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種族

「ちゃんと連れて来たわね、ジーナ」

「はい、館長」


 なるほど。後ろの素敵な悪魔さんはジーナさんと言うのか。

 名前をゲットできて心の中でガッツポーズをする。

 って、今はそれどころじゃないか。 


 辺りを見回す。 

 目の前の建物は三階建てで木組みの広い建物だ。 

 裏側だからよく分からないが、随分と賑やかだ。

 石造りの塀に小さな扉が取り付けられている。店の裏口なのだろうか?


 俺は建物から正面の女性へと視線を移す。

 ボンテージに身を包んだ妖艶な女性がキセルを吹かしていた。

 背中とお尻には黒い翼と黒い尻尾が生えている。


 これが悪魔族なのか?

 てことはジーナさんにも尻尾があるのだろうか。


「さてボウヤ、なんでここに連れてこられたか理解しているかい?」

「あ、ああ。ある程度はジーナさんに聞きました」

 

 娼館に着く少し前に、俺がどうして連れてこられたのか、軽くジーナさんに説明された。

 

 悪魔族の女性は体質的に性欲が強い種族で、処女でも最初から快楽を得る事ができるのだそうだ。

 ただそのため、最初の性交時に一気に押し寄せた快楽に飲まれ、それを貪るあまり相手を殺してしまうことが多々あると言う。

 そのため悪魔族の女性は処女を本命以外の男性に捧げる事が多いとジーナさんが言っていたな。


 娼婦の場合も同様で、処女の悪魔族の娼婦はまずは処女を適当な相手を攫って来て、その相手と性交するのが決まりなのだそうだ。

 そして攫われた側にヤらないという選択肢は無い。

 同意の上でするなら謝礼も少しだが貰えるらしい。死んだ場合は遺族に、生き残った場合は本人に。

 拒否した場合は眠らされて拘束、その後無理矢理だそうだ。

 もちろん死んでも生きていても謝礼は出ない。

 まあただで女性を抱けてお金まで貰えるんだから、断る奴なんて少ないだろうな。


 因みにジーナさんが言うには一番人気は魔人族の男性、俺達の世界でいう人間の男だそうだ。

 魔人族が狙われる理由は、他の種族に比べて爪や牙が無くて肌を傷付けられる可能性が低く攫い易いからだそうだ。


「そうかい。なら改めて……」


 ジーナさんの説明を思い出して上の空だった俺の意識を、館長と呼ばれた女性の声が引き戻す。

 そして改めて館長さんの姿を見て思う。


 小さい。

 身長は多分百四十ちょっとで、胸が殆んどない。

 掌にスッポリ入るくらいだ。多分揉んでも指から出ないだろう。

 

 ただまあ、それ以外は魅惑的なんだよな。

 一つ一つの仕草がエロいです。

 流石に娼館の館長と呼ばれるだけのことはあります。


 ただそれでも今は、さっきまで堪能していた福与かな果実が気になっているんです。

 むしろ俺はどちらかというとムチムチ系が好み……。 

 その時俺に電流が走る。


 そうだよ今なら顔が見れるじゃん。何故気がつかなかった自分! 

 俺はジーナさんの方へと振り返る。


「…………」


 振り返った先に居たのは悪魔の姿をした女神だった。


 館長さんはかなり際どいボンテージだったが、

 ジーナさんは、臍の部分が空いたレオタードにパンストを履いていた。

 だが断言する。そんなものメイン料理を輝かせるための飾りだと。

 少しとろんとした大きて優しげな目元に、透き通った紫の瞳、そして背中の中程まである綺麗な桜色のストレートロングの髪に、色白で滑らかそうな肌、胸元から今にも零れ落ちそうな胸。

 さらにしゃぶり付きたくなるような長い脚とキュッと引き締まったお尻。

 

 うん。この娘と一発やれるなら、死んでもいいです。むしろ当然の対価だと思うね。


「ちょっとボウヤ聞いてるのかい? 了承するのかい、しないのかい?」

「勿論了承しますとも!」


 話をちゃんと聞いていなかったが、ようはジーナさんと一夜を共にしろってことだろ。

 なら断るなんて選択、俺の辞書には載っていないぜ!


「それじゃあジーナ、今日はもう下がっていいよ」

「はい。お疲れ様でした館長」

「ちょ、ちょっと待った!」


 ペコリと頭を下げて館に入ろうとするジーナさんの腕を慌てて掴む。


「あ、えっと何か御用でしょうか?」

「いやいや何かじゃなくて、君が俺の相手をしてくれるんじゃないの?」


 あれか? 

 実はこの店人気ナンバーワンで、後輩のために休日出勤した頼れる先輩って事か?


 確かにこのプロポーションなら引く手数多だろう。

 そうだよ。彼女ほどの女が処女とか、ありえる訳ないじゃん。

 俺の中の桃色エナジーが急速に萎んで行くのを感じる。


「私……ですか?」

「ほう。良かったじゃないかジーナ、自分の獲物を自分で引き当てたね」

 

 戸惑いの表情を浮かべるジーナさんと、楽しげに笑う館長さん。

 え、その言い回しだとジーナさんは処女って事ですか、お母さん!

「でも、他の子達も待っていますし、私なんかが……」

「ジーナさんがいいです!」


 腕を離して両手でジーナさんの両手を掴み直して見詰める。


 これでも童貞ではない。そこそこ経験もある。

 エロゲの知識もあるから異種族相手でもいけるはずだ!


 少し間を開けて息を吸う。


「俺に君の始めてを下さい」


 照れで顔が赤くなる。うん相当恥ずかしい事をしてるのは分かっている。

 だかこれ程の女性と一晩過ごせるのなら、恥などいくらでもかいてやる。


「でも私は……」

「貴女になら殺されても構いません。貴女以外考えられません。一目惚れです。お願いですから私に貴女を抱かせてください」


 この機会を絶対に逃がしてなるものか!

 俺は一気に畳み掛けるように言葉を紡いで行く。


「……はい。私のような悪魔族でよろしければ」


 ジーナさんが真っ赤にした顔を伏せる。

 可愛い。凄く可愛い。


 悪魔系って女王様とかツンデレとかのイメージが強かったけど、こんな可憐で清純な悪魔っ娘もいるんですね。ぜひとも元の世界の人々に教えてやりたい。


「ふふ。ならさっそく入りな」


 館長が塀の扉を開けて俺達を敷地へと招き入れる。


「それじゃあ付いといで」


 館長さんの後に続いて俺とジーナさんも扉を潜る。

 敷地には手入れがされた庭があった。

 そこには井戸や大量の物干し、それと見たことの無いガスボンベのような機械が置かれていた。


「さ、建物に入るよ」

 

 館長さんが建物に取り付けられた扉の鍵を開ける。

 扉を潜って通路を少し進み、また扉を潜る。


「あ、エルメイル館長おはよう御座います!」

「おう、エイダ。今日も元気だね」

「エルメイル館長、三〇二から三〇六までの掃除、終わりました」

「よし、ホールに行って客を案内しな」

「エルメイル館長! 支払いを渋るお客様が!」

「腕の立つ奴全員呼んでぶっ飛ばして来い。それでも渋るなら男色家の連中呼んでやりな」


 わお……。 


 通路を出た瞬間に、派手な格好で世話しなく動く多種多様な種族の女性方と遭遇する。

 い、色々いるんだなホント。

 動物っぽい耳の子から魚、竜、さらに天使のような翼とリングをつけた子までいる。


「キョロキョロして緊張しているのか? それともこういう店は始めてだったか?」

 

 うっ、普通に異種族に圧倒されていたって言っていいのか。

 いや言うにしても言い方を少し考えた方がいいか。


「いやぁ田舎の出なので魔人族以外の種族を見たのが初めてで、圧倒されていました」

「他の種族を見た事無いって、どんだけ辺鄙な村から来たんだいあんた」


 館長さんは軽く驚いた表情で俺の方に振り返る。

 ぬっ会話の選択をミスったか?

 異種族同士で暮らすのがこの世界では普通っぽいな。


「あはは、すいません」

「いや謝る事じゃないが、今時珍しいねぇ」


 取り敢えず苦笑しながら謝る。

 館長さんの顔を見るに、本当に珍しいといった感じの表情をしていた。

 と思うことにする。

 

 館長さんは特に気にした様子も無く通路を進んでいく。

 その間にも館長さんに呼びかける娼婦の女性達は後を絶たない。

 軽い挨拶から仕事の事、個人的な悩みと色々だ。

 それら全てに対して、館長さんは口から煙を吐きつつ、クールに微笑み、的確に答えていく。

 貫禄があるなぁ。

 普通にカッコイイと思った。この人の下でなら例え安月給でも働いてみたい。


「館長さんはエルメイルさんて言うんですか?」

「おっと、そう言えば自己紹介がまだだったか。私はここの館長のエルメイル、で後ろが見習いのジーナだ。ま、ジーナの名前は私が喋ったのを耳聡く覚えていたみたいだけどね」


 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるエルメイルさん。

 やっぱり只者じゃない。

 ジーナさんの方へと振り返ると、優しく微笑んでくれた。

 ヤバイ、ただ笑顔を見ただけで幸せ度がはんぱない。

 

「俺は……ソラっていいます。よ、よろしく」


 美人を見て顔赤くしてどもるとか、中学生か!

 

「はい。改めまして、ジーナと申します。今日はよろしくお願い致しますねソラ様」

「えっと普通にソラでもいいんだけど」

「お客様にその様な無礼はできません」


 ま、真面目だ。だがそういうところも良い。


「おっと、お見合いタイムは一旦ストップだよ二人とも。さ、目的の部屋に付いたよ」


 エルメイルさんは通路の丁度真ん中で立ち止まった。

 目の前には両開きの少し大きめな扉がある。


「ここが処女娼婦が初夜を過ごす為の専用部屋さ」


 エルメイルさんが扉を開けると、中央に大きな円形のベッドが置かれていた。

 アンティーク調のピンクのランプが怪しく室内を照らしていて、見ただけで怪しげな事をする部屋だと分かる。あとはクローゼットとタンスが一組ずつと、奥に続く扉が一つある。窓は無い。


「それじゃ、がんばんな」


 それはどちらに掛けられた言葉か、

 エルメイルさんは俺とジーナさんの背中を優しく一度だけ叩いて、部屋から退室して行った。


 え、いきなり二人っきり!?

 

 唐突に二人っきりにされて流石に困惑する。

 ジーナさんの方を見ると、ちょうど彼女も俺の方へと目を向けたところだった。


「あ」


 恥かしそうに顔を赤らめて視線を逸らされてしまう。

 こ、ここは男の俺がリードしなければ!


「えっと、取り敢えずベッドにでも座る?」

「は、はい。ソラ様がそれでよろしいのなら」


 ジーナさんと一緒にベッドに座る。

 ちらりと横を見ると、ジーナさんはモジモジして不安そうに視線を彷徨わせていた。

 よし、まずは他愛ない話で気を紛らわせてあげるべきだな。

 ついでに情報収集もしてしまおう。

 そうこれは情報収集、ただ彼女とスイートな会話をしたい訳じゃない。うん。


「えっと、それにしても沢山の種族がいるんだね。ジーナさんはどのくらいの種族がいるのか知っているの?」

「はい、職業的にも知っておかないといけないので」


 おおそれは頼もしい。


「どんな種族がいるとか大まかにだけでもいいから教えてもらえる?」

「いいですよ。ワールディアには代表的な魔族として魔人族、悪魔族、天使族、獣人族、妖精族、魚人族、竜人族が生きています。ただ獣人族は動物のような特徴を持つ種族の総称で、本当は獅子族や人狼族と、多種多様な種族が存在します」


 ジーナの説明に耳を傾けつつ、情報を整理する。

 ワールディアがきっとこの世界の名前だな。

 で、先のエルメイルさんの会話中も思ったけど、特に異種族同士で暮らすことに抵抗の無い世界でもあると。

 しかし……。


「それだけの種族がいて、争いは起こらないの?」

「盗賊とかなら出ますが?」

「あ、いや種族間でとか」

「少なくとも私が居た地方では聞いたことがありません」

「地方? 国じゃなくて?」

「くに、とはなんですか?」


 あ、なるほど。理解した。

 ワールディアには国がないのか。そりゃ領土間の問題とか殆ど発生しないよな。

 多分起きても小さな村同士での小競り合い程度だろう。


「いや、ありがとう。ジーナの説明は分かりやすくて助かったよ」

「いえそんな。それにしても、本当に今まで魔人族しか見たことがなかったのですね」

「ああ、そうっ!?」


 ジーナさんの方に振り返ると、いつの間に距離が縮まったのか、

 ジーナさんが俺の顔を覗き込む距離にまで来ていた。

 か、考え事していて気付かなかった。

 い、いかんいかん。今は冷静に、クールに、集中集中。


「そ、それにしても種族でも色々と容姿が違うんだね。でもやっぱり一番はジーナさんだね。ここまで来る間に見た女性の中じゃ一番だよ」


 流れを掴むために無理矢理話題を変えたが、これは本心だ。


「そ、そんな事ありません。私なんてこんな胸だし身長だし……」


 褒めたつもりが落ち込ませてしまった。

 というか、なんかジーナさんはこの話題になると極端に落ち込むな。

 何か理由でもあるのだろうか?


「悪魔族は胸が大きいとダメなの? ジーナさん程ではないけど、胸の大きい女の子は他にもいた気がするんだけど?」


 ジーナさんがダントツなのは間違いないが。

 種族に関係なく大き目の子は沢山居た。

 むしろ小さい子の方が少なかったと思う。


「ソラ様のように大きい胸が好きな男性は大変珍しいです。普通は小さい胸の娘を優先的にお選びになられます」


 なんだろう微妙に話が噛み合っていない気がする。


「えっと、この世界の女性は胸が小さい子が多いの?」

「いえ、むしろ大きい女性の方が多いです。だから小さい方がいいんです。身長も高い人より低い人の方が好まれます。特に悪魔族の女性は体質的に夜伽に適した種族なので、他の種族の女性に比べて胸や身長の大きさが魅力の基準として重視されます」


 俺はようやく気付いた。

 つまりあれだ、リアルに『貧乳はステータスだ。希少価値だ』がまかり通っている世界って事か。

 しかもロリ好きときたもんだ。


 あれ、これってどちらかと言えばムチムチ派で長身好きな俺としては、凄くラッキーな事じゃないか?

 ライバルも少なくて済むし、そういう女性が一人身でいるって事だし。

 現にこうしてジーナさんとも良い感じになってる訳だし。

 

 ああ、きっとそうだ!

 俺は彼女達を幸せにするためにここにいるんだ!

 俺は今ようやく自分の宿命に目覚めた。

 ならばすることは一つである。


「ジーナさんは自分の胸が嫌いなの?」

「えっと……」


 ジーナさんは顔を伏せて言い淀んでしまう。

 もう答えているようなものだな。

 俺はジーナさんの前に移動する。


「ソラ様……あっ」


 膝を付いて顔を向けたジーナさんの頬を、両手で優しく包む。

 り、リアルでやったらナルシストもいいとこだが、今はムード優先だ。


「安心しろジーナさん、いやジーナ。今日一日でその胸を大好きにしてやる」


 リアル経験、エロゲ・エロ本、風俗と知識と経験を持つ俺に隙はない!

 ジーナさんの回答を待つ。

 ジーナさんは僅かに視線を彷徨わせた後、顔を赤らめながら目蓋を閉じて告げた。


「は、はい。お手柔らかに、お願いします」


 可愛い! 大好きだ!

 しかし衝動にまかせてしまいそうな自分をなけなしの理性で押さえ込み、

 触れるだけのキスをしつつ、ゆっくりとジーナをベッドに押し倒した。


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