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創世の書  作者: 中原 ゆえ
第一章 ユィノの日常
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2

 一方、寮を飛び出してきたユィノはといえば、あてもなく街をぶらついていた。

 特に用事があったわけでもないので、街の人の会話に耳を傾けながら、歩いていた。


(暑くても、部屋にいたら楽だったんだけどなぁ・・・)


 だが、あのまま部屋にいたら、ユィノにとっては無意味なお説教と訓練への強制参加が命じられたに違いない。

 そう思うと、暑さからのとはまた違った汗が、ユィノの頬を滑り落ちていった。


 久々に歩く、城下街は至って平和そのものだった。

 特に休日でもないのに、人が多いのは、ここが城下街だからだろうか。


 いつでも人が絶えない街、ユィノはこの街をそう思っていた。


 ユィノがふらふらとさ迷う様に歩いていると色んな人とすれ違った。

 すれ違ったといっても、基本的にこの暑さだ。

 街路樹の木陰などで、涼む人が多く、またそれと共に色んな人が談話している。


「最近暑いわよね~、去年の今頃なんて、半そでなんか着てられなかったわ」


 通り過ぎざまに聞こえた、おばさんと言っていい年齢であろう年の女の人の声。


「そうよねぇ、私なんて去年はもう毛糸の手袋なんてつけてた覚えがあるわー」


「あら、貴方も寒がりねぇ。

 まぁなんにせよ、天気がいいのが続くのはいいことじゃない、食べ物だって安くなる訳だしねぇ」


「あはは、そりゃ言えてるねぇ。適度に雨も降るし、食べ物には今年は困らないわ」


「ほんとに、創世の本様々ね。今年はなんていい年にしてくださったんでしょう」


 おばさん同士の、楽しそうなおしゃべりを聞きつつ、街を歩く。

 とくに宛てもなくさ迷っていたが、暫くするとお腹がくぅくぅとした痛みを発していた。

 何故だろう?と、城下街自慢の大時計を見やると、すでに昼はとっくにまわっており14時過ぎをさしていた。

 どうやら、かなりの時間を寝て過ごしていた為に、兵舎寮で出る朝食どころか昼食も食べ損ねてしまったらしい。


(んー、この時間兵舎に帰っても何も食べるものもないだろうし、今日は外で食べようか)


 今日はどこにしよう?この時間ならどこなら開いてるのかな?

 などと、考えながらぼーっと歩いていたユィノに、ガツンと誰かが背後からぶつかってきた。


 一瞬、バランスを崩して倒れそうになるが、そこは現役兵士であるユィノ。

 上手く体をひねり、倒れこむのを回避する。

 しかし、一体誰なんだ?と、ユィノが後ろを振り返ってみると


「やっほー! 今日は非番なの? 街うろついてるなんて珍しくて、ついタックルしちゃった! 」


「げ、エリン……」


 どうやら、ユィノを見かけて、わざとぶつかってきたらしい、エリンと呼ばれた女性がそこにいた。

 髪も瞳も茶色く、髪型はぴょこぴょこはねた肩口までのカットで、着ている服は、どうやらどこかのウエイトレスといった感じだ。

 同じ年頃の女性であれば気にするであろう、少し焼けた肌にそばかすが、化粧をしていないのか、はっきりと目に付く。

 身長はユィノより少し低く、いつも向かい合うと目ではなく、おでこをみる感じになってしまう。


 そのウエイトレスの服装は、黒いワンピースに、白いエプロンをつけている。そのエプロンにはおそらく店名のロゴとおじさんのデフォルメしたキャラが刺繍されていた。

 手にはかなり大きな紙袋を抱えているが不安定さはなく、タックルした、と言っていたが、袋が破けたり裂けたりした様子もない。


 そして、ユィノにとって一番の問題が、エリンの方はユィノをかなり気に入っているらしく、出会うとなにかといっては絡んでくる事だった。

 突き放したり、無言で返事をしなかったり、色々ユィノも試してみたのだが、どうも調子が狂ってしまい、結局は話し相手になってしまっている。

 そういう点では、他人とあまり関わりたくないユィノにとってルグにつぐ、いやもしかしたらルグ以上の、天敵であった。


「ついタックルって、お前、僕以外の人間だったらどうするんだよ!

 間違えました、じゃすまないだろ! 」


「中肉中背で猫背気味でたれ目で目つきが悪い。

 身長はそうね、170あるかないか程度。髪と瞳は黒い色に青がかかった感じ。

 これだけの判断材料が揃ってて、間違えるわけがないわ」


「たれ目だの目つきが悪いだの言ってくれるけど、前からじゃないとわからないだろっ! 」


「乙女の勘が、後姿からでもそういうのわかるようにできてるのよ」


「乙女の勘とか、なにそれ、めんどくさい……」


「めんどくさいって、なによー! ……うん、でも、まぁ、いいや。ユィノ一緒にいきましょっ」


 エリンが一緒に行こうと言ってるのは、この城下街にある食堂「リスト」というお店だ。

 エリンはそこでウエイトレスとして働いているのである。


「いかないってば!

 てか、お前、その袋、食料品だろそれ! それ抱えてぶつかるとか危ないだろ! 」


「大丈夫大丈夫、ちゃんとユィノに袋がぶつからないように、タックルしたものっ!

 それにユィノお腹すいてるでしょ? だから一緒にいこうよー」


「すいてない、すいてない」


 無理やり引きずって連れて行かれそうだったので、慌てて否定したのだが。

 そう言った直後、ユィノのお腹がぐぅーと大きな音をたて鳴った。

 恥ずかしさで真っ赤になるユィノだったが、エリンは嬉しそうだった。


「ほらぁ、やっぱりすいてるんじゃない、いきましょ、いきましょ!」


「……めんどくさいけど、まぁ、マスターの飯はうまいしな……

 エリンに会うのも書にきっと記されてたんだろうし……はぁ……仕方ない、いこうかな」


「そうこなくっちゃ!

 じゃ、先行ってるねー、これ届けて、マスターになんか作ってもらっておくよ」


 そう告げると、エリンは小走りに走り去っていった。


(僕には食事を選ぶ権利すらないのか・・・)


 多少のもやもやとした気持ちはあったものの。

 リストのマスターが作る料理は、どれも美味しいので、まぁいいやと気持ちを切り替えて向かうことにする。

 街に繰り出すのも久々で、エリンとの会話もしばらくなかったせいか、ユィノはふとエリンと出会った日のことを思い出しながら、リストへと歩き出した。

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