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城門と剣戟と耳鳴りと

これまでのあらすじ


白山達の閲兵式により、国内の反乱を考えていた貴族達は足並みを乱す。

それにより反乱の首魁であるザトレフ達は孤立した。


そしてザトレフ一族の捕縛が第一軍団と、白山達に命ぜられる。

白山達はザトレフが率いる諸侯反乱軍を……

アトレア達はリタ領主館の制圧に動く……


 騎兵の進軍速度は驚異的だった。

例えるなら現代では機械化された歩兵連隊か、機甲師団の蹂躙に近いだろう。

体躯の大きな軍馬の質量と速度がそのまま突進力と衝撃力となり、それに抗う術はそうそう多くない。


 拒馬や堀を設けたりと、障害構築が欠かせない備えになる。

しかし早朝の奇襲は領主やその側近達に、そうした備えを行わせる時間を削ぎ、朝の支度に動き出した領民たちを驚かせた。

領主館の北東には市場があり、日の出前から動き出していた商売人達は何事かと驚き、そして巻き込まれては不味いと慌てて荷物を纏め始める。


 二百騎の騎馬隊は瞬く間にリタの市街を駆け抜け、領主館前の辻まで殺到した。

だが、何処かから情報が漏れたのか、領主館に通じる道には樽や馬車が転がされ、騎馬の行く手を阻んでいた。


 その密度は馬の行脚を阻むには十分で、勢いを持って領主館に突入するという当初の予定は崩れてしまう。

それでも先頭を進んでいたアトレアはすぐさま馬を降りる事を命じ、障害物の間を縫うように進み始めた。


 遅れて到着した田中二曹達の高機動車は、人影がまばらになりつつある広場に車両を停車させると、降車戦闘の準備にかかる。

領主館に通じる道の前は、通りに入れない仲間の騎馬を御する騎士や、後続の兵達でごった返しており危険なほどの過密状態になっていた。


「広場に馬を移せ! 密集するな!」


 兵長や士官達の怒号が響き、何が起こったのかと早朝にもかかわらず、リタの住人が遠巻きに集まり始め、現場の状況は混沌とし始める。

その中を縫うように、先頭に居るアトレアの許へ移動を開始した田中二曹達は、程なくして動きが止まった先頭集団に追いついた。


 本来であれば今頃は城門に取り付いていなければならない筈のアトレア達は、馬車の影に隠れ悔しそうに倒れた仲間に視線を向けていた。

倒れ伏した騎士の首筋には弓矢が貫通しており、一筋の赤い流れが石畳の間を流れている。


 こうした状況であれば、こちらも弓での応戦や盾を持った歩兵を前列に加えるべきなのだが、歩兵達は後方に位置している。

騎馬が広場にはけて、後方の歩兵を呼び寄せるまでは、このまま凌ぐしかない……


 アトレアは馬車の陰で正門付近を一瞥すると、後方の馬の移動の様子を確認する。

未だ混雑している後方の様子を見て、短く舌打ちをしたアトレアは虎の子であるAKを持った銃隊を呼び寄せる。


 今回の戦闘では、後方に十名そして前方に十名の二十名の銃隊を随伴させていた。

アトレアの直轄部隊である銃隊は、未だ戦列歩兵に似た一斉射撃による敵を圧倒する運用を行っていたが、それでもこの時代ではかなりの威力を有する。



「銃隊!反乱軍の弓を黙らせろ!」



 その声で、背中に銃を背負っていた軽装の騎士達が一斉に集まってくる。

黒光りするAKMを手にした騎士達は、号令に従って弾倉を装着してコッキングハンドルを操作する。

カシャン!と喧騒に割りこむような小気味良い音を響かせ、装填を完了させた銃隊の面々は、馬車の陰で発射の号令を待つ。



「安全装置を解除! 各人三発! 目標城壁! よ~い! てっ!」



 その号令で、横倒しになった馬車から躍り出した銃隊の面々は、城壁に向けて 7.62x39mm弾を撃ち出した。

複数の銃口が奏でる雷鳴のような衝撃とともに、城壁に向けて放たれた銃弾は、二階程の高さにある城壁の上に向けて飛翔する。


 しかし、銃眼から弓を射ている反乱軍の兵達は、城壁に隠れ鉛の雨を凌いでいた。

そしてお返しとばかりに天空に向けて弓を放つ。


 放物線を描いて第一軍団の頭上から降り注ぐ弓矢は、大半が石畳に跳ねてその勢いを失ったが、運悪くその落下点に居た騎士達を傷つけた。



「続けて放て! 弓の勢いを削ぐんだ!」



 アトレアは直近で響く大音量に抗うように、大声を張り上げ、銃隊に命令を下す。

その声に勢いづけられた銃隊の面々は、再び斉射を繰り返し城壁の意思を削りとってゆく。

銃眼から飛び込んだ弾丸が幾人かの弓兵を屠るが、それでも誰かが倒れれば、他の誰かが弓を取り矢を打ち出し、両者の勢いは拮抗していた。


 アトレアはこの状況を打開する術を探し、周囲に目を向ける。

ふとその瞬間、遮蔽物越しに徐々にこちらへ近づいてくる、迷彩服の男達がその視界に入った。



「アトレア殿、遅くなりました。

どうやら敵も準備を整えて、待ち構えていたようですね……」



 ガツガツと突き刺さる弓矢に身を竦めるように、首を引っ込めつつ田中二曹が馬車に飛び込んできた。

そして正面の様子を一瞥すると、素早く指示を出す。


「ES<エコーシエラ> そこから城壁の弓兵は見えるか?」


その問に素早く応えたES<エコーシエラ>から明瞭な返答が聞こえてくる。


「ES<エコーシエラ>よりER<エコーリーダー>目標を確認、射撃可能……」


「任意のタイミングで撃て……」


「了……」



 短いやりとりの後、ターンと遠くから銃声が連続で響き、何か城壁の向こうが俄に騒がしくなる。

再び同様の銃声が響き、城壁の向こうの動揺が混乱へと移り変わっていった。


 そんな城壁の混乱に気づき、軽く様子をうかがったアトレアは、弓の勢いが弱まったことを確認する。

そして城門を打ち壊すべく部隊に命令を下そうとした所で、田中二曹がアトレアの腕を叩く。


「露払いは、我々が引き受けます。 アトレア殿は、突入に向けて部下を纏めて下さい」



 田中二曹のその声は、アトレアには意外だった。

地位や名声を得るチャンスであるはずの戦場で、アトレア達の功績をお膳立てするかのようなその態度の裏にある、真意を図りかねる。

しかし、その言葉が杞憂であったと田中二曹の言葉で、疑念はすぐに霧散してしまった。


「我々に下達された任務は、第一軍団の支援です。お任せ下さい……」


その言葉に頷いたアトレアが、声を上げる。



「突入の準備をなせ! 各隊ごとにまとまり、城門が開いたら一気に雪崩れ込むぞ!」


 その言葉に体制を立て直し、隊伍を整えた部下達の声が方々から響いた。

部下達の結束に満足そうに頷いたアトレアは、徐ろに田中二曹に視線をむけ、僅かに頷いた。



それに頷き返した彼が再び無線を操作する。


「84無反動、目標、城門正面…… 弾種、多目的榴、一発! 後方爆風に留意……」


「了…… 目標、城門正面 多目的榴、一発!」



「装填よし! 後方よし! 射撃準備よし!」



 その声を聞くなり、田中二曹は後方を振り返り第一軍団の兵達に大声で注意を促す。


「遮蔽物に身を隠せ!」


 ビリビリと震えるような大声に気づいた兵達は、何が始まるかは判らないが、とにかく我先にと手近な物陰に滑りこむ。


「てっ!」


 無線に叩きつけるような大声で、同じく叫んだ田中二曹の声と同時に、派手な後方爆風と衝撃波が後方に叩きつけられる。

その未知の衝撃は敵からの攻撃かと、第一軍団の将兵達に誤解させるほどの勢いで、石畳の上に薄く降り積もった砂や埃を巻き上げていた。


ざっと、周囲を見回し無残に砕けた城門と、後方爆風による友軍被害が無いかを確認した田中二曹が、大声を張り上げる。



「城門は打ち壊しました! 突入を!」



 自身もM4を城門に向けて撃ち込んだ田中二曹は、横にいるアトレアに向かって叫ぶ。

戦闘によるアドレナリンと、喧騒が自然に声を大きくさせ、それに抗うようにアトレアも大声で返事をする。


「判った! 皆の者…… 続け!」



 その声で第一軍団の面々は、84無反動に粉砕された城門に殺到するように走り出した。

無論、その先頭を進むのはアトレアであり、その手には白山から贈られた剣が握られており、朝日を浴びてその刀身を煌めかせる。


 田中二曹は、分隊の半数とスナイパーチームの二名に外周を確保するよう手短に命令を下し、自身も三名を従えてアトレアに追従してゆく。

この任務では第一軍団のサポートもそうだが、アトレアの警護もその命令に含まれていた。


 M4をコンバットレディの体勢で構えつつ、周囲に視線を送りながらアトレアの背中を追いかけた田中二曹は、城門の奥で何かの動きを視線に止めた。

それが剣を手に持つ敵兵だとコンマ数秒で認識し、次の瞬間には単発で素早く三発の銃弾を撃ち込む。



 胴体中央部に小さな穴を穿たれた敵兵は、数瞬の後に口から大量の血を吐き出し、膝から崩れ落ちる。

そして田中二曹が、周囲を策敵するとアトレアの左側面に新たな影を発見し、そこに銃口を向けようとして、短く舌打ちを鳴らす。


 アトレアの左後方を追従していた田中二曹は、その位置からでは射線上にアトレアが重なり射撃できないのだ……


 心の中で間に合えと念じながらアトレアとの間に割り込もうと、田中二曹が動き始めた瞬間だった。

横に一筋の銀線が走り、その横をアトレアが駆け抜けたのだ……


 敵兵はアトレアに関心を示さなかったのか、対応できなかったのかは分からないが、冷や汗モノの遭遇に肝を冷やした田中二曹は、信じられないものを目にする。

その敵兵に銃弾を撃ち込もうとトリガーに触れた瞬間、その敵兵の首がゴロリと石畳に転がったのだ……


 思わず、ダットサイトの照準から目を離し、肉眼でそれを見た田中二曹は我が目を疑ったが、何とか足を止めずに領主館の玄関に達しつつあるアトレアに向かう。

打ち壊された城門を素早く潜り、外側の堅牢な城門とはうって変わり、豪華で瀟洒な玄関扉が馬車泊まりの向こうに見える。


 既に何人かの騎士達が素早く錠前を破壊しており、その大きな扉はあっさりと突入してくる騎士達を受け容れてしまう。

アトレアは、玄関ホールへと進むとすぐに周囲の騎士達に命令を下し始める。


「抵抗するものには容赦するな! 投降した者や家人は一箇所にまとめよ。 まずは、領主一家の捕縛が最優先だ!」


 その言葉を聞き、田中二曹は手信号で二名の隊員をあらかじめ聞いていた領主達の私室とは反対方向に向かわせ、一名を引き連れアトレアと共に私室を目指した。

 長い廊下の先にある領主の私室となっている部屋の前は、家具や調度品でバリケードが築かれ、数人の兵士達が剣や槍で行く手を塞いでいる。

先に突入してた騎士達は、幾人かの兵たちと切り結んでおり、狭い廊下では数の理を活かし切れず各個戦闘に持ち込まれていた。

カチャリ、カチャリと剣戟の金属音が響き、それに混じって時折、ガンという盾に剣がぶつかる音が交じる。


 そこへ悠然と歩み寄ったアトレアは、短い舌打ちを響かせて騎士達の元へ割り込んだ。

命令上、名目上はアトレアの警護も兼ねている田中二曹は、その事態に少し顔をしかめると、自身も同じようにその剣戟の舞台へ踊りだす。

アトレアが割り込んだ事で出来た隙間に、体をねじ込んだ田中二曹は、横に友軍の騎士を押しのけ、体制を立て直そうと下がった相手の兵にM4を向けた。


 四名で廊下を塞ぐように構えた兵士達は、盾を重ねて一部の隙もなく此方に鋭い視線を送っていた。

その瞳は怯えや揺るぎを一切感じさせず、田中二曹は中東のPKF活動で見たテロリスト達の目を思い起こす。


『此奴ら、死兵だ……』


 直感的にそう感じた田中二曹は、迷わずにM4のセレクターを連発……フルオートに切り替えると、横に薙ぐように銃口を動かした。

連続で発射された弾丸は、モノの数秒で弾倉内の残弾を発射し、その強固な陣形を一気に撃ち崩した。


「装填!」


 その言葉に、二人の人間が反応する。

一人は田中二曹と共に突入してきた隊員で、すぐに弾倉交換に動いた彼をカバーする位置に動き正面に銃口を向ける。

そしてもう一人はアトレアで、四人が崩れた隙を見逃さず、流れるような滑らかで前方に踊り出た。


 その勢いのまま前方の兵士の盾に蹴りを繰り出し突破口を作ると、横の兵を切り飛ばす。

アトレアの俊足は止まらず、すぐに扉の前のバリケードまで達すると繰り出された槍の柄を掴み横にいなし体のバネを効かせた突きを繰り出した。



 バリケードの向こうからくぐもった悲鳴が聞こえ、引きぬかれたアトレアの剣には、べっとりと血糊が付着している。

しかし、それでもバリケードは強固に作られておりその一撃だけでは、到底突破することも叶わずアトレアが後退してきた。


そこへ弾倉交換を終えた田中二曹が合流し、アトレアに声をかける。


「一旦下がれ!突破口を作る!」


 戦闘中のアドレナリンの所為か、それとも地が出たのか、口調が変わっていることにも構わず田中二曹はそう叫ぶと、後方にあった手近な部屋を見る。


 手信号でそこを指した田中二曹の意図を瞬時に見抜いた、隊員が部屋の戸口に張り付く。

隊員がその部屋の扉を開放し、すぐに田中二曹がそこへ飛び込んだ。

それと同時に後続の隊員も飛び込み、部屋を制圧する。


 幸運な事に、無人だったその部屋は倉庫のような細長い部屋で、棚が左右にあるだけだった……


「バリケードをガンロック!」


 隊員にそう言い残し、「出るぞ!」と声をかけ再び廊下に戻った田中二曹に、アトレアが怪訝そうな顔を向ける。

突破口を作ると豪語しながら、横の部屋に出入りしているその意味が判らないのだろう。


「あの花瓶の位置まで下がれ!早く!」


 それでも、銃口をバリケードの方向に向けたまま後続の騎士達にそう叫ぶと、一向に下がる様子のないアトレアを見て、確保した部屋を指し示す。


「中に!」


 まだ、その意図を理解していないアトレアは、バリケードの方と部屋を交互に見やりながらも、しぶしぶと部屋の中に入る。


 それを見た田中二曹は、騎士達の退避を確認し、自分も同じように部屋に戻ると、腰のポーチから手榴弾を取り出す。

戸口に陣取り、MK3手榴弾のピンを抜いた田中二曹が「援護!」と叫ぶ。

その途端に、バリケードの方向に銃口を向けていた隊員が発砲を開始してバリケードの奥から悲鳴が聞こえてくる。

その間に田中二曹はアンダースローで、手榴弾を投擲した。


 投擲した瞬間、自身そして援護の隊員も部屋の中に退避する。

そして軽く耳に手を当てた田中二曹達と、その様子を訝しげに見ているアトレア……



 円筒形のその手榴弾は、的確にバリケードの下に転がり込むとそこで動きを止め、そして炸裂した……

およそ200グラムのTNT火薬が炸裂し乾いた破裂音を立ててバリケードが一瞬浮き上がり、そして崩壊する。


 MK3手榴弾は通常の手榴弾とは違い破片を生じさせずに、爆薬の圧力のみで爆発半径を殺傷する手榴弾であり、室内や水中での使用が有効な代物だった。

およそ2mの危害半径を持つこの手榴弾で攻撃されたバリケードの後方に控える兵達は、爆発の圧力により吹き飛び、そして感覚器官に重篤なダメージを負っていた。


 爆発を肌に感じる圧力で確認した田中二曹は耳から手を離し、油断なく銃口を半ば崩れかけたバリケードの方向に向けながら、安全確認をする。


「GO!」


 援護射撃をしていた隊員とともに、廊下に出た田中二曹は素早くバリケードの前まで進むと、扉の向こうそして倒れた兵達に注意を向ける。

そして問題がないと判断してから手招きで、後方で呆然としていた騎士達を呼び寄せた。


 その様子で我に返った騎士達が此方にやって来る。

その中には、耳を片手でさすりながら歩いてくるアトレアの姿もあった……


「大きな音がするならば、事前に一言言ってくれないか!」


 少し不機嫌そうなアトレアに、笑って頭を下げた田中二曹は、すぐに意識を切り替えて扉を注視する。

私室に通じる扉は、施錠されており今は騎士達が手斧などで打ち壊しにかかっている。


 ようやく耳鳴りが落ち着いたのか、アトレアも剣を握り直し表情を引き締めていた……

遅くなりましたm(_ _)m


ようやく仕事が落ち着いてきましたので、投稿再開です。

ただ、ストックが全くないので暫くは隔日ないし不定期の予定です。

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