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訓練と2度目の叙勲と

これでやっと物語が進行すると思います。

ただ、次回は説明回になりそうですが……

 リオンの目の前を横に飛んでいった金色の薬莢は、回転しながら飛び去っていった。

リオンは薬莢に向いていた意識を急いで標的に向けるが、特に変化はないように見える。

だが標的の中央部には、しっかりと弾痕が刻まれている。しかし、肉眼ではそれを確認することは出来ないだろう。


白山は薬室を確認すると、銃を置き立ち上がった。


「さあ、次はリオンの番だ!」


 周囲に残る火薬の匂いと衝撃波に、一瞬ボーッと標的を眺めていたリオンだったが白山の言葉で我に返る。


「はい!」


 珍しく少し大きな声で返事をしたリオンは、白山と場所を代わってその場に伏せた。

重量感のある鉄の塊を手に取ると、ゆっくりと呼吸を落ち着けてから照準を合わせる。


 小柄な少女が小銃を構えている構図に、若干違和感を覚えるが、それは向こうの世界の価値観かもしれないと考えた白山は細部に目を向ける。

肩付け・頬付け・肘の位置・銃軸線・握把グリップと被筒部の握り……


 その姿勢と落ち着きを見た白山は、問題無いと判断して弾倉から1発の弾丸を取り出すとM4の薬室に滑り込ませた。

リオンは白山から肩を叩かれて合図を受けると、スライドリリースを押し込み薬室を閉鎖する。


「安全装置を解除!」


「安全装置を解除!」


白山の号令にリオンが復唱する。


「撃て!」



『パーーン!』



 再度発生した破裂音と衝撃波にも表情を変えず標的方向を見つめていた白山は、標的のやや下に撃ち込まれたリオンの初弾を双眼鏡で確認する。

初めての射撃で、最低限の射撃予習で標的に命中させたのだから、大したものだ。

最も、白山自身が100mでゼロを取ってあり、ど真ん中を狙って撃てば当たる状況なのだが、それでも姿勢や照準で外す奴もいる。


 そう思った白山は薬室を確認して銃を置くように指示すると、リオンを立ち上がらせて深呼吸させた。


 これなら通常の射撃メニューに移行しても問題無いだろうと判断して、白山は初の射撃で少し紅潮しているリオンに問いかける。


「どうだった?初の射撃は……?」


その言葉に、標的の方向を見ながらリオンは呟くように答えた。


「暗殺者の手には絶対に渡してはいけない武器ですね……

例え屈強な騎士が周囲を固めていても、難なく標的を殺せますね」


 これまでの仕事を思い出しているのか、不意に遠くを眺めるようにそういったリオンは、銃の有用性とその威力を実感しているようだった。


「ああ、だから軽々しく誰かに使い方を教えていいモノでもないし、教えるつもりもない」


 そう言ってリオンに微笑んだ白山は、言葉短く「続けるぞ」とリオンに言うと、リオンも少しだけ微笑むと頷いて銃を取った。



 4弾倉・112発を撃ち切る頃には、リオンも銃に慣れて各種射撃姿勢や姿勢変換をこなせるようになってきた。

木製の標的は既にボロボロで、リオンの命中率の良さを物語っている。


 本来ならもっとペースを上げて潤沢に銃弾を使って訓練させてやりたいが、供給が限られている現状ではそれも叶わない。

頃合いを見て、昼飯にしようとリオンに告げた白山は、高機動車から大ぶりのサンドイッチを持ってくるとシートに座ってそれに齧りついた。

朝のうちに調理人に頼んでいたサンドイッチは、ボリュームのある丸パンに、鳥を香ばしく焼き上げて薄切りにした肉と、チーズに野菜が挟んである。

久しぶりに野外で食べる食事に、特有の旨さを感じながら、それを平らげる。


 少し食休みしてぽかぽかと気持ちのいい陽気の中、固形燃料で湯を沸かしインスタントコーヒーを淹れ、久しぶりにくつろいでいた。

リオンもエキサイティングな射撃と言う訓練の余韻が抜けて、いつもの落ち着いた表情に戻っていた。


 射撃の騒音に飛び立っていった鳥達もいつしか舞い戻り、周囲に鳴き声を響かせている。

だいぶ腹も落ち着いてきた。そろそろ訓練を再開するかと白山は考えてコーヒーを飲み干すと、高機動車からプラスチックケースを持ちだした。


 黒い無骨なそのケースは、アタッシュケースと同じくらいの大きさで白山はそれをリオンに差し出した。

小首を傾げて白山に視線を送ったリオンは、白山の説明を待っていた。


「リオン、射撃の訓練はとりあえず及第点だ。これを預けておく」


 ケースの留め金を外して蓋を開けた白山は、中に入っている代物をリオンに見せた……

そこには、ケースと同じようにプラスチックの外装に覆われたMP7(サブマシンガン)が静かに横たわっていた。



挿絵(By みてみん)



 驚いた様子のリオンは、MP7と白山を交互に見て口元に手を当てて言葉を失う。

しかし、すぐに気を取り直したリオンは礼を言ってケースを受け取ると、その重さを感じていた。

銃本体は、それほど重い訳ではない。しかし、白山からの想いそして銃を預けられたと言う信頼が、リオンに銃の重さを実感させていた。



「この銃を受け取るなら、次の事を絶対に守ってくれ。


 まず、銃を持ちだしたり携行するのは、俺の許可を得てからだ。

そしてリオンや俺そして守るべき人の命に危機が迫っている場合に使用を許可する……」


真面目な表情でそう言った白山は、じっと銃を見つめているリオンは視線を上げて力強く、そして神妙な面持ちで頷いた。


「心して、お預かり致します……」


 そう言ったリオンに満足そうに頷いた白山は、MP7のストックを伸ばすとリオンに持たせる。

このMP7はSOP(通常作戦規定)で車両防護用に常備する事が定められていたが、洞窟や室内での戦闘を考慮して白山達は各種オプションを装着し、弾薬も少し多めに携行してた。

それでも300発程度の弾薬と、弾倉は40発入りが2本しかない。


それでも、ないよりはマシだろう。


 リオンは、外装がプラスチックで出来ているMP7を手に取ると、その軽さに驚いていた。

MP7を構えた彼女を見て、その体格でも問題なく扱えるサイズで取り回しもいい。この銃を与えたのは正解だったなと、白山は思っていた。


 20発だけ弾倉に弾を込めた白山は、弾が少ないと断りこれで感覚を掴んでおけと弾倉をリオンに渡した。


「M4と比べて反動が小さいから注意しろ……」


 その注意に頷いたリオンは注意深く1発づつ照準と反動を体に覚え込ませるように、ゆっくりと銃弾を撃っていく。


 パッ と火薬量の少ない控えめな破裂音が響いて、木製の標的から木くずが飛び散る。


 20発を撃ち切った後は、誤射を予防するため残弾の有無を徹底して確認した。

射撃が終わった後は、午後の大半をかけて野外での相互支援と移動要領を繰り返して訓練する。

ハンドシグナルから基礎的な相互躍進、撤退の手法に至るまで銃を携えた状態で実施する。

汗と土にまみれた訓練で肉体的にもキツイものだが、白山もリオンも黙々と訓練を行っていった……


 太陽が西に傾き始めた頃、白山の考えていたメニューを大方消化し、2人は自室に引き上げた。

そして自室で武器の手入れを兼ねて、MP7そしてM4の分解結合を行う。

一連の訓練が終わる頃には、すっかり夜も更けていた。


 今日はリオンも頑張ったので、武器格納や食事の支度は白山が行うと告げると、リオンは固辞したが結局はその指示に従った。

武器を格納して簡単に食事の支度を整えた白山は、リオンと入れ替わりで風呂に向かうとさっと汗を流す。


早々に食事を終えた白山とリオンは、心地よい疲労に包まれて早々にベッドに入っていった。



*****



 翌朝、叙勲の式典に備えて礼服を着込んだ白山は、接見の控えの間へ向かっていた。

今日の叙勲は前回の時とは違い、政務に関わる数名が臨席する簡素な式になるとの事だった。


 前回の教訓から、式典の儀礼に関しては予め羊皮紙にまとめられ、白山に渡されてあった。


 朝の陽光が明かり採りから差し込み、接見の間は幻想的な雰囲気になっていた。


 叙勲の間に入った白山は、サラトナの姿を見つけ軽く黙礼すると彼もわずかに頷いた。

程なくして臨席する軍務・政務の各政務卿が揃い、式典官が叙勲の開始を宣言する。


 今回の叙勲では、貴族達の感情や動揺を最小限に抑えるため間を開けてから叙勲を文章で布告される。

もっとも宮廷雀や貴族達は、どこかからか噂を聞きつけ布告前に耳に入るのは間違いない。


 また、伯爵の捕縛が白山の叙勲理由になっているので、晩餐会のような催しも行われない事になっていた。


 正直、白山は大勢の貴族達の前で見世物にされる華々しい叙勲は好きになれず、むしろ好都合と言えた。

そして今回の叙勲では、褒章としてついにラップトップが入手できる。


 元の世界に帰る手がかりとなるラップトップは、何としても入手したい。

この世界での約束事である国の防衛に関する能力の向上を果たして、一定の成果を上げてから帰還する。


 そうしたステップをたどるには、前提になるラップトップはどうしても必要な物だった……



「王の登壇である。一同控えよ」


 式典官からの言葉に、接見の間に居る人間が揃って頭を垂れ、白山はその場に片膝をつき叙勲に備えた。



「ホワイト殿、貴殿の功績を称え名誉騎士章を授与する!」



 前回の独特の抑揚で発する口上とは異なり、簡素な宣言が発せられ片膝をついていた白山は、階段の手前まで進み出るとじっとその時を待っていた。

コツコツと王が玉座から階段を降りてくる音が響いてくる。


「面を上げよ……」


 その言葉にゆっくりと視線を上げた白山は、威厳ある表情で手に名誉騎士章を持つ王がそこには立っていた。

真っ直ぐにその視線を受け止めた王はわずかに頷くと、ゆっくりとした動作で白山の首から名誉騎士章をかける。


再び頭を垂れた白山の姿を見て、王は玉座に戻ってゆく。


王が玉座に戻ったタイミングで、式典官が声をかける。


「ホワイト殿、戻られよ」


 その言葉に、もとの位置に戻った白山は式典官が褒章の目録を読み上げるのを黙って聞いていた。

今回の叙勲で白山には王都の貴族居住区にある屋敷、慰労金として金貨40枚そして異界の鏡が賜下されると告げられる。

これらの品目は、手渡しする訳には行かないので目録が式典官から手渡され、白山はそれに答える。


「有難き幸せ、今後も職責を果たし国へ貢献させて頂きます」


 そう答えた白山に、王はわずかに頷くと留守中のブレイズに代わって警護役を務めるアトレアを伴い退場する。

式典の終了を告げる宣誓が行われ、簡素な授与式は短時間で終了した。


 ゆっくりと立ち上がった白山は退場する所だった人間に頭を下げる。

その仕草に気づいたサラトナが白山を手招きして、控えの間へ誘った。


 軍務卿と財務卿そして宰相とこの国を司る人間が勢ぞろいしている控えの間には、独特の雰囲気が漂っていた。

控えの間に入ってきた白山へ最初に声をかけてきたのは宰相であるサラトナだった。


「ご苦労だったな。今回は何事も無くて安心したぞ」


 笑いながらそう語るサラトナは、白山にソファを勧めてくれた。

苦笑しながら礼を言って腰掛ける白山へ財務卿のトラシェが声をかけてきた。


「まずは叙勲おめでとうございます。 後ほど入札に関して幾つかご相談がありますのでよろしくお願いします」


 そう言ってにこやかに微笑むトラシェは、懐から取り出した試算表を見せてくれた。

入札によって削減できる金額はかなり大きいらしく、トラシェは忙しいながらもかなり上機嫌だった。


その言葉に安堵した白山は、最後にバルザム軍務卿へ視線を向けた。


「この度は叙勲まことに目出度い。しかし、貴族の不正があった事は残念でならんな」


 渋い顔でそう言ったバルザムは、流石貴族派を束ねる派閥の長だけあってその言葉にはやや刺があった。

その言葉を聞いた白山は、ここで軍のトップに立つバルザムと明確に敵対するのは得策ではないと思い返答する。


「確かに不正があった事は残念でなりません。

今は軍においても貴族においても、一枚岩となって外敵に対応しなければならない時期と言えます。

私はまだこの国に来て間もない人間です。 そして貴族の皆様に面識も伝手もない……


私の知識や経験を活かす為にも、バルザム卿には是非お力添えを頂ければと存じます」


 そう言って、頭を下げた白山はそれとなくバルザムの表情を確認する。

流石に腹芸に秀でた老獪な貴族であるバルザムは、表情を変えること無くにこやかに対応した。


「判りました。私に出来る事であれば勿論協力は惜しまんよ。

それにホワイト殿には、息子の件で借りもありますからな……」


 そう言ったバルザムはわずかに鼻を鳴らし、息子の失態を思い出したようだ。

あの一件で、連絡将校として定期的に王都に戻ってきていた息子のフロークは、現在その任を解かれ国境沿いの砦に送られていた。

そして王の口から発せられたフロークの王女の婚約候補からの脱落。

これは事実上バルザムの血筋が王家に連なる可能性が潰えた事を意味していた。


 これについては、王の口から内々にバルザムへ伝えられており当然承知しているはずだが、この場ではそうした素振りはおくびにも出さない。


「ホワイト殿がバルム領から無事に戻られたので、後日正式な謝罪の使者を送りますゆえ、その際でもゆっくりと話しましょう」


 これは厄介な問題だった。

バルザムの私邸に招かれた白山は笑顔で対応しながらも、さてどうしたものかと思案していた…………

MP7について……

wik http://ja.wikipedia.org/wiki/H%26K_MP7

動画  http://www.youtube.com/watch?v=Sjt62h56x-E


※追記 白山くんはM4に1弾倉28発しか込めません。

これは、ジャム予防と残弾計算の為です。



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