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創世の書  作者: 中原 ゆえ
第二章 兵士のお仕事(R15・残酷描写有)
9/21

4

 ユィノが砂煙の側までやってくると、魔物の群れがすぐに見つかった。

 先発隊が倒しそこねたのか、まだ他の魔物で手一杯なのか、全くの無傷の群れだった。

 それがわかった途端、更に走る速度を上げるユィノ。

 獲物を横取りされては、かなわない。


 その魔物のすぐ近くに来ると、それはとても大きなクモのような形をしていることがわかった。

 大きさは、人間よりは少し大きく、上を見上げても、目にうつるのはわき腹、足、頭だけ。

 背中は背伸びしてようやく見えるか、といった大きさであった。

 頭も見ることはできるが、ユィノの目線よりも高いところに位置している。

 

 他にもいる魔物は、全部そのクモ型の魔物と同じ形をしている。

 が、大きさは比べるとはるかに小さい。

 それでも小型の愛玩用魔物である犬や猫より、少し小さいくらいの大きさなのではあるが。


 魔物といっても、なにしろ種類が多く、今回のクモ型魔物はユィノは初めてみるタイプだった。

 きっと、親が一番大きなクモで他は全部子供なんだろう、とユィノは判断した。

 小さいのはきっと他の班、もしくは他の部隊がなんとかするであろう。というか、なんとかしてもらおう。

 小さいのにちまちまと時間をかけて、親に襲われたら危ないという理由と、もうひとつ。


(大きいのは僕が貰う!)


 大きい故に戦うことにおいても、楽しめるであろうという判断だった。

 じりじりと、親グモに合わせ、間合いを詰める。


 まずは楽しむ事を考えて、頭は潰さず、わき腹を剣で叩くように殴りつける。


「かたいっ! 」


 カキンっと音をたてて、クモの腹から剣がはじかれる。

 対して力を入れてなかった様子見の一撃だったのでよかった。

 が、きっと本気で殴っていたら手がしびれていたに違いない。

 それほどまでの強度だった。


 周りを見てみると、ようやくやってきた他の兵士達は、子グモに対峙している。

 ユィノから距離をとるようにして戦ってくれているので、ユィノは親グモに集中すればいい。

 子グモ強度はどうなのだろうか?と、親グモからは目を離さず距離をあけ、他の兵士の様子を見守る。

 見ている限り、背や腹をいとも簡単に切り裂いているので、強度があるのは親グモだけのようだった。


「ぴぎゃるるるるるるるる」


 そして、突然の耳がおかしくなるくらいの、声。

 どうやら小グモが倒されていくのに怒りを覚えたのか、他の兵士へと突撃しかけている。


「違うだろ! お前の相手は、この僕だっ! 」


 他の兵士に獲物が横取りされる!と、慌てて親グモの意識をひきつけようと叫ぶ。

 が、言葉が違うのがいけないのか、それとも怒りで見えていないのか、親グモは他の兵士に狙いを定め、ユィノに見向きもしない。


 注意を引き付けようと、後ろや横から剣を叩きつけるのだが、どれだけ力を込めても弾き返されるだけ。

 傷ひとつ、つきはしなかった。


 仕方ない。本当はまだまだ楽しみたくて、後回しにしようとしていた『部位』に狙いを定める。

 しかし狙いを定めても、子グモを倒していた兵士狙って動き回る親グモが思った以上に足が速く、定めきれない。

 なにより、兵士の逃げ方がばらばらすぎる。

 戦える喜びにいて気付いていなかったのだが、どうも他の部隊らしく、ユィノの部隊のように、何人かでまとまって戦うやり方をしていない。

 なので、各自が各自の考えるように動き回る為に、親グモも激しく動き回る結果になるのだった。


(あーもう! これが同じ班員だったのなら、迷わず「邪魔だ!帰れっ! 」と、叫べたのにっ! )


 いらいらしても、仕方ない。今のユィノは、親グモに対して動けば後手に回る。

 今は戦況を見極める時。

 子グモは、何を考えてるのかわからないが、全く動いていない。ならば、潰すのは後でもいい。


(少しの時間でいい。親グモが止まれば! )


 と、ユィノが考えている間も、兵士達と親グモは追いかけあっている。

 今はまだ誰も負傷者は出ていない。

 だが、ユィノが攻撃していて弾かれたのを見たのか、攻撃に転じているものもいない。

 親グモの方は、兵士が多すぎて、誰を狙うのか迷っている、そんな状況。


「あっ! 」


 声をあげ、戦況を変えたのは一人の兵士。

 逃げるのに必死になりすぎて、足元がおろそかになり転んだらしく、地面に転んだ。

 ユィノの声には反応しなかった親グモだが、その兵士の声には反応した。

 動きが止まったのを好機と見たのか、その兵士に向かって詰め寄る。


「あ……あ……来るな! 来るな来るな、来るな! 」


 新兵なのか、それともアイドのような怖がりなのか。

 がたがたとその場で震えてるだけで、動く事もせず叫び続けている。


(…………あーあ、めんどくさい…………)


 思ったが、今回は口に出す前に動く。

 親グモが詰め寄り、口である鋏角(きょうかく)が兵士を挟み込む前に、兵士と親グモの間に体を割り込ませる。


 ガキンと硬く、鈍い音。

 鋏角がユィノの体を挟み込む前に、剣を投げつけ、親グモは反射的にそれを挟みこんだ。

 鈍い音は、鋏角と剣がぶつかり合う時におこった音。どうやら鋏角もかなり硬い部位らしい。

 ユィノは、というと、剣を挟みこませると同時に兵士に向き直り、思いっきり体当たりした。


「うわっ……!」


 力加減などしなかったのと、親グモへの恐怖から力の入らない兵士の体は、簡単に転がるように吹き飛んだ。

 そして、ユィノもその勢いを利用して、自分も兵士と一緒になって転がり、ある程度したところで跳ね起きる。


「ぴぐるるるるるる!! 」


 怒ったように、声を荒げる親グモ。

 ユィノに挟み込まされた剣は、横へと吐き出すように放り出された。


(しまった、横かよ……)


 剣を吐き出すなら前方、自分の方へであろうと予想していたユィノの読みは外れた。

 取りに行くには親グモの横をすり抜けていかないといけないが、親グモの狙いが自分なのか兵士なのか、わからない状況ではまだ動けない。


「おい、剣貸せ」


「え? いや、そしたら、でも……」


「いいから、早くっ! 」


「あ、はい! 」


 親グモから目を離さずに、剣を受け取る。

 ずしりとした重みと、握らされたグリップの長さから、両手剣であることが見なくてもわかる。


「僕が突っ込む。その間に、残ってる周りの兵士を逃がせ」


 剣を構えて、要点だけ伝える。

 食われそうになっている味方がいても、足がすくんだのか、動けずにいる兵士達。

 あのまま呆然と立っていたら、いつ餌食になるかわからない。


「はい、わかりました! 」


 答えを聞く前に飛び出すユィノ。


(これだよこれ! やっぱ重さや握りやすさって大事だなぁ)


 片手剣が二番目に扱った事のある武器なら、一番扱った事が多く、得意な武器。それが両手剣。

 左を前に、右を後ろに。両手剣を逆手に構えるのはユィノの癖。

 本来なら持ちにくいはずのそれが、ユィノにとっては一番握りやすい。


 ぎゅっと力を込めて、グリップを握ると、またぞくぞくした快感が背中を走る。

 逃がした兵士次第だが、これからはユィノの独壇場。


 親グモの狙いさえ自分に向けてしまえば、後はきっと、楽しめる。

 期待を込めて、ユィノは狙っていた『部位』めがけて、剣を叩き付けた。

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