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野盗と煙とハンドガンと ※


馬の蹄の音は、微かではあったが森の静寂を揺らした。


 最初に気づいたのは、馬車に繋がれた馬のようであった。

それまで呑気に草を喰んでいた馬が、耳を巡らせ頻りに辺りを気にしだした。


その様子を見た白山も、周囲を見回し蹄の音を耳に捉えた。


遠くを眺めながら「チッ」と短く舌打ちした白山につられて、クローシュも同じ方向を見る。

はるか遠方にかすかに見える土煙と蹄の音を確認したクローシュの顔が青ざめる。


「逃げましょう。山賊の仲間かもしれません」


馬車に走り出したクローシュを横目に見ながら、白山は思案する。

馬車は最高でも15km 程が精一杯だが、単騎で騎乗された馬はそれよりも早く、すぐに追いつかれる。


そして、まだこちらに向かってくる人間が、山賊であると確定してはいない。


「クローシュさん、馬車を森の中に入れて下さい。そのほうが逃げきれる可能性が高い」


徐々に近づいてくる馬上の人間の大きさから、おおよその距離を目算する白山は、相手から目を離さず冷静にクローシュへ告げる。


背後からそう告げられたクローシュは、白山の声に一瞬ためらったが思い直したように答える。


「分かりました」


御者台に飛び乗り、森を一瞥したクローシュは軽く手綱を振り、馬を進める。


ちょうど森の切れ間で、少し回り込めば木立の陰に入り、こちらに向かい来る人間の視界から逃れられる。

すぐに森に入れば、短絡的な山賊ならば逃げられたと思い、諦めるかもしれない。


白山の意図を理解したクローシュは、すぐに森の陰に馬車を進め森の中に入り込める場所を探す。


その姿を見て安心した白山は、慌てる様子もなくゆっくりとした足取りで、馬車の後ろを歩いた。


背後から響く馬の足音は、はっきりと耳に届くようになっている。



そして白山も、場上の人間達から死角となる位置に入り込むと、すぐに森の中へ入り男達の様子をつぶさに観察し始める。



クローシュは150m程、奥に入った場所で仄暗い森の中に馬車を進め始めていた。

軽く後ろを振り返りその位置を確認した白山は、M4に取り付けられたACOG(照準器)で男達を観察する。


慌てた様子で、白山達が姿を消した方向を指さしている。

これであの男達がこちらを目標としていることは、間違いなさそうだ。


先程白山が無力化した男と、似た格好をしている所から山賊の仲間である がい然性(可能性)は高いがまだ確定ではない。


それに、こちらに危害を加えるとはまだ決まっておらず、自ら課したSOP(通常作戦規定)に反する。

そして一時的とはいえクローシュ達が庇護下に居る以上、これらを防護する必要もある。


馬上の男達は全部で5人 先程屠った男も入れれば、全部で6人だったのだろうか?

全員が腰に短剣とも山刀とも思える武器を吊り、一部は革鎧のような格好だ。


どう贔屓目に見ても、港町の画像で見たような衛兵とは似つかない。

白山は頭のなかで素早く戦術を組み立てる。


馬上の男達が先遣隊や偵察であった場合、後ろに本体が居る可能性も否定出来ない。

派手な戦闘は避けなければいけないだろう。



程なく男達は、こちらに到着するだろう。

クローシュの姿は、森に姿を隠しているが、まだ馬車の尻が見えている状態で、完全に姿を消すにはもう少し時間がかかる。


姿を隠してやり過ごす手段は、到着時間から考えて難しい。


ここは白山が時間を稼ぐしか、手はない様だ……


白山はM4を背中に回して、ストールを直すとその姿は目立たなくなる。

次いでSIG P226の銃口に細長い筒を取り付けると、ホルスターから何度か出し入れして、その感触を確かめた。



白山は森の中から出ると、大きな広葉樹に背中を預け、男達が自分を見つけるのを待ち構える。

視線は森の切れ間、男達がやってくるであろう方向を見据えながらチェストリグを手探りで、目的の装備品を手さぐりした白山は、簡単に考えた作戦を反芻しながら徐々に大きくなる蹄の音を聞いていた。


お世辞にも毛並みや体躯が良いとはいえない馬に跨る5人の男は、操る馬より粗野な印象を与える。


白山は元の世界で活動を共にした事のある騎馬民族を思い出していたが、彼等はある程度洗練された独自の文化を持ち、この男達と比べられたならば、誇りを汚されたと本気で怒り出すだろう。


森の切れ間から速度を落としながら姿を現した男達は、立木に寄りかかる白山を見つけ、包囲するように半円形の形で、白山を取り囲んだ。

馬の威容を最大限活かすような手慣れた包囲網だった。



男達の手にはすでに山刀が握られており、この時点で白山の心中では敵対的勢力であると判断しており、すでに頭のなかのスイッチは、戦闘モードに切り替えている。


「おい、馬車は何処にやった?」


馬上の上の男が声を荒げる。

声を上げたのは革鎧を着た中央の男で、冷徹な感じがする目を白山に向けていた。



腕を組むようにして、ストールの下でM4を隠し持つ白山は、表情を変えずに答える。


「なぜ、馬車の行方を知りたいんだ?」


途端に、馬上の男達から嘲笑が漏れる。

左側の男が凄むように、馬を一歩進める。


「決まってんだろ。俺達は獲物を逃した事は無ぇんだ!」


白山は唾を飛ばしながらまくし立てる左の男を一瞥すると、中央の男に話しかける。


「つまり、物取と言うことでいいんだな?」


意見を無視されたと感じた左の男は激昂した様子だったが、中央の男がひと睨みすると不承不承といった体で言葉を飲み込む。


「物分かりが早くて助かる。そういう訳だから有り金と置いて馬車の行方を言え。そうすりゃ、命は助けてやる」


中央の男は油断なく、白山を見据えており白山の腰にあるナイフを注視して、その間合いを測っていた。



「生憎と、馬車は行商人の馬車でな。何処へ行ったかは知らん。お前さん達の姿を見て俺から代金も受け取らず逃げ去った」


先程、クローシュから受け取った食料品の革袋を後腰から取り出して掲げると、あからさまな舌打ちと周囲を見回す同様が

男達に広がる。


しかし、中央の男は相変わらず白山をじっと見据えている。

白山はすでに、危害対象として山賊達を排除する方向で考えているが、中央の男は厄介だ。

もう一押し奇襲の要素がなければ、リーダーと思しき中央の男がすぐに立て直すだろう。


やはり、考えていた通りの作戦で揺さぶるかと、白山は中央の男を見据えたまま声を発する。


「俺も命は惜しい。金と食料は渡すから馬車は好きに探せ。それでいいか?」


手に掲げていた食料を中央の男の方に放おると、後腰のダンプポーチから先程クローシュから貰った小ぶりな袋をヒラヒラと見せながら

半円形に包囲した山賊達との位置関係を再確認する。距離は約5m 手頃な距離だ……



左手の指先で、硬貨が入った革袋を摘んだ白山の手のひらには何かが握り込まれている。

同じように食料の近くに革袋を投げ捨てたが、先程とは違い、革袋の口紐には円筒形の物体が縛り付けられている。


縛り付けられているのは、MK-18 発煙手榴弾の文字が無骨な文字でペイントされていた。


飛翔の途中でレバーが外れ、着地の瞬間には白い煙が派手に噴出し始めた。


スルリと白山の手が動くと腰からSIG P226が現れる。

その動作は、力みも淀みも感じられない。

山賊達は、突然噴出し始めた煙に戸惑い、馬を御する事に神経を取られている。


次の瞬間には、10発の連続した音が周囲に響くが、サプレッサーに減音された銃声は森に吸い込まれて消えていった。



驚愕した表情を浮かべたまま次々と落馬してくる山賊達、発煙手榴弾の煙に恐慌状態となった馬は、馬上の人間を振り落としながら走り去って行く。


少しも慌てた様子を見せない白山は、SIGの弾倉を交換しながら注意深く落馬した男達に近づく。


最初に、白山へ食って掛かった男は、胸部中央に赤いシミを作りながら浅い呼吸を繰り返していた。

無言で頭部に銃弾を叩き込み確実に無力化してゆく白山の顔には、一切の表情の揺らぎは見えない。


順にとどめを刺す白山が不意に足を止めた。

革鎧を纏った件のリーダーらしき男が肩を抑えながら、その場に座り込みこちらを見据えていた。


諦観とも侮蔑とも取れる表情を浮かべたまま、動かない男は一言も喋らず白山を見続ける。


白山は、少しリーダーらしき男を眺めた後、残った山賊の命を刈ってゆく。

そして最後に革鎧の男へ向かうと、その傷を見つめた。


5人を射撃するのに要した時間は僅か3秒足らずだった。しかし、この男だけは戸惑う事なく白山に向かおうと

馬を進め、山刀を振り上げていた。

その為白山は、男の肩を撃ち次の標的に狙いを移していた。


「よく立てなおしたな」


銃口から上る硝煙と陽炎越しに、ゆったりと頭部に照準を合わせたまま語を継いだ。


苦痛に顔を歪めながら、革鎧の男は吐き捨てる。


「何故、殺さん」


「こちらにも、色々と理由があってな……」


いまだ戦闘モードの白山は凄みのある笑いを男に向けながら、油断なくそれに答える。

右肩の僧帽筋と三角筋を撃ちぬかれた男は、指先から血を滴らせながら地面に唾を吐き捨てる。


「さっさと殺せばいいだろう」


そんな男の様子を意に介さず、白山は背中にくくりつけていたプラスティック手錠を取り出し男に歩み寄る。

鮮やかな黄色の手錠が何に使用される物か解らない男は、後ずさろろうと足をバタつかせる。


「安心しろ。手を縛るだけだ」


背後に素早く回りこんだ白山は、SIGを胸元に引きつけながら、器用に左手だけで男の手首に手錠をかけて締め上げる。

傷が痛むのか、男はうめき声を上げる。


キリキリと後ろ手に拘束された男は、傷口を上にして地面に転がされる。


射入口と射出口を見ながら、随分と運がいいと白山は思っていた。


「俺の質問に答えれば、傷の治療をして開放してやる」


男の拘束が終わった白山は立ち上がり、周囲を見渡すとSIGをホルスターに収めた。


ハイドレーション(水筒)から一口水を吸った白山は、グローブを外し背中に取り付けた医療キットを取り出すと、男の正面に腰を下ろした。



黒いメディカルグローブを装着しながら、具合を確かめるように手を握りこむ白山に、男は恐怖する。

短絡的な思考だが、何も知らない男の頭には『拷問』という言葉がよぎり、額には汗がにじむ。



「俺は、ただの野盗だ。何も知らんぞ!」


男の慌てた様子に疑問を感じた白山は、ふと現状を客観視して笑い出した。


「心配するな、傷の手当てをするだけだ。傷を見せてくれ、服を裂くぞ。」


白山ははさみで、男の服と革鎧の肩当てを切り取ると傷口を露出させる。

幸いにして血管や神経、骨には異常はない。筋肉を綺麗に貫通した傷口を見て白山は男に語りかける。


「運がいいな。これなら治りも早い」


あたかも医者が患者に話しかけるように、状態を説明しながらヨウ素系消毒薬を傷口に塗りたくる。

男は、沁みたのか呻くように声を出しはじめた。


先程、切り取った袖の切れ端を男の口元に持って行き噛ませてやる。

モルヒネのアンプルもあるが、この世界の人間に使うのは危険だと白山は判断していた。


使い捨ての縫合セットを取り出した白山は、男に傷を縫うと伝えると懇願するような表情になり

噛み締めていた袖を吐き出した。


「縫うって、何だそりゃ。 あて布をして縛るんじゃないのか!?」


男の疑問に落ち着くように声をかけながら白山は諭す。


「大丈夫だ。傷口が大きい時は、縫いあわせてやれば、治りが早い」


口に袖だった布切れを押し込みながら、小さな切り傷を例に出して説明する白山の表情は、目つきこそ鋭いが

先ほどまでの冷淡さは、すっかり影を潜めていた。


「ああ、いい忘れてたが……」


持針器で縫合針を持つ白山は、傷口を見ながら言葉を切った。



「死ぬほど痛むと思うから、我慢しろよ」


ニヤリと笑った白山の顔とは対照的に、男の声にならない絶叫が草原にこだましていった……


ちなみに、本編で5ターゲット/ダブルタップ3秒台ですが、5秒台で6枚/3発(ダブルタップ&ヘッド)を実際に撃つバケモノを知っています(笑)


それから、習○野の変態はターゲットの間に隊員を立たせて、実際に撃つそうです。某SFにクレイジーと言われるのもうなずけます。


参考動画 ttp://www.youtube.com/watch?v=8GwE2qW2Qd4

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