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拉致

「あ、あの~俺はこれからどうなるんでしょうか?」


 俺は突然背後から抱きしめられ、現在は空中で情けなく両手足を伸ばしている状態だ。

 情けなく見えるだろう。顔も苦笑いだだがな、心の方はヘブン状態だ!

 

 最初こそ離されて落とされても堪らないので恐々黙っていたが、背中越しでも分かる程の重量感のある存在に気付いた俺は、その感触を楽しむ事に思考を切り替えた。

 今は変なことを口走ってこの感触を失いたくなくて口数を減らしている。


「大丈夫です命までは……分かりませんけど。あ、でもとっても気持ちは良いと思いますから」

「できれば命の保証は欲しかったかな」


 なんか突然攫われたけど、俺を抱えている人は悪い人じゃない気がする。胸大きいし。

 喋り方とか丁寧だし。胸大きいし。

 こっちの質問にはちゃんと答えてくれるし。胸大きいし。

 いかん。語尾に胸大きいが付いてしまう。

 気を紛らわせないと……。


「そう言えば、よく俺を抱き抱えられたね。結構身長はある方だと思ったんだけど」


 確か今年の健康診断で測った時は百八十五センチに届いていたはずだ。


「あ、はい。私は身長が百七十ありますから」


 あ~女性にしては確かに大きいな。


「大きくてすいません」

「なんで謝ったのかは分からないけど、これだけ大きなモノをぶら下げているんだから、むしろ当然なのでは?」

「え?」

「あ」


 しまったつい胸の事を言ってしまった。しかもセクハラに近い発言な気がする。


「えっと、あの、気持ち悪くないんですか?」


 けれど相手の方が申し訳なさそうな声色で訪ねて来た。


「なにが?」

「私の胸、大きいですから……」


 大きい胸が気持ち悪い? 

 あなた、今間違いなく一部の女性を敵にしましたよ。


「大変気持ち良い体験をさせて頂いております。ありがとう御座います。御馳走様です。できればもっと強めに抱いて下さい。お願いします」


 恥もへったくれも無くお願いする。

 世の男性諸君ならば、俺の気持ちをきっと分かってくれるはずだ。


「は、はい。こうですか?」


 抱えられている腕に力が籠り、背中の感触が増す。


 うおお~ムニュってした。今絶対ムニュってしたよ!

 服越しでここまでとか、どんだけの凶器を持っているんだこの子は!


「もう死んでもいいです」


 本心からの言葉だった。


「そ、それは困ります」


 込められた腕の力が元に戻る。


 ああぁぁ馬鹿したあー!

 一万回くらい数秒前の俺を殴りたい! 


 つい気持ち良さに漏れてしまった言葉に、激しく後悔する。

 かと言ってもう一度頼めるほど俺の心は強くない。 

 くそ、このチキンハートめ! 

 いや待て、まだ慌てる時間じゃない。

 もう一度会話から始めて、また勢いで言ってしまえばいいのだ。


 カムバック!

 ヘブンタイム!!


「あ、着きましたね」


 あっさりとヘブンタイムの終わりを告げられる。

 ふふ、そんな気はしたさ。だって街の灯りが見えたからね。


 どうやらエロの神様は次のエロを求める男の元に行ってしまったらしい。


「それじゃあ、このまま娼館の方に向かいますね」


 んん?

 ゲームではよく聞くが、現実ではあまり聞かない単語が聞こえたぞ。


「あの、娼館て、娼婦の娼に館で娼館ですか?」

「はい。そうです」


 街の外壁らしき物を通り過ぎて、賑やかな通りを進む。


「そう言えば、聞き忘れていたけど……君って、何者?」


 少なくとも人ではない事は空を飛んでいる時点で分かっている。

 それ以外の事を俺は多分女性であろう彼女に、一切質問していないことに今更ながらに気付いた。


 全てエロの神様のせいだ!

 いるかどうか分からない神様のせいにする。


「あっ、すみません忘れていました。私は悪魔族のジーナといいます」

「そうですか、悪魔ですか」

「はい。悪魔族です」


 どうやら俺の人生は順調にBな結末に向かっているらしい。

 

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