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襲撃と暗闇の決意


『……エクスレイ-1の制圧を確認、現在負傷者の収容及び拘束を親衛騎士団が実施中』



 先程、幾つかの銃声や爆発音が響いてリオンの耳にも届いていた。

聞き慣れたその音は、間違いなく作戦を実施している音であり、リオンには不安も動揺もなかったが、グレースはそうもいかなかった。

普段は穏やかで静かな王都において、聞きなれない戦闘音が鳴り響いたのだ。


 銃声がなる度に、時折ピクリと反応してしまう。

その都度、無線から聞こえてくる味方の動向をリオンが説明している状況だった。


 しかし、グレースは内心で歯噛みしていた……


 叶わぬ願いとして、白山を守りたいと願望を抱き、その代役をリオンに求めたが、それでも今の状況に不安を隠し切れない自分に、悔しさが滲んでいた。

この部屋に移動した当初は、普段とは違う動きに少々好奇心を駆られ、リオンに対して軽口を言う余裕もあったが、遠くから聞こえてくる戦闘の音が、不安を掻き立てさせる。


 それに比べてリオンはと視線を向けてみれば、入り口近くに陣取り、外の物音にじっと耳をそばだてて、自分が話しかけるまでは片時も警戒を緩めていなかった。

生まれ育った環境の差かもしれないが、同じような年頃の女性がここまで動じること無く、淡々としている。


 そんな中で自分の動きや心の惑いが、どうしようもなく悔しい気持ちになってしまう。

同時に先ほど持ちかけたリオンへの取引も、今となっては気恥ずかしく感じてしまう。


 しかし、グレースは王族として受けた教育や持ち前の前向きな性格を奮い立たせ、しっかりしなければと思考を入れ替える。

先ほど渡された見たこともない透明な容器に入れられた水を一口飲み、気持ちを落ち着けた。


 今の自分がすべき事は何なのか。そして、好意を抱く白山の隣に立つには、何が必要で何が足りないのかを考え始めた。

考えるだけで答えが出るかはわからない。それでもこの状況では少なくとも、気を紛らわす事ができるし、それ以外に出来る事も無かった。

自分は戦う事も出来なければ、何かを与えられる状況にもない。




 無骨な簡易ベッドの上で静かに思考を巡らせていたグレースは、そういえば周囲がしばらく静かになったなと思い至る。


「もう、戦闘は終わったの……?」



 思考と苦悩の螺旋からふと浮上したグレースは、静寂を取り戻しつつある場内の雰囲気に、王国における未曾有の騒乱が、収束を見たのではないかと淡い期待を抱く。

しかし、リオンはその問に黙って首を横に振り、その希望を打ち消した。


「まだ、危機は去っていません。 むしろ今、気を抜き警戒を解くことが最も危険です……」



 先程よりもピリピリとした雰囲気をまとわせたリオンは、油断なく周囲の気配を探りながら言葉短く告げる。

リオンの懸念は、城内に侵入した影の所在が掴めない事だった。

断片的にその動向らしき痕跡が報告されている。しかし、無線を持っているのは機密保持の関係上、親衛騎士団の団長であるブレイズだけだった。

その為、どうしても騎士団からの報告はタイムラグが生じている。


 こうした状況に一番頼りになるであろうウルフ准尉達は、未だ城壁の警戒からは抜けられない。

侵入者が新たに侵入したり、何かを仕掛けてくるならば、当面の脅威を排除して警備側の気が緩み、混乱が未だ治まらないこのタイミングが最も危険だからだ。


 ようやく城内の小火が全て消し終わり、侵入した影の捜索が本格化されるという報告が無線に入ったのは、つい先程だった。

既に侵入した影は、それなりの距離を移動しているだろうし何かを仕掛けている可能性も高い。

後手に回ってしまっている感は否めないが、限られた人数と部隊数でやりくりするしか無い。


 それを考えれば、リオンはこの現状における自身の役割を淡々とこなす事が、肝要になるのだ。


シェルタールームの内部は、ピリピリとした静寂が依然支配し続けていた……



*********



 レイスラット城は主に社交場や外応を成す社交館とその奥に行政を司る行政院、そして国の中枢を司る執政院があり、その最奥に王族の居住する後宮が配置されている。

親衛騎士団の若い騎士の身ぐるみを剥ぎ、上手く外見を変えた影は、そのまま行政院を抜け、執政院を進んでいた。


 途中で死角に潜み、騎士や文官達の会話から情報を仕入れつつ、まっすぐに奥へと進んでゆく。

ここまでは伝令のふりをする事で要所に立つ警備をかい潜り、後宮を目指していたが流石に後宮と執政院を隔てる警備は厚かった。


 ここを出入りする騎士達は、奇妙な札を首からぶら下げており、それを確認しなければ、この先奥へと入ることは出来ないようだった。

目を凝らして見れば、どんな魔術なのかは判らないが、そこには兵士の顔が描かれており、それと本人を確認して中に入る仕組みのようだった。


 これではもう一度誰かを襲い、札を手に入れても意味が無い。癪に障るがよく考えられている。

そう考えた影は、物陰からこの先に進む手段を探り、周囲を見回した。


 今見えている情景と先日までじっくりと観察して頭に叩き込んでいた外観の様子を比較しながら、今いる位置を割り出してゆく。

そうする事でおおよその位置関係を割り出した影は、廊下の窓から素早く身を躍らせると細い綱を投げて鉤縄を張り、それを頼りに屋根の上に登っていった。


 そして警備の厚い箇所をくぐり抜けると、明かり取りの天窓から、再び城内へと戻った。

その動きは一瞬であり、誰の目にも止まらない。影として培ってきた侵入技術を十全に用いて、遂に影は後宮への侵入に成功していた。


 ここから先は出たとこ勝負になる。

流石に事前の情報収集でも、後宮内の様子や情報は入手できなかった。その為、影の標的となっている王ないし王女の行方は、これから探るしか無い。

しかし、どちらも間違いなく厚い警護に守られていている筈だ。だが、逆を考えればそうした厚い警備が施された場所に標的がいると考えていいだろう。


 慌ただしく誰かが行き交いそして最も厳重に守られた場所に、王が存在しているはずだ。

そう結論づけた影は、ひとまず人の流れが観察できる場所を求めて、人気のない場所を探し始める。


 数部屋を通過した所で、ふと分岐した細い廊下が目に入る。

そこは明らかに他の通路とは異なり、奥にも人の気配は感じられなかった。


 幾多の死線をくぐり抜けてきた影は、そこが潜むに最適な場所であろうと直感し、そちらに足を向ける。

そして潜み続けて、何日でも隠れ続ける。

相手の警戒が緩むまで潜伏を続けてそれから行動を起こせば、目的を達する事も容易になるだろう。


 しかし、気がかりなのは『侵入者を探す』という言葉が、先程の会話の中に聞こえた点だった。

本来であれば、一緒に潜入した影が陽動を行い、騎士団を引き付けて逃走する手筈だったのだが、どうにもあちらを追っている気配がない。

それだけが気がかりだったが、こうした仕事に変更や予想外の出来事はつきものだ。


自分がすべき事をするだけ……


もう一度そう考えて、影は細い廊下を奥へと進んでゆく。




『ピッピッピッ……』



 その小さな電子音が響いた瞬間、リオンはピクリと眉を顰め、くるりとグレースに向き直る。


「グレース様、こちらへ……」



 そう言うと、リオンは座っていたグレースを強引に立たせて部屋の隅に引っ張ってゆく。

その強引さはグレースを驚かせ、持っていたペットボトルが床に転がるが、リオンはそれに構わず、隅に置かれた棚の方向へ向かう。


 そして棚を引っ張り、その下にある隠し通路の蓋を開いた。

ここは王族と一部の者しか知らない城からの脱出路であり、城の外へと続いている。


 リオンはバッグの中からケミカルライトを取り出すと、それを折って発光させると、新しいペットボトルの水と共にグレースに握らせる。


「何者かがこちらへ接近しております。通路の奥に隠れていて下さい。通路の鍵はお持ちですね?」



その言葉に、グレースは恐怖を押し殺して、その豊かな胸元から鍵を取り出した。

古びたその鍵は、精緻な飾りが施されており、その先端は複雑な形状をしている。



「私以外の見知らぬ者が迎えに来た場合は、敵の手先と考えて下さい。その時は城を抜けて、基地へ逃げて下さい……

二時間経っても私が来なかった場合も、同様に基地へ……」



 本来ならば、パッケージの側を護衛が離れるのは、通常の任務規定からは外れている。

それでもリオンが迎撃を選択したのには、逃走経路の安全が確保されていないという事情があった。


 逃げるにしても城下と正門前の対応で、兵力をこちらに回すには時間が足りない。

それならばここで自分が迎撃に出ることで時間を稼ぎ、城内の警備を呼び寄せるほうが、結果としてパッケージの安全が確保できると考えたからだった。


不安げなグレースを通路へと無理に押し込むと、蓋を閉めて棚を元に戻す。



「リオンからHQ……」



 そうして、情況を無線に報告すると、すぐに応援を向かわせるとの連絡が入る。

自分の任務は、応援が来るまでの間にこの場を死守する事……


 そう自分に言い聞かせたリオンは、静かにマインドセットを戦闘状態である『レッド』まで引き上げる。

身体と思考が分離するような冷徹な感覚がリオンを支配し、感情がフラットになる。


 慣れた手つきで腰のグロックと胸元のMP7の装弾を確かめる。

もはや儀式となったその手順を踏むと、先程までグレースが座っていた簡易ベッドを横倒しにして、そこへ重い布をかぶせた。

それは、ノーメックスや防弾繊維で作られた防爆ブランケットだった。


 万一爆発物を使用された場合に備え、部屋に運び込んだ装備のうちの一つであり、十分な防護性能を持っていた。

それを遮蔽物にしたリオンは、部屋のランプを消し、ニーリング<ヒザ撃ち>のポジションを取ると、正面のドアに集中した。



『ピッピッピッ……』


 廊下の中央に設置した赤外線センサーからの警報が響いてくる。

それは、この部屋の扉まで、二十メートルを切った事を意味している……



近い……



リオンは、じっと聴覚に神経を集中してMP7のグリップを握り直した……



----



 影は細長い廊下を進み、その暗い廊下に違和感を感じていた。

後宮にそぐわない不自然なほど人気がなく、その一角はこれまで確認した所では、衣装部屋や書庫になっていた。

別に違和感を感じる程ではないのだが、不自然なほどこの一角だけに警備の兵が居ない。

それだけでなく、煌々と灯されている筈のランプも、必要最小限しか灯されていない。


 これまでの厳重な警戒と反比例するそうした場所に、何か影の直感に触れるものがあったのだ。

その為に、影はこれまでの扉を時間をかけて、すべて確認してきたのだった。



そして残る扉はひとつ……


最奥の扉だけだった。

慎重に周囲の様子を確認してから、扉の側で内部の気配を伺う。


 この世界の扉は、現代と比べてどうしても幾分かの隙間やズレが生じやすい。

そんなドアの側に立てば、自ずと室内の情況を、ある程度読み取れるのだ。


影は、そんな内部の様子に神経を集中させると、これまでの扉とは違う違和感が、肌をなでた。

部屋から流れてくる僅かな空気が温いのだ。


『誰かが室内にいる……』


 そう感じた影は、更に室内の様子を探るべく意識を扉へと向けていく。

五感を総動員して、内部の様子を確認していた影は、何かあると確信を抱いた。


ランプが消えた匂い、人の体温、不自然な静寂……


 この扉の奥には、何者かが息を潜めている。しかし、殺気らしい気配は感じられない。

それは余程の手練なのか、恐怖に打ち震える哀れな生贄なのか?


 恐らくは前者だろう。そうでなければ今頃何かの物音が聞こえてしかるべきだ。

ならば、ここに居るのは誰だ? そして何故ここに、それ程の手練が配置されている?


 その疑問の答えはひとつしか無い。 ここに王族が潜んでいる。

王は、おそらく厳重な警備に守られている筈で、それならば答えは絞られる。


『王女グレースの隠れ場所か……』



 そう考えた影は、どうやってこの部屋を攻略するかを考え始めた。

妙案を思いついた影は、木の筒を懐から取り出すとニヤリと笑みを浮かべた……


----



 リオンは、廊下から漏れてくる僅かな光の変化を見逃さなかった。

何者かが、こちらの様子を窺っている……



 しかし今射撃を行っても扉の枠は頑丈な石組みであり、ダメージは見込めない。

それに自らの存在を進んで暴露する必要もない。

そう判断したリオンは、力を抜き闇と同化すべく気配を消してゆく。


 次の瞬間だった。 突然、シュッと言う音と共にまばゆい光が扉から発生して、思わず目を庇った。

錠前が焼き切られた扉は抗う事なく蹴り開かれ、あっさりと部屋への侵入を許してしまう。


 咄嗟にその方向へ向け発砲をするが、それを読んでいたかのように、影は身を躍らせて銃弾をかいくぐる。

そして逆に短い杖のようなものをリオンに向け、その手元が僅かに光った。



 リオンは、本能的に遮蔽物に隠れると、そこにまばゆい光球が炸裂する。

その瞬間だけ、部屋の内部が真昼のようになり、そして焦げたような匂いが周囲に立ち込めた。


 リオンは遮蔽物にしたベッドの横からTACプローンの姿勢で射撃を行う。

しかし壁際まで引いた影は、棚を倒すと遮蔽物にしてその後ろに引っ込んだ。

そしてリオンの射撃に負けじと、光球を何発か打ち返す。


 リオンは、焦らずに残弾を考えながら相手を遮蔽物に釘付けにしていた。

この勝負は時間が過ぎれば、応援が駆けつける自分が有利になるのだ。焦らずこの場を死守する事が最も大切だと割り切っている。

作戦は一人で行うのではない。チームで行うものなのだ。


 リオンが一人での勝利に拘らなければ、この場で侵入者の足止めは容易い。

逆に影の方は、焦りを感じていた。杖に使う光球の魔法陣も残り少ない……


 このままでは応援が駆けつけて、目的を達する事が出来なくなる。おそらく相手の狙いもそれだろう。

そう考えた影はこの状況を覆す手段を探り始めた。そして懐に手を入れると、少々危険を伴うが、起死回生の手段を探り出した……




 リオンは、遮蔽物の横から銃口と片目だけをのぞかせてじっと様子を窺い、少しでも動きがあれば、狙いすました銃弾を棚に撃ち込んでゆく。

不意に何か、相手が動いた気配がありそこへ銃弾を撃ち込もうと照準を定めた。


 半ばルーチンワークとなったその動きが、一瞬だけリオンの対応を遅らせてしまう。

天井の漆喰に突き刺さったナイフには、羊皮紙が貼り付けられており薄暗い中でそれを目にしたリオンは、心の中で短く舌打ちをこぼす。


 咄嗟に防爆ブランケットを手繰り寄せて、その下に潜り込むと、その瞬間に鋭い爆風がリオンに襲いかかった。


 ブランケットの隙間から感じられる熱量と、外側からの衝撃波がブランケット越しにリオンへと襲いかかり、彼女の軽い体重を吹き飛ばす。

部屋の奥側にある壁まで吹き飛ばされたリオンは、肺の中の空気を残らず吐き出してしまい、息を詰まらせた。



 咄嗟に体を丸めた事で頭部への衝撃は免れたが、それでもその衝撃は相当のものだった。

何とか細く息を吸い込み、意識を回復させるとブランケットを跳ね上げ、射撃姿勢を取る。


 しかし、その一瞬の間は痛恨な差を引き起こしていた。

既に立ち上がっていた影は、短い杖をリオンに向けており、光球が発射されたのだ。


 目で追える程のスピードで自分に迫り来る光球に対して、咄嗟に体を躱したリオンだったが、MP7が光球に触れそこで爆発した。

爆発の衝撃で再び体勢を崩されたリオンの視界に、ひしゃげたサプレッサーが映り、リオンは顔をしかめる。


 それを確認したのか、影がゆっくりと歩み寄ってきた。

その手には杖が握られており、何か筒のようなものをその横腹に押し込んでいる。


「終わりだ……」



 手元の作業が終わり、影が言葉短くそう言葉を吐くと、手にした杖の先をゆっくりとリオンへと向ける……



 何か手はないか? リオンは、取りうる選択肢を素早く検討し、視線を周囲に巡らせた。

イチかバチかの懸けに近いが、それでも何もしないよりはマシだろう。


そのオプションをざっと検討したリオンは、実行する価値があると判断した。



『後はタイミングだけ……』



 その時、廊下の向こうから騒ぎ声と駆けつけてくる足音が響いてきた。

ほんの一瞬だけ、影の注意がそちらに向く。



それだけでリオンにとっては十分だった……


 腰のホルスターから抜き放たれたグロックの照準を素早く合わせ、一発の銃弾を放つ。

破裂音と共に撃ち出された直径9mmの銃弾は、狙い違わずに床スレスレに僅かの距離を飛翔して、そして着弾する。


リオンと影の間に転がっていたペットボトルは、グロックから放たれた9mm弾によって撃ちぬかれ、そのエネルギーを内部の水に余す所無く伝えた。

刹那の時間に膨張し行き場の無くなったエネルギーは、弾頭と共に後方へと爆発的に飛散する。

弾頭は影の体を捉える事は無かったが、ペットボトルの内部の水分は、礫のように放射状に広がり影へと襲いかかった。



 反射的に体を庇った影は、杖の光球を発動させるが、僅かに動いた体が狙いを外させる。

自分のスレスレを壁に撃ち込まれた光球を、意識の外に押しやりながら、リオンは標的である影に意識と視線を集中させた。



パパン、パン!



 爆竹のような破裂音はリズミカルに三発鳴り響き、そして部屋の内部に一瞬だけ静寂が戻った……


手応えはあった。

それは、いつもと変わりがない、確かな手応えだった。


その証拠に影は、プッツリと糸が切れたようにドサリと倒れ込んだ……



「ウルフだ! 入るぞ!」



 荒々しく弾んだ声が、戸口から響いてくる。

後方にはガチャガチャと鎧が鳴る音も聞こえている。ひとまずは安心だろう。


「クリア! 入れ!」


 少し朦朧とするが、振り絞るように声を上げる。

立ち上がったリオンは、誤射を防ぐようにグロックとライトを影に向け、自分の位置をウルフ准尉に報せた。


 SCAR-Hを構えてゆっくりと部屋に侵入してきたウルフ准尉は、即座にリオンと影を認識すると、その銃口を影へと向ける。

続いてもう一人の隊員が、同じように部屋へと入ってきてM4の銃口を同じように影へと向けた。


「カバー!」


 その言葉でウルフ准尉がSCARを背中に回し、グロックを片手に持ち、既に事切れている影に向けて徐々に接近してゆく。

そして影の手から、杖を蹴り飛ばし変装用に奪われた騎士用のロングソードも鞘ごとむしりとった。


 そして、うつ伏せに倒れこんでいる影の体に沿って手を走らせながら、ボディチェックを行う。

そして影の体をひっくり返して一瞥すると、准尉は短く口笛を鳴らし、リオンへニヤリと笑いかける。


「いい腕だ。 こっちは任せてパッケージの保護を頼む」



 周辺警戒の輪に加わっていたリオンに向けて、そう言った准尉は手早くボディチェックを済ませると、無線に向けて報告を行う。

その言葉に頷いたリオンは、痛む体を無視して無事だった隠し通路の方向へと向かう。


戸棚を動かし、通路へと降り立ったリオンは大きな声で叫ぶ。



「グレース様! リオンです。お迎えに上がりました!」



 大声を出すと痛む脇腹の具合に、おそらく肋骨にヒビが入っているなと感じながらも、リオンは声を出し続けた。

五十メートル程も進んだだろうか? 石と金属で作られた重厚な扉の横に淡いグリーンの光が見えた。


 事前に渡してあったケミカルライトの光に浮かび上がるグレースの姿は、恐怖からだろうか?

目元に涙の流れた後がくっきりと伺える。


 しかし、今のグレースの表情は毅然として、如何にも王族としての威厳が漂っている。



 この暗闇の中で、何があったかは当人しか知り得ないだろう。

それでも軽くドレスの埃を払い、ゆっくりと微笑んでいた。


 リオンはグレースのもとまで近づくと、何故か頭を垂れる。

そしてグレースもそれが当然と言った体で、リオンへと頷く……



「ご苦労でした……」



 部屋に戻ったグレースは従者を下げ、リオンと共に私室の座り心地の良いソファに腰を落ち着けると、再び二人になった室内でそう切り出した。

本来であれば、負傷したリオンに代わってウルフ准尉の隊員が、部屋の前で警護を実施するという命令が出たが、リオンはそれを固辞していた。


 ここで一人が抜けてしまえば、かなりの負担になってしまう。

それもあるが、白山から下達されたこの任務を最後まで全うしたいという、リオンの強い意志だった。


 こうしている間にも、反乱を起こしたカマルクの私兵達は、収容や片付けは着々と進行しつつある。

グレースからの労いの言葉に、再度頭を下げながら無線で聞いているこれまでの状況をグレースへと手短に伝えた。


 その様子は、ここ数日グレースに張り付いていたリオンにも、ハッキリと分かるほど態度や落ち着きが変貌している。

その理由について訪ねようかと、喉元まで言葉が出かかった時に、不意にグレースが口を開いた。



「これが、私の覚悟…… リオン、貴方はどうなのかしら……?」



落ち着きを取り戻した室内で、二人の時間は再び進み始める。

周囲に気付かれないように耳元で、二人は声を潜めて何事かを囁き合う。

その内容は周囲の喧騒に紛れ、当人達にしか届かない。



だが、その立場と心境には大きな変化が訪れていた…………








ご意見、ご感想お待ちしておりますm(_ _)m


ちなみに実際には、パッケージを置いて戦闘なんぞ絶対にしません。

でもそれを言い出すと、物語が進みません(笑)

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