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埋葬と正体と銃声と【挿絵あり】 ※

まだ、ヒロイン候補が出てこない中、フェリルは唯一の癒やしです(笑)


 ひとしきり、バルム領の話題が出た所で白山は、オーケンに神妙な顔つきで切り出した。


それは、フェリルを救うために射殺したオーケンの仲間の事だった。

事情を話した後、オーケンは首を横に振り木にする必要はないと、少し悲しげな表情で言った。


「俺も団長程ではないんだが、貧しいものや女子供には手を出すなと言い含めてあったが、それを破ったガラシェは死んでも仕方がない」

少し険しい顔つきになったオーケンは、森を見つめていた。そして、馬車に視線を向けるとクローシュに切り出した。


「娘さんの事は、済まなかった」


元盗賊だったオーケンに謝られた事は、クローシュにとっても意外だったのか、驚いた表情を浮かべたがすぐに笑みを浮かべた。


「幸いにして、娘も私も無事ですし水に流しましょう。それから……」


少しだけ、顎に手を当てて考える様な仕草をしたクローシュはこう言った。


「元騎士団に居たのであれば、読み書きは出来ますね? それに剣も扱えるでしょう?」


面食らった様子のオーケンは、矢継ぎ早のクローシュの質問にただ頷いた。


「ならば、レイクまで辿り着いたなら私の店を訪ねて来なさい。働き口を世話しましょう」


釈然としないオーケンの表情に、いやらしい如何にも商人然とした笑いを顔に貼り付けたクローシュは、したり顔でこう告げた。


「私の名前はクローシュ。貴方もこの国の人間なら判るでしょう?」



聞き役に徹していた白山が入れた紅茶を、口元に運んでいたオーケンはその一言で盛大に吹き出し、咳き込む。


「なんで、王国でも1、2を争う大商人が、こんな小さな馬車で行商なんてしてるんだ!」


意地悪い顔で笑いながら、クローシュは今朝方、白山に説明した事柄を繰り返した。


「はあ、とりあえず事情は分かった。無事レイクに辿り着いたなら顔を出そう」


今日一日で、随分運命の大波に翻弄され続けたオーケンは、やや疲れた表情でそう言った。



そして何事かを考え、暫く俯いた後、白山に向けて切り出した。


「ガラシェの躯を弔ってやりたいんだが、ホワイトの旦那、手を貸してくれないか?」


オーケンの願いに、頷いた白山は近くに立てかけてあったシャベルを手に取り「こっちだ」とオーケンに背中越しに伝える。

立ち上がったオーケンは、黙ってその後を追いかけた。



森に入った2人は黙々と進み、程なくして目的の場所に辿り着いた。


「穴は、俺が掘ろう。オーケンはそこの籠に、実を集めてくれないか?」


白山の指示に、一瞬不思議そうな顔を浮かべたが、散らばった赤いルコの実と籠を見て合点がいったようだ。


「分かった」と、短く答えたオーケンは籠を拾い集めると、低い枝からルコの実を外し籠に集めてゆく。


程なくして、作業を終えた2人は大柄なガラシェの遺体を穴に収めると、黙々と土を被せる。


「コイツは、近くの村の出身だったんだが、でかい体格で少しトロくてな。村で浮いてたんだが、そのうち事故で村人を殺しちまってな」


土をかぶせながら、故人の経緯を白山は黙って聞いていた。

食物連鎖以外で人を殺める業を背負っている白山は、黙ってその言葉に聞き入っていた。


すっかり、埋め戻され簡単に手を合わせたクローシュに白山は、シャベルを押し付けた。


「少しばかり用事がある。日暮れまでには馬車の所に行くから先に戻っていてくれ」


白山は高機動車の方角を見て、今後についてあれこれと考えていた。


そんな白山の様子を見ていたオーケンは、ただ黙って頷くとシャベルを受け取ると、器用にシャベルの柄に籠をぶら下げ

来た道を引き返していった。


半ばまで、その様子を眺めていた白山はオーケンの姿が見えなくなってから、高機動車に向けて歩き始めた。



****


200m程先に停められた高機動車は相変わらず、無骨な存在感を示しそこに鎮座していた。

動体センサーのログを確認するが、白山の戦闘の痕跡と先ほどの埋葬以外に動きは見られなかった。


ふと思い出すと、今日は随分と人に会った。

つい、5日前までは、任務中で会話は極力控えていたし、何より白山のチームは長年苦楽を共にし、様々な訓練を経験しており、白山が何かしたいと思った時には、その行動を誰かが行う程、有機的なチームとして機能していた。


一瞬、感傷的になった思考をため息とともに吐き出した。

日暮れまでには時間はある。



不思議な事に、日本語が通じている。

今朝の驚きは白山の人生の中でもトップクラスの驚きだった。


懐からクローシュに貰った羊皮紙を眺める。

英語らしき文字で書かれた単語一つ一つは、抽象的な記号にしか見えないが、流し読むように目を走らせると、慣れ親しんだ日本語のように意味が脳に飛び込んでくる。


ふと思いつき、ノートへ羊皮紙の文言を書き写してみる。

淀みなく日本語を書くように、英語らしきこの世界の文字が書けてしまう。


自身は、日本語を書く感覚なので手が勝手に動くようで、違和感を感じているが書ける事は書ける。


白山は、羊皮紙とノートを胸元に仕舞うと、弾薬箱から9mm弾を引っ張りだし、弾薬を補充しながら考える。



この世界に自分が呼ばれた理由と、ここで成すべき事、そして帰還の可能性だった……



よくある召喚モノなら、周囲に召喚者やらが居て当然だろうが、そんな連中24時間待っても現れなかった。

それにその目的も不明だ。

すると、必然的にここで成すべき目標や召喚の意図についても、判るはずがない。


そして帰還の可能性だ。

幸いにして、クローシュ達との接触によって、色々と予定が前倒しになりそうだ。


昨夜まで考えていた、段階的な接触はもはや意味がないだろう。

あとはどうにか手段を整えて、帰還の手段や召喚者を探し出しその理由を聞く必要がある。



しかし、幾つか不思議と言うか疑問に思う事がある。

軍隊の基本はマンパワーだ。

幾ら銃器を持っていても、1万の大群には意味を成さない。


そもそも、特殊部隊員は正規戦の正面を張る人員ではない。

秘匿こそ最大の武器である自分が呼び出された意味は?


白山が、いくら考えても現状では仮説でしかない。

それにいくら考えても、ここに自分が居る事に変わりはない。


ならば、軍人としての責務や任務は、一時封印すべきだろうか。


白山の心で葛藤が生まれる。


そして、現状で唯一友好的といえるクローシュやオーケン達

彼等に真実を打ち明けるべきだろうか……?



弾薬箱を所定の位置に戻し、車体側面に括りつけた自分の背嚢を背負うと、馬車の方へゆっくりと歩き出した。


あまり人の入らない森の中を馬車の方向へ歩き出す。

軽いアップダウンのある地形は、適度なワークアウトの効果をもたらしてくれる。


背嚢の重さが、白山の思考をシンプルにしてくれた。

作戦準備と監視任務でここ1週間近く、体を動かしていなかった。

心拍数がわずかに上昇し、血流が活発に体を巡っている。


そうだ、ここは異世界なのだ。

作戦中に突然召喚されて、この世界に放り出された白山は任務の延長線上で思考してしまっていた。

視野が狭くなっている。


黙々と、森の中を進む白山は次第に、考えがまとまっていった。


「どうせなら、この世界での自分の役割を追求してみるか」


肩の力が抜けた気がした白山は、傾きかけた夕日に目を細めながら次第に見えてきた馬車に向かって歩き続けていた。



****



10分ほど歩いて森の切れ間へ近づいた白山は、草原に出る前に双眼鏡で入念に周囲を探索する。

クローシュ達は信じられるが状況は、ふと目を話した隙にコロコロとよく変化する。

さっきまではそうだった。これまでもそうだったから、今回もそうだろう。と言った思い込みで部隊が全滅する事や、観察対象を逃したりする事が往々にして発生しやすい。



馬車の近くには、相変わらずクローシュとオーケンが焚き火を囲んで座っており、時折何かを語り合っている様子だ。風向きのせいかその声は白山までは届かない。


クローシュの隣では、フェリルも座っており胸に籠を抱いて座っていた。


その様子を見て、少し安心した白山はすぐに草原の周辺に双眼鏡を走らせる。

特に異常は見られない。出て行っても問題無いだろう。



ゆっくりと、立ち上がった白山は馬車に向かって歩き出した。




最初に白山に気づいたのは、フェリルだった。

籠を置くと、白山に走り寄ってくる。


「あの甘いお菓子!すっごく美味しかったの!」


ボスンと白山に抱きついたフェリルは、顔を見上げながら興奮した様子でまくし立てた。


 挿絵(By みてみん)


白山は左手でフェリルの頭をなでてやりながら、焚き火に向けてゆっくりと歩き出す。


「遅くなったな」


クローシュとオーケンは、視線を白山に向けると軽く手を上げて迎え入れる。



白山は、重量感のある背嚢を下ろし軽く肩を回すと倒木に腰掛ける。


白山の傍を離れようとしないフェリルを苦笑いしながら、クローシュが手招きしフェリルは渋々と言った表情で父の側に座る。


その光景を微笑ましく見ていた白山は、不意に横から声をかけられた。


「ホワイトの旦那は、一体何者なんですか?」


その言葉の主は、オーケンだった。

そう言ったのも当然だった。オーケンから見れば、白山の手元で何かが光った様な気がしたら自分も含めて倒れていたのだ。

恐る恐るといった感じで、白山に切り出したオーケンは、白山の格好と小脇に抱えられたM4を交互に見ていた。

大人しく、座っていなさいとフェリルを嗜めていたクローシュもその言葉で、白山に視線を向けた。



白山は、2人の顔を交互に見るとゆっくりと切り出した。


「これから話す事は、他言無用、そして信じるか信じないかは2人…… いや、3人に任せる」


言いつけを守って、クローシュの側で大人しく座っているフェリルに、優しい視線を向けながら白山は話し始める。



「俺は、この世界の住人ではない」


パチパチと焚き火の中で木が爆ぜる音が響く。


適当な枝で、焚き火の火を突きながら白山は、話を続ける。


「元の世界ではある国の軍人だが、任務の最中に気づいたら突然この世界に呼び出されていた」


そう言った白山はそれぞれの表情を確かめる。クローシュは深く考えこみ、オーケンは眉間にしわを寄せていた。

フェリルは、話を理解できていないのか、キョトンとした表情で周囲の大人を見回していた。


「オーケン、お前達を倒したのは銃と言う武器だ。まだこの世界には存在しない武器だ」


M4を軽く叩きながら、白山は槓桿〈コウカン〉を操作して5.56mm弾を1発取り出しオーケンに手渡す。

おっかなびっくりその金色の受け取ったオーケンは、しげしげと弾丸を見つめながら白山に問いかける。


「こんな小さな物で、人が殺せるのか?」


ひとしきり、眺めたオーケンは、手を伸ばして早く見せろと訴えるクローシュに弾丸を手渡す。


「恐ろしく精巧ですね。どんな原理なんでしょうか?」


弾丸を観察するクローシュの眼は、すでに商人のそれだった。


「尖った先端から少し下に継ぎ目が見えるか?」


弾丸を持つクローシュに、白山は問いかける。

「ええ、先端は銅の様ですが、後部の金色の金属は見たことがありません。」


真鍮は意外に歴史が浅く、使用され始めてから300年ほどしか経っていない。この時代にはまだ存在していないようだ。


「この世界に火薬は存在しているか?」


白山は、クローシュにそう問いかける。


「はい、北部の帝国で近年開発され使用され始めていると聞いています。まだ、王国では入手も制作も困難ですが」


白山は少し考えてから、銃の原理を簡単に説明し始める。


「その金色の中に、その火薬が詰まっている。そいつが爆発する力で先端の銅を飛ばすんだ」


ますます、クローシュの表情が険しくそして真剣に弾丸を見つめている。


「すぐには、信じられません。しかし、この武器は王国のどんな工廠でも制作は無理でしょうね」


白山はその言葉で、この世界の技術レベルを推測しながら、拳ほどの石をオーケンに手渡す。


「すぐには、信じられないだろうな」


ニヤリと笑いながら、オーケンに渡した石を50m程離れた少し隆起した場所に置くように頼む。


つい、半日前に撃たれた経験があるオーケンは青ざめた表情で首を横に振り、必死で拒否する。


「大丈夫だ、お前を撃ったりはしないから」


笑いながらオーケンの腰を軽く叩いた白山は、不承不承と言った体で歩き出した後ろ姿を見送る。



程なくして戻ってきたオーケンは、「あれでいいか?」と白山に問いかけ、白山は黙って頷いた。

左手でM4を支えた白山は、クローシュとフェリルを見て、「眼と耳を塞いでやってくれ」と小声で伝える。


クローシュは白山の意図を察して、ヒザにフェリルを抱えると「耳をふさいでいなさい」と優しく語りかける。

好奇心いっぱいで、何が起こるのかと期待していたフェリルは、抗議の声を上げたがむくれながらも耳をふさいだ。

クローシュは着ていたマントで、フェリルを包むと白山に頷いてみせる。


白山は頷き返すと、オーケンを見る。

馬車の陰から、ビクビクとした表情で離れた位置からこちらを伺っているオーケンに可笑しさを覚えながらも、射線上に居ないならと、標的に選ばれた拳ほどの石に改めてM4を向け照準を開始する。



肩付けと頬付けを微調整して、倒木に座ったまま変形のしゃがみ撃ちの要領で照準器に石を捉える。


スルリと安全装置を解除し、力みもなく静かに引き金を絞った。

サプレッサーによって減音された、ムチが真空を切り裂くような音が周囲に木霊し、石は粉々に砕け破片が周囲に飛び散る。


白山の動作に見入っていたクローシュは、遅れて石の方向を見ると、すでに周囲に四散する石の欠片だけが眼に映っていた。



驚愕……



クローシュの表情はその一言に尽きた。


周囲には、無煙火薬による独特の臭気が漂い、すでに消えたはずの銃声がクローシュの耳の奥でいつまでも鳴り響いていた…………



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