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籠城と破裂音と

遅くなりましたが投稿します。

昨夜は出張の疲れで死んだように寝てました……



「耳をふさげ!」


 鋭く発した白山の声は、リオンに向けて注意を促す。

門は大きな蝶番で門柱に固定されており、照準器でおおまかに狙いを定めた白山は、迷わず引き金を引いた。


『タタターッン タタターッン タタターッン』


 強烈な破裂音と共に、7.62mmの経を持つ凶悪な破壊力を持つ弾丸が門柱の側面に集中し、その表面をえぐり取る。

同時に門に当たった弾丸が火花を散らし周囲にはじけ飛んだ。


上部の蝶番がえぐれ、門の片側が軋みながら傾いてゆく。


『タタタン タタタン タタターッン』


 次の規制射は、門の奥に遮蔽物として立て掛けられている荷馬車の床板に銃弾の雨を降らせる。

瞬く間にボロボロになった荷馬車は、バキバキと音を立てて崩れ落ちた。

100発のリンクが短くなる頃にはボロボロになった荷馬車付近からは、抵抗の気配は消え去っていた。


 騎士団の兵士達は馬を御しながらも、視線は白山に釘付けとなっている……

ざっと庭の内部を見回した白山は、動く者や抵抗の気配がない事を確認する。

見たところ脅威は存在しないようだ。


 後ろのリオンにM240を預けると、自身のM4を手に取り門に向けて小走りで接近する。

ピッタリと壁に身を寄せて油断なく門に近づく白山は、半円を描くように門をゆっくりとチェックする。

数人の弓を持っていた伯爵の私兵が数人程横たわり、苦悶のうめき声を上げていた。


 一瞥して、私兵連中が脅威でないと判断した白山は、左手を大きく振り後続の騎士団を呼び寄せた。




 門と塀の境を遮蔽物としてM4を構え、領主館の窓を調べるが窓から矢を射掛けるような兆候は見られない……

それでも用心のために発煙手榴弾をチェストリグから取り出した白山は、風向きを考えて思い切り投擲する。


 程なくして白煙が領主館の庭に充満し、その様子を見てからちぎれかけた門を押し開くと白山は玄関に向けて走りこんだ。

3階建てでコの字型をした建物を目指し、中程まで庭を突っ切った辺りで不意に矢が飛来する。

一瞬、2階の窓から何かが光ったように感じ、その方向を見ると細長い矢が、一直線に白山に向かってくる。


 咄嗟に体を横に倒しながら、前転するように転がった白山の頬を矢が掠める。

飛来方向に銃口を向けその窓に向かって3発の銃弾を撃ち込んだ白山は、領主館の右翼の張り出しに走りこみ、横方向の射界を限定させた。

2階からの矢の飛来は1本のみで沈黙したが、まだ距離がある正面玄関にたどり着くには150m程、走る必要がある。


 正面玄関だけが侵入口ではないと思い直すと、M4のストックで少し歪みのある窓ガラスを叩き割り、鍵を開け1階の部屋に侵入する。

部屋の中は応接室の様な作りで、室内は無人だった……


 部屋の窓から外を見ると、騎馬にまたがる騎士団員達が門を除去し盾を片手に庭へ侵入しようとしている最中だった。

彼らと連携するためにも、早く正面玄関を開放する必要がある。

白山は静かにドアを開けスッと廊下を覗きこみ、脅威が存在しないかを確認し、スルリと廊下に踊り出た。


 廊下は、無人だったがメイドが仕事の途中だったのだろう。木製のバケツと雑巾が転がっていた。

周囲の安全を確認した白山は、真っ直ぐに中央部分に向けて歩き出す。

足の長い絨毯のおかげで、普段から小さな足音が殆ど発生しない。

好都合とばかりに走らない程度まで歩くスピードを上げた白山は、廊下の曲がり角にすぐに到達する。

ヒザをつきながらチラリと角の様子を伺うと、テーブルや調度品を使い正面玄関にはバリケードが築かれていた。

どうやら、私兵達は徹底的に抗戦するようだ……


 バリケードの左右に4名ずつの私服姿の男達が、抜身の剣を持ち息を潜めている。

玄関を突破した騎士団員達を待ち構えるつもりだろう。


 しかし、そうはいかない。白山はチェストリグからスタングレネードを取り出すと、ピンを抜き玄関に向けてアンダースローで投擲した。


 すぐに背を向けて視覚と聴覚を保護しながら1.5秒を待つ。

レバーが外れて放物線を描く円筒形の物体は、着地と同時に大音量と閃光をまき散らし、空気が震えた。

白山は、1発目が破裂すると同時に飛び出し近場に居る4名に2発づつ、計8発を流れるように撃ち込む。

多段式のスタングレネードは、なおも轟音と閃光をまき散らす。

距離を詰めた白山は、そのまま扉の反対側に位置する4人にも同様に銃弾を浴びせた。


 スタングレネードの最後の炸裂音と白山の銃声が重なり、一瞬玄関ホールは静寂に包まれた。

火薬が破裂した薄い煙が立ちこめる中、銃を向けて無力化した人間をチェックする。

男達は胴体中央を撃ちぬかれ、血だまりの中で息絶えていた。


 続いて白山は玄関ホールの周囲に眼を走らせるが、階段の踊り場や廊下の反対側に目立った動きはない。

素早くバリケードを撤去して、玄関の鍵を開放すると叫んだ。


「ホワイトだ! 玄関を開けるぞ!」


 騎士団員に斬りかかられては面倒になる。同士討ちは絶対に避けなければならない。

ゆっくりと玄関を開けた白山は、先程のスタングレネードの炸裂音を間近で聞いたらしく及び腰になっている騎士団員を見て頷く。


「玄関ホールは制圧した。これから上を調べる!

隠し通路や脱出路を探してくれ!

手向かう者には容赦するな。ただし、使用人や無抵抗の人間には危害を加えるなよ。」


 そう告げた白山は、玄関ホールに殺到してくる騎士達を背後に階段に向けて動き出す。

白山の予感が正しければ、支援もなく孤立した状況において籠城を選択した伯爵の意図は、逃亡の時間稼ぎだろう。

領主館の裏手には、別働隊を向かわせたが脱出路が何処に通じているか分からない。


早急にここを制圧して、後を追いかけなければならない。


 銃口を階上に向け、足早に白山は階段を斜めに登る。角度を使って死角を減らしつつ2階に到達する。

廊下は無人だったが、2階の右手にはホールがあり、普段は社交場として賑わうのだろう。

しかし、その扉を開けて後ろに下がった白山は、集められた使用人達が身を寄せ合って、怯えているのを発見する……



白山は銃口を地面に向け、少し離れた位置から一団に話しかけた。


「私は、王家軍相談役を任されているホワイトという者だ!

バルム領の不正に関して、伯爵殿を王都へお連れしろと命を受けて来ている。

この中で、伯爵殿の行方についてなにか知っている者はいるか!」



 すると初老の執事風の男が進み出て、丁寧な様子で腰を折った。

大きなホールの入口から少し距離をとった白山は、その場で止まるように手で示すとゆっくりと接近した。


「伯爵家にて執事を務めさせて頂いておりました。執事のフォウルと申します」


ゆっくりと頭を上げた執事のフォウルは、白山の問に動じた様子もなく答え始めた。


「マクナスト様は館の家人にお暇を与えられ、3階の自室に篭もられました。

ご家族も同じ部屋にいらっしゃるご様子です……」


 執事のその言葉は、諦観とも悲しみとも取れる深い憂いを含んでおり、現状を理解しているのだろう……


 その言葉に頷いた白山は、ここを動かないようにと執事に伝えると、フォウルは黙って頷いた。


 踵を返しホールを出ると、1階の探索を終えた副官が騎士達を率いて階段を登ってくる所だった。


「家人がホールに集まっている。見張りを立ててくれ。手出しや拘束は無用だ!」


 手を上げて答えた副官は、矢継ぎ早に指示を出し2階を調べさせる。

白山は副官に近づくとフォウルからの言葉を伝え、自分は3階に向かうことを伝えると、自分も同行すると言う。

その言葉を聞いた白山は、自分が先頭を進むと言い階段に向けて歩き始める。


 残りが少なくなった弾倉を新しい物に変えながら、廊下を進むと3階から何か指示をする声が聞こえてくる。

白山は階段に足をかけた所で副官に手で止まれと合図を出し、ゆっくりと階段を登る。


 踊り場に到達し3階の様子を伺うと、右手のほうに人の気配を感じる。

方向的には海に面している方向だ。領主の部屋としては海に面しているのだろう。


 副官に手で指示を出す。踊り場を指さしてから手招きをすると人差し指を唇に当て、静かにここまで来るように指示する。

踊り場から左右に分かれて3階につながっている階段を、海側とは距離のある左手から静かに登り始めた。

階段の最後の段に到達した白山は、地面に顔をつけるぐらいの低さから、素早く片目だけを右側の廊下に向けて確認する。


そこにはテーブルを盾にして、槍や剣で武装している4人の男を確認する。



 迷わずスタングレネードを取り出した白山は、左手でそれを保持する。

踊り場に到達した副官に耳を塞ぐように手振りで指示すると掌側にレバーを向け、小銃のグリップを握っている小指でピンを抜く。


力を抜き腕を振りぬいて、スタングレネードを投擲する。

絨毯が敷かれた床に跳ね返り、鈍い音が響いてからすぐに聞き慣れた破裂音が圧力となって白山に届く。


直後、階段を蹴って飛び出した白山は、素早く4人の男達に銃弾を浴びせる。


パパパン パパン パパパンと、異なる音が連続して鳴り響くと、あっという間に男達が崩れ落ちた……


 フッと短く息を吐きだした白山は、首を巡らせて周囲を確認し、脅威の有無を確かめると「続け!」と短く後方に告げ、男達が守っていた廊下の向こうに足早に向かう。



 絶命している男達の手から槍や剣を足で蹴り飛ばすと、静かに扉のノブに手を掛ける。

鍵がかかっていて、固い手応えが帰ってくる。


「扉から離れろ!」


 語気強く叫んだ白山は、斜めにドアノブへ3発の銃弾を撃ち込むと、正面に回り重厚なドアを蹴り開けた。

その部屋は、他の部屋から見ても贅を凝らした調度品が多く、ひと目で他の部屋とは違う豪華さだった。


 しかし、内部から人の気配がしない……

素早く検索した白山は、無人であることを確認すると、短く舌打ちをして周囲をつぶさに観察し始める。


 そこに副官が騎士団員を伴って現れた。

室内の状況を見た副官は、すぐに指示を出すと自身も室内を検索し始めた。



*****



 カツカツと息を切らしながら、石造りの階段を降りるマクナスト伯爵は心中で毒づいていた。

もっと余裕を持って亡命を果たすはずが、最低限の身の回りのものを持つので精一杯になってしまった。


 玄関前に運ばせた財貨は、諦めなければならない。

かなりの財宝だったのだが命には替えられないと、後ろ髪を引かれながらも足を運ぶ。


 しかし、今回の捕縛を実行しているのは誰だと思案する。

ブレイズは軍人として切れ者だが、ここまで素早い策を行うタイプではない。

どちらかと言えば実直で正攻法を好む男だったと記憶している。


 噂を御用商人が運んできて、準備を始めたのが夕方だったが、それを見ていたかの如く手を打ってくる。

監視を受けていた様子もないし、騎士団や自警団からも怪しい人間を見ているとの報告はなかった……


 皇国から送られてきた密偵は中々に優秀だった。

これまでは王都への告発を企んでいた人間を消したり、敵対する国王派の貴族の情報をもたらす事もあった。

だが王の襲撃以来、王都に向かうと言ったきり姿を見せない。肝心な所で役に立たない……


 マクナスト伯爵は知らなかった……

白山に王都でけしかけた襲撃者はその密偵による仕業で、その脅威を報告しに皇国へ戻っている事を……



 伯爵の後ろには、ドレスの裾を汚しながら婦人と娘が、不安げな表情で歩く。

いざという場合に備えてこの地下通路を掘らせたのは正解だったと、思いながら伯爵は階段を下って行く。


 この通路は領主館の下にある空き家につながっている。

先に船を出させて夜が更けてから小舟で乗り移れば、まだ逃げられる……

伯爵はそう余裕を持っていた。


 しかし、その余裕は上部から響いてきた大きな破裂音と、響く地響きで脆くも崩れ去っていった……



*****



 白山達が書棚に隠された隠し通路の入口を発見したのは、部屋に突入してから間もなくだった。

だが、その厚い鉄製の扉は大柄な騎士団員が体当たりをしてもビクともしない。

そしてノブや取っ手のたぐいは何も無く、石組みの枠へ強固に据え付けられていた……



 ガンガンと、白山はナイフの柄で扉の厚さと構造を調べる。

騎士団員達全員を部屋から退出させると、背中のハイドレーション(背負式水筒)のポケットから幾つかの荷物を取り出した。


 おおよそ厚さや構造を把握した白山は、粘土状の物体を取り出す……

ある程度の大きさに成形したそれを、扉に貼り付けるとプラスチック製ケースから細い銀色の棒を抜き出す。


さらにホルダーに巻きつけられた、ケーブルを伸ばしていった。


 素早く粘土状の物体を扉に貼り付けてから、ケーブルを部屋の外まで導くと戻って慎重に銀色の棒に接続する。

粘土に金属棒を差し込むと、各部の接続を入念に確認しながら、扉の外まで下がってゆく……

最後に大型のホチキスの様な物体にケーブルを差し込んだ……


 C4は、すでに設置が完了している。

その光景を不思議そうに見ていた騎士団員達に、耳をふさいで軽く口を開いていろと伝え、さらに後ろへ下がらせる。


「爆破するぞ!」


 爆風が通り抜ける箇所から外れるため、廊下に設けられている調度品を収める凹みに身を入れた白山は、通電を確認してからスイッチを押し込んだ。



 これまでより圧倒的に大きな爆発音が響き、館が大きく揺れる。

部屋の扉が爆風で押し開かれ内部の窓ガラスが外に向けて飛散していった……


後ろの騎士団員は、半分以上が耳をふさいだ状態でへたり込んでいる。


 すでに夕日が沈み、辺りは暗くなりつつある。

軽く埃を払い銃を構え直すと、爆破結果を確認しに部屋の中へ入って行った…………

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