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トカゲの尻尾と打ち上げと

前話で引っ張りましたが、特に波乱なしですみません(汗


 真剣な表情の副官は、白山の勧めで対面のソファに腰を下ろした。

そして、その重い口を開いた……



「先程、王都からの船便が到着して報せが届きました……

どうやら、捕縛の件が漏れたようで意外な報告が届いています」



 沈痛な表情で、書状を差し出した副官に白山はそれを受け取るとその内容に目を通した。

国の運営を司る法衣貴族(文官)や地方の行政官が数名、領地から消息を絶ったとの連絡だった。

どうやら自分を捕捉するために親衛騎士団が出発したと勘違いしたのか、それとも伯爵との関係性を調べられることを恐れたのか……

いずれにしろ、国政に少なからずダメージが出ることが予想される……


副官が眉を顰めるのも、もっともな事態だった。



 だが、これで風通しが幾分良くなると割り切れば、貴族派の勢いを削ぐ目的とは合致する。

しばらくは国内が不安定になることも予想されるが、改革に伴う痛みと考えるべきだろう……


 この点については王都に帰還次第、宰相のサラトナや王と話し合う必要がある。

白山が気になったのは国内の治安状況や、内乱につながらないかという点だった。


 その点を副官に尋ねると、領地や担っている仕事から考えるにそれほど心配はないとの事だ。


「今回出奔した人間は、伯爵と何らかのつながりがあるか後ろ暗い事を行っていた者だけですので、それほど心配はないでしょう。

ただし、これで貴族派が大人しくなるか過激な行動に出るかは、現時点では判りませんが……」



 それを聞いた白山は少し考えた後、現状では判断も予定の変更も必要ないだろうと考え、帰ってからの課題として頭の中にメモした。





 翌日の昼前にブレイズ率いる親衛騎士団の本隊が到着した。

早馬で伯爵の捕縛は伝えてあったが、本当に捕縛していたのかは半信半疑だったようでブレイズは、副官から白い目を向けられている。

そのままブレイズ達本隊は、港湾事務所や倉庫などを見分し交易量や書類と現物を調べ証拠を固めてゆく。


 ブレイズ達は、こうした状況に備えてあらかじめ財務卿から会計官を数人借り受け、同行させていた。

すると関税の違法な上乗せであったり、王家への過少申告などが日常的に行われていたことが発覚する。


 さらに、そうした書類から伯爵が懇意にしていた商人に利益が流れていることが明白となり、その店に騎士団が差し向けられる。

白山達が行動を起こした日から、港の船は出港が禁じられ街への出入りも一部を除いて制限がかけられており、程なくして納屋に隠れていた商人が騎士団員に殺害される。

 納屋の藁に潜んでいた所を、槍で突いて探していた騎士団員により、呆気無く殺害されたようだ。


 その最後は、金貨を詰めた木箱に覆いかぶさるようにして抱きしめていたと言い、金の亡者の哀れな末路と言えるだろう……


 その日の捜索が終わり、領主館で休息していた白山のもとにブレイズが訪ねてきた。

精力的に到着してから証拠を精査していたブレイズはやや疲れの色が見えるが、白山はたまには真面目に仕事をしてもらいましょうと言った、副官の言葉を思い出し思わず笑いそうになる。


「今回も、大活躍だったな!」


 開口一番そう言って白山と握手を交わしたブレイズは、いつものようにどっかりとソファに腰を下ろし、今後について話を切り出した。


「これまでのところ、証拠固めは順調に行っているがあと2~3日は、かかるだろう。

王都に到着してからも伯爵の尋問があるから、完全にケリがつくのは1ヶ月は必要だろうな」


 白山は今後の見通しを聞いた後、自身はどうすべきか考えていた。

このままブレイズ達とともに王都に帰還するか、それとも一足先に帰り山積する課題に着手すべきかどうか……


その考えを聞いたブレイズは少し考えた後で、白山にこう告げてきた。


「とりあえず、今のところはお前さんにやって貰いたい仕事は思いつかんな。

それに、美味しい所をホワイトにだけ持って行かれちゃたまらん」


笑いながらそう言ったブレイズに、白山も苦笑しながら答える。


「たまに、額に汗して働くのも良いもんだぞ……」


お互い冗談で笑い合うと、白山は笑いが収まってからブレイズに告げた。


「それなら明後日、俺達は出発して王都に戻ろう。

そちらは証拠固めに数日、それから出立準備だから概ね8日程度はかかるだろう?

こっちで俺が出来る事は、だいたい終わったからな……」



 その言葉に頷いたブレイズは、事態の推移をまとめた報告書を明日までに仕上げるから、それを持って行ってくれと白山に依頼した。

快くそれを了承した白山は、ふと思いついた懸念を聞いた。


「しかし、捕縛した伯爵の口封じについては大丈夫なのか?」


横に首を振ったブレイズは、長旅からか疲れた様子で退出がてら去り際に語った。


「切り落とされたトカゲの尻尾を、わざわざ踏み潰す奴はいないさ。

まあ、万が一は考えられるから、こちらでも相応の警戒はするつもりだ……」


 その言葉に安心した白山は軽く手を上げてブレイズを見送ると、自身も画像の整理や証拠物品のファイルを整理し始める。

今日一日ブレイズ達と現場での捜索に加わっていた白山は、証拠となる書類や物品についてデジカメで詳細を記録していた。


 書類は文字が判読出来るように接写し、証拠は騎士団員に指を指させて全体像や詳細を写していた。

もし貴族派から伯爵を擁護する声が上がったり何かしらの反撃があった場合、これらの証拠が役に立つだろう……



そうして港町の夜は、静かに更けていった……



*****



 翌日の昼過ぎまでに、親衛騎士団員からブレイズの報告書を受け取った白山は、封蝋を押す前に念のため、その中身も撮影し自身のファイルに入れた。

これで準備は整った。すでに荷物は高機動車に積んであり武器を積載すればいつでも出発できる状態だ。


ふと、ここ何日も作戦に集中していて息抜きをしていないことを思い出す。


 部隊では、作戦や演習が終わって整備が一段落したら、決まって打ち上げをしていたものだ……

それに今回は副官の機転にも救われたのだ。前々から彼の尽力に感謝していた白山は、ささやかながら打ち上げをしようと考える。


 リオンへ街に出る事を伝え、馬で領主館前の坂を下ると快晴の青空に太陽がきらめき港に反射している。

程なくして市場に到着した白山は、いつものストールの下に吊るした革袋の中にある金貨と銀貨の手触りを確認する。


 財務卿のトラシェから作戦の資金だと預かった大量の金貨と両替した銀貨や銅貨は、宿代と食事に使った程度で殆ど減っていない。

使用用途について尋ねたが、残金の返却も必要なく旅先で必要になったら使って構わない。と言われありがたく頂戴していたのだった……



 市場で野菜や肉そして港町ならではの新鮮な魚介類をあるだけ買い領主館に届けるように頼んだ。

次に雑貨屋に走りこみ鉄串や炭を買い込むと、その足でクローシュ商会に出向き装備を運んでくれた礼と大量の酒を購入した。


 ふと思い出した白山は、この世界に召喚されて初めてクローシュに飲ませてもらったワインを思い出し、支店長にそれを尋ねる。

なんでもこの近くの村の特産らしく、比較的上質なワインを数本購入すると、買った商品の搬入を依頼し代金を支払う。


 領主館へ取って返した白山は、伯爵家の執事であるフォウルを見つけると打ち上げの内容を伝えて協力を依頼した。

伯爵家の使用人達は、本来であればすでに離散させられている所だが、領主館の機能維持と騎士団の世話のためにまだ屋敷に留まっていた。


 すぐに頷いて了承してくれたフォウルは、白山の指示で庭先にテーブルや篝火の準備を始めてくれた。

運び込まれた食材や酒は調理場に持ち込まれ下拵えを領主館の調理人が引き受けてくれる。


 そんな様子を眺めていた白山は、ふとこの家の使用人達の行く末について気になりフォウルに尋ねた。


少し苦笑した様子で、ゆっくりとフォウルが答える……


「残念ながら、騎士団の皆様が引き上げられた後は職を探さねばならないでしょうな……

生家や実家があれば、そこに戻る者もいるでしょうが、それ以外は行く宛などないでしょう。

取り潰しになった貴族の使用人を拾ってくださる奇特な方は、いらっしゃらないでしょうし」


 少しさみしそうな表情で、準備の作業を見つめるフォウルは自嘲気味にそう答える。

ブレイズの話では伯爵の私有財産は王家が没収、領主館はこれから着任するであろう臨時代官に接収されるとの事だった。

臨時代官は、貴族から選出されるので自前の使用人を領地なり屋敷から連れてくる。


文字通り、使用人達は体一つで放り出される事になるのだ……


 それを聞いた白山は、懐から数枚の金貨を取り出すとフォウルに押し付ける。

驚いた表情を浮かべるフォウルに、白山は使用人で分けろと伝えると黙って目を閉じたフォウルは深々と頭を下げた……


 自身の作戦の結果とはいえ、使用人の生活を壊してしまった責任を感じていた白山は、下げられた頭にやや戸惑いを覚えながらも頭を上げてくれとフォウルに伝える。

ある程度準備が整ってきたのを見て取った白山は、気恥ずかしさもあってブレイズに打ち上げの話を伝えに行こうと、領主館の中へ足を向けた。

去り際に、白山はフォウルに声をかける。


「そうだ、ワイン一樽と食材を使用人のみんなの分を残しておいてくれ……

先立つ物も大切だが、これまで一緒に頑張ってきた仲間と最後に一杯やってくれ」


その言葉に、フォウルは白山の姿が見えなくなるまで再度頭を下げて見送った……



 ブレイズへあてがわれた部屋に本人を尋ねると、あいにくと港湾倉庫に出向いており不在だった。

しかし、サプライズにはちょうどいいだろう……


 部屋に居た副官を捕まえると、今夜の話を伝える。

彼は、親衛騎士団とバルム領の騎士団員の分も打ち上げ費用を白山が出した事を恐縮していたが、素直に感謝を述べてくれた。

これまでの支援に感謝すると副官に伝えると、乾いた笑みを浮かべながら答える。


「ホワイト様に仕えていれば、私ももう少し楽が出来たのではないかと思いますが、ブレイズ様は誰かがケツを叩かないといけませんしね……」


 その言葉に笑いあった2人は、倉庫に出向いているブレイズが帰り次第、打ち上げを始めようと話をして別れた。

早速副官は見張りの順番や警備の人員をやりくりすると言っていた……


*****


 野外で開催されたバーベキューは、兵士達にも好評だった。

即席の炉に使われたのは、白山が撃ち倒した鉄門を利用してこしらえられていた。


 帰還したブレイズは、庭に設えられた会場に怪訝そうな顔を浮かべるが、白山が歩み寄り事の次第を伝えると即座に破顔する。

さっさと部屋に戻り鎧を脱ぎ捨てたブレイズは、身支度もそこそに庭に飛び出してきた。


 他の騎士達もそんな隊長の様子に半ば呆れながらも、いい匂いを漂わせる庭へ集まりだす。


 騎士団員が見張りや当番で不平が出ないよう、副官の取り計らいで今夜の見張りには今夜の食事に肉と、後日銀貨が支給されると伝えていた。

ブレイズが木箱の上に立ち大声で慰労会の開催を告げる。


 そしてこの企画を考えた白山に挨拶するように促した……

白山は固辞したが背中を叩かれながら、木箱に登らされ乾杯の音頭を取る。


「今日は港町での任務が成功裏に終わった事を記念し、皆の慰労のために食事を準備した。

明日以降も任務は続くが、今だけはゆっくりと疲れを癒してくれ!」


短い挨拶とともにエールの入ったコップを掲げた白山に、兵士達の歓声で答える……



 その晩は任務中の素食とは比較にならない豪勢な食事と酒に、大いに盛り上がっていった…………




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