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展示と相談と

もう少しすると、物語が動き出すと思います。

 連隊長とその部下が去っていった後、一部始終を目撃していた兵達は白山に興奮した様子で詰め寄ってきた。

やはり貴族の権威を笠に着て評判が悪いらしく、歓喜の表情を浮かべ試合での技や剣について教えてくれとせがむ者もいた。


 そうした兵達の歓迎を苦笑しながらなだめて、アトレアのもとに帰り着いた白山は申し訳なさそうにアトレアに話しかける。


「すまん、余計な火種を作ってしまった……」


その言葉を聞いたアトレアは、笑顔を浮かべ首を横に振った。


「いや、気にするな。対立は元からだ。それより兵達の士気が上がった方が収穫だ」


そう言ったアトレアが白山の肩に手を置き、少し驚いた様子で語りかける。


「それよりも強いのだな。正直驚いた。先に相手をしたあの男は、第1軍でも5指に入る男だぞ」


笑いながら白山は答える。


「部隊での訓練の他に、個人でも好きで道場に通っていたからな。ある程度なら何とかなる」


 実際には白山は幼少からの剣道と居合、部隊では格闘記章を持っていて、交流先の海外の部隊や現地の格闘技を習う程修練を積んでいる。

部隊の格闘競技会では上位の成績を収めていた。

S(特殊作戦群)の格闘は所謂『完着』と呼ばれる、フル装備で行われる激しいものだ。


 そんな技量を持つ白山にとってみれば、力任せに木剣を振る大男など軽くあしらえる。

海外での訓練や前線基地での交流では、海外の特殊部隊の人間に合気道を指導して大男を押さえつけるなど日常茶飯事だった。


 やや強引ではあったが、連隊長から許可をもらった兵達は先程よりも活発に議論を交わす。

その傍らでは、分割していた部隊をまとめて槍衾を作る練習を自主的に行っていた。


そして昼の休憩となったが、ここでも課題が見えてきた。


 それは兵士達の昼食だが、一握りほどの大きな黒パンと薄く切られたチーズがその昼食だった。

兵士達は食えるだけマシだと言っていたが、食糧事情はやはり芳しくない様子だ。


 2年前の皇国との戦争に出た兵士に話を聞くと、宿営地に戻るまでは1日おきや、下手をすれば1日1食もあったとの事だった。


 補給や食糧事情は兵士達の士気に直結する問題だけに、この点も考えなければいけないと白山は思う……




 昼食後は、展示となった。

アトレアのたっての希望と言うか、昨夜映像を見たせいか、一番興味深げに白山の準備を待っていた。


 白山は前もって依頼していた鎧を着た人形をアトレアに準備してもらっていた。

デモンストレーションで標的を撃った方が判りやすいだろうという事と、この時代の鎧が持つ防護性を調べる意味もあった。


 白山の持ってきた武器は、いつものM4(小銃)とM320グレネードランチャーだった。

今後何があるかわからないため、あまり派手に弾薬は消費できない。

今回は1弾倉と2発のグレネードでお茶を濁すつもりだ……


 兵達にお願いして、20m先に2体、100m先に5体そして200mに1体を準備してもらう。

200mに設置した人形は、ポツンと遥か彼方に見える。


 配置が終わると兵達を後ろに下がらせ、地面に線を引く。

この線より外に出ないようにと念を押してから、標的方向と周囲の安全を確認した。


まずは、M4の説明から始めた白山はよく通る声で説明を始める。


「これは銃と言う武器だ。簡単に説明しよう。

吹き矢を思い出して欲しい。吹き矢は息を筒に吹き込んで針を飛ばすが、銃は息ではなく火薬を使う!」


 弾倉を抜き薬室をカラにした銃を掲げ、よく見えるようにアトレアから順にゆっくりと兵達の前で銃を見せる。


「飛ばす弾はこれだ。後ろの金色の部分に火薬が詰まっている。

この先端部分が火薬の威力で、飛んで行く部分だ。」


 次にポケットから取り出した弾丸を指先でつまみ、周囲に示した白山は開放された薬室にその弾丸を入れる。

ボルトストップを操作して薬室を閉鎖すると10mほど先の地面に向かって、1発発射する。


ドンッ!


 サプレッサー(消音器)を外しているM4から、本来の火薬が破裂する衝撃波と音圧が周囲に鳴り響く。

それと同時に派手な土煙が高く舞い上がり、後ろで見物していた兵達から驚きの声が上がる。


 白山は意図的に、サプレッサーを外して射撃していた。

そうする事で音圧や音響による体感を意図している。視覚情報だけではなく肌で感じた感覚は強く印象に残る。

ここにいる兵達は、平民出身の者が多いが貴族派の人間もいるかもしれない。


銃の威力が喧伝されれば、一定の抑止力にもなりえるだろう。


「今は、1発だけだったが連発も可能だ。更に弓矢より遠くを正確に撃ち抜ける!」


 弾倉を挿しチャージングハンドルを引き初弾を薬室に送り込んだ白山は、まず20m先の先の標的に素早く2発撃ち込む。


ダンッ ダン!


連続して鳴った銃声に耳を押さえる兵士も居たがその迫力に皆、息を呑んでいる……



 白山は安全装置をかけ、ゆっくりと鎧に近づき兜の部分を抜き取り、両手に持ちながら兵士達にそれを手渡す。

その中央部分には小さな穴が開いており、後方はそれよりも少し大きな穴が穿たれていた。

皆が順に兜を見回し驚愕の表情を浮かべていた……



 その様子を見ていた白山は、次に200m先の標的に目を移しACOG(照準器)の視野に集中する。


 そして胴体部分に先程よりも少しペースを落として ダーン ダーンとややゆっくり撃ち込む。

その様子に固唾を呑んで見ているが、敢えて結果を見に行く事はせずそのまま説明を続けた。


「この銃は、単発だけではなく連発でも弾を撃ち出す事ができる!」


 そう言うと白山は振り向きざまに、素早く銃を上げセレクターを連発に切り替え20m標的に撃ち込む。


タタタン タタタン タタタン タタタン!


 リズミカルな音で標的の胴体が穴だらけになる。指切りで発射弾数をコントロールしながら、2体の標的にそれぞれ6発ずつ銃弾を浴びせる。


 銃声と薬莢が飛び出し地面に転がる澄んだ音が周囲に鳴り響く……

見ている兵達が言葉を発する事はなかった。

その様子に誰もが釘付けになっていた。


銃声の残響が僅かに余韻を残して、周囲が静まる……


 しかし、デモンストレーションはこれでは終わらなかった。

安全装置を確認して背中にM4を回すと、M320を取り出す。


いまだ静まっている兵達に向けて、白山は構わずに説明を続けた。


「この兵器は、先程の銃が点を撃つための武器だったが、これは面を制圧するための武器だ!

長々と説明するよりは、実際に診てもらうほうが早い。」


 そう言うとストックを伸ばし細長いサイト(照準器)を立てる。

高性能炸薬弾(HE)の40mmグレネードを横にスライドさせた銃身に入れセットする。

100m先の人形群に撃ち込むため、サイトを使って仰角をつける。


 ポンと、軽い発射音と共に目で追える速度の弾丸がゆるい弧を描いて標的の方向に吸い込まれる。

次の瞬間、爆発音と土煙が盛大に立ち上り、標的にした鎧を着た人形が見えなくなった。


銃身をスライドさせ空薬莢を排出した白山は、続けてもう一発を撃ち込む。



 何が起こっているのかと、兵達が身を乗り出して標的方向を眺めている。

そろそろ黙って見ているのも限界だろう。


「よし、それじゃあ全員で標的を見に行くぞ!」


 空薬莢を排出しながら皆で標的を見に行くことを伝えると、我先にと兵士達が飛び出していった。


白山はアトレアと共に標的に向けて歩き出す。


「昨日から驚きっぱなしだな。しかし、銃とは本当に凄い物だな……」


 隣に立つアトレアは、憧れとも戦慄ともつかない表情を浮かべている。

20mの標的を見ながら、難しそうに何かを考えていた。



 結果としては、40mmグレネードは標的をズタズタにしていたし、200mの標的も狙い違わず胴体中央にしっかりと着弾していた。

兵達は頻りに、これで撃たれたら助からないとか、味方で助かったなど感想を言い合っている。


 興奮冷めやらぬ様子だったが、兵長の指揮で午後の訓練が開始される事になった。

これまでのように闇雲にぶつかるのではなく、午前の教訓が活かされており効率が上がっていた。



 その様子を見ていた白山は、アトレアに断りを入れてそろそろ城に戻ると切り出す。

今日は夜に王との会食が控えている。早めに戻り支度をする必要がある。


「そうか、また訓練を見に来てやってほしい」


 その言葉はお世辞ではなく兵達の動きを見たアトレアの本音だった。

その言葉に頷いた白山は、銃を高機動車に収めると、城に戻るべくエンジンをかけた……



*****



 停車場所に車を入れ、武器を持って城に入ろうとすると気配を感じリオンが姿を現す。

荷物を受け取りながらリオンが口を開いた。


「先程の連隊長の様子が気になりましたので、様子を窺ってきました……」


 そう言って歩きながら、白山にだけ聞こえる大きさで囁いた。

体調が回復してきたリオンは、徐々に護衛や影として本来の動きを取り戻している。

そこで白山の身辺に限り、限定的に活動を許可していた。


部屋の扉を開け内部の安全を確認したリオンが、白山に合図を送り入室する。

するとリオンが、ICレコーダーを取り出しイヤホンを挿して白山に手渡す。


 黙ってそれを受け取った白山は、イヤホンを耳に持っていきその音声を黙って聞いている。

目を閉じ、その音声を聞いていた……



白山は、音声を聞き終えるとそれをテーブルに置き、リオンに短く告げた。


「この件は特に動く必要はない。ただ、アトレアにもこの音声を聞かせておいてくれ。

俺からの言付けとして、不用意に動かず泳がせるようにと伝えてくれ」


 その言葉を聞いたリオンは頭を垂れ「承知しました」と答える。

頭をあげた瞬間ショートの金髪がサラリと揺れ、その髪を耳の後ろに流す仕草が歳相応に少女らしくなってきた。

線の細い痩せたイメージは和らぎ柔らかな印象を受けるが、その機敏さや動作の素早は失われていない。


 その様子に少し安堵した白山は、これからの予定について考えをまとめる。

これからまずは、王との会食になる。懸案事項を幾つか聞かなければならない。


 ラップトップの事、そしてバルム領(港町)での任務……

あとは、軍の改革について。


 白山は立ち上がるとリオンに風呂に行くことを告げる。

流石に汗臭いまま王と会食に望む訳にはいかない。

それを見越していたのか、リオンは着替えを用意しておりそれを白山に渡してくれる。


 なんとも有能な護衛だと苦笑しながらも、着替えを受け取り白山は風呂に向かって歩き出した。



*****



 礼服に着替えた白山は、ゆったりとした足取りで王の居住区に足を向ける。

会食までは少し時間があるが、その前にサラトナ宰相と幾つか話をする必要がある。

そう思って、前もって面会を申し込んでいたのだが、サラトナも会食に招待されていた。

それでは、その前に会って話をしようと、この時間の面会になった。



 王の居住区に近い宰相執務室の扉をノックする。

すると書記官が扉を開けてくれて、白山を招き入れてくれた……


 宰相の執務室は書類や資料が多く積まれており、壁は蔵書や資料の書架で埋められていた。

応接セットに腰を下ろした白山は、サラトナに目を向ける、

忙しそうに書類に目を向け資料に何かを書き込んでいる宰相は少し顔を上げ、「もう少し待ってくれ」と伝え最後の書類にサインを終えた。


 小さくため息をつき、首を回したサラトナはやや疲れ気味の様子で、目頭を指で揉んでからゆっくりと立ち上がった。


「待たせたな……」


 応接セットにゆっくりと腰掛けて、お茶を一口すすったサラトナは真っ直ぐに白山を見据え話を切り出した。


「軍の改革については、やはり貴族の動きがネックですね……

今日はじめて第1軍の訓練を見学しましたが、早速嫌がらせがありました」



 苦笑気味に話す白山に、サラトナはニヤリと笑いかける。


「私の所にも報告が来ているが、流石鉄の勇者と言う事かな?」


 流石宰相ともなると耳が早いようだ。

苦笑しながら首を横に振る白山は、早速要件を切り出した。


「このまま同じ調子で妨害が続くようならば、改革は難しいかもしれません。

 こちらもただ黙っているつもりはありませんが、抵抗が大きい場合、別手段を考える必要があるかもしれません」



 宰相と白山の話し合いは、余人を交えず静かにそして深く進んでいった…………


M4カービン wik

http://ja.wikipedia.org/wiki/M4%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%B3#.E3.82.A2.E3.82.AF.E3.82.BB.E3.82.B5.E3.83.AA.E3.83.BC


40mmグレネード参考動画

http://www.youtube.com/watch?v=neva4gJdP58


M320 wik

http://ja.wikipedia.org/wiki/M320_%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC


ご意見ご感想お待ちしております。

次回更新は19日 夜の予定です。

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