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状況開始とどよめきと

 M240の射撃が終わると、分隊による小銃射撃に移る。

小銃の単発射撃では迫力に欠けるとの意見が教官会議で出たことから、分隊による一斉射撃を行う事になっていた。


 革鎧に金属鎧それに厚手の木の板から作られた標的など、様々な的が五十メートル程の距離で並べられている。

観覧席から程近い所に展開した分隊が、一斉に射撃を開始して雷鳴のような射撃音が鳴り響く。


 これには、歴戦の軍人達や度胸の据わった諸侯も、耳をふさぎ身を縮めていた。


 時折標的の金属鎧から火花が散るが、それ以外には小さな穴がどんとんと穿たれ、肉眼でも容易に穴の存在が確認できるほどだった。


 銃声の残響と衝撃波の余韻が未だに残る中、分隊員達は早々に車両に戻り、あっという間に反転した高機動車は遠ざかってゆく。

その代わりに駆け足で前川一曹の周辺に集まってきたのは、SCAR-Hを携えた選抜射手二名だった。



「さて、銃の威力はご理解頂けたと思いますが……

次に、その精度をご覧頂こうと思います。小銃の精度や射程は、銃の種類によって変わってきます」


 そう言うと、隊員が先ほど小銃射撃で使用した厚板で作られた標的を持って、前川一曹の元に駆け寄ってくる。

その標的はまっさらな新品である事を、観覧席の目前で掲げ歩きながら、観客たちに見せて回る。


 その後、標的は客観性を保つため親衛騎士団の騎士が、馬で二百メートルほど離れた旗の位置に刺し地面に固定する。

標的を設置後、周囲の安全を確認した前川一曹が、地声で号令を発する。



「目標、射手正面の的! 伏せ撃ち、姿勢点検はじめ!」



 二名の選抜射手は、号令を復唱しながら流れるように地面に伏せ、射撃姿勢を取り挙銃する。

姿勢や姿勢を微調整しながら、最適な射撃姿勢を探し出し地面と体、そして銃を適切な位置で固定してゆく。



「姿勢点検やめ! 五発弾込め!」



 その号令で弾倉を挿入しコッキングハンドルを引き、初弾を薬室に装填する。



「弾込めよし!」


「右方よし、左方よし、射撃用意ーぃ!」


「撃て!」



 既に銃がもたらす射撃音の大きさを、身を持って理解した観客は、その号令を聞くと殆どが手で耳をふさいでいた。

一呼吸置いてM4よりも大きく低く響く射撃音が、圧力となって観覧席に襲いかかる。


 低倍率のスコープに映し出されている標的を覗きながら、射手は、淡々と銃弾を標的に送り込む。

程なくして最終弾が発射され、残響を残して再び周囲に静寂が訪れた……


「射手、弾抜け、安全点検!」


 射撃の結果も気になるが、それよりも観覧している軍人達は、その滑らかに統率のとれた動きに目を見張っている。

如何な軍の弓の名手であっても、あれほどの練度や統制の取れた動きはできないだろう。

ある程度、射手独特のリズムや癖があり、弓による狙撃ならばそのタイミングは、射手に任される事になるからだ。


 再び、親衛騎士団の騎士が馬で標的の回収に向かってゆく。

誰もがその後ろ姿に痛いくらいに視線を集中させて、射撃の結果を待ちわびていた。



「馬上から、失礼致す!」


 そう言って前川一曹に標的を手渡した騎士は、そのまま後方に下がっていった。

再び、介助役の隊員が標的を持ち、王の座る中央の観覧席から、左右に分かれて射撃結果を観客達に示していった。

それを見た観客達は一様に驚きの声を上げ、標的とそれが設置されていた旗の位置までの距離を見比べている。


標的には正確に胴体中央部に三発、そして頭部に二発の弾痕を刻んでおり、7.62mmの穴が穿たれていた。



「それでは暫し休憩を挟み、その後、後段演習を実施致します!」


 そう締めくくった前川一曹は、周囲の動揺や喧騒を他所に、ハンドマイクを地面に置くと、王そして白山に向けて正対し敬礼を行う。

立ち上がった白山は、前川一曹に対して答礼を返すと、そこでようやく観客達は一息ついたようにざわつき始める。


 その内容は初めて見る現代兵器の威力や、滑稽な訓練をしていたと聞いた研究隊が、恐ろしい部隊だと緊迫感を持って話す声など……

観客席の反応は様々だった。


 中には自分の従卒に意見を求め、あれに勝つ術はあるかと聞き、それに弱々しく首をふる主従の姿も見受けられる。



 その間に隊員達は、3トン半に資材を積み込むと、忙しく後段演習の準備を進めている。

五百メートル程先に兵士に見立てた藁束を複数立てると、瓦礫や木々のように塗られた衝立を立ててゆく。

更には手前に複数の丈の短い衝立で区切りを作ると、その中に標的を立てていった。


 飲み物が配られ、ようやくざわめきや相談などが落ち着いた観覧席では、声を潜めて次は何が始まるのかと、囁き合っている。



 水分を補給して一息ついた前川一曹が、再びハンドマイクを手に観覧席の前に進み出る。

否が応でも注目が集まるが、それを意に介さず前川一曹は再びハンドマイクで説明を始めた。



「さて、前段演習では部隊の保有する個別の武器について、ご説明させて頂きました。

後段ではこれまでに説明した武器を如何に使用して、戦闘を展開するのかを展示させて頂きます!」



 そう言うと、再び後方からエンジン音を響かせて二台の高機動車と、一台の三トン半が会場に進入してくる。



「これまでご説明した各種兵器は、それぞれ射距離や用途が異なります。

それらを組み合わせて、火力により敵の攻撃意思をくじき、見方の接近を助け、突入により敵を制圧します

本日は一連の流れの他に、至近において敵陣地および、室内の掃討についてもご覧頂きます」



「状況開始!」



 その一言で弾かれるように3トン半の後部から隊員が飛び出し、60mm迫撃砲を四門組み立て始める。

弾薬箱を運ぶ隊員や砲を据え付ける隊員、そしてレーザーにより基準線を割り出してゆく。


 その横では、リック軍曹がM23 迫撃砲弾道計算機を使用して、目標までの距離を計算していた。



「現在正面奥に見える、陣地及びその周辺に敵の中隊規模の部隊が確認されました。

これより小隊は、正面の敵を無力化しつつ、敵占領下の陣地を奪取します!」





「こちら迫分隊、射撃準備完了!」



「小隊長、了解……

小隊はこれより前方敵占領地を奪取する。 迫分隊 こちら小隊長 攻撃準備射撃、開始!」



 無線の音声をスピーカーで流していた前川一曹は、ここでマイクを再び手に取り説明を加えてゆく。


「攻撃準備射撃とは、部隊の前進を支援する攻撃で、敵前面に対して遠距離から攻撃を加え、敵の前進や反撃を阻止する射撃となります」


 その言葉で、観覧席の視線が迫撃砲に注がれ、その中で弾薬箱を開けて砲弾を取り出した兵士は、「準備よし!」と大声で分隊長に伝える。

一分一秒を争うような鬼気迫る隊員達の動作と表情に、観覧席の面々は固唾を呑んでその様子を見守っていた。


 金属製の弾薬箱から、手のひら大の砲弾を砲口から半装填した隊員は、リック軍曹が計測する時計のタイミングと振り上げられた手に注視している。

時計の針が所定の秒数を刻んだ瞬間、リック軍曹の手が迷わず振り下ろされた。


 その瞬間、再び ガキン! という金属的な発射音を響かせて四門の迫撃砲が火を噴くと、砲弾が一瞬だけ上空に飛んで行くのが視認できた。



「迫分隊 攻撃準備射撃 初弾発射!」


「初段弾着、五秒前」


「弾ちゃ~く……今! 攻撃準備射撃 開始……」



 その声と同時に、観覧者達には遥か遠方に見える敵陣地に、着弾の僅かな爆発の発光と、土色と黒煙の混じった着弾の煙が見え、一呼吸遅れて着弾音が腹に響いてくる。

その様子にある者は戦慄し、そしてある者は興奮を覚えてじっとその光景を見つめている。

すでに声を発する時期は過ぎ、誰もが口を半開きにしながら黙って目の前の光景を目に焼き付けていた。



「小隊長、了解!

小隊はこれより敵陣地を制圧する。高機動車は左右に展開し射撃陣地を占領、重機関銃で分隊の下車戦闘を支援せよ!」


 命令が下ると、高機動車が猛然と前進してから、両手を広げるように左右に分かれ、射撃を開始した。

その間も迫撃砲からは、断続的に砲弾が発射されており、弾着点は巻き上げられた土煙によって見えづらくなっていたが、その中へ重機関銃の曳光弾が吸い込まれるように消えてゆく。

曳光弾の弾頭が、時折あらぬ方向に飛び跳ね、まるで花火のように散っていた。



「こちら小隊長 各分隊は降車し、攻撃前進を開始せよ!」



 その号令で、高機動車の後部ドアが展開され、完全装備の分隊員達は姿勢を低くして横に展開すると、標的方向に銃を向ける。

ベルトリンクをセットした隊員達が、M240の射撃を開始して、二種類の銃が協奏曲を奏で始めた。

機関銃の支援の下で、分隊は交互躍進の要領で連携しながら、ジリジリと相手の陣地に向けて迫ってゆく。



「迫分隊、こちら小隊長、間もなく各分隊は敵勢力の弓矢の射程圏内に突入する。 発煙弾要請!」


「迫分隊、了解!」


 このやりとりは、観覧者達にも伝わったらしく何が始まるのかと、身を乗り出して分隊の動きを観察している。

迫分隊は、その命令で即座に弾薬の種類を変更して、発煙弾を敵陣地に投射していった。


 これにより、それまでは土煙や爆炎だけで、かろうじて見えていた敵の陣地が濃密な白煙に包まれ、一気に見えなくなってしまった。

その様子に驚きの声が上がり、「あれは、毒か?魔法なのか?」などという声が上がり始める。


 その間にも、各分隊は着実に前進して行き、攻撃発揮位置から、あと半分ほどで敵陣地と言う所で、新たな号令が掛かる。



「小隊長、こちらFO(観測班) 敵陣地右手に増援と思われる新たな敵勢力を確認!」



 その無線をスピーカーで流した前川一曹はすかさずナレーションを入れた。


「右手を御覧下さい。敵の増援部隊が部隊の接近を阻止する為にこちらに接近しております!」



「こちら小隊長 A<アルファ>分隊は、無反動砲及びM72で敵増援に対処せよ!」


「分隊長、了解!」


 その号令で右側に展開していた分隊員から、カールグスタフ無反動砲を背負った隊員とその弾薬手が隊員の後方を迂回して最右翼に取り付いた。

同じようにもう二名の隊員が背中にM72を括りつけており同様に、右翼へと走りこむ。



「後方確認よし!射撃準備よし!」


 最初に射撃準備が整ったのはM72を肩に担いだ隊員達だった。

互いに密着するように目標方向を指向した二人は、後方の安全を確認すると分隊長に準備完了を告げる。


「撃て!」



 分隊長のその号令と同時に、派手な後方爆風が地表を舐めるように広がり、地面から湯気のように埃が舞う。

弾丸とは異なり目で追える程度の速度で古くなった馬車がまた餌食になる。

榴弾はその効果を遺憾なく発揮して馬車を粉々に吹き飛ばし、木くずが上空に飛散していった。


「開放よし、砲腔内よし、ノッチよし、装填! 閉鎖よし! 後方よし、射撃準備よし!」


 M72の射撃シーンに観覧者達が度肝を抜枯れている間に、プラスチックコンテナから弾薬を抜き出し、装填を完了したカールグスタフが射撃準備を整え、目標にその砲口を向けていた。

ニーリングの状態で、こちらも密着した状態で弾薬手が後方のラッチを操作して、HE 441B榴弾を込める。



「分隊長! 84無反動、射撃準備よし!」


「分隊長、了解! 続けて撃て!」



 号令により、M72よりも派手な後方爆風と発射炎を残し、目標周辺に飛翔する砲弾は、機械式信管によって正確に馬車の上空で炸裂し、約八百発の鋼球を周囲にばら撒いた。

その所為で馬車があった周辺には広範囲に土煙と衝撃波が広がり草木をなぎ倒す。


 本来であれば、右翼の高機動車に搭載された重機関銃を、横に振り向けるだけで事は済んでしまうのだが……

そこは総合演出である前川一曹の考えによって各兵器に出番が準備されていた。




「こちら、A分隊長 敵増援を撃破! 引き続き主目標への攻撃を継続する!」


「小隊長、了解!」



 そうしたやりとりを無線で流した後、各分隊はようやく白煙の中に突入していった……

ようやく迫分隊が発射した発煙弾の煙が薄れ始め、銃声が散発的になってきた頃、無線が鳴り響く。


「分隊長より小隊長! 目標地点を奪取、敵を制圧!」



 その声がスピーカーから聞こえた瞬間、大きなどよめきが観覧席から起こる。

そして王を中心とした首脳陣がパラパラと拍手を送り始めると、その波はやがて左右の観覧席にも伝播してゆく。


 観客達が総立ちになって拍手を送る中、煙の中から攻撃主体となった分隊員達の姿がゆっくりと現れ始めていた……



 その姿はまるで、神話のように参加者達には見えたようで、感動なのかあるいは別の感情なのか……

はたまたホコリが目に入ったのか、涙を流している者すら居た。



拍手が鳴り止まぬ中、ゆっくりと前川一曹がハンドマイクを口元に寄せる。



「状況終了!」



 その一声で、更に歓声と拍手は大きくなり、予想外のリアクションに前川一曹は少し驚いた様子で、頬を掻きチラリと白山に視線を投げかけていた。

それに気づいた白山は、大きく頷くと判りやすいように軽く親指を突き上げた。


 それを見た前川一曹は、少し息を吐きだすと不敵に微笑み、歓声に負けない声でハンドマイクに声をぶつけた。



「一連の動作はこれにて終了ですが、より間近で隊員達の練度をご確認頂きたいと思います!」



 その言葉は、この演習のラストになる格闘訓練展示と、突入要領の展示が始まることを示していた…………


84の号令がイマイチ思い出せない。

多分合ってるよなぁ……

なにせ随分昔の教育でしたので(笑)


ご意見ご感想、お待ちしておりますm(_ _)m

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