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武器庫では、色々な武器が並べてあった。
兵士全員どの武器でも扱えるよう訓練されるためか、さまざまな武器が並んでいる。
更に言えば、武器の手入れを担当している兵士がいるため、個人で揃えた装備をおいて置く者も多い。
おいておくだけで、勝手に手入れしてくれるので、楽だからだ。
しかし実際、自分で買った武器は自力で手入れしたい!という者の方が大多数なのも事実。
なので、装備はここにおいておいて、定期的に手入れに通うものの方が多かった。
自室においておければいいのだが、基本的に部屋は4人か2人部屋。
装備などおいておけるスペースはない。
「ユィノは今回何使うんだ? 」
男はこういう事に金を掛けるべきだろう! と訳のわからない持論を力説し、自分専用武器と防具を揃えてあるルグがそれを身に着けながら、ユィノに問いかける。
「あー何にしましょうかねぇ。両手剣でも片手剣でも大剣でも、何でもいいんですけど」
ユィノも勿論、戦闘訓練にて、一通り扱い方は覚えさせられているので、ある程度であればどんな武器でも扱える。
「お前の戦い方なら、なんでもいいだろうが、周りを巻き込まない事考えれば片手剣か?
……いや、今日は街に向かってくる奴だけの殲滅だろうから、大剣でも大丈夫だ。なんでも使え。
だからといって、周りをあんまり巻き込むなよ?」
不安そのものといった感じでルグが言う。
そうなのだ、ユィノの戦い方は他の兵士とは少し違う。
『切る』『裂く』といった、戦い方を基本せずに、ユィノは剣を振るう。
あえて言うのであれば、『潰す』『叩く』と言った感じであろうか。
ただ、剣を振り回してなぎ払う、それだけの戦い方なのだ。
最初は、型がどうのこうの、握りがどうのこうの、と世話を焼いていたルグではあるが、あまりにもユィノが人の話を聞かないために、言うのを途中で諦めた。
それに加えて、ユィノのそういった戦い方でも、大きな怪我も負わず、敵を一人でかなりの数殲滅しているのも、言われなくなった要因でもあった。
そして、そんな戦い方のためか、ユィノ自身の性格のせいか、戦闘時において、ユィノは周りをかえりみる事がない。
つまり、近くに味方がいようが、敵をし止められるのであれば、迷わず剣を振り回すのである。
「うーん、じゃあ、片手剣にしておきます」
そういって、手近なところにあった、片手剣を取る。
二番目にユィノが扱った事の多い武器ではあるが、軽いのでいまひとつ何か、重さや柄や刃の長さが足りない感じがするが、仕方ない。
本当なら両手剣を、と思ったのだが、どうもルグの言い方の裏に、頼むから暴れないでくれ、という気持ちを感じ、察してしまったからだった。
なにか物足りない気持ちで、片手剣を掲げてみると、ほのかに小窓から入ってくる陽光を反射して、刃がきらっと光る。
武器庫の兵士の毎日の手入れのおかげであろう、刃こぼれも血の跡もなく、綺麗だった。
本当は、なるべくなぎ払いやすいように、刃渡りや長さが大きく、剣が重いのを、と思ったのだが、そこに残っていたのはどれも似たようなものだった。
先発隊がいい物は持って行ってしまったらしい。
次は防具。今度は、少しでも動きやすいように、軽いものがいい。
周りを見渡すと、そういった薄い鎧は案外残っているらしく、なめし革や薄い銅のプレートがいくつか置いてあった。
今日は街に近づく敵の排除。前面に出て戦闘を行う訳ではない。
なら、防具はそれ程しっかりしてなくていいかな。と、本来なら左腕につける、小楯は選択から外すことにして、身にまとう物をあさる。
そして、動きやすいならこれで、となめし革のアーマーを選び、身に着ける。
そうやって着替えながら、今日はどこかやけに周りが騒がしいな、とユィノは感じていた。
確かにいつもも、多少の小声での話し声が聞こえてはいるが、今日はやけに多かった。
しかも、全部同じ話題らしい。
最初はユィノも聞くつもりはなかったのだが、いつの間にかなんとなく耳に入ってきた言葉をとらえていた。
(最近本からページがばらまかれてるって噂知ってるか? )
(書けばなんでも願いが叶うとかいう、白紙のページだろ? )
(ページって言うからには、大分でかいんだろ? 何個も願いが叶ったりするのか? )
(いや、噂だと、何個もかけるが、そのうちのどれかひとつしか叶わないらしいぜ)
(まぁ、世の中そう甘くできてねぇって事だろうなぁ)
(でもよ、願いなんざ一杯あって、ひとつだけの願いなんてうかばねぇよなぁ)
(あ、でも噂だが……
沢山願い書いたうちの、巨万の富を、と書いたのが叶って大富豪になった奴がいるらしいぜ)
(いいなぁ、おれもページ手に入れたら、兵士なんて辞めて、安全に平和に暮らしたいよ)
(ページって、何したら手に入るんだ? そこらにひょいと落ちてたりするもんじゃないだろうしなぁ)
(でもさ、それって全部噂だろ? 本当になった奴の話を聞いてみないと信用できねぇや)
どうも、聞く限りでは、創世の書に関する噂話らしい。
創世の書自体は誰でも知ってる物、というか、むしろ信仰の対称なので、話にあがるのは珍しくもない話なのだが、今回こそこそと話されている内容は違う。
書からどうやらページと呼ばれる白紙の紙がばら撒かれているらしい。
そんな話、初耳だな、と思いながらも、興味が生まれることはなく、馬鹿馬鹿しいといった思いが一番大きく膨らんでいく。
(書いただけで、なんでもできるようになるなんて、そんなのおとぎ話じゃないか)
日ごろ自分が、本にかいてあるようになった結果だ、と使っているのを棚にあげて思う。
そんな事考えるくらいなら、僕より剣の扱いがうまくなってからにしろよ、と口には出さないが苦々しい気持ちで睨み付けてやった。
そう、自画自賛ではあるが、ユィノは団員の中で誰よりも自分が強い、と思っていた。
ルグだろうが、ルグより上の上級兵だろうが、訓練の中のことではあるが、ユィノは負けたことがない。
魔物に対してだってそうだ。いつだって、誰よりも倒し、誰よりも怪我をしない。
でも、その功績が認められずにまだ、上にあがれないのが、何よりも悔しくユィノは思っていた。
強さだけなら、王宮兵士にだって負けたりなんてしないのに、と。
何で上は僕をちゃんと評価してくれないのか、と。
そしたらもっと強い戦場で、もっと強い魔物と戦えるのに、と。
最も、ユィノが上にあがれないのは、ユィノの性格のもろもろが原因なのであるが、本人は全くそこに気付いていなかった。
そんな気持ちを抱えながらも体は勝手に動いていて、どうやら一通りの装備は整え終わっていた。
焦らず、すばやく。相反する行動で、兵舎の中庭へと戻る。
装備を着たことで気持ちが切り替わったのか、そこには先ほどまでのたるんだ兵達の姿はなかった。
代わりに、さまざまな武器や装備で整え、背中に力の入ったしゃきっとした兵士の姿がそこにあった。
「よし、ユィノ。お前で最後だ。
じゃあ、さっさと行くとしようか。皆、怪我とかすんなよ! 街の防衛とは言え、気をつけろ! 」
その言葉に、周りの空気がまた更に、緊迫したものになる。
が、それを察してか
「なぁに、皆訓練ちゃんとしてるだろ? 大丈夫だって、ちゃんと俺が指示をだす! 任せとけ! 」
と、ルグがつけたした。
その言葉に、周りの空気が今度はふわりと柔らかいものになる。
ルグ自身は確かにユィノにも負けてしまうほど、兵士としての力量はなかったのであるが、ひとつだけ。
戦略や戦場での先見を見る目がかなり鋭かったのだ。
それはユィノが唯一、この人にはかなわないな、と感じている部分でもある。
10人からなるルグ隊の隊員達全部を見、危ないと悟ったら間に入り隊員の体勢を立て直し、指示を出して下がる。
たったそれだけの事なのに、ルグの『指示を出す』その言葉ひとつで、皆が安心できるほどの、実力がそこにはあった。
「じゃあ、今度こそ、行くぞ! 」
おー! という声に続けて、皆で歩くより早く、走るより遅く、動き出す。
今はまだ、戦場じゃない。体力はまだ保たねばならないのだ。
ユィノも追いかけて、街の外へと繰り出した。
誰よりも魔物を倒したい、その思いでユィノの心は一杯だった。