊外の修理工場から、名古屋市と大南市を結ぶ県道から山中に深く入り込んだ廃車置き場にワゴンタイプの濃紺の軽自動車がある、という情報が入った。
廃車置き場は、この修理工場の所有地で、常時、二百台を越える廃車が積み上げられて置いてある。この工場の従業員が、二人で、中古の修理部品を探して、この廃車置き場の車を見て回っていると、手配書の車によく似た軽自動車が放置されているのに気づいたというのだ。
捜査員が、直ちに、廃車置き場に飛んだ。
車は、廃車置き場の片隅の、それも高く積み上げられた廃車の裏側に、放置されていた。
灌木や草藪の中に車首が突っ込んでいて、車の後部も雑草に覆われていて、よほどよく見ないとわからない。
他にも似たような状況で置いてある廃車が多く、目立たなかった。
車の中が詳細に調べられた。
窓の隙間から微細な粒子状の土埃が舞い込んだらしく、車の中は白っぽい埃に覆われていた。
助手席、床、などに、かなりの量の血痕があった。
車のハンドル、運転席のシートの右側と左側からも、微量だが、血痕が検出された
車の中、ダッシュボードやトランクの中などからは、車検証や保険証など、持ち主を特定できそうなものは見つからなかった。
ドアの取っ手などからも、ルミノール反応は出たが、指紋は検出できなかった。八ヶ月近く、雨ざらし、日ざらしの状態になっていたのだから、たとえ、犯行当時付いていたとしても、期待できることではなかった。
血痕の血液型やDNAが恵美のものと一致した。
犯行に使われた車である、と断定された。
全国のマスコミの注目を集めていた事件だったので、テレビや新聞の報道が過熱気味になった。
どのテレビ番組にも解説者が登場し、車の持ち主の特定は容易であるので、『美人OL殺人事件』の犯人の逮捕が近い、という解説を加えた。
この報道が始まった日の翌々日、九月十八日の夕方、一人の若者が、大南警察署に現れた。
その若者は、一階ホールの右側にある交通安全課の窓口に来た。
免許関係の女子係員は受け付け書類の整理と後片付けに余念がなかった。
その若者が受付カウンターの前に立ったので、女子係員が、
「免許更新の受け付けは終わりました。また、明日にでも、来てください」
と、言うと、思い詰めたような様子で、おどおどしている。
女子係員が、対応に戸惑っていると、
「・・・・おれ、殺人事件のことで話があるんだけど・・・・どこへ行けばいい?」
「えっ! ・・・どういうことですか?」
女子係員は、目を見張って、しばらく若者の顔を見つめていたが、自分の手に負えないと判断して、後の交通課の警官のところへ行って、耳打ちした。
「殺人事件のことで、何か話があると言うんですけど・・・」
「ほう、そういうのが、時々、いるんだ。それも、たいてい、偽ネタなんだ。最近は、いなくなったと思ってたんだけどな・・・私が、追っ払ってやるよ。片付けが終わったら、もう帰んなさい」
交通課員は、小声で、そう言いながら、若者を見ている。
体は大きい方だが、背格好に、そう特徴はない。やや丸顔で、黒い頭髪は短めで、薄黄色の普通のTシャツに、青系統のジーパンをはいている。ごく普通の真面目な青年に見えた。
交通課員は立って行った。
「殺人事件、って、どの事件のことなの?」
「そこの階段の脇に、看板が立ってる事件です」
「と、言うと・・・OL殺人事件捜査本部、ってやつ?」
「・・・そうです」
「で、どういう話なの?」
「・・・おれが・・・殺しました」
「えーっ!」
交通課員は、驚愕して、目を剥いた。
2
刑事防犯課にちょうど帰って来ていた牧山晃司が、二階の取調室で、若者の相手をすることにした。真偽を確かめることだけが目的だったので、牧山は一人で若者の前に座った。
捜査は難航し、事件発生以来、大南署のみならず、県警全体が事件に振り回され、特に牧山は、その渦中にいた。
牧山は、若者を、しばらく、見つめていた。
若者は、牧山と目を合わせないようにして、肩をすぼめて、かしこまって座っている。凶悪な殺人をするような青年には見えない。
「ま、固くならずに・・・まず、名前を聞いておこうかな?」
牧山は、半信半疑というより、百パーセント疑ってかかっている。
「・・・藤田、です」
「藤田、何?」
「藤田、克也です」
「年齢は?」
「二十三です」
「住所を訊いていいかな?」
「大南市北町××番地です」
「そこに、一人で住んでるの?」
「いえ、両親の家です」
「お父さんの名前は?」
「藤田、カズオ」
「カズオ、ってどう書くの?」
「・・・平和の和に、生まれる・・・」
牧山は、メモを取るのを止めて、若者に目を向けた。
「君は、薗田恵美を殺した、と言ったそうだが、本当の話なのかい?」
「・・・はい」
「ほーう、そうか」
牧山は、改めて、藤田と名乗った若者をしげしげと見つめた。
まだ、百パーセント疑っている。
「君は自分の言ってることがわかってるんだろうな。・・・それで、なんで自首・・・警察に行こうと思ったの?」
「自動車のことを、テレビで、言ってたからです」
「自動車って、ワゴンタイプの濃紺の軽自動車のこと? 管内で持ち主が見つからないんで、対象範囲を広げているところだが、今日、明日中にも、見つかるだろう・・・あの車は君のものだってことかい?」
「あそこに捨てたつもりでしたが、おれの車です」
「あそこ、って、廃車置き場のこと?」
牧山は、内心、興奮し始めていたが、それを顔にも声にも出さない。
「はい。車をどこかに隠そうと思って、山道を走ってたら、あんなところがあったんで・・・」
「それはいつのことかね?」
「・・・一月・・・」
牧山も、さすがに、興奮が隠しきれなくなった。
「一月? ・・・何日ごろだ!」
「・・・一月の・・・中旬、頃、だったと思います」
「なんで、車を隠そうと思ったんだ?」
「あの事件の後、テレビでおれの車のことを繰り返し言ってたし、新聞にも大きく出てたんで・・・」
「その車が発見されたと知って、逃げ隠れしても、すぐに警察に捕まる、そう思って、来たというわけだな」
牧山は、この若者が犯人か、少なくとも、犯行に関わったことは間違いないと思った。
「ちょっと、待っていてくれ」
牧山は、そう言っておいて、通りかかった若い刑事を外に立たせておいて、課長の水之浦を呼びに行った。
牧山に続いて、水之浦が取調室に入って、牧山の右のパイプ椅子に座った。
水之浦は、緊張して、顔が引きつっている。
表情を引き締めた牧山が、改めて、尋問を始めた。
「君の仕事は?」
「四月の末頃まで、名古屋市の自動車部品製造工場で働いていました」
「今は?」
「工場の仕事がなくなったんで・・・」
「どうしてんの?」
「時々、パートでアルバイトをしてます」
「名古屋の工場は?」
「景気が回復したら、また、そこで働くことになってます」
「いつ戻れるか分からんというわけだな。で、事件のことだが、薗田恵美を 知ってたの?」
「高校の同級生です」
「えっ! 今、なんと言った!」
「高校時代の同級生・・・」
「なんだと! 高校の同級生は何人も捜査の対象になったが、君は初めて見る顔だ」
「ほとんど、名古屋にいたんで・・・」
「・・・そうか。高校の同級生は、卒業年度に同じクラスにいた連中か、それ以外は、この近辺に住んでる連中が捜査対象になった。君は、薗田恵美と同じクラスじゃなかったんだな?」
「二年生の時、同じクラスでした」
「そういうことか・・・なるほど・・・」
牧山は、迂闊だったとでも思ったのか、しばらく、沈黙した。
水之浦が、代わりに、口を出した。
「名古屋には、いつ頃までいたんだ?」
「三月いっぱい」
「仕事がないのに、なんで名古屋にいたんだね」
「仕事が、また、ありそうだったんで、工場の近くのアパートにそのまま住んでいたんです」
「それで、景気が回復しそうもないし、工場が再開されそうもないので、三月の末になってから親元に帰ってきたってわけだな」
「はい」
「それで、一月の中旬ごろは、名古屋の自動車部品の製造工場で働いていたわけだね?」
「・・・働いていた、と言っても、一月になると、仕事が一週間に二日か、三日くらいに減りました」
「自動車関連の下請けが大変な時期になってた頃だな。それで、仕事のない日は何してた?」
「午前中は寝てるか、ぶらぶらしていて、午後になると、車であちこち走り回っていました。夕方、暗くなる頃、大南にもよく帰って来てました」
「親元に?」
「いえ・・・」
「じゃあ、何しに帰って来てたんだ? 名古屋から大南市までだったら、車でも時間がかかるだろうが」
「・・・顔が見たくて・・・後をつけたりしてたんです」
「えっ! 誰の?」
「・・・薗田、恵美、です」
驚いた水之浦は、思わず、牧山に顔を向けた。
それを機に、牧山が、また、尋問を始めた。
「相手の了解もなしに、そういうことをすると、ストーカー行為と言って、それも犯罪だぞ。いつ頃からやってたんだ?」
「正月明けの頃からです」
「それで、なんで、ああいうことになった?」
藤田は、急に、黙り込んだ。顔が蒼白になっている。
牧山は、黙秘を始められたら困ると思ったので、先を急いだ。
「自首してきておいて、黙り込むこともないだろうが・・・ま、いい。そのことやその他の詳しいことは、後で正式に聴取する。ここでは、君がほんとのことを言ってるかわかりさえすればいいんだからな。それで、あの日、車を降りて、話しかけたけど、相手にされず、結果的に、あんなことになってしまった。そういうことだな?」
牧山は、先を急ぎ過ぎて、つい、誘導尋問をしてしまった。
「・・・ま、そういうことです」
「それで、恵美さんは、その日、どんな服装だったか、覚えてるか? 一月と言えば、寒い時期だ。防寒コートかなんか着てたんじゃないの?」
「いえ、コートは着てませんでした」
「何を着てた?」
「たしか・・・温かそうな、緑がかった上着とスカートだったと思います」
「犯行の場所は?」
「・・・公園のトイレの中です」
「どこの?」
「国道脇の公園です」
「国道脇の公園? それだけじゃ、どこの公園かわからんじゃないか」
藤田が答えないので、水之浦が苛ついて、また、口を出した。
「大南駅前から西に向かって少し行くと国道に出るね。国道に出て、右折すると、すぐ踏切がある。その踏切を渡って、国道を北に向かって少し走ると、左に入る県道がある。その県道を入って、すぐ右側に・・・」
水之浦は明らかに興奮していた。
日頃は冷静な水之浦が、誘導尋問を続けそうだったので、水之浦を制しておいて、牧山が訊いた。
「凶器は?」
「・・・ナイフです」
「そのナイフは? 小さいもの? それとも、大型のもの?」
「・・・大きめのもの・・・かな」
「なんで大型のナイフなんか持ってた? 殺すつもりで準備してたのか?」
「・・・いえ・・・車の・・・トランクに入れてたものです」
「トランクに入れていたものを持ち出していたということは、殺すつもりでいたということになるよ」
「・・・・・・」
「どこを刺した?」
「・・・喉・・・」
「死体を最後に置いた場所は?」
藤田は、死体が見つかった雑木林の位置を、ほぼ正確に言った。
「君の靴のサイズは?」
「・・・・・・二十六か、二十六・五です」
藤田がどのようにして極めて短時間のうちに薗田恵美をトイレに連れ込み殺害できたのか。
公園のトイレで殺害してから雑木林の近くで車を目撃されるまで三時間近く経過している。この間の藤田の行動はどうなっていたのか。
その他、不可解なことが多かったが、藤田が、犯人か、少なくとも犯行に関わったことは明白だと思われた。
詳しい聴取は留置してからでいい、真偽を確かめる尋問はこれで十分だ、と判断して、牧山は水之浦に顔を向けた。
水之浦が頷いたので、この段階での尋問を打ち切った。
3
藤田克也の自首は、大南署のみならず、県警にとっても、報道陣にとっても、驚天動地の衝撃だった。
藤田にさらに詳しい供述をさせ、それを元にして、裏付け捜査と物証の捜索が始まった。
DNA鑑定の結果、恵美に付着していた体液が、藤田のものと一致した。
警察は藤田を犯人と断定し、テレビや新聞も、容疑者扱いではなく、藤田が犯人という前提で、連日、実名入りで報道した。
車が藤田の物で、その中から恵美の血痕が見つかったということと、恵美に付着していた体液が藤田のものであったという事実だけでも、藤田の犯行は疑いようがなかった。
犯行には、包丁状の鋭利な刃物が使われたことがわかっていた。
藤田は、凶器は、大型のナイフを使った、と自供した。
ところが、ナイフの形状を聞くと、藤田の供述が曖昧だ。
そのナイフはどこにあるのか、と聞くと、川に捨てた、と言う。
どこの川のどの付近かと聞いて、その場所に連れて行って、藤田が曖昧に指さすあたりの川ざらいをする。
いくら探しても見つからないので、ほんとにここだったのか、と問い詰めると、今度は、別の場所を指さす。
そこでも見つからないと、いや、この川じゃなかったようだ、と言い出す。
別の場所で同じように面倒な捜索を数日間もやらされ、挙げ句の果てに、どの川のどのあたりだったか記憶がはっきりしない、と言い出す。
怒り心頭に発した捜査員が怒鳴りつけると、藤田は、頭の中がパニック状態になっていたので、正確には覚えていない、と言って、全身を震わせながら、泣き出してしまう。その後は、黙秘権の行使だ。
結局、凶器は見つかっていない。
ガイシャの首の二つの大きな傷跡も、藤田の最初の供述の通りにやったら、できるはずのないものだった。
藤田は、前からナイフを突き出した、と言ったが、死体の傷跡は、相手の体が動かないように固定しておいて、片刃の鋭利な刃物で、かき切るようにしないとできないものだった。
供述が曖昧なので、取り調べていた刑事の一人が、藤田を仰向けに寝かせて、上からのしかかり、体を動かせないようにしておいて、左手に逆手に握った扇子で首をかき切るまねをしてみせて、「こうしたんじゃないの?」と訊くと、藤田は、泪目になって、返事をしない。
そんなやり方では、ガイシャの上着の胸元の方に血が流れることにはならない。
牧山は、扇子を受け取ろうとして、床に取り落とした。
慌てたふりをして、藤田に取ってくれと頼むと、藤田は、咄嗟に右手を出して、扇子を拾った。
牧山は、扇子を受け取ると、藤田を立たせて、後から抱きついて、左手を藤田の胸のあたりに回して、体を動かせないようにした。それから、上体がのけぞったような形に顔を上向かせ、喉元を曝け出させておいて、右手に逆手に握った扇子で、喉を左の方からかき切るまねをしてみせた。
「君は極度に興奮していたはずだから、その時の状況を正確に覚えてないと思うけど、こういう風だったんじゃないの。慌て切っていた君は、一回目は切り損ねてしまって、二回目に頸動脈に達する致命傷を負わせた」
牧山がそう言うと、藤田は思い出したくないらしく、真っ赤になった目に涙を浮かべて、やはり、返事をしない。
しばらくすると、藤田の目から涙が溢れ出た。
「・・・そう言えば・・・そうだったような気がします」
藤田は、そう言うと、床に両膝を落として、両手で顔を覆って、悲痛な声を上げて泣き出した。
藤田が少し落ち着いたころを見計らって、牧山が訊いた。
「君は、その時、上には何を着ていた?」
「・・・ジャンパーです」
「そのジャンパーは、どこにある?」
「・・・・・・」
「自首してきておいて、黙秘権もないだろうが」
藤田は、すっかり観念した様子で、実家の裏庭に埋めた、と自白した。
北町の実家に連れて行って、藤田が指さすあたりを掘り返すと、ジャンパーが出てきた。捜査陣が驚いたことに、ジャンパーと同時に、血に汚れた女性用の下着とブラジャーが出て来た。
ジャンパーの腕から胸元にかけて付着していた血と、下着とブラジャーの血は、ガイシャの薗田恵美のものである鑑定された。
藤田のジャンパーが恵美のブラジャーと同時に見つかったことと、死体から血が拭き取られていたことには何か関係がありそうだ、と牧山は思った。
殺害したと推定された午後六時四十分前後から、雑木林の近くの県道で藤田の車が目撃された九時三、四十分頃まで、三時間近くの空白時間があった。
このことを問われると、藤田は、死体を乗せたまま車で走り回っていた、どこを走ったかよく覚えていない、と言う。
実地検証に連れ出して、うろ覚えの道順を辿る。
国道から県道に入り、さらに側道に入る。さらに山道に入り、しばらく走ったあたりで、この道は見覚えがない、と言い出す。
別の山道に入り、相当入り込んだあたりで、また、この道ではなかったと言い出す。
改めて、県道に引き返し、同じようなことを繰り返す。
何度往復しても、結果は同じだった。
恵美の死体から血が拭き取られたのは、この空白の三時間の間だったはずだ。藤田を厳しく問い詰めたが、捜査陣が納得するような供述は、まだ、得られていない。
殺害現場のトイレの床の上に残されていた、血痕がついていない半円形の跡についても、藤田のそれまでの供述では、合理的な説明がつかなかった。
恵美を公園のトイレの中に連れ込んだ方法も、ナイフで脅してやった、と言ったが、そこに至るまでの経緯が曖昧だった。
自供の内容が二転三転し、捜査陣は藤田に振り回されて、時日のみ経過していた。
藤田は、十日間の拘留期間が切れる前に、起訴されていた。
殺したと自白し、DNAの鑑定結果や物証もあったので、拘留期間の延長の必要はない、と検察も判断したのだ。
4
自首してから一ヶ月近く経過したころ、藤田が、自分は殺していない、と自供を翻した。
検察は、藤田が自供を変えても、公判に支障はない、と判断していた。
久美は、行きがかりで、捜査情報を聞ける立場にあった。
藤田が自首してきたことを知って驚いたが、奇異には思わなかった。
久山俊彦と迫田智宏との経緯はあっても、犯人は別にいる、と思うようになっていた。久山の犯行と考えた場合、説明がつかないことがあったからだ。
しかし、藤田が恵美を殺していないと強硬に言い始めていると聞いた時、絡んでいた紐が解けたような気がした。
久美は、真犯人は久山の可能性があるから、久山を捜し出す必要がある、と牧山に電話を入れた。
詳しい説明は抜きにした。
牧山としては、久美の言葉をむげにはできない。
久美は、ロッカー爆破事件の犯人として、尾形惠一を特定し、迷宮に入りかけていた事件が解決することになった。口にこそ出さないが、牧山は、久美に対して、負い目以上のものを感じていた。
藤田が犯行に関わり、死体を遺棄したらしいことについては疑う余地がなかったが、凶器が見つかっていず、藤田の供述が二転三転し、殺っていない、と強硬に言い始めていて、その上、辣腕の宮原光暁が弁護について、藤田を殺害そのものの真犯人とした場合、公判が持つか、捜査陣の確信が揺れ始めていた。
久山を捜せ、と久美が主張しているという話は、牧山の口から水之浦に伝わり、署長の大川の耳にも届いた。
大川は、久美を呼んで、詳しい理由を聞いてみようと思った。
迷宮に入りかけていた難事件の犯人を、久美は、いとも簡単に特定してみせた。偶然や僥倖が重なった結果だったのか、久美の捜査能力や推理力が卓越していたのか、それが大川にはわからなかった。
久美の話を聞いてみようと思ったのは、そのためだ。
それに、久美の顔を見ることが、大川の楽しみ一つになっていた。
牧山から連絡を受けた久美は、翌日、大学の講義を放り出して、途中まで新幹線を使って、早速、大南市に帰って来た。
午前十時過ぎに大南駅に着くと、大南署に直行した。
捜査に関わっていることは、できるだけ、伸吾には知られないようにしていた。伸吾は薄々感づいているようだったが、元気でいてくれればそれが何より、と考えているのか、煩いことは言わなくなっていた。
久美が大南署の玄関ホールに入ると、交通課の警官がすぐに気づいて、名前も用件も言わないうちに、すぐに牧山を呼び出してくれた。
待ちかねていたらしい牧山は、一階に下りてくると、挨拶もそこそこに、先に立って、署長室に向かった。
久美が牧山に続いて、二階の廊下を歩いていると、水之浦と竹添が現れて、ついて来た。
二階東寄りの署長室に、牧山、久美、水之浦、竹添の順に、どやどやと入り込むことになった。
大きなデスクを前にして、署長席に座っていた大川は、
「おい、おい、なかなか、二人だけにしてくれんな。あは、はは・・・」
と、冗談を言いながら、席を立って来た。
大川は、デスクの前の応接セットの肘掛け椅子に、大きな尻を押し込んでおいて、右手を動かして、久美だけに、自分の斜め前のソファーの中央に座るように指示したので、他の三人は思い思いの場所に座るしかない。
結局、前回の時と同じような座り方になった。
大川は、頬を緩めて、
「眉目麗しき姫のご尊顔を拝し奉り、恐悦至極ってところですな。あは、はは。大学の講義があったんじゃありませんか。都合がつく時でよかったんですよ」
と、ストレートな言い方を巧みに避けて、時代がかった大層な言葉を使って、久美を持ち上げることを忘れない。
「いえ、署長のお言葉とあれば、たとえ、火の中、水の中、すぐに飛んでまいりますわ」
久美も、大川に調子を合わせて、歯の浮くようなお世辞を返した。
「あは、はは・・・。うれしいことをおっしゃる。そのウソはホントですか」
大川は、今度は、小学生並みのオヤジギャグを飛ばす。部下の三人が白けているのに気づいて、急に背筋を伸ばして、威儀を正した。
大川の左隣に座った水之浦が、署長にはまかせておけないと言わんばかりに、早速、本題に入った。
水之浦は、ガイシャの身内とは言え、いや、そうであるからこそ、捜査情報を漏らしたり、まして、捜査に関わらせることなどあってはならないことだと思っている。爆破事件の犯人の特定にしても、久美が僥倖に恵まれたとしか思っていない。
「あなたが、久山俊彦を捜せ、と言ってると聞いて驚いてます。なんで、今さら、久山の名前なんかを思い出したんですか?」
「藤田が自白を変えた、と知ったからですわ」
「ほーう、それだけで? それは、たぶん、弁護士の入れ知恵ですよ。クロのものでもシロと言いくるめることで名を売ってる男ですからね。凶器が見つかっていないことを最大限に利用して、藤田に入れ知恵をした結果だろうと、われわれは思ってます」
「新しい自白の詳しい内容はわかりませんけど、藤田は、死体を運んだだけだ、と言ってるんじゃありません?」
「えっ・・・! 誰にそんなことを聞いたんですか? 藤田と久山には全く接点がないことがはっきりしてるんですよ・・・それにしても、誰が、あなたに、そんなことを言ったんですか? 藤田の新しい供述の具体的な内容は、まだ、どこにも発表してないんですがね」
水之浦は、そう言いながら、久美の左隣に座っている竹添を睨んだ。竹添が、久美に情報を漏らした、と疑っているのだろう。
竹添は、慌てて、首を振った。
久美は、水之浦に反論する前に、竹添を弁護する方を優先した。
「私の言いたいことは、藤田が供述の内容を変えたと聞いて自分で考えたことですから、情報漏洩だなどと言って、どなたかを責めたりなさらないでくださいね」
久美は、そう言って、竹添に、いたずらっぽい流し目を送った。
竹添は、そんな久美に、一旦、笑顔を返しておいて、そら見ろと言わんばかりに、水之浦に恐い顔を向けた。
久美の右隣に座っている牧山が、どちらの肩も持たずに、口を出した。久美が何を言い出すか察していたようだ。
「私も、久山を捜せ、とは聞いたけど、電話だったし、内容も唐突だったんで、詳しいことは聞いてない。どういうことなのか話してくれませんか。久山が犯人だとすると、説明のつかないことがあった。今は、違う、というわけですね?」
無視された形になった水之浦が、むっとしたような顔をした。
久美は、自分を馬鹿にしているらしい水之浦を相手にする気はない。
「はい。藤田が死体を運んだ、ということになれば・・・」
「久山には運搬手段がない、これは当初からわかっていたことです・・・久山の名前が再浮上した時、再捜査したんですが、状況は何ら変わらなかったんです、つまり、久山には運搬手段がない、大南周辺に久山の共犯者になりそうな者がいない、レンタカーを借りた形跡もない、従って、久山にはあの犯行はできない、そう結論せざるを得なくなっていたところへ、藤田が自首してきたんです。別の犯人が出てきても、おかしいと思う者は誰もいなかったのです」
「わかりますわ。あの時点では・・・」
「あの時点でも、この時点でも、状況に変わりはないんじゃありませんか?」
牧山はとぼけ続ける。
「すみません、おじさま。お言葉を返すようですが・・・」
不機嫌な顔をして聞いていた水之浦が、久美に先を言わせず、
「自供の内容が変わった、ということですね。藤田があなたのお姉さんの・・・・思い出させてしまって、胸が痛みますが・・・死体を運んだということになれば、久山は容疑者として除外できなくなる、そう言いたいのでしょうが、久山と藤田には全く接点がないのです。あなたが考えてるようなことは、われわれに言わせれば、できの悪い推理ドラマ、民間人の戯言にしか聞こえないのです」
水之浦は、最初は使う言葉に気を遣っていたが、結局、この小娘がという本音を隠せずに、久美を容赦なくやりこめようとした。
久美は、水之浦の辛辣な言葉にショックを受けたが、引き下がるわけにはいかない。
「実は、久山のことで、まだ、申し上げてないことが・・・・」
久美が、そう言いかけると、竹添が口を出した。
「えっ! また、何かやってたんですか! われわれに相談もしないで!」
久美は言葉が返せない。
竹添が追い打ちをかけた。
「このお嬢様は、われわれの了解もなしに、勝手に動くんです。尾形に殺されかかって、ひどい目に遭ってるのにですよ」
水之浦が、すぐに、それに乗ってきた。
「そうだったってね。尾形の左手の甲を噛み切ってたそうじゃないの」
竹添が、調子に乗った。
「口元に血がついて、それこそ、人食い女、ってところですよ。美しい娘が人を喰ったら、こんな風に見えるのかと思って、思わず、見入ってしまいましたがね」
牧山も口を出した。
「こんなことまでして、と思って・・・何か、こう・・・胸が締め付けられましたね」
牧山は、久美が牧山の忠告を守らなかったことなど、おくびにも出さない。
久美は、顔を真っ赤にして、俯いた。
竹添は、久美の身を案じてのことなので、容赦をしない。
「また、危険な目に遭うんじゃないかと心配でしようがない。署長も心配でしょう。刑事の真似事なんかしないように、厳重に注意してくださいよ」
大川は、久美の様子を見て、慌てて言った。
「もちろん、そういうことが二度とあっちゃいけない。事情がどうあれ、そんな危険から守ってあげるのがわれわれの務めだ。われわれの方が用心を怠ったことを反省しなきゃいかん」
大川は、竹添の言ったことに、変化球で応じた。
迷宮入りになりかけていた難事件の犯人を、それこそ、命がけで、特定してくれた久美に感謝する気持ちがあったのだろう。
久美は、顔を赤くして、俯いたままだ。
「この連中の言うことには構わないで、話を続けてくれませんか。まだ、われわれに言ってないことがあるということでしたが・・・?」
大川が催促した。
5
久美も、ここで、話を打ち切るわけにはいかなかった。
頬を赤く染めたまま、顔を上げた。
「ホームレスになっていた久山は、大晦日から正月にかけて、日比谷の年越し支援のテント村にいた、このことはご存知ですよね。その頃、久山は、ボランテイア活動をしていた青年に、東京から大南市までの旅費を出してもらってるんです。それで、電車賃もなかった久山が、一月中旬に、大南市に現れることができたんです」
大川、牧山、竹添が、申し合わせたように、身を乗り出した。
水之浦も、無論、驚いている。
「お父さんに再雇用を頼みに来たというのが、それですね」
大川は、久美に話を続けさせようと、気を遣った。
「はい。久山は暖かい家の中にも入れてもらえず、父に車庫の前で追い返されることになりました。この時、久山の中に、殺意が生まれるような状況が何かあったのじゃないかと思うのです」
「そういうことだったら、お父さんを・・・」
「それが、久山が捜査の外に置かれる理由の一つになっていたんですよね。しかし、父が久山を追い返そうとした時、ちょうど、姉が帰って来ています」
「・・・しかし、それだけで、お姉さんに殺意を持ったというのは、あまりに理不尽なことじゃありませんか?」
「そうですよね。でも、私は、その場面を想像してみたんです。姉は事情がわかっていませんでした。ホームレス生活が続いていて、髪も髭も伸びて、みすぼらしい様子をした久山を見て、つい、眉かなんか顰めてしまったんじゃないでしょうか。姉にはそんなつもりはなかったんでしょうが、少なくとも、自分の惨めな外見や立場を意識していた久山には、そう見えた。その時の久山にしかわからない感情の動きが、何か、あったんじゃないかと思うのです」
「それが、殺意を持つほどのものだった・・・そういうことですか?」
「いえ、無論、それだけで、殺意に結びついたとは思えません。久山は、父に解雇されたと思い込んでいて、一縷の望みを抱いて、わざわざ大南市に帰って来て、藁にも縋る思いで、父に再雇用を懇願したはずです。それなのに、家にも入れてもらえず、寒い夜道に放り出されてしまった・・・父には悪いですが、そのような対応をしてしまった父に殺意を持ったんだと思います」
「じゃあ、やっぱり、お父さんに・・・」
「その点が、最初は、私にも理解できなかったのです。これも推測ですが、実際に、そういうことになったのですが、娘を殺せば、その父親が悲嘆の底に沈んで苦しむ。久山の屈折した殺意が姉に向かった・・・それに、父は車で通勤しています。襲う機会が姉より格段に少なかった。姉の方が襲われたのは、そんな単純な理由によるものだったのかもしれません」
水之浦が何か言いかけたが、大川が制した。
久美は、気負わずに、続けた。
「さらに、久山は、派遣切り支援のボランテイアの青年に電車賃を返しに、日比谷公園に姿を見せてるんです。それが一月十九日、姉の事件があった三日後です」
四人は、期せずして、驚愕した顔を見合わせた。
久美は構わずに続けた。
「久山は、そんな金を、どこで手に入れたのでしょう」
水之浦が、また何か言いかけたが、牧山が先に口を出した。
「借りたお金は、いくらだったんですか?」
「一万二千円です。旅費を使った後の久山が、返すお金を持ってたはずがないんです。姉のバッグの中には、お財布が入っていて、それなりの額のお金が入っていたはずです。それに、その青年にお金を返しに来た時は、雪空の寒い日で、身を切るような冷たい風が吹いていたのに、久山は防寒着を着ていなかったそうです・・・防寒着には、姉を殺した時の返り血がついていて、きっと、使い物にならなくなっていたんじゃないでしょうか」
顔を紅潮させて、苛々《いらいら》した様子で聞いていた水之浦が、声を荒げて、割り込んできた。
「そんな重要な情報を、なんで、われわれに教えてくれなかったの!」
久美は、戸惑いかけたが、すぐに、反論した。
「その矢先に、藤田が自首してきたんです。それに、久山が殺したと想定した場合、先刻ほどから問題になっている、納得できない問題があったものですから・・・」
水之浦の不服そうな顔は、そのままだ。
牧山が、呟くように、言った。
「久山は、犯行直後と言っていい時に、日比谷公園のあたりに姿を現した。なんで、そういう危険を冒すようなまねをしたんだろうな」
久美の話を、半分以上、認めてしまっている。
久美は、それに勇気づけられて、さらに持論を展開した。
「そこが、久山が生来持っている律儀なところなんじゃないでしょうか。青年は、貸した、というより、久山に同情して、金を返してもらう気はなかったと言ってます。久山は、涙を流して感激したそうです。この世知辛い世の中で、見ず知らずの者に、一万円を超すお金を出してくれる人がいたんですもの、久山の気持ちがわかるような気がするんです。
その時、久山は、大事にしていたらしい腕時計を、無理矢理、押しつけるように渡して、青年が返そうとしても、どうしても譲ろうとしなかったそうです。押し問答を繰り返していても仕方がないと思って、青年は、一応預かって、機会があったら返そうと思って、ケータイの電話番号を書いたメモを渡した、と言ってます。
久山は、この青年の親切を忘れなかった。時計を返してもらうことよりも、一刻も早く、お礼を言って、お金を返そう、そう思い詰めていたんじゃないんでしょうか。事件後、父が久山のことを警察に話していながら、強く拘泥わらなかった理由もわかるような気がするんです。工場での仕事ぶりも、きっと、そういうものだったのでしょうから・・・。人を殺すような男が、受けた恩は忘れない、その代わり、裏切る者は許さない・・・そういう両極面を持った人間が久山という男なのかもしれません」
大川も、牧山も、考え込んでいる。
水之浦も口を出せずにいる。
竹添が口を出した。
「久山を真犯人と考えた場合、納得できないことがあったというのは、われわれが久山を捜査の外に置いた理由と同じだったわけですね」
言わずもがなのことだったが、竹添は、出番を作りたかったようだ。
「そういうことになりますね。姉の死体は殺害現場から十数キロも運ばれていた。これは、車を使わなければ、できないことですよね。ホームレスの久山に車はありません。レンタカーを借りるお金など持っていたはずがありません。車を貸してもらえるような親しい知り合いがいた形跡もありません。マスコミが大騒ぎしていた殺人事件が起こった、まさに、その前後の数日間に、久山に車を貸した人物がいたとすれば、聞き込みを徹底していた捜査陣の耳に入らなかったはずがありません。久山が殺した、と確信に近いものを持っていたのですが、この問題が、どうしても、解決できなかったのです」
「そこへ、藤田が自首してきた・・・」
竹添は完全に久美の味方になっている。‘人食い女’と言った失点を挽回しようと思っているのだろう。
「その通りですわ。別に犯人がいてもおかしくないと思い始めていたので、久山の犯行は、やはり、なかったんだと、その時点では、納得していました。
ところが、藤田が自供の内容を変え始めたことを知りました。自白の内容が変わったとすると、自分は殺していない、死体を運んだだけだ、と言ってるはずだと思ったのです」
「・・・恐れ入りました」
水之浦が、ちょっと間を置いてから、言った。
恐れ入ったような顔はしていない。
やり込めてやろう、と機会を 窺っていたようだ。
「もっともらしく聞こえますが、何か確かな証拠でもあるんですか。藤田には言い抜けのできない物証が揃ってるが、久山には何もない。何よりも、藤田と久山には、全く接点がないのです。われわれ警察の捜査は、推理や推測だけじゃどうにもならんのです。専門家じゃないから仕方がないのかもしれんが、あなたには犯罪捜査のイロハもわかっちゃいない」
水之浦の言葉には、情け容赦がなかった。
水之浦の立場になってみれば、事件全体を見直さなければならなくなる上に、素人の小娘に翻弄される形になったわけだ。そのことが久美の頭の中を過ぎらなかったわけではないが、事は自分の姉の殺人事件だ。事件の全貌がわかりかけているのに、水之浦の立場なんかに気を遣っているわけにはいかなかった。
久美は、気を取り直すと、水之浦に構わずに、言った。
「私を藤田と会わせていただくことはできませんか。難しい規定があるかもしれませんが、それを許していただければ、課長さんが納得しておられない点にも、きっと、お答えできるようになると思うんですけど・・・」
リーマンショック殺人事件(五)に続く