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幕間~王女の心境

遅くなりましたが、10万PVを記念して幕間を投下させて頂きます。

って、このペースだと来月にはもう一回(100万)幕間書かなければいけないペースなのですが・・・(汗


何はさておき、間もなく連載1ヶ月です。

今後もよろしくお願い致します。

 グレースは深くため息をつきながら、古めかしい本を閉じた。

宮廷魔術師のフロンツが発見したその本には、勇者の召喚について記載されている。


 これを見たグレースは、フロンツと共に王へ進言してやっとの思いで王家の秘宝として保管されている『異界の鏡』を閲覧するチャンスを得た。

しかし留守にしている王に代わって公務をこなしているグレースは、その瞬間に立ち会うことは叶わなかったのだ。


 そして、召喚の儀式は失敗……

何処かに問題や間違いがあったのか、自らの勉学の傍ら鉄の勇者について研究してきたグレースにも問題点が見つからない。


 せめて文字だけでも判別できればと思うが、資料が少なすぎてそれすらも不可能だ。


窓際の机に頬杖をつき、長い溜息を吐くグレースは物憂げに窓の外を眺める。


「このままでは、あの薄汚いフロークと結婚させられてしまう……」


 呟いた一言は、誰に聞き咎められることもなく窓辺に消えていった。

貴族派の圧力が強くなっている現状では、グレースとバルザム軍務卿の息子フロークとの婚姻が現実になってしまう。

グレースは、それも王家に生まれた者の宿命かと諦めようと思ったが、どうしてもフロークの放蕩ぶりやその姿に生理的な嫌悪感を抱いてしまう。


 父である王にはそれとなくその旨は伝えてあり、考えておくと言ってくれたがそれでも安心は出来ない。


ふと、窓の外を見ると早馬が到着している。何か火急の知らせだろうか?



 胸騒ぎを覚えたグレースは女官を呼び、宰相であるサラトナの所へ事情を聞きに行くように申し伝えた。

旅に出て1ヶ月、そろそろ王が帰還する頃合いだが、前に届いた連絡ではあと4日ほどかかると聞いている。


暫くして戻ってきた女官は、驚くべき報告をグレースにもたらしてくれた。


「王が襲撃され、それを突然現れた鉄の勇者が助けた?そして、勇者とともに明日帰還する?」


 一瞬理解が及ばなかったが、女官の報告だけでは要領を得ない。

立ち上がったグレースは、足早に王宮を移動しサラトナの執務室に向かう。

その様子に慌てて追従する女官が「お待ちください」と叫んでいるが、グレースは構わず廊下を急ぐ。


 執務室の扉の前で少しだけ上気した呼吸と服装を軽く整え、素早く扉をノックし室内に飛び込む。



 サラトナは驚いたように執務机から視線を上げるが、その理由に思い当たり王女を招き入れた。


「珍しいですな。グレース様がその様に取り乱されるなど……」


 応接セットに移動したサラトナは、そんなグレースの様子を珍しそうに眺めながら自らもソファに腰を下ろした。


「それはどうでもよいでしょう。それよりも事の仔細を……」


 若干グレースの気迫に気圧されながらも、サラトナが1枚の羊皮紙を手にしてその内容を語り始めた。


「王の一行がフォレント城に到達する直前、何者かに襲撃を受けましたが鉄の杖を使う男が現れこれを撃退した。

王は無事であり、その功績を認めホワイトと名乗るその男を鉄の勇者として認められた。


フォレント城に到着後も刺客の襲撃が発生したが、再び鉄の勇者がそれを退けた。

しかし、事態を重く見た王は勇者の御する馬車で一足先に王都に明日帰還するとの事です……」


 その内容が俄には信じられないグレースは、羊皮紙を渡されそれに目を通すと何度も見なおした。

そしてサラトナに視線を移す。


「この内容は本当でしょうか?どうにも信じられません……」


 普段の華が咲くような表情とは異なる施政者の一面をのぞかせ、サラトナに質問するグレースは訝しげな物を見るように羊皮紙を見る。

しかし、そこには親衛騎士団長であるブレイズのサインが書かれており、封蝋は王家のそれで間違いはない……


「正直私も信じられませんが、こうして早馬での先触れが届いたという事は、明日には王が帰還されるとなります。

そこで何かしら新しい情報が得られると思われます」



「城としての対応は如何なさるのですか?」


 端正な顔に細い指を少し当てながら、対応について聞いたグレースの脳裏には別の疑念が渦巻いていた。

それは、あまりに出来過ぎではないか?という事だった。

襲撃を撃退した手際についても申し合わせたように鮮やか過ぎる、そして刺客の始末についてもだ……

鉄の杖がどういった物かはまだ見ていないが、貴族派や他国からの間者である可能性も否定出来ない。


 しかし、王も切れ者と言われるブレイズですら彼の者を鉄の勇者と認めていると、この早馬の文は伝えている。


 その後、簡単に出迎えなどを話してグレースはサラトナの執務室を後にした。

後宮の自室に戻ったグレースは出されたお茶にも手を付けず、羊皮紙の内容についてじっくりと考えている。

本来であれば宮廷魔術師のフロンツにも話をして相談すべきだろうが、異界の鏡の件で謹慎を言い渡されていた。


 フロンツの話では、勇者の召喚は失敗だった。

それが何故突然、王の前に現れ共に王都に帰還する事になっているのか……

そしてその鉄の勇者は本物なのか……


 伝承や本に描かれた勇者の姿を思い出しながら、グレースはいつしか疑念ではなく現れた勇者を名乗る男の姿を想像していた。


ふと気づいた時には夕日が傾いており、お茶はすっかりと冷たくなっていた………



*****



 翌日、王を迎えるため昼過ぎに親衛騎士団の騎士が王都の街道に向けて出立した。

城の中では、王の出迎えに向けてあれこれと準備が進んでいる。


 そんな中、グレースはいつもよりすこし控えめなドレスを選び、女官にこう告げた。


「本日の出迎えでは、王女としての出迎えではなく陪臣に紛れ、勇者と名乗る者の姿を確かめます」


 当然、女官からは反対が起こるが頑として聞き入れないグレースの態度に、渋々といった表情でそれを認める。



 グレースは、ソワソワと落ち着かない気持ちだったが、自分が何故落ち着かないのか分からなかった。

時刻は夕刻にさしかかろうかという頃、低い不思議な音と共に複数の蹄の音が聞こえてくる。

すぐに玄関へ動いたグレースは、腰を折る陪臣や貴族を直らせ自分もその列に加わった。


 貴族の中には何故此処に?と不思議に思う者も居たが、そのうちに正面の正門が開かれ先導の騎士が馬の首を汗で光らせながら飛び込んでくる。


 そして、低い唸り声の様な音と何かが小石を踏みつける音が聞こえてくる。

ヘッドライトの光とエンジン音が鳴り響き、迷彩色に塗られた高機動車がその威容を示しながら進み、ゆっくりと玄関前で停車した。


 グレースは、その姿に息を呑み目を見開いた。

どこにも馬らしき姿もなく、王族として珍しい物を数多見てきたグレースもその姿は初めて見た。

そして更に驚いたのは、その中に父であるレイスラット王が乗り込んでいた事だった……


 その鉄の馬車から降り立った王は、僅かに隣に乗っていた男と頷き合うと玄関前のステップで出迎えの陪臣を前に高らかに宣言する。



「此度の会談は、実に実り多き物であった! 特に・・・!」


 王はそこで話を切ると、先程まで隣に乗っていた男を呼び寄せてこう宣言した。


「鉄の勇者と共に無事帰還できた事を喜ばしく思う。 出迎え大儀であった!」



 まだら模様の見慣れない服に、布とも鎧とも付かない格好そして細身ながら鍛えられた体躯……

その手には、鉄の杖らしき短い棒を握っている。


『これが鉄の勇者様なの……?」


 グレースはその容姿や風貌を凝視しながら、これまで感じた事のない感情を胸に感じていた。

もう少し見てみたい。声をかけてみたい。そう思いながらも女官に促され接見の間に誘われる。


 接見の間で行われた陪臣からの帰還の挨拶の間、グレースは心ここにあらずだった。


 本当にあの男が、伝説の鉄の勇者なのだろうか?


  どんな力を持っているのか……?


    危機にあるこの国に希望をもたらす存在なのか…… そして自分にも……



 気もそぞろに挨拶が終わり、王は長旅の疲れを癒やす為に後宮の自室へと戻る。


 グレースは早速、王の私室へ向かう。

直接見聞きして、鉄の勇者として宣言した父上から話を聞ければ、朧気な想像の輪郭がハッキリするのではないか。

やや緊張気味に扉をノックしたグレースは、久しぶりに聞く父の声に逸る気持ちを抑えつつ、その部屋に入る。


「父上、ご帰還おめでとうございます。そしてお疲れ様でした」


 優雅に頭を下げたグレースに眼を細め、ニッコリと笑い手招きした王は、久しぶりの家族水入らずの時間に肩の力を抜いた。


「父上、先程の鉄の馬車……それに、鉄の勇者の話は本当なのですか?」


 勇者の伝承や伝説について調べている娘の事を思い起こした王は、その時の様子を仔細に聞かせる。

その様子はいつもの威厳のある王ではなく、優しい父の顔であった。

その父が少し興奮気味に勇者について語り、グレースも食い入るように話を聞いている。


 長い旅路の土産話も勇者の話題に勝てず、久しぶりの団欒は勇者の話が中心だった。


ひとしきり話し終えた所でグレースが切り出す。



「勇者様……ホワイト様にご挨拶に伺いたいのですが、宜しいでしょうか?」


少し考えた様子だった王は、一呼吸置いてグレースに告げる。


「良いだろう。グレース、ホワイト様にこの国の事や勇者の伝承に関わる事柄を教えて差し上げなさい。」



 その言葉にパッと表情を明るくしたグレースは王に感謝すると、部屋を後にする。

いそいそと女官と共に着替えて白山の居る客間に急いだ。


 高揚感にも似たこの気持は何だろうと思うが、一呼吸してからゆっくりと部屋の扉をノックする。


「どうぞ……」


 王宮のメイドとも異なるその女の声に若干戸惑ったが、グレースは優雅な仕草でドアを開け勇者の姿を探す。

しかし、先ほどの声の主だろうか?

ソファに座った小柄な少女以外に見当たらない……


 留守かと訝るグレースに、リオンが僅かに体を反らして何かを語りかけている。

その様子に応接セットへ近づいたグレースは、とたんに状況を理解した。


 ゆっくりと頭を下げ、状況を手振りで示したリオンにグレースは頷き対面のソファに腰を下ろす。


 膝枕で気持よさそうに眠る白山の表情は、とても勇者には見えない。

だが、この心のモヤモヤした感情は何だろう……


 白山の寝顔を見つめるグレースは、優しく穏やかな気持を感じる一方で、勇者に膝枕をするリオンを羨ましくも感じていた。

なぜその場で膝枕をしているのは自分ではないのかと……


 不意にグレースと白山の目が合う。

グレースは心拍が一瞬跳ね上がった気がしてドキリとする。

白山の視線は、心の奥に刺さるような鋭くも深淵を見つめるような深さだった。



 目を覚ました白山は、起き上がろうとしてその肩を押さえつけられ立てずにもがいている。

その様子が微笑ましく、そしてリオンの仕草に女としての独占欲を感じ、少しだけ胸が苦しかった。


 白山がようやく起き上がった時、リオンに向けられた笑顔を見た瞬間、胸の苦しみがハッキリと感じられた。

居住まいを正しバツが悪そうに挨拶する白山へ、柔らかい笑みを向け挨拶を返すグレース。


その胸が何故高鳴るのか、それが判るのはもう少し先の事だった………



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