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馬車と機関銃と男達 ※

ちょっと引っ張ります(笑)


 白山は、一連の動きがクーデターの動きなのか判断がつかなかった。


この世界…… いや、この国に関する情報が少なすぎて、王の暗殺計画だと断定できずにいた。


だが、白山の脳裏には緊急事態だと告げる予感が、大きく警鐘を鳴らし続けている。

そして移動と帰還に対して、ここで自分が介入する事への影響がどうなるのか、不確定要素が多く明確な行動指針が出せない。



「迷った時は、自身の正義に照らして日本人として、恥ずかしくない行動をとれ」



ふと、今回の任務の出発前に、群長から訓示された内容が頭をよぎった。


これまで白山達は、神妙な顔でその言葉を聞いていたが、その言葉の裏にある「ただし、責任は自分で取れよ」

という暗黙のルールを思い出し苦笑しながらも、命と法律と倫理のスレスレのラインで任務を実行してきていた。


そんな言葉を思い出し、自分に出来る事と今後を考えてから肚をくくる。



「必要なのは、肚決めと覚悟か…… どこの世界でも変わらんな」



そう、自らに言い聞かせるように呟いた白山は、悩みを吹っ切るようにタブレットに目を向けた。


上空を旋回しているレイブンを、呼び出しIRカメラに切り替え、間近に存在する脅威となる可能性がある男達に向ける。

IR画像は鮮明とは行かないが、ある程度相手の勢力を写していた。


すると、概ね10人前後のグループが3つ確認できる。

先ほどのCTRでの位置関係では、最前列は槍を持った人間でその後は弓を持っていた。

槍を持つグループの少し横に並んでいることを考えると、おそらくは同時に突撃するのではないかと白山は推測する。

バードアイで偵察した地形情報を別に呼び出し、今の配置を当てはめると……


弓兵の位置からして、援護だろうと当たりをつける。



ただ、通常アンブッシュでは何らかの手段で目標の足を停める、ないし分断して目標に火力を集中させるのがセオリーだ。

しかし、先程偵察した限りでは遮断や分断に使用されるらしき装置や手段は発見できなかった。


レイブンのIR画像にもそれらしき姿は写っていない。

「ふむ」と目を凝らし、レイブンの画像と地形情報を交互に見比べる。


すると、林の中が奥まった地点に何か円形の物体らしきものが微かにIR画像に見えた気がする。

その地点の地形情報は僅かな窪地だ。何か遮断に使用するブツを隠匿するにはうってつけだろう。


ああして、隠匿するとすればこの作戦には欠かせない大切な切り札なのだろう。

爆薬のたぐいか、油だろうか?


射撃を見せた時のクローシュの話では、まだそれほど火薬は出回っていないという。

それならば後者だろう。


遮断のために使うのが木や岩だとすれば、あそこまで丁寧に隠匿する必要はない。

だとすれば、弓兵が援護に付いているのも納得できる。


油の樽かツボを落とし、火矢を射掛けるのだろう。




そこまで相手の手段が判った所で、白山はそれを予防なしい防ぐ手段を検討する。

幸いにして王の馬車は、その隊列と人数から足は遅い。到着までは約2時間ほどあるだろう。


相手が火計を講じているとすると、策を実行されてから救援や警告を発しては間に合わない。

それなら、今の段階でこちらから攻撃を仕掛けるのは……



いや、万一彼らが警備を行う人間であった場合や、王からの密命でもあったら目も当てられない。



そうして、考えていた白山は男達への警戒態勢を整え、攻撃の兆候が確認された時点で支援に回るしかないと結論を出す。

法体制が確立する前に行われていた自衛隊の部隊が襲撃への割り込み直接攻撃を無理やり作り出す手法や、駆けつけ警護の議論を思い出し、僅かに苦笑する。



冷静に考えると約30対1であるが、距離と武器の理があって奇襲の要素もこちらにある。

戦闘前の独特の緊張感はあるが恐怖心は、あまり感じていない。



問題は人数だけだ。M4では少し心許ない。



白山は、窪地の横から高機動車の助手席に回り、マウントに据え付けられたM240を取り外す。

11Kgの重量がずっしりと頼もしい存在感をもたらしてくれる。


上部に載せられたELCAN(照準器)のカバーを外し、覗きこむと異常の有無を確かめる。

同時に装弾ハンドルと給弾トレイカバーを確認し、銃身の固定が確実かを見た。


本来、助手席のマウントには5.56mmのミニミが装備されていたが、荒野での任務において射程が短い事が問題になり、緊急調達で配備された。


Sならではの柔軟な調達だった。



弾薬箱から100発ベルトリンクを4本取り出し、折りたたんで肩がけの布袋に詰める。

400発のベルトリンクはこれも重量感があり、ずっしりと白山の肩に食い込んだ。


遠距離火力としては、M2を使えれば理想なのだが、高気動車を移動させなければならないし トライポッドもない。

まして、40kg近いM2を白山単身で運搬するのは無理がある。



白山はM4をスリングで背中に回し、首からM240をかける。

武器装備だけで20kg以上の重さだが普段からこれらに加えて30kg以上の重さがある背嚢を背負い、訓練を積んでいる白山にとって見ればさしたる問題ではなかった。


タブレットを無造作に太もものポケットに押し込んで出発準備は整った。

まず白山は街道とは反対方向の、昨夜窪地に侵入してきた方向に向かって進み背後にそびえる小高い山にアプローチを始める。


白山は先ほどのCTRで、機関銃陣地としては遮蔽・隠蔽物が少なく左右の射角が取れないと判断していた。

その為、射距離はやや伸びるが少し小高い背後の山に目をつけていた。



急な傾斜を着実な足取りで体と装備を上に押し上げていく。

程なく一番高い場所にたどり着いた白山は眼下に見える光景をじっくりと観察し、更に周囲に目を走らせる。

相手は火計を用いるつもりだと推測している白山は、火矢や油を落とされる前に仕掛ける必要があるが、仮に火計が失敗になった場合、男達が撤退するのか強行するのかも検討しなければいけない。


そうすると、街道を通る馬車や騎乗の騎士が射界を遮らない角度を探す必要がある。


必要な要素は、「高さ」「視界」そして「防護と隠蔽」だが今回は、防護に関しては度外視していいだろう。

相手の弓矢は最大でも200m程だ。600m以上離れた現在地点には届かない。


今の位置から少し降りた所、15mほど左に丁度いい張り出しがあり、そこの具合がよさそうだった。

街道や見下ろす形になる対岸の林からは、下に生えている樹木が視界を遮るがこちらからの見通しは良い。


姿勢を低くしてその張り出しに移動した白山は、膝をつき双眼鏡で目標となる男達を見る。

CTRの時は見えなかったが、この位置に来ると海岸線が見え岩場に小舟が何艘か泊まっていた。

恐らく、男達は小舟で林の中に移動してきたのだろう。


もし、白山の到着が少し遅れていたら彼等に、自身の存在が露見した可能性があったかもしれないと思いヒヤリとする。


双眼鏡で男達を観察した白山は、機関銃射撃で必要になる目印を探し双眼鏡を走らせる。

機関銃は面制圧を行う兵器で小銃やスナイパーライフルの様に点を狙う銃ではない。

その為、目標とする印をおおよそ決定しておき、それを目印にエリア制圧を行うのだ。


遠距離では特に点を狙う様な精緻な照準ではなく、照準器の視界に弾をばら撒く感覚に近い。

ゆっくりと張り出しに伏せるとM240を前に据え、2脚を安定させる。

高さと位置を調整し左右の振り幅を確認する。男達が潜んでいる箇所と予想される展開範囲は射界に収められる。


姿勢が落ち着くと、日差しを避け、シルエットを隠すためにメッシュネットを広げて体にかける。


先程レイブンで見えた先触れはまだ見えない。だが、街道を行き交う人は途絶えている。


到来は近いだろう。


しかし解せないのは、この国はそこまで政情が不安定なのだろうか?

それに、ここの位置は次の街までは相当距離があり、次の都市までは到達できない可能性がある。


一国の王が野営するのか?

何らかの勢力の意図が関係しているのか。この先、国王の一行を助けた後どうするべきか?


先の見えない疑問が現れては消える。

ただし、王都へ移動してから帰還に関して何らかの、手がかりが入手出来る可能性は広がるだろう。


行き当たりばったりの状況は、綿密に計画を練ってから動く国防軍(自衛隊)の軍人としては、些か違和感を感じるが、特殊作戦の世界に入ってからは、計画通りに物事が進まないのは慣れっこだ。


柔軟な思考と感性で乗り切るしかない。

現状で考えるなら国内に動乱が発生すれば、移動や情報収集にも支障が生じる。

国王の協力で帰還に関しての情報入手に便宜を図ってもらえる可能性もある。


ただ、この世界の軍や貴族とは一定の距離感を保ち、様子を見る必要はあるが……



そんな漠然とした思考を浮かべながら、手は別の生き物のように準備を整える。

布袋から7.62mmの鈍色に輝くリンクを取り出し、糾弾トレイにセットし発射体制を整える。

後は、ハンドルを引き初弾を送り込めば、発射準備は完了となる。


双眼鏡を覗くが南の街道にまだそれらしき姿は見えない。

視野を対岸の林に向けて、焦点を調節する。男達もソワソワと焦れてきている。


「練度的にはそれほど高くはないな」と、男達の現状を見ながら白山は思うが、ふと思い直す。

この世界では、軍事的な常識や統制はそれほど発達していないのだろうかと考え直す。


アンブッシュで一番重要な要素は、忍耐。つまり待つ事だ。

不用意な動きや長期間の待機で発生する兆候から、ポイントが特定される事は珍しくない。

そして、目標がキルゾーンにしっかりと入るまで攻撃を我慢する事が、成功の鍵になる。


果たして、対岸の男達がそれほどの忍耐を持ち合わせているか、その点も見極めなければいけない。



ふと、白山の耳に馬蹄の音が響き始める。双眼鏡を南に向けると先程画像で見た先触れが旗を誇示しながら、こちらに向けて走ってくるのが見えた。

うっすらと土煙を上げ走ってくる騎馬は汗が光り、金属鎧を着た騎士とも相まって威容を醸し出している。



「来たな……」


白山はつぶやくと、時計を確かめる。

レイブンの画像で距離を確かめていた白山はざっと計算する。


先触れが通過してから、馬車の速度を考えるとおよそ30分で到着する。

双眼鏡を林に向け男達の反応見る。


やはり、先触れの姿を見て数名が林の奥に向けて動き出す。

どうやら襲撃対象の予測は間違いないようだ。


先触れの騎士がカーブを通りすぎて徐々に遠ざかる。

その姿を確認したのか男達の動きが慌ただしくなってきた。

カーブの終わり際と入り口に木製の樽が複数準備され、弓を持った人間も樽の近くに移動した。



よく見れば、布を巻きつけた火矢を取り出し備えているのが判る。

詳しい表情は読み取れないが、戦闘前の緊張感が伝わってくる。100名近い騎士が防護する王の隊列に、寡兵で飛び込むのだからその緊張感はかなりのものだろう。


白山は装弾ハンドルを引き、初弾を送り込みM240をホットにしてセーフティをかける。

本来は攻撃の直前に装弾したいのだが、今回は事情が違う。


M240に取り付けられたELCAN(照準器)は3倍率で林の中の詳しい状況を把握するには、双眼鏡を使用しなければいけない。

すでに、情況証拠的には攻撃可能だがここで攻撃するには、白山の立場を考えるとギリギリのタイミングで実施する必要がある。


襲撃を実行した事を王の隊列に認識させ、それに白山が介入したと言う印象を与えなければ、戦闘後に不味いことになる。



戦闘は色々な要素で発生するが、偶発的な自衛戦闘以外は何らかの意図や利益のために発生する事が殆どだ。

白山は、今この世界に来てから初めて自衛戦闘以外の戦闘を行おうとしていた。


それには、白山の意図と利益が明確に判る様、戦闘を誘導しなければならない。



大勢の騎馬が巻き起こす土煙が薄っすらと南に見え、続いて先陣を切る10数騎の騎士が林に潜む男達が設定したキルゾーンに近づく。

ゆったりとしたスピードで、隊列は北に向かう。


白山は双眼鏡を林の中に向け、その動向に注視してゆっくりと戦闘に思考を切り替えていった。


隊列はレイブンの画像と変わりなく、前後を50・50の騎士に囲まれ、後部に従者と思しき馬車が追従している。

隊列の長さは、最後尾まで200mを超えている。


そのうねりが、徐々にカーブに向けて進んでゆく。


白山は、左手をM240に添え右手で双眼鏡を見つめ続けた。


間もなく、このカーブは悲鳴と怒号が飛び交う戦場になる。

チリチリとした後頭部の感覚に、神経を研ぎ澄ませていた…………


次話は、27日2200更新予定


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