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執務室と作戦準備と

次回以降はいよいよ、バルム領での作戦に移っていきます。


 会食からの数日、白山は忙しく動きまわっていた。

まずブレイズとの作戦の内容についての打ち合わせ。そしてトラシェが入札に関する詳しい話を聞きに訪れ、その話を基に草案が作成された。

同時に第1軍の改革に関する意見をまとめ、たたき台を作りその意味と効果をアトレアに伝える。

先日の兵長達の部隊をモデルにそれを実施する方向で話がまとまり、詳しい訓練方法についても時間を見て白山が指導する方針が決められる。



 そうこうしているうちに、サラトナからの伝言で白山の執務室が完成したとの使いがあり、早速出向き部屋を確認する。

そこは、先日訪れたサラトナの執務室からほど近く、王宮の中枢と言える場所だった。


 この部屋には大小の執務机と書棚、そして応接セットがありこの部屋を自由に使って良いと言われる。


 早速白山は、資料や必要な荷物を運び込み、窓辺に野外用ソーラーパネルを設置して、ラップトップをつなげ充電する。


 今後はここで仕事を進める事になる。

警備上は問題ないというが白山は追加で閂を付けてもらい、書類用のケースにつけていた現代の南京錠を取り付けた。

更に部屋の角、天井と壁の境に動体センサーとカメラを組みセットする。


王宮内にも貴族派の人間は多いため、念には念を入れなければならないだろう。



 執務室の段取りが一段落つくと、そこにノックの音と共にサラトナが現れる。

サラトナは新たな部隊の新設に係る設立名目の草案を携え、その打ち合せに訪れた。


 水面下で進められているこの話は、ごく少数の人間しか関与しておらず宰相自らが書類携えてきたのだ。


 応接セットのソファに腰を下ろした両者は、その書類について幾つか意見を述べ合い、手直しする箇所を洗い出す。

そしてその話は、設立場所や募集要項など具体的な内容に移っていった。


 白山としては、小規模な駐屯地を考えていて牧場の跡地や、ある程度の広さのある使われていない屋敷を想定していた。

すると意外な事に驚いた様子のサラトナは、それならば初期の資金が削減できると話していた。


 王の肝いりで始める事業で当然、敷地や建物は新築を考えていたサラトナはその意見を尊重し、白山の条件に合う土地を探すと言ってくれた。


「あまり大規模な施設を建設しては、貴族派からの横槍が考えられます。それに大切なのは中身ですので……」


 そうしてから、簡単な図面をメモ帳に書き留めサラトナに渡す。

そこには本部と兵舎そして各種訓練用施設に、小規模な演習が可能なように平原と森が近隣にある事が条件となっていた。


 募集の条件については、もう少し時間をかけて決定する事にした。

白山は貴族平民の区別なく人員を募集するつもりだったが、それにはまだ平民の現状を知らなすぎる。

貴族派の反発や妨害も考えられることから、白山がバルム領から帰還してから決定する方向で調整する。



 概ね内容についての話が終わった所で、不意に扉がノックされ警備の騎士から来客を告げてきた。

リオンがその兵に対応し、白山に誰が来たのかをそっと耳打ちした


「クローシュ様が面会をお申込みだそうです……」


 その言葉を聞いた白山は、サラトナに断りを入れてクローシュが来訪した事を伝える。

するとサラトナは、好都合とばかりに構わず通すように言ってくれた。


王国随一の大商人はやはり宰相とも面識があるようだ……



 程なくして白山の執務室がノックされ、そこにクローシュと意外な人物が姿を現した。

同行者は白山が命を救った元野盗のオーケンだった……



 その姿を見た白山は、無事に再会できた事を喜び「肩は大丈夫か?」と問いかけた。


 その言葉に、バツが悪そうに頬を掻いたオーケンは肩を回し問題ないことを見せる。

サラトナとクローシュが挨拶を交わしてから、白山に勧められソファに腰を下ろす。


 リオンがお茶を出しながらクローシュに先日のお礼を伝え、場が和やかな雰囲気になった。


そして、クローシュが会話を切り出した……


「まずはホワイト様、相談役就任おめでとうございます。

そして、先日オーケンも無事に王都に辿り着き、本日ご挨拶に伺った次第です。

しかしこの場にサラトナ様がいらっしゃったのは幸運でした……」


 意味ありげな視線をサラトナに向けたクローシュは、オーケンの身上を語り始めた。

その話を黙って聞いていたサラトナは、その話が本当かどうか本人に尋ねる。



オーケンは静かに、そして絞りだすように口を開く……


「私はかつてバルム領騎士団に所属していました。

ある日伯爵に密命を受け、街道を根城とする野盗とのつなぎを命ぜられたのです。

マクナスト伯爵は活動を目こぼしする見返りに、一定の上納金を求めたのです……」


 その話を興味深げに聞いていたサラトナが、いくつか質問し証言の裏を取る。

そして伯爵の捕縛後はその内容を証言するかと問いかけた。


 その問に黙って頷いたオーケンは、チラリと白山を見てからしっかりとサラトナを見据えて答える。


「私の命はホワイト様に助けられました。たとえ私が罪に問われようとも証言する覚悟です……」


 その言葉を聞いたサラトナは、腕を組んで暫し目を瞑り考え込んだ後にこう切り出した。


「その心意気や称賛に値する。私の職権を持ってそなたの罪は不問とすることを約束しよう」


 その言葉を聞いたオーケンは小さく息を吐いてから礼を述べる。

これには白山も安堵し、クローシュも幾分表情を和らげていた。


サラトナがクローシュ達が退出した後、そっと白山に告げる。


「これで確実に、マクナスト伯爵を捕縛できる……」


 肉食獣の様な凄みのある笑いを浮かべ、白山の肩に手を置くとゆっくりと部屋を後にした……



*****



 サラトナとクローシュ達が退室し一息つくと、白山はバルム領での作戦について検討を始める。

王やサラトナからの話はバルム領領主マクナスト伯爵の捕縛とだけ言われているが、更にその内容を明確にしなければ何処かに齟齬が出る可能性がある。


そこで白山は任務分析に取り掛かる。


 必成任務はバルム領領主の捕縛だ。

その為に必要になる証拠の収集が白山に課せられた任務となる……


 ここに付随任務として領主捕縛にかかる、親衛騎士団の支援が必要になるだろう。

そういった目標をしっかり定めそこから任務にかかる要件を書き出してゆく。


 証拠収集には倉庫に保管されている物品ないし、船から積み下ろされる荷物の量や内容を監視する必要がある。

しかし外部から単独で潜入し、物品の監視を行うのは容易ではない。多くの荷物から目的の物品を選定する手段が白山にはないからだ。

それならば、館に保管されている不正蓄財を運び出す様子とその隠匿場所を暴くほうが容易だろう。


この予測の反証材料を探し、その可能性を検討する。


 領主の館以外に財貨が保管されていたら……?  いや、資金や財貨はいざという時に備え手元に置きたがるだろう。


 危機を感じて財貨とともに伯爵が逃走する可能性は? それはあり得る。船で逃亡されると厄介だ……

これについては何か対策を講じる必要があるだろう。


 こうして任務の細部を検討して、それに必要になる行動や資機材についてリストアップしていった。


 昼食はリオンに頼んで軽食を運んでもらい、簡素に済ませた白山は黙々とその作業を続けた。

昼過ぎには大まかな分析が完了し、次に地形分析に移っていった。


 移動の際にバードアイで撮影した上空からの写真を港町の地理を知るリオンとともに眺め、基礎的な現地の情報とともに整理してゆく。

どこが領主の館で、そこから港までのルートや主要な通りや街道周辺の集落についても聞き取りながら写真を眺めた。



 写真で見る限り領主館は丘の中腹に立ち、正面に広い庭があるのが特徴だ。

領主の館までは街からは500mほどの一本道で、裾野の街とつながっている。


 観測に必要なアングルは、財貨を運び出すとすれば馬車が必要だろう。

館の裏には馬車が停められるスペースはないので正面を如何に見張るかが鍵になる。


 おあつらえ向きに、館を正面に見て右手に整地前の地形だろう少し小高い場所が存在し、そこなら庭全体を見渡せるかもしれない。

ただしこればかりは、現地で状況を確認しなければ最終判断は難しい。


 リオンの話によれば、太陽は海から登るという。すると方向的に午前中は逆光になるのが少し厳しい。

しかし贅沢は言えないだろう。


 次に伯爵が財貨とともに逃走する場合を考え、逃走を防止する手段が必要になる。

そこから、ブレイズ達と連携する為の日数を計算する。


 急いだ場合でバルム領までは3日の時間が必要になるが、情報が伝わるまでに1日を要するのでタイムラグは2日という所だ。

伯爵が逃走した場合、それを白山単独で拘束するのは難しいだろう。


 そうした場合、バックアップの人員が必要になる。

騎士団の人員から先行して港町に何人かを送ることは可能かブレイズと話をする必要がある。


 そうしてじっくりと任務を分析していると、そこへ噂をしたわけではないがブレイズが副官とともに現れた。

丁度いいタイミングにニヤリと笑いながらこれまでの任務の内容についてブレイズ達と話を詰める。


 その話し合いは夕方を過ぎても続けられ、食事を挟み深夜にまで及んでいった……



*****



 出発の日時は、白山が4日後 ブレイズ達の本隊が8日後に決められた。

情報を秘匿するため出発まではブレイズと副官のみに詳細を知らせ、騎士団には8日後に演習に出るとだけ伝えられる。

別働隊は副官が率いて、本隊の出発前に船でバルム領入りする事になった。


 白山の高機動車には、親衛騎士団から2名の人員を同乗させる事になった。

潜入の段階で今回の作戦で重要な役割となる高機動車による先行だが、潜入後にどうするかという問題が出た。

議論を重ねた結果、2名の騎士を同乗させ通行におけるトラブルの予防と、潜入後の車両見張りをしてもらう事で決着した。


 こうして、作戦細部の詰めが終わると翌日から早速準備が始まった。

まずは車両と使用する資機材の準備だ。


 任務のフェーズごとに行動をなぞり、使用する装備をリストアップしていて、その装備をチェックリストで漏れ無く揃える。

ブレイズやクローシュと連絡を取り、現地で必要になる擬装用の衣服や潜入の段取りを決めていった。


 今回の任務は、4つのフェーズに分かれている。

移動・潜入・観測・拘束だ。


敵地での作戦であれば、ここに離脱のフェーズが加わるが、今回は拘束までが任務となる。


 移動に必要な燃料や食料に飲料水 これらは携行糧食の数の問題もあるのでクローシュを通して保存の効く食料を準備してもらった。

飲料水に関しては、携行缶で持ち運ぶので井戸水に浄水剤を入れれば問題ないだろう。

燃料は、前回の計算から必要燃料量を割り出して予備も含めて携行する。


 これで、残量は1,000Km分程度になる。やはり残燃料が心許ない。

この世界で軽油やガソリンが調達できるとは思えないので節約しなければならないだろう……


頭の痛い問題を一時思考の隅に追いやり、白山は今回の任務に集中する。


 次は潜入だった。

白山の姿はいい意味でも悪い意味でも目立ってしまう為、潜入用に衣装を用意してもらった。

同時に、大荷物を抱えていては港町の入り口で不審に思われ、最悪の場合 拘束される可能性もある。

その為に荷物を街に運びこむ算段が必要だった。


 この問題は、クローシュが解決してくれた。

港町の北にある集落でクローシュ商会の店子に荷物を預け、現地で受け取る手段を提案してくれた。


 観測のフェーズに必要な機材は、スコップとツルハシ 2m四方の金網に擬装網、土のうが十数枚と観測用機器 そして食料と飲料水 寝具程度だ。


 最後に拘束のフェーズに頭を悩ませた。

バルム領では騎士団を100名ほど抱えておりその内40名前後が港町に常駐している。

領主の館については、オーケンから聞いた話では、侯爵の館では10名前後の騎士の他に私兵が20名程が常に控えているそうだ。

この数プラス応援の騎士団を相手にしなければならない状況を想定して、武器を選定する。


 白山の個人火器であるM4(小銃)とSIG P226(拳銃)

防護用の火器としてM240(7.62mm機関銃)とM320(40mmグレネード)を持ち込む事にした。


爆発物はクレイモアを3個とC4 そして各種手榴弾を2個持っていく。


 これらの火器と弾薬は厳重に梱包して施錠する。

施錠やハードケースに収められる物はそのように梱包するが、例外は個人火器だけだ。

M4は分解して革袋に収め、226は腰に収まる。



 フェイズごとの準備がおおよそ終わると、白山はリオンとともに事前訓練と打ち合わせを行う。

潜入の際には主と護衛では違和感があるため、兄妹にしようと白山が提案したがそこはリオンが強行に反対した……


 カバーストーリー(偽装身分)としては結局夫婦に落ち着き、出発まで終始リオンの機嫌が良かったのは気のせいではないだろう………

ご意見ご感想、お待ちしております。

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