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焚き火と会話と金平糖【挿絵あり】 ※

金平糖とオレンジスプレットは野外で本当に重宝します。

森と草原の境界、一台の馬車のそばに、幾人かの人間が焚火を囲んでいた。


時刻は、すでに夕暮れとなっている。

真剣な表情で話し込んだり、時折楽しそうに会話が弾んでいた。


夕暮れに、焚き火を囲む面々の表情はつい朝方に、殺す側と殺される側に立っていたとは、とても思えない。


事の発端は、昼前に遡る……



****




縫合と被覆はそれほど時間はかからなかったが、傷を縫われた男は数針で気絶し白山を苦笑させた。


それから暫くして、クローシュが森の中から恐る恐るといった感じで様子を見に来たので、白山は手を降って無事であることを示し合流していた。


強引に森の中へ馬車を乗り入れたせいで、回頭と脱出に手間取ったが何とか無事に森を抜けられた。

程なくフェリルも目を覚まし、両親で改めて白山にお礼を言ってくれた。


気絶した男から、まだ情報が引き出せてない現状、野盗の仲間がまだ存在しているか判らない。

クローシュ達はこの場にもう少し留まるように、白山から助言され素直にその言葉に従った。


野盗達の死体は、所持品を改めて草原に埋めてやった。

馬車に積んだクローシュの商品に木製のシャベルに金属製の刃がついた物があり、白山は購入を申し出たがクローシュは頑なにそれを拒んでいた。


結局、白山が折れてシャベルを譲り受けると黙々と遺体を埋めていった。


その際、白山は死体の手を組ませてまぶたを閉じてやり、埋め終わった後は合掌して簡素に弔った。

クローシュはその光景を不思議そうに眺めていた。


「何故、自分達の命を狙ってきた野盗に手を合わせるのですか?」


そう聞いてきたクローシュに、白山は笑いながら答えていた。


「此奴らは、確かに罪人かもしれない。ただ、死んでしまえばただの躯だ。死体に罪はないよ」


クローシュはその言葉を聞き、少し考え込んでいたがやがて頷いてくれた。



埋葬が終わった辺りで、昼となったのか ありあわせだったが、クローシュが食事を用意してくれた。

黒パンに干し肉と野草スープの簡素な食事だったが、久しく暖かな食事を摂っていなかった白山はありがたくそれを頂戴し、ゆっくりと味わっていた。


食事の匂いに気づいたのか、革鎧の男が呻いてうっすらと目を開け白山を視界に捉えると怯えた表情を浮かべた。


「心配するな、治療は終わった」


フェリルは、やはり怖いらしく男が目を覚ましそうになると素早く馬車に駆け込んで時折こちらの様子を伺っていた。


クローシュに断りを入れて、馬車の横に括りつけられた樽から木のコップに水を汲んだ白山は、男に差し出した。

馬車の中で不安そうな表情を浮かべるフェリルに、笑いかけて「心配いらない」と小さく伝え、男に向き直る。


辺りを見回した後、頷いた男は白山の手を借りて座り込むと、喉を鳴らして水を飲み干した。


人心地ついた男は、改めて白山に口を開く。



「何故、俺を助けたんだ? どうせ役人に突き出されれば俺は死罪だぞ?」



クローシュもその点は、疑問に思っていたらしく白山に視線を向けていた。


「じゃあ逆に聞くが、命を助けられた相手と、自分を殺そうとしている相手。どちらの言う事を信じられる?」


笑いながら聞き返した白山に、男とクローシュは面食らった様子だった。



至誠しせいもとかりしか』

5省の一番最初に出てくるこの言葉は、直訳すると「真心に反する点はなかったか」となるが

この言葉は日本の特殊部隊員の間で多く語られる言葉だった。


「武士道と真心」これが日本の特殊部隊員が、部隊を問わず共通して持ち合わせる精神性だった。


これまで欧米の特殊部隊が軒並み苦労した、現地部族の説得や協力を根気よく続け、成功に導いた例は数多い。

こうした成功例の根底には、彼等の精神性が深く関係していた。


ポカンとした顔を浮かべた男は、頭を振って信じられないという仕草を伝える。


「俺があんたを騙すとは、考えないのか?」


笑顔を崩さず、白山は答える。


「いや、騙された時は探し出して殺すから問題ない。それに、自分の心が苦しくないか?」



表情を変えずに笑顔のまま殺すと言う言葉を吐く白山に、男は恐怖を感じて答えに詰まる。

代わって、白山の言葉にクローシュが身を乗り出しながら問い返す。


「自分の心が苦しいとは?どういう意味ですか?」



商人としての好奇心なのか、本人の資質なのかは判らないが食い入るように話を聞いている。


「自分の命を助けてもらった相手を騙して、その場を切り抜けても、その記憶は永遠に残り、後悔するだろう?」


白山は、2人の目をしっかりと見つめて、問いかける。

その眼差しに魂を鷲掴みにされたような心地になり、2人は黙りこむ。


そんな2人の表情に苦笑いを浮かべながら、白山は語を継いだ。


「仮に騙されたとしても、信じて騙されたなら仕方ないだろう。ただ……」


一転して、凄みのある笑いを浮かべた白山はゆっくりと語りかける。


「罠に陥れられたなら、必ず脱出して笑顔で復讐に行くがな」



余談だが、後日、宴席でクローシュが語った際、死神の鎌が首筋に当てられていた位の、言い知れない恐怖が背筋を走ったと言っている。




暫く、沈黙が続いていたが諦めたように男が口を開いた。


「分かった。俺に答えられる事なら答える」


先ほどまで冷酷な表情で、仲間を屠ってきた人間とは別人かと思える柔和な表情で、頷いた白山は、おもむろに、立ち上がると男の背後にまわり手首を拘束していたプラスティック手錠を解いた。


驚いたのは、戒めを解かれた本人だった。


「おい、こんな簡単に信じちまうのか?」


さも当然と言わんばかりの表情で、白山は答える。


「お前は、俺を信じて質問に答えると言ったのだろう?なら、俺もお前を信じるのが当然だろう?」


医療キットからOD色の三角巾を取り出し、右手を吊ってやりながら笑う白山に、男は毒気を抜かれたような気がした。



「さて、それなら名前から教えてくれ。俺はホワイトだ」


三角巾の具合を見ながら、間近にしゃがみ込み自身の目を覗きこむ白山に、嘘は通じないと男は直感的に悟っていた。


「オーケンだ……」


オーケンと名乗った男に静かに微笑んだ白山は、左肩を軽く叩くとゆっくり頷いた。



呆気にとられている、クローシュに断りを入れて昼飯に使った鍋と水を拝借すると下腹部に回したファニーポーチから紅茶のティーバックを取り出し、茶を淹れ始めた。


本物の茶葉には若干劣るが、忽ちに上品な香りが鍋から立ち上る。

クローシュは、鍋を漂うティーバックを興味深げに観察し、いつしか商人としての顔になっていた。


白山が木のコップに紅茶を注ぐと3名に渡し、まだ馬車の中から出てこないフェリルには、ファニーポーチを探り糧食の乾パンから取り分け入れてあった、オレンジスプレットを紅茶に入れ甘みをつけ、金平糖を持って話しかける。


「もう少し、お父さんとお話がしたいから待っていられるかい?」


コップと金平糖を手渡すと、フェリルは歳相応の無邪気さで、不思議そうに金平糖を見ていた。

白山は、一粒つまんで自分の口に入れると、フェリルもそれに習う。


 挿絵(By みてみん)


途端に目を見開いて顔いっぱいに笑顔を浮かべて喜んだ。

白山は笑顔を返して、フェリルの頭を撫でると、大きく見開いた目を細め、まるで猫のように表情を変えた。




馬車から戻ると、クローシュとオーケンは呆気にとられたように紅茶を手に持ち、固まっていた。


「ホワイト様、貴方は一体何者……」


言いかけたクローシュの問を、白山は手を挙げて遮る。そして小さく首を横に振った。


「モノには順番があるオーケン、幾つか答えてくれるか?」



白山に声をかけられたオーケンは、我に返ると大きく何度も頷き、傷に響いたのか我に返って痛みに震えた。

笑いながら、焚火のそばに腰を下ろした白山は、紅茶を飲みながらオーケンに尋ねる。


「仲間は、あれで全部か?それとも他に居るのか?」



まずは、直近の問題である野盗仲間の有無について、単刀直入に切り出した。


「俺達は、6人で動いていた。ガラシェって奴がもう一人居るんだが、森に入ったまま出てこなかった。

迷ったもんだと思ってヤツを残して、朝のうちに目をつけた馬車の襲撃に動いたら、ホワイトの旦那に出くわしたんだ」


今朝の出来事を思い出したのか、かすかに震えたオーケンは、正直に答えた。


その言葉に、安堵したクローシュは両手でコップを握りため息をついた。



「6人って数は野盗にしちゃ少ないんじゃないか?」



小枝を折りながら、焚火にくべると白山が続けて疑問に思った事を聞いてゆく。


「ああ、俺達は元々街道沿いの洞窟にアジトを構える盗賊団だったんだ。

だが、王様が会談で南下するらしくて騎士団やら領主軍が躍起になって、街道沿いの盗賊団や野盗を狩り出したんだ」


当時を思い出したのか焚火に目を落とし、左手で紅茶を一口飲んだオーケンは、続ける。


「これまで、団長と領主は裏で通じていて賄賂を受け取って共存共栄だったんだ。だが、いきなり騎士団に襲撃された」


苦い思い出を振り絞るように、オーケンは静かに語る。


「団長は、抵抗するつもりはなかったんだが、騎士団長がニヤけ顔で斬り殺しやがった」


「領主の悪行がばれるのを畏れたのと、団長が貯めこんでたお宝が目当てだったんだろうよ」



オーケンは続ける。


「俺は元々、騎士団の所属だったんだが、領主と団長のツナギ役として送り込まれたんだ」


クローシュは、信じられないと言う表情でオーケンの言葉を聞いていた。


「それで、仲間を集めてこの森の近くに潜んでいたのか?」


白山は、鍋から紅茶をよそいながら続きを促す。


「ああ、何とか包囲網をかいくぐって、アジトだった洞窟から離れた所で今の仲間と合流できたんだ。

元騎士団だったって事は、俺と団長しか知らなかったから、腕が立つ俺が頭になってこの先の洞窟に住んで、細々と旅人を襲って食いつないできた」


場に、沈黙が訪れる。


その沈黙を破ったのは、クローシュだった。

「岩山の盗賊団については、話を聞いています。一般の旅人や農民の馬車はあまり襲わず、豪商や奴隷商人を好んで襲撃するという……」


「ああ、団長は元はどこかの貴族の末子だったらしいんだが、領民の苦労を見てその是正を訴えたら放逐されたらしい」


そんな事をいつだったか聞いていたオーケンは、クローシュの疑問に答える。


「そうか。それでお前はこれからどうするんだ?」


白山は、オーケンに尋ねる。少し考え込んだ後、ゆっくりとオーケンは答えた。


「俺は、王都に向かおうと思う。どうせ拾った命だし家族もいない。ただ、バルム領では俺には懸賞金がかかっているらしい」


チラリと白山に視線を向けたオーケンは、紅茶を飲み干すとため息をついた。


「バルム領を迂回するとなると、レイクまではかなり遠回りになりますね」


クローシュは地形を思い浮かべているのか、難しい顔をしている。


白山は、領地の構成や境界についての情報が乏しく2人の話を黙って聞いていた。


その内容を纏めるとおおよそ次のようになった。


バルム領は、港町を中心とした南部一帯を領土としている。

曰く、バルム伯は10年ほど前に代替りをしたらしい。

地元では名君であると言われているが、数年前から王都では不正な蓄財や犯罪の噂が出てきたらしい。

ただし、それらの証拠は一切見つかっていない。


との事だった。


白山は、2人の話を聞きながら頭の中で、今後の計画についてすでに修正を始めていた。

どうやら、港町やバルム領は何か裏がありそうだ。

無用なトラブルは避けるべきなのか、オーケンの言葉を聞いて不正を糾すべきなのか。


それに成り行きとはいえ、言語の問題は解決し、生活習慣についても進展がありそうだ。


すると、白山は何を目指すべきか。

白山の思考は、今後についてめまぐるしく働き、ふと、自分がこの世界に召喚された意味を考え始めていた…………





ご意見ご感想、評価などございましたらよろしくお願いしますm(__)m


次話は、22日か23日の夜になると思います。

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