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男の尊厳とブリーフィングと


 ある程度の物品を召喚した白山達は、作戦室に定めた広い部屋に入った。

次はいよいよ2度目の人物召喚を実施する事になる。


 ドリーの例を鑑みて、召喚者のデータからサイズを割り出して戦闘服や下着を準備していた。

これから召喚するのは六名の人員だった……


 白山は自身が設立しようとする部隊の特性から、日本国内にとどまらず、米軍からも召喚する予定にしていた。

部隊の垣根を超え、一流と呼ばれる部隊の隊員を召喚して、それらの特性を反映するつもりだった。


椅子に腰掛けて大きく深呼吸した白山は、一括召喚リストに保存した人員を、もう一度眺めた。



 リストを一瞥して確認を行うと、迷わずに召喚開始をクリックする。



 ドリーの時とは違って、アイコンが砂時計に変わり、ハードディスクがカリカリと動く音が響く。

これまでと違った動作に、一瞬だけ不安になるが対処のしようがない。


 やがて、いつもと同じように冷却ファンが回り始め、徐々に光の粒が集まってきた。

一括召喚のせいだろうか……? いつもよりも召喚の速度が遅い……


 焦れるようなペースで、何処からか光の粒が集まってくる。

頭上に集まった光の集合体から、徐々に光が降り注ぎ、人の形になってゆく。


 白山はその光景を目を細めながら見ていたが、光の集合体は金色の大樹を思わせる光景だった。

枝葉の部分が周囲から集まる光の粒で、それが集まり幹を形成し、大地に根を張るイメージで徐々に人間の形が創られてゆく。


 因みに、全裸で召喚されることを前提としてリオンとドリーは、別室で待機している。

この不思議な光景の話をすれば、恐らくドリーは興奮してかなり悔しがる事だろう。


 光の粒が人間の形を成して行き、次第にその奥に肌色の皮膚が見え始める。

不思議なことに人体が徐々に形成されるならば、内臓や骨格から見えても良いはずだが、どうやらその徴候はなさそうだった。



 横たわった全裸の男達が6人並んでいるのは、中々にシュールな光景である……

これが、女性用のストリップバーなら、鍛えあげられた男達の裸体は、それなりの値段が取れるかもしれない。


 などと、冗談を考えながら収まり始めた光の中に、白山は足を踏み入れ、用意していた戦闘服を全員の下腹部にかけて回った。

何となく残念な仕事ではあるが、男としての尊厳を護るためには、致し方ない……



 元の位置に戻った白山は、椅子に立てかけたM4を手に持ち、ギシリと椅子に腰掛けた。

手にしたM4は、万一の用心の為だ。


 ラップトップのFAQには、性格や特記事項として犯罪傾向や性格についての記載もある。

また、召喚時の初期情報のインプリンティング(刷り込み)に関する記載も、詳細に書かれてあった。



 その中には、初期において使命感を植え付ける事が大切だとの記述があった。

この点を適切に対応すれば、召喚者の意志を適切に反映させる事が可能になるとあり、裏切りや謀反についてある程度の予防が可能になると書いてある。


 洗脳のような気がしてあまり気が乗らないが、いずれにしろ現状についての説明は必要なのだ。

その上で、改めて任務への参加意志を聞こうと白山は考えていた。




 召喚が完了したとのポップアップが現れる。

そして、彼らの頭上に存在していた光の大樹は上から徐々に周囲の空間に溶けて消える……

その光景は、キャンプファイヤーで薪が崩れて火の粉が舞い散る様によく似ていた。


程なくして周囲に光の粒子が霧散すると、周囲に静寂が訪れる。



六人の男達が深い眠りから覚めるように、ゆっくりと意識を覚醒させてゆく。



さて、ここからが本番だと白山は気を引き締める。


 最初の男が上体を起こして、自分と周囲の情況を確認するために視線を動かす。

椅子に座った白山と目が合う。


「まずは、服を着てくれ…… 皆が起きたら話をしたい」


そう言った白山は、男の傍らに置いた下着や衣服を指で示してから、他の男達を見回す。


他の連中も頭を振ったり、他の男達に視線を向けており、一様に情況を飲み込めていない様子だった……



「おはよう諸君。 早速だが、ブリーフィングを始めたい。 服を着たら、耳を貸してもらえるかな?」



 白山は膝にM4を置き、上体をかがめて膝とヒジを合わせた格好で手を組んでいた。

その言葉に状況が把握できていない男達は、周囲を見回してから自分達が全裸であることを思い起こし、衣服に袖を通し始めていた……



******



 服を着た面々に白山はまず口を開いた。


「まずは自己紹介といこう……俺は白山浩介 二等陸尉 仲間内ではホワイトで通っている。

所属は、SFGp 特殊作戦群の所属。 諸君らを、ここに呼び出したのは、俺だ……」



 その言葉に、ざわりとした雰囲気が広がり、皆の目つきが真剣になる。

軍人にありがちな、任務の匂いを嗅ぎつけた身の入れ方だった。



「あまり状況が読み込めないが、何らかの理由があるのだろう。

なら俺から自己紹介しよう。


俺はリカード・ウルフ 所属は第82空挺 階級は准尉だ」


ジャーヘッドに刈り込まれた頭髪には少し白いものが混じる灰色の髪とガッチリ引き締まった体が、古参の風格を漂わせている。

周囲の視線がウルフの自己紹介と、周囲を見回す視線を受けて誰かが口を開く。



「前川 高之 一曹 陸上自衛軍 普通科教導連隊の所属だ……」


言葉短く伝えた前川一曹は、知性を感じさせる風貌と、周囲を見回す鋭い視線が切れ者を感じさせる。

細身ながら、上背のある体格は、俊敏さを感じさせ男だった。



「第一空挺団 田中 俊二 二曹だ。 ここは一体どこなんだ……?」


その言葉に何人かが頷き、周囲を見渡す。

石造りの古い部屋は、明らかに現代とは異なっている。

ガッチリとした体躯を窮屈そうに戦闘服に押し込んでいる、浅黒い顔をした田中二曹は、不思議そうに白山に視線を向けてくる。


「説明は、自己紹介がひと通り終わってからにしよう」


そう言った白山は、ニッコリと笑ってから、次の自己紹介を促した。



「ジーン・リック 一等軍曹 31MEU<海兵遠征部隊>の所属だ…… ここは、ヨーロッパか? ずいぶん古い建築様式だな」


 そういっておどけてみせたジーン軍曹は、両の手のひらを左右に振って、さっさと自己紹介をしろよと周囲にジェスチャーを繰り出す。

短く刈り込んだ金髪に細身の体付きは、線の細い印象を与えるが、それでも必要以上の筋力は備えている。



「リック軍曹、俺とどっかで会ってないか? 山城 雅也 一曹 水陸機動団所属だ」


 リック軍曹と握手を交わした山城一曹は、頑健な腕と隆起した上半身に爽やかな笑顔が特徴的な男だった。

海辺でライフセーバーやサーファーとして佇んでいたら、まず女には苦労しないだろう。




「俺で最後か…… 河崎 祐一 三曹 中央即応連隊っす」


 朴訥な印象を見る者に与える童顔の若い男は、このメンバーの中では最年少だ。

だが時折見せる鋭い眼光は、何処か深い水面を思わせるような洞察力を持った視線を走らせている。

これは、一年の大半を海外で過ごす中央即応連隊の中で、実戦をくぐり抜けてきた緊張感が、そんな瞳を産んだのだろうか……



全員の自己紹介が終わると、それぞれが周囲を見渡す者や、白山に視線を注ぐ者など反応は様々だった。



「全員、思い出してもらえるか? ここに来る前、自分が何をしていたか……」



 白山がそう言うと、皆が少し考える素振りを見せた後、険しい表情を浮かべていた。

皆が黙ったままなのを見て、白山が続けて口を開く。


「ウルフ准尉、癌だったそうだな。 前川一曹……行軍中の交通事故、田中二曹はR<レンジャー>訓練中の滑落……


リック軍曹は中東で戦死、山城一曹は水泳訓練中の新人隊員を救出で溺死か。

河崎三曹もPKF活動中の戦死…… もっとも、世論の手前、事故死で処理されたようだがな……」


白山の言葉に、何か苦い記憶を思い出すようにシンと静まった室内に、誰かの声が響く。



「って事は、ここは天国なのか……? それとも地獄かな?」



 明るい表情を崩さず、白山にジョークを言い放ったリック軍曹に、白山は苦笑しつつ話を続けた。


「いや、ここはどっちでもない。安らかに眠っていた所を呼び出して悪いが、どうやらここは違う世界という事らしい」


 そう言った白山は、おおまかにこの世界に呼び出された経緯や、現状を説明しラップトップを皆に見せる。

皆は半信半疑と言った表情を浮かべており、リアリスティックな日常に生きる軍人として、そう安々とは今の現状を認められない様子だった。


 前川一曹などは、白山にあからさまな疑いの目を向けている。

白山は自分が召喚された当初のことを思い出し、少し懐かしく思いながらも、考えていた次の手を打った。


こうなることを見越していた白山は、予めドリーがリストアップしていたプリンターや、パソコンのリストを呼び出すと、召喚確認画面で一旦作業を止めた。


「百聞は一見にしかずだ。 これからここに記載されているリストの物品を召喚する。

これを見て納得できそうなら、俺の話の続きを聞いてくれ」



 そう言ってモニターを見せてから、召喚開始をクリックした白山は、今日は酷使しているラップトップを膝の上で操作する。

聞き慣れたハードディスクの駆動音と、冷却ファンの音と共に、再び室内に光の粒子が集まってくる……


 ウルフ准尉は目を細めて、腕組みしたままその様子を眺め、前川一曹は顎に手を置いて白山とラップトップ、そして光の粒子をじっくり観察している。

リック軍曹はぽかんとした表情で粒子に釘付けとなり、河崎三曹はこんな状況でも冷静に、周囲に油断なく目を向けていた。


 三者三様のリアクションを見せながら、次第に粒子は収まりパソコンにプリンター、そしてコピー用紙やケーブルなどが、部屋を圧迫するように召喚された……

席を立った山城一曹が、パソコンやプリンターを手にとって、どれも実体があり本物の工業製品だと確認している。



「この物品は地球にある製品をまるごとコピーしてこっちの世界に呼び出すそうだ。

詳しい原理は俺も知らない。近々解析する予定ではあるが、どこまで判るかは未知数だな……


同じ原理で、皆も俺がここに呼び出した」



そう言って全員の顔を見渡した白山は、少しだけ安堵する。先程よりは幾分、話を聞く気になっているようだ。



「信じるも信じないも、今は一旦置いておく。 だが、これから俺が話す事は、今の話が前提になる」



皆が黙ったまま、視線だけを白山に向けてくる。皆の顔を一瞥してから白山は話を続けた。



「河崎三曹、田中二曹…… 後ろの方からテーブルを出してくれないか?」



 白山の問いかけに、頷いた二人は重い天板で作られたテーブルを運んできて、皆の前に置いた。

礼を言ってから、その上に地図を広げた白山は、少し鋭い視線を周囲に向ける。


「これより、この地の周辺情勢における、事前ブリーフィングを開始する。

質問については、後ほど受け付ける。メモは先程出したコピー用紙から、適当に使ってくれ。

ただし、貴重品だから無駄遣いはするな」


そう言って、ニヤリと笑った白山に、幾人かが同じように笑顔を見せる。



「在庫が無くなったら、自費っすか?」


そう言ったのは、山城一曹だった。 その声に自衛軍出身の連中が、忍び笑いをこぼす。

笑いながら僅かに頷いた白山は、再び羊皮紙で作られた地図に視線を戻すと、ペンの先で地図の一点を示す。


「現在地点はレイスラット王国、地図のこの点、王都の近郊だ。 後で外を見てもらえば判るが、城が見えるはずだ……」



 そうして、レイスラット軍や周辺国の情勢をひと通り説明した白山は、皆の顔を見回した。

皆が渋い顔を浮かべており、王国の現状が如何に厳しいかを、しっかりと認識している様子だった……



「俺がこの国の軍人だったらと思うと、ゾッとするな……」


 そう言ったのは、前川一曹だった。

その言葉に同意するように何人かが頷き、じっと地図を睨み話に引きこまれている。



「残念なお知らせだ……

俺はこの世界に召喚されて、この国の王家軍指南役と、新設される部隊の隊長に任命されている」


白山がそう応えると、明らかに同情と思える表情や、リック軍曹などは、天を仰いで額に手を当てていた。

苦笑しながら、その同情を受け流した白山は話を続ける。



「現在、五十名の新隊員を選抜して訓練しているんだが、如何せん俺一人では手が足りない……」


そう言って全員の顔を見ると、何かピンとくる物があったのか、ハッとしたように白山に視線が集中する。



「そうすると、俺達をここに呼んだ理由は、その新兵どもの訓練のため、って訳か……?」


ここまで無駄口を利かず、黙って話を聞いていたウルフ准尉が初めて口を開く。



「准尉、そのとおりだ。 皆をここに召喚した理由は、部隊の訓練と指揮を任せたいからだ……」



 新しいメモを全員に配った白山は、部隊の骨子を示した羊皮紙をテーブルに載せる。

そこには白山が創ろうとしている部隊の詳細が記述してあった。


「まずは当面、基本的な軽歩兵部隊を作りたい。

ある程度の規模に育てたら、機動運用が可能な即応部隊に仕上げていくつもりだ」



 その言葉に、先ほどの周辺国の情勢と兵器の差、そしてここに居る面々……

白山の意図に気づいた男達は、周囲に視線を送る。様子をうかがう…… いや、それは同じ心境の人間を探す仕草だった。

すると、周囲の男達、誰もがその顔に凄みのある笑いを浮かべていた。


まっさらなキャンバスが目の前にあり、なおかつその力を遺憾なく発揮出来る舞台も整っているのだ。



「どうだ?無理強いはしないが、面白そうな仕事だと思わないか?」



そういった白山の顔も、何かいたずら好きな子供のように、いつしか笑みを浮かべていた…………




おかげ様を持ちまして、この投下でめでたく通算百話に到達致しました。

今後とも、よろしくお願い致しますm(__)m

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