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兵舎の裏から抜けて、町の外に出ると、城下町の東側に出た。
大体が森に囲まれているシュタイン王国であったが、東側だけ、見通しのよい平原となっていた。
主要な街道もそのためか、大体東側にある。
その平原のはるか遠く、そこに大きな砂煙があがっているのがまず先に目に飛び込んできた。
「あれってもしかして先発の隊でしょうか……? 」
砂煙がこちらまで見えるほど接戦している。それを悟ったのか、アイドがまたおびえ始めた。
「 多分な、でも、こっちに来る奴らはそれをすり抜けてきた手負いか、それか……
まぁ、いい。あまりきにしすんな、気楽にいこうぜ」
(先発隊が退けられなかった、強い魔物か、だろうな)
アイドにこれ以上不安をかけたくなかったのであろう。
ルグが飲み込んだ言葉は、ユィノには容易に想像ができた。
だが、アイドとは逆に、ユィノには恐れとは違う、ぞくぞくした感覚が体の内側を走る。
先発隊でも倒せなかった魔物、どれくらい強いのか。
戦ってみたい。倒してやりたい。
ただ、強い相手と戦って勝つ事。それを考えると、嬉しくて、楽しかった。
ユィノが兵士になった一番の理由、それが戦える事だった。
剣も我流、型も我流。
一応、街にある剣術道場に通ってはいたのだが、その動きのせいか、周りからよく笑われ、馬鹿にされ、仲間はずれにされていた。
でも、誰かと戦うこと、そして勝つ事。
それが楽しく、ユィノは何を言われても気にせず道場に通い続けた。
楽しんでやったのが、よかったのか。長く続けたのがよかったのか。
師範の教えのよい部分だけを吸収し、我流のまま、最終的にはユィノはその道場で一番強い人間になっていた。
道場で戦って勝つことが楽しくなったユィノは、しばらくして、兵士へと志願する。
戦うこと、勝つこと。
そういった自分の好きなことでお金が稼げる、そういった事が都合がよかったからだ。
負けることなんて考えた事もない。
ユィノはいつも、戦いの場に身をおいて、勝つこと。それがなにより好きだった。
「どうやら来たようだ。各自ある程度まとまれ!
一体に対して、必ず2、3人で挑むんだ! 」
気付けば、うっすらと遠めにだが、はっきりと何かの生き物が何匹も、こちらに近づいて来ていた。
まだどんな魔物かはわからないが、色や大きさが人間ではないと主張している。
ぞくぞくとした快感にとらわれていたユィノも、ルグの指示にはっと意識を取り戻し、警戒する態勢をとった。
「了解です! 」
慌てて、隊員が数人ずつまとまり、個別の班を作る。
ユィノだけは、近くにいると味方をまきこんだりするので、班に誘われることもない。
ただ一人、孤立していた。
だが、ユィノは対して気にもせず、むしろ邪魔な奴と組まなくてよかったと、ほっとしていた。
誰かといると、暴れたい時にルグが暴れさせてくれないからだ。
ルグもユィノの内心を大体読んでいるのであろう。
隊長命令で誰かと組ませる事もできただろうが、あえてそれをしなかった。
「アイド! 」
「はい、隊長! 」
「お前らの班は、まずいないと思うが、街道を使ってくる旅人の護衛を優先しろ! 」
「了解です! 」
「次に他の班だが……」
てきぱきと班ごとに大まかな指示を出す、ルグ。
指示も的確で、どの班なら何がつとまるか、一瞬で見抜いて指示を出している。
こういった才覚はユィノにはないので、素直に凄いなぁと思うばかりである。
まぁ、凄いなぁと思うだけで、真似できたらと思わないところがユィノらしい所であるが。
「最後、ユィノ! 」
「はい」
「お前はいつも通りだ。適当に、味方を絶対に傷つけずに、暴れて来い」
「了解です」
ユィノが大抵誰かと組むことになっても、一人でいる事が多いからだろうか。
ユィノへの指示は決まって必ず同じだった。
大抵先陣をきり、魔物の群れの中で暴れる役目。
もしかしたら、他の隊員が班に誘わないのも、そこも理由かもしれない。
ユィノといたら、真っ先に戦場に駆り出されるから、と。
「それじゃ、各自指示事に分散! 必ず皆生き残るように動くんだぞ! 」
『了解! 』
全員がルグの指示に了解と、声を揃えて答える。
ユィノも勿論その一人。
だが、他の班と違うのは、ユィノはそのまま、その生物に向かって我先に飛び出していった事だろう。
またユィノに、ぞくぞくした快感が駆け巡る。
それを今度は押し殺さずに、ユィノは平原をかけていった。
「おい、あんまり離れると、指示だせねぇぞ! つか、今日は街の側以外の討伐目的じゃねーよ! 」
ルグの声が後ろでかすかに聞こえるが、気にせず突っ走る。
今のユィノにとっては、戦うこと、それしか見えていなかった。