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召喚と苦手意識と経歴と

 白山に声をかけられた教官達が、一緒に表に出て召喚に立ち会う事になっている。

午後のはじめに物品と車両の召喚を実施して、その後別室で医療スタッフの召喚を行うことになっていた。


 今回召喚するのは、73式大型トラック…… 通称三トン半が二両 そして高機動車が一台だった。

本来は高機動車ではなく、連絡用に1/2tトラックを考えていた白山だったが、自身の高機動車との整備性と、運搬人員数を考慮して変更していた。


 これだけで二十柱近い魂を消費するが、食事中のフロンツとの話で、幾分気が楽になった白山の心境はだいぶ落ち着いていた。


 その他、決済の降りた物品も召喚するため、教官達と分担してそれらの荷物を、倉庫に運び込まなければならない。

一部の細々とした物や重量物には、訓練生の手も借りる必要があるかもしれない。


 ただし、先に車両を召喚して運搬するため、これまでの手搬送に比べればだいぶマシだろう。



 ドリーとフロンツそしてウルフ准尉が、少し遅れて召喚の現場である本部の裏に造られている射撃場に集まる。

ウルフ准尉はSCAR-Hを携行しており、ラップトップの奪取について警戒していた。



 召喚の際はなるべく人目につかない場所で実施することを、少し前にミーティングで申し合わせていた。

機密保持と安全管理上、召喚の場所などを限定する事にし、その手順などを決めている。


 河崎三曹と田中二曹が、警戒のためにM4を手にして土手の上に陣取り、周囲を警戒している。

これも策定された警戒手順によるものだ。


 召喚用のラップトップは白山達にとって生命線であり、同時に弱点にもなりうる。

これを奪取された場合、部隊の継戦能力が喪われるだけでなく、この世界に災厄を招きかねない。


 米国の大統領が常に携行する黒いブリーフケース、所謂『核のフットボール』並に警戒を要すると考えていた。

基本的には基地から出さず、操作は一部の例外をのぞいて、白山が行う事になっている。


 そして、保管は大型の金庫を召喚しており、使用時を除いてそこに収納する事にしていた。

以前王宮の執務室であった侵入騒ぎでは、この時代の諜報員は南京錠や現代の錠前には、歯がたたない事は判明している。

しかし、物理的な手段に訴えられたら不味い。


 そこで、大型の金庫を複数召喚して重要書類やラップトップなどを収納する事にしていた。

今後はクリアランスレベル、つまりは機密保持の体制についても検討することになっている。



 ドリーが白山にラップトップを手渡すと、白山はラッチを開いて、徐ろにその電源を入れた。

軽いファンの音が響き召喚プログラムが起動する。


 設定していたリストを呼び出すと、その中から車両と物品を選択し、迷わずに召喚開始をクリックした。

カリカリとハードディスクの駆動音とファンの回転数が大きくなり、やがて周囲に光の粒子が集まりだす。


  挿絵(By みてみん)



 すでに教官達とは何度か物品召喚を実施しており、彼らにとっては見慣れた光景だろう。

しかし、同席を許されたフロンツにとっては初めて見る光景であり、険しい表情で光の粒子にじっと目を凝らしている。

そして何事か呟くと独り頷き、そしてまた食い入るように光の集まる様子を見つめていた。



 程なくして、召喚された車両と物品が射撃場の地面に姿を現して、急に重力を感じたように軽く揺れ、サスペンションが軋んだ。

その周囲には、今回呼び出した弾薬や追加の物資などが点在しており、光の粒子が収まると、低くなった冷却ファンの音と共に周囲に散っていった……


 白山は合図を出すと、軽く手を上げた山城一曹が車両に近づいてゆく。

タイヤとステップに足をかけ、運転席に登るとキーが刺さったままになっていると報告してくれた。

良かった…… 車両のキーを別に召喚しなければならないとすれば、二度手間になる所だった。


 山城一曹は一旦降りて各部を確かめると、再び運転席に収まりエンジンを始動させる。

低い音とともにエンジンが無事にかかり、嗅ぎ慣れたディーゼル排気の匂いが周囲に漂い始めた。


 白山は射撃場の入口を腕で示すと、山城一曹に試運転を伝達する。

手を振ってそれに答えた一曹が、サイドブレーキを解除して、大きな車体をゆっくりと動かし始めた。


 その様子に、先程まで真剣な表情で召喚を眺めていたフロンツが、あんぐりと口を開いて車両を眺めている。

その横でドリーが何事かを囁き、それでようやくフロンツも正気に戻ったようだった。



 程なくして、山城一曹が運転する車両が戻ってきた。

どうやら運動場代わりの牧草地を一周してきたようで、タイヤに土の跡が付いていた。


 大きく頷き親指を立てた山城一曹の仕草に、手を挙げて答えた白山は、一息つく。

これまでの召喚で人間や物品に関しては問題なく召喚できているが、車両は初の試みだったのだ。


 とりあえずは問題ないようで一息ついた白山は、その場の荷物運搬作業の指揮を、山城一曹に任せる。

ドリー、そして警備のウルフ准尉とフロンツを連れて本部に引き返す。


 今日の最大の山場である人物召喚を、これから行わなければならない。

それには色々と下準備が必要になってくるのだ。


 ドリーに手伝ってもらい、衣類やこれから召喚されてくる人物へ渡す説明用の資料を揃えて、おおよその準備は整った。



今回の召喚は厄介だった……



 召喚の説明はドリーが行う事になっていた。


なぜなら全員が女性だからだ……


 どうしてこうなったかと言えば、リストに存在している医療関係のリストが元々少なかったのだ……

さらに高齢の者も多く、白山達の求める能力を満たす人材が少なかったせいでもあった。


 そこで召喚自体は、白山が実施するが最初の説明と衣類の提供は、ドリーが行う事に落ち着いた。

まあ、ドリーもああ見えて仕事をする時は真面目にこなすので白山は心配こそしていない。


何故か一抹の不安が残るのは、ドリーの性格ゆえだろうか……



 そんな事を考えながら、召喚用の部屋に入った白山は、机の上にラップトップを置くと、人物用の召喚リストを開いた。

白山が迷わず召喚実施をクリックしようとした所で、何か作業をしているドリーに腕を掴まれて止められてしまう。



「ちょっと待って! まだこっちのセッティングが終わってないの!」



 見れば、ラップトップの冷却ファンの近くにファイバースコープを押しこみ、それをカメラに繋いでいた。

同時に召喚実施方向にもヘルメットカムを設置しており、自分のパソコンと接続すると何やら作業をしている。



「お前、召喚の場面や召喚者の裸でも撮影して、脅しにでも使うつもりか……?」



 ドリーは、カタカタと膝の上でキーボードを打っていたが、小さくため息を吐くと、やおら立ち上がり笑顔で白山に近づいてくる。



そして、その後頭部をおもいっきり引っ叩いた……



「そんな訳無いでしょ!

粒子の解析と、ラップトップの作動部位確認に決まってるでしょ!」


 一瞬だけ表情を変えて白山の反論を封じたドリーは、そう言うとツカツカと元の位置に戻って、またキーボードを叩き始める。


「まったく……私がそんな事する訳が無いじゃない…… まあ、個人的には……して…………」



 白山は頭をさすりながら、何かドリーが後半小さな声で呟いた気がするが、それ以上の追求をやめた……



 パタンと最後にエンターキーを押し込んだドリーは、「いいわよ!」と、白山に言葉短く準備が整った事を告げる。


 打ち合わせでは召喚を実行した後、白山は一旦退出し廊下で待機する事になっている。

そして召喚者達の準備が整ったならば、再度入室すると言う事になっていた。


 白山は軽くドリーに頷いてから、召喚実行をクリックすると、冷却ファンの回転とともに周囲に粒子が集まってくる。

それを見届けた白山は、ドリーに叩かれた頭に手をやりながらドアへと向かった。



 この後は具体的な説明と、王都への見学ツアーが待っている。

教官連中の話では、やはり実際に見た王都の光景が、話を信用させるには一番効果的だと言っていた。

その為、説明は最低限として早々に王都へ向かい、それから白山の屋敷で今後についての話をする事にしている。


 やはり経験者の話は非常に有用で、素直にそれを受け入れた白山は、昨夜のうちに執事のフォウルへ、宿泊者が来る事を伝えていた。



 廊下に出た所で、壁際にもたれ周囲に視線を走らせていたウルフ准尉と白山の目が合う。

その目線が、ドリーのお転婆ぶりを聞きつけた事を物語っており、お互いに苦笑してしまった。

白山と准尉が、並んでドアの方向へ視線を向けてる。


 ここ数日で、ドリーに対する准尉の忌避感情というか、苦手意識がだいぶ薄らいでいた。

それは先日の実戦任務で基地でお互いの仕事ぶりを、間近で見た事が影響しているらしい……


 それまでは書類のやりとりでも、間に誰かを挟むほどだったのだが、最近は准尉が自らドリーとの接触機会も多い、この警護役を引き受けていた。


准尉曰く、昔の上官を殴られた事で仲間意識から、わだかまりがあったがあの仕事ぶりを見て考えを改めたそうだ。


 人が増えれば、人間関係にも心を砕かなければならない。

一人で召喚された頃の気楽さがそう思わせるのか、今の負担が軽減された状況でも、何かしらの悩みは尽きないなと、白山は感じていた。

軍隊という大所帯で暮らしていたはずなのに、随分と心情が変化したのかな? と、白山は天井を見上げながら自嘲していた……



部屋の中からは、何かドリーの話し声が聞こえ始める。



どうやら召喚は無事に成功したようだった……



********



 今回白山が召喚したのは、四人の女性だった……



 ポーラ・カービー

アメリカ海軍 病院船 マーシー所属 大佐 白山達の中では今の所最上級者になるだろう。


 ジョンズ・ホプキンス大学卒業後 心臓外科医として勤務 その後海軍に入り、空母勤務医として乗艦

六年の勤務後に、紛争地域での医療活動に従事していた。その後、予備役として 病院船マーシーに乗船する。

しかし、運び込まれてきた精神疾患者の錯乱により、刺殺された。


 資料と実物を比べると、妙齢の女性と言う言葉がよく似合っており、ショートヘアの金髪と細身の体が印象的だった。

恐らくジーンズとラフなTシャツがよく似合うだろう。



 次がソフィー・バートン 二五歳というには、若く見える印象だった。

それほど身長は高くないが、黒髪のボブカットと相まって、柔らかく可愛らしい印象を与えていた。

カリフォルニアの救急病院でER勤務後に、自分を変えたいと志願して海軍に勤務。


 アメリカ海軍 第7艦隊 マキン・アイランド所属 これでもれっきとした 兵曹長だった。

PA(フィジシャンアシスタント、医師助手)資格を前職のER時代に取得しており、その後海軍でCRNA(看護麻酔師)資格も取得している。


 その、かわいい外観とは裏腹の才女だ。

その階級はこうした資格の多彩さと、実勤務の経験に裏打ちされた証左だろう。


しかし彼女は、運悪く移動途中のヘリの墜落により死亡している。



 エミーリー・ガスト

茶髪と少しかっちりした体系で、引き締まったウエストラインに出る所は出ている、典型的なラテン系アメリカ人だった。

短い茶髪がその活動的な容姿によく似合っている。


 彼女も アメリカ海軍 第7艦隊 マキン・アイランド所属 の二等兵曹で海軍医療センターの出身だった。

ナースプラクティショナー 通称NP資格を持っている。

この資格は、診療看護師などと言われるが、ちょうど看護師と医師の中間の役割をこなせる資格で、自ら診察や薬の処方も可能になる。

この世界では間者の健康面でのケアと内科診療を診てもらう目的で白羽の矢が立った。


彼女も仲の良かったソフィーと同様に、艦に戻る途中のヘリが墜落し亡くなっていた。




 そして最後が、ロシェル・ソブール

身長はそれほど高くないが、ロングの髪を後ろで纏め団子にしているその姿は、知的な大人の女性といった趣だ。

間違いなくスーツとメガネが似合いそうな印象を受ける。


 彼女は アメリカ陸軍 カリフォルニア陸軍病院所属の 研究医で病原菌研究のエキスパートだった。

専門は感染症だが薬学修士課程も持っている。




 白山達が召喚の人選をしている時に、ふと話題になった事があった。

それは、この世界の細菌やウイルスなどは果たしてどうなっているのかと言う事だった……


 幸か不幸か、白山達や教官達もこちらの世界で風邪や病気にかかった事はない。

果たしてそれが召喚の副産物なのか、単に運が良いのかは判らない。


 だが、以前王都で流行病で大勢の子供が死んだという話を白山が思い出し、これらに対応できる人材が必要だと判断した。

もし、傷を負い感染症にかかっても抗生物質が効かない場合や、未知のウイルスなどが出たらそれに対する対抗手段が必要だった。


そして、その条件に合致し、昨年交通事故で亡くなった彼女に、急遽白羽の矢が立ったのだ……



 全員がドリーの用意した椅子に腰掛けて、間に合わせだが戦闘服に身を包んでいた。

彼女たちを見回してから、白山はゆっくりと口を開く。



「ドリーから、おおよその話は聞いたと思うが……」


全員の視線が、部屋に入ってきて口を開いた白山に集中していった…………



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