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監視と急展開と

物語が単調になってきたので少しペースを早めました。

ただ、整合性に難があるかもしれませんので

後日、見直すかもしれません。


DAY-3


 観測所での動きは、休息と監視の繰り返しになる。

単調なそのサイクルをこなすには、忍耐力が最も必要な要素だ。


 カメラやモノキュラー(単眼鏡)の具合を確認した白山は、最初の監視を引き受けるとリオンに休むように命じた。


 本来であれば観測所(OP)での任務は、親衛騎士団から誰かを借りようかと思っていた。

女性であるリオンには向かない任務であることが分かっていた白山は、その旨をリオンに伝えた。

しかし、影としてこれまで監視を多く手がけているリオンが、自分を使ってくれと主張して事前訓練の間に1昼夜の監視訓練を行ったのだ。


 これで納得してもらえればと思ったが、予想に反してリオンは平然と監視任務をこなし白山を驚かせた。


 偵察や監視任務では、ひと度OPに潜ればそこから出るのは夜間の短い休憩か、撤収の際以外はずっとそのままとなる。

当然、小用やその他 生理現象も穴の中で済ませる必要がある。

しかしリオンは、夜のほんの少しの休息の際に穴を出た以外、平然と1昼夜穴の中に潜んで見せて白山は考えを改めざるを得なかった。


 むしろ、年頃の少女の横で自分がポリタンクに用を足せるかが、心配になったぐらいだった……



DAY-4


 観測所での動きは最小限で、手元には武器、水筒とメモ帳、無線機そしてチョコバーとカロリーバーがあるだけだ。

メモ帳の見開きには、観測口から見える館の様子がスケッチされていて、各建造物や出入口や窓に番号が振ってある。

これで、情報を共有して観測する者と撮影する者が瞬時に同じ目標を見られるようになっていた。


初日は、特に動きらしい動きは見られなかった……


 時折出入りする人間の写真を撮影し、見張りの人員が周囲を見まわる状況や時間をメモに記載してゆく。

恐らくは昨日、ブレイズ達の親衛騎士団 本隊が出発しているだろう……


 港がある街までは街道を進む事になるので、そこから船に乗る人間によって噂がもたらされるのは、早くて明日だ。

そして本隊の到着は、2日後になる。


 今夜は接近や逃走阻止の為に仕掛けを施す必要もある。

先は長い…… 体力を消耗させずにじっくりと取り組まなければいけない。


 そんな事を考えながら、白山は時折チョコバーを齧り、水筒の水を少量飲んでは監視を続けていた。

リオンと交代しながら昼の間は単調な任務を淡々とこなす。




 動きらしき事あったのは、昼の鐘が鳴ってから暫くの事だった……

馬車に乗った商人と思しき中年の男が血相を変えて領主館に入っていった。

丁度交代した白山は、慌てずにカメラでその男の顔を撮影して、何事だろうかと推移を見守っていた。




*****



 商人は慌てていた。

王都での買い付けを済ませ、港町へ戻ろうとした矢先に不穏な噂を聞きつけたからだ。


 王都の街の中は、王と鉄の勇者が鉄の馬車で帰還した話題で持ちきりとなっていた。

しかし、出入りした貴族の館で耳にした王の暗殺に関する噂があり、親衛騎士団が明日出発すると言われている。

なんでも、名目は演習で郊外に出るという事だが、暗殺の首謀者を捉えに行くのではないかとの噂が飛び交っている。


 商人は、その話を聞くと出発の予定を早めその日のうちに、港町への船に飛び乗っていた。

船の進む速度にやきもきしながらも、今日の昼に港町に到着した商人は、その足で領主館に馬車を走らせた。



「何用だ、クリートよ」


 昨夜の晩餐会で痛飲したマクナスト伯爵は、昼前に起き出し遅い午餐を摂っている最中だった。

そこに子飼いの商人が血相を変えて飛び込んできたのだ。


 やや気だるさを残しながら商人の話を物憂げに訊く伯爵は、考え込んでいた。


『王の襲撃に関わった者は、皇国から派遣された影の者でそこから私に繋がる可能性は少ないだろう……

 しかし、万が一と言う事もあるかもしれん……ここらが潮時か……』


 素早く決断を下した伯爵は、妻と息子を呼び明日から視察に出るので旅支度をするように伝える。

突然の事に家族たちは驚いていたが、早速荷物をまとめるべく部屋に戻っていった。


 皇国の国教となった新光教団に入信した伯爵は、貴族派の懐柔と王国の内部からの切り崩しを担っていたが、ここ半年は強行な指令に手を焼いていた。


 王の暗殺に関しては直接手を下した訳ではないが、水面下で支援をして武器や輸送手段を手配したのは自分と目の前にいる商人だった。

長旅になるが大型船を使えば、皇国までは問題なくたどり着ける。

いざというときに備えて、財貨も貯めこんであるし教団の幹部からの密約で亡命も問題なく通るだろう……


 そう考えた伯爵は、幾つかの命令を部下に発すると港町の風景に眼を向けた。


 執事に命じて、船の出港準備と財産を港の船に移すように指示を出し、ついで私兵の中から王都への街道に斥候を出させる。

さらに屋敷周辺の警備を固めるように命じると、部屋の中を歩きまわった……


 小さな港町だったこの街を自分が赴任してきてから、港を整備して貿易港に開発した。

貿易利益から裏金を作り、そこから王都の貴族を着実に懐柔してきた今の地位も、捨てねばならないのは癪だった。

発展当初は盗賊と裏で手を取り、最後にはその財宝を奪い取った。

あの盗賊は、かなりの財宝を蓄えていたらしく、これは屋敷へ密かに運び込み今も手元にある。


 本来であれば、もう少しほとぼりを冷ましてから換金する予定だったが、持ち出す他ないだろう。


屋敷の周辺がにわかに慌ただしく動き始めていた。


 食欲が失せたとばかりに、食事を下げさせた伯爵は苦々しくため息を吐き、椅子に深く腰掛けた……




*****



 白山は、慌ただしく動き始めた屋敷の様子を見ながら短く舌打ちをする。

思ったよりも動きが早く、屋敷の周辺は警備が固められ馬車に木箱や荷物が積み込まれている。


 その様子を撮影しながら、この後どうすべきかをめまぐるしく考えていた。

無線機に向かって副官を呼び出した白山は、動きがあった事を手短に伝える。

すぐに副官からの応答があり、教会付近で待機してもらう事にする。


 まずは、ブツを押さえる必要がある。

この場を動けない白山に変わって、副官達に動いてもらうしかない……


 そして動き出した以上、伯爵の拘束は本隊の到着を待っていたら逃げられる公算が高い。

少ない人数で如何に拘束を実施するか……


 そうしているうちに、馬車が動き出す。余程の重量なのか車軸が軋む音が響いて、ゆっくりと動き出す。

馬車が動き出したことを無線で伝えてから、リオンと監視を交代する。


監視を続けるうちに、徐々に夕暮れが迫ってきた……



 状況を打開したのは、副官からの無線連絡だった。

なんと彼は、騎士団を指揮下に置いて船を押さえると連絡してきたのだった……


 伯爵の身柄を拘束するために、合流して欲しいと伝えてきた副官は現在、騎士団の本部に居るとの事だ。

驚いた白山は、手早く自分の装備を纏めると、リオンにこの場を任せて観測所を抜けだした。


 火器と装備、そして撮影した画像が入ったタブレットを持ち足早に斜面を駆け下りた。

到着した騎士団の詰所には、副官ともう一人の親衛騎士団員が数名のバルム領騎士団員と対峙している。


「貴様、何者だ!」


走り寄ってきた白山に槍を向ける騎士団員は、語気鋭く誰何した。


しかし、その声は副官によって制される。


「槍を収めよ。そちらの方は王家相談役を務められる、鉄の勇者ホワイト殿だ!」


 その声を聞いた騎士団員はどうして良いか判らずに居たが、白山はその槍を押し上げてゆっくりと副官に近づく。


「いや、驚いた。まさか騎士団を味方につけるとは思わなかった……」



 白山は、副官に素直な感想を述べた。

すると副官は苦笑いしながらその言葉に返答する。


「いえ、ホワイト殿が綿密に作戦を組んで頂いたので、こちらもこちらで準備が出来ました」


 そう言って、一枚の書類を差し出した。

そこには王家の紋章が入った伯爵の捕縛に関する命令書だった。


副官の話では、半信半疑だったバルム領の騎士団員は、この命令書を見て指揮下に入ったとの事だ。



「では、騎士団より船を押さえる部隊と伯爵の身柄を拘束する部隊を編成して欲しい」


 半信半疑という体ではあるが命令を受けた騎士団の団長は、それでも命令を受け部隊を半分に分け出発準備を整える。

副官はもう一人の親衛騎士団員に船の押収を任せると、船を押さえる騎士団は早々に出発していった。

市場の辺りから驚きや騒ぎの声がこちらまで風にのって聞こえてくる。


自身は白山とともに伯爵の身柄に向かうとバルム領騎士団員に告げる。


そこに無線がリオンから届き、白山は副官から受け取った無線に耳を傾ける。


「ホワイト様、館に動きがあります。門が閉じられてその周辺を荷馬車で塞ぎ始めています」


「分かった。その他に何か動きがあったらすぐに知らせてくれ……」


 冷静なリオンの声を聞きながら、白山は籠城を選択した伯爵の意図を考える。

籠城を選択するには援軍か時間を稼ぐのがその目的になるが、この状況下で援軍は考えにくい。

ある程度の答えに行き当たると、白山はバルム領騎士団の団長に質問を投げかける。


「領主館に秘密の脱出経路や、裏口は存在するか?」


その答えに騎士団長は聞いたことがないと、首を横に振った……


 すぐにタブレットを出して画像情報を見た白山は、副官に数名を領主館の裏手に回すように手配する。

そして捕縛を実施すべく2人は、部隊を率いて丘の上を目指した……




 坂道を駆け上がる騎馬は、領主館の門が見える辺りで停滞を余儀なくされる。

まばらにではあるが、組織だった弓兵から射掛けられた矢に、盾を持たない騎乗の騎士団員は弓の射程から逃れるように後退せざるを得なかった。

門が閉じられている現状では騎馬の機動力を活かして突入も出来ず、盾を持った歩兵が到着するのを待たなければならない。


 それでも、たとえ盾を持った兵が来たとしても矢雨をかいくぐり、門を打ち壊して邸内に進む必要がある。


 幾人かの騎士団員が領主館から射られる矢を受けて、馬の嘶きとともに落馬する。

その光景を見た白山は、大声で叫んだ。


「下がれ! 」


 その声に反応した騎士団員は、馬を反転させ矢が飛来する中を坂を駆け下りようとするが、慌てたのか馬が前のめりに転倒する。


 土埃が舞う中白山は戸手に身を投げ出して、背中からM320(40mmグレネード)を取り出しストックを伸ばした。

サイトを起こす手間も惜しみ目測で角度を決め、HE(高性能炸薬弾)を撃ち出す。

『ポンッ』という軽い音と共に弧を描き、榴弾が門に激突する。

破裂音が鳴り響き、門が歪みその後ろに立て掛けられた荷馬車へ破片が突き刺さった。



 一拍おいて、矢の飛来が収まる。しかしまだ門は開いていない……

突入のタイミングがまだ訪れない。


 決め手を欠いたまま2発目のHEを装填しようとしている最中、上から何かが滑り落ちるような音が聞こえ白山は咄嗟に視線を上げる。

そこには、大きなバッグを抱えたリオンが、スキーのように斜面を滑り降りてくる。


 その姿を見た白山は大きく手を上げて、リオンに自身の位置を知らせる。

それを見つけたリオンも猫のように道路の端に着地すると白山の後方に走り寄ってきた。


「リオン、助かった!」


 短く答えた白山はバッグを受け取るとジッパーを開け、無骨な金属の塊を引っ張り出す。

M240(7.62mm機関銃)を地面に置き、素早く銃身を差し込み固定する。


 バッグの外側に取り付けられたポーチから100発のリンクを引っ張り出す。冷たい金属音が僅かに鳴り金色の蛇が姿を現す。

素早く給弾トレイに銃弾を合わせカバーを閉鎖する。そしてハンドルを引くと初弾を薬室に送り込んだ。


 未だ閉ざされた門を見据えた白山は、状況を打開すべく照準を定めた…………



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