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打ち合わせと個人的な相談と

やっと、軍の設立に目処が立ちましたね。


 白山の孤立無援状態に気づいたのか、グレースが助け舟を出す。

もっともこの助け舟は、籠絡の手段とも言えなくはないが……


「ホワイト様がお困りの様子ですわ。 この話題は、このくらいにしましょうか」


 蠱惑的な表情で白山を見つめながらそんな事を話すグレースに、退路はどこだと白山は必死に考えていた……


食事も終わりお茶が供されると、ゆっくりと王が切り出した。


「さて、グレースよ。此処から先の話は少し生臭くなる。そろそろ休みなさい……」


 そう言った王は、給仕に蒸留酒を受け取りながら少しだけ真剣な表情になる。

しかしその顔には、血なまぐさい事案から娘を遠ざける、父親の顔も覗かせていた。



 これから話す内容に気づいているのかいないのか、表情を崩さず洗練された仕草でグレースは席を立つ。


「そうですわね。それでは私は読書でもさせて頂きますわ」


 ニッコリと参加者に会釈をして退席するグレースを見つめながら、白山は反論や予防線を張る間もなく会話が終了したことに頭を痛める。

だがこれからの話について、無理やり頭を切り替える。


 パタリと扉が締まり一瞬の静寂が食堂を支配した。

いつの間にか給仕達も姿を消し、少し張り詰めた空気が流れる。

その静寂を崩したのは、レイスラット王だった……


「バルム領の件についての進捗はどうだ?」


 宰相であるサラトナへ静かに訊く王は、先程までの父親の顔から冷徹な王の顔に切り替わっている。


「商人組合から提出された嘆願書と資料はすでに、精査が済んでおります。

もう一手欲しい所ですがあの資料でも押し切ることは可能でしょう。


問題は現場での証拠を押さえる点ですな……」



 サラトナは証拠については問題ないと言ったが、ネックとなるのはバルム領と王都の距離だった。

馬を使って急いでも3日、通常なら4日かかるのが問題となる。

出立を察知された場合、船だと1昼夜と少しで到達されるので、到着までに証拠の隠滅を図られる恐れがある。

その点については、船を使うか行き先を偽装して対処するしかない。


 財務卿であるトラシェの見積もりでは、バルム領で不正に蓄財されている財貨は軍の1個軍団を1年は賄える額になると言う。

結構な額だった。


 こうして話し合うことで問題点が収束してきた。

やはり最終的には証拠を押さえる点と軍勢の出発についてが最終的な問題点として残る。

証拠としては、船の積荷が集められる倉庫の物品と書類との突き合わせが必要となり、抜き打ちの要素が重要になる。


これには、やはり人手が必要になる。


そこで王から白山に話題が振られた。


「ふむ…… ホワイト殿、この点について何か妙案は考えられるかな?」


その言葉を聞いた白山は、暫し考えてから切り出した。


「証拠の証明には積荷の確認作業が必要となりますが、逆に考えてみては如何でしょう?」


その言葉に、王は聞き返した。


「逆に考えるとは、どういう事かね?」


白山は落ち着いた様子で、その言葉に答える。


「今回の作戦はバルム領での不正を暴く事が目的であり、手段は問題ではないと言う事です。

ならば逆に相手の証拠隠滅を逆手に取る事も、ひとつの手ではないかと……」


白山は目的と手段がすり替わっている事を暗に伝え、自分の考えを伝える。


「この作戦には私も参加する事になっているので、私が車で密かに先行しようと考えています。

そして先に港町を観察し、相手の動きを待ち相手が証拠を隠そうとする動きを確認するのはどうでしょうか?」



その言葉に一同が驚き、そしてその有効性をすぐに理解した。


「なるほど…… 軍勢の動きはそのままに、それを囮にして証拠をおびき出すと……」


 サラトナが凄みのある笑みを浮かべ王に向けて頷いてみせる。

どうやらこの提案は認められたようだ。


「よし、ではホワイト殿その内容でブレイズと打ち合わせをしてもらえるかな?」


 その言葉に頷いた白山にとって、この手の作戦はお手の物だった。

あとは作戦細部と装備、そして現地の情報について考える必要がある。




 頭の中にメモをとった白山は、タイミングを見計らって自身の話を切り出した。


「陛下、僭越ながら幾つかお願いしたい事がございます。お聞き届け願えますでしょうか?」


 意を決したように話し始めた白山に、王は幾分表情を和らげゆっくりと頷いた。


「ホワイト殿、それほど固くなる必要はない。何か望みがあるのかね?」


そう言われ、少し楽になった白山は先程サラトナと食事の前に話した内容を王に語った。


「まずは1点、アトレア殿とはある程度話を詰めていますが軍の改革について、まずは第1軍を手本として進めたいと思っています。

ただし、貴族派からの反発や横槍が予想されます。私もできうる限りの努力をするつもりですが、この改革が頓挫した場合……


次の国外からの侵攻に対しての、対抗はかなり難しいと言わざるを得ません」


 軍を統括するバルザムの協力が得られていない以上、軍の改革は困難が予想される。

そして現状のままでは、外国からの脅威に対して立ち向かうのは難しいだろう。

その言葉に王は、難しい顔を浮かべながら考え込んだ……


「その点については儂からも便宜を図るつもりだ。しかし反発を完全に抑える事は難しいだろうな……」


 その言葉を聞いた白山は、発言力だけが強い貴族に対して苛立ちを覚えるがそれを態度には出さず言葉を継ぐ。


「ご配慮感謝致します。ただ、第1軍のみを矢面に立たせるのは忍びなく代案について検討しております」


その言葉を聞いた王は、ピクリと眉を上げ続きを促す。


「対案とは、新たな軍を創設する事です。

親衛騎士団隷下ないしは、王直轄として小規模の軍を設立し貴族の介入を排除しながら各種の能力を磨かせ、それを各軍に教授する方法を考えています」



その言葉を聞いた王は、その内容を吟味し各種の質問を3人に投げかける。


「確かにそれであれば、第1軍への風当たりは弱まるだろうが反発の矛先はその新しい部隊に向くのではないか?」


白山はその問いに答える。


「その為に名目を戦術と装備の研究として、王の直轄としようと思っています。

名目上、親衛騎士団は王の直轄軍ですので、新設の部隊を軍の配下にすれば貴族の影響は免れませんし、親衛騎士団への技術供与が困難になる。

それを口実に、新たな戦術や装備は陛下から賜る形をとれば、幾分風当たりが弱まるかと考えております。」


その言葉に頷いた王は、サラトナを向き意見を求める。


「私としても問題はありません。ホワイト殿からの口出しではなく王から施された物であれば表立って異論は出ないでしょう。

親衛騎士団の隷下であれば、軍務卿への断りはこちらで引き受けましょう。

後は予算ですが……」


そう言ってチラリとトラシェを見る。


「財源については、先程ホワイト殿から出た入札の原理を使えば余剰分で捻出可能でしょう。

それからバルム領での不正蓄財を初期財源に充てる事で設立に関しては問題ありません」


自信を持ってそう答えるトラシェが頼もしく見える。


その言葉を聞いた王は、頷きそれぞれに指示を出す。


「ではその線で進めてくれ。草案や見積もりについて出来る限り早急に出すように……ただし、気取られぬよう静かにな」


頷いた面々に、満足そうに笑いかけた王はもう一度白山に向き直る。


「幾つかと言っていたが、他に何かあるかね?」


 白山の意を汲み取ってくれた王のその言葉に、白山は頭を下げてからラップトップの事を話した。

宮廷魔術師のフロンツ、そして王女から聞いた話を語り、ラップトップを見せて貰えるかを正直に切り出した。


「なるほど、ただし王家の所有物を恩賞として出すには難しいだろうな。

その言葉については覚えておこう……」


 やはり、グレースとの話し合いで聞かされたように何らかの実績を積まなければ難しいとの判断だった。

これはサラトナとの話でも出ており判っていたが、希望を伝えなければ次につながらないだろうと言われ話をしてる。


 しかし、王には別の危惧があった……

万一それを渡した場合、白山が自身の世界に帰還してしまうのではないか……

そんな疑念が拭い去れない。それが王の懸念だった。



 そんな裏を知らない白山は、その言葉にうなずき次の任務について考えを巡らせている。



 話し合いの結果、白山が関わることになった事案は執務室が出来次第、そちらに回してくれるそうだ。

こうして今夜の会食は有意義な内容となり、そろそろお開きとなった。

サラトナとトラシェに続き、食堂を出た所で、王の文官が白山に声をかけてくる。


「ホワイト様、お疲れの所失礼致します。少々、お時間を宜しいでしょうか……?」


 丁寧なその態度は、政治的な駆け引きや罠をかける態度ではない。

しかし理由も告げずおいそれとついて行って良いものか、白山は返答に悩んだ。


「陛下が個人的にお話したいと仰せです……」


 白山の逡巡を察したのか、耳元で静かにそう告げた文官は表情を変えず、そして白山の返答を待たずに廊下を進み始める。

これは断れない。そう思った白山はゆっくりとした足取りで文官の後を歩いた。


 階段を登った先には、短い廊下が続いておりその途中の扉を文官はノックする。

すると滑らかに扉が開き、奥からは王自身が顔をのぞかせた。


文官の後ろで少し警戒気味だった白山も、これには驚き一瞬、目を見開いた………



「突然呼び出して済まぬな……」


 王の勧めで、ソファに腰を下ろした白山は王と差し向かいになり、突然の呼び出しの意図が掴めず困惑する。

迷っても仕方がない。ここは素直に聞くべきかと思った白山は口を開いた。


「いえ、今夜は特に何もありませんので…… 直々の、それも差し向かいでのお話とはどのようなご用件で?」


その言葉を聞いた王は、含み笑いをこぼしながら白山に語りかける。


「そう固くなるな。なに、王ともなると個人的に雑談や話ができる相手が少なくてな。

少し話し相手になってもらえんかと思ってな……」


 一瞬、寂しそうな表情を見せたかに思えた王だったが、すぐに柔和な顔で白山に視線を向ける。

そこには王としての貌ではなく、一人の人間としてのレイスラット ロン クラウスが座っている。


「それに、そなたは儂の相談役じゃろう?」


 悪戯っぽい苦笑をうかべ白山をからかった王は、蒸留酒を注ぎその琥珀色のグラスを白山に手渡した。

それを受け取った白山は、緊張していた息を吐き出して人間として向き合った。


「そういう事でしたらお付き合いしましょう」


 ニッコリと笑いグラスを掲げると、王もグラスを僅かに上げてから、それを口に運ぶ。


「異世界、いやホワイト殿がいた世界について話を聞かせてくれぬか?」


 そう切り出した王はいつもの冷徹な王の顔ではなく、お伽話をせがむ少年のような錯覚を、一瞬だけ白山の瞳に映した。

そして白山は何から話したものかと思案したが、結局は簡単な地球の歴史や文明の話、科学技術などを語る。


 特に王が興味を示したのは民主主義と、科学技術だった。

高機動車に搭乗した経験もある王は鉄道や飛行機の話を楽しげに聞き、白山もそれらを懐かしむように語っていった……


ひとしきり話した後で、ポツリと王が零す……


「何百年かかるか判らんが、そんな時代になるかのう…… この国も……」


 天井を見つめる王の視線は、まだ見えぬ未来に向けられるように遠くを見ている。

その視線に白山は、言葉を選びつつも答える。


「なるのでしょうね。いずれは…… 人の営みは連綿と紡がれ、多くの過ちを繰り返しながら、それでも……」


その言葉に、視線を戻した王は徐ろに切り出した。


「そなたと初めて会った日の晩、話した事を覚えておるか?

この国をどう導きたいか聞いただろう。

あれから、ずっと気になっておってな……」


 その言葉に深く頷いたは、テーブルにグラスを置きしっかりと王を見据え白山が答える。


「国内が結束し他国と協調して発展する事……そうおっしゃいましたね」


 うむ、と少し苦しげに頷いた王は少し考えるように沈黙し、やがて口を開いた。


「あの時は驚いた。よもや貴族でも王族でもない異世界の人間から、国のありようを問われるとは思っても見なかった。

そして、当り障りのない言葉でその場を濁してしまった……

思えば、即位してからというもの目先の事柄に忙殺され、遠くを見ることを忘れていたとしか言えん」


 そして長いため息を吐き、一口だけ蒸留酒を含み、天井を見上げる。

部屋の沈黙は決して苦痛ではなく、白山はただ次の言葉を待った……


「あの時の言葉を訂正させてもらってよいか?」


白山はゆっくりとうなずき、じっと王の鳶色の瞳をみつめる……



「儂は、この国を守りたい……

先程の話のようにな……

外敵の排除もそうだが、国内の貴族も既に国を蝕みつつあるだろう。

貴族を排せば王家の命脈は保てん…… そう思っておった。


しかし、先ほどの話で考えが変わった…… 儂の代では無理かもしれん。

だが王でなくとも国は成り立つのだな。

ならば、民の幸せになる国を作ろうと思う。

虐げているつもりはないが、民が自らの足で立ち自らの手で国を作る手助けをすべきだと考える……」


 その答えに、白山は深く頷き暫し考えてから口を開いた。


「私がここに喚ばれたのも何かの運命……ならば、私も全力でお手伝いさせて頂きましょう」



 自然と両者は笑い合い、お互いに手をとる。そこには確かな信念が感じられ言葉はいらなかった……






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