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夜叉九郎な俺(不定期更新)  作者: FIN
第5章 夢幻の如く
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第85話 要請応じて

御久し振りです。随分と長らく御待たせする形となりましたが、漸くの更新となりました。


現状も違うジャンルで同人活動や勉強を行っており、其方が中心となっておりますので此方が不定期となるのは変わりませんが……『麒麟がくる』も始まった事ですし、少しずつでも継続していければと思う次第です。






 ――――1582年4月20日






 戸沢盛重の戦死から数日、そして戦が始まってから10日後。

 対峙する戸沢家と最上家の軍勢は押しては引く事を繰り返す、膠着状態となっていた。

 腰を据えたとは言えども元来、戸沢盛安は自ら陣頭に立って采配を振るい、積極的に動く事を本分とする気質の武将。

 それに対し最上義光は智謀の限りを尽くし、時には自らも得物を取って戦う慎重な側面を持ちながらも臨機応変に動く武将。

 違う側面を持ちながらも勇将という部分で共通する両者の技量は総合的にも互角。

 拮抗している者同士との戦いともなれば動く事が出来ないのも道理である。

 今までとは大幅に方針転換を行った戸沢盛安と最上義光の睨み合いは次の局面へと進んだのは確かだが……。

 それだけでは劇的に戦模様が変化するには至らない。

 出羽国の覇者が決まる戸沢盛安と最上義光の戦。

 次の段階へと進むには大きな切欠が必要とされていた――――。











 ――――越後国





 ――――本庄城






「繁長様。戸沢盛安様から援軍の要請を求める使者が参りましたぞ」


「漸くか!」



 戸沢家より上杉家への援軍要請。

 傑山雲勝から告げられた報告の内容は本庄繁長自身が一番待っていたものだ。

 嘗ては反旗を翻した事こそあれど亡き、主君である上杉謙信に従い幾多の戦を戦い抜いた繁長は家中でも有数の猛将。

 自分の本分を発揮出来る時が漸く到来したとなれば喜びを隠せないのも無理はない。



「はい。既に準備は整っております故、すぐにでも出陣出来ます」


「うむ……御坊の読みは流石だな」



 戸沢家が大宝寺義興を家臣とし庄内を平定した時より、何れは最上家との戦が勃発する事を予測していた雲勝。

 また主君である上杉景勝、家老である直江兼続も時が来れば戸沢家の要請に応じ臨機応変に動く旨を繁長に伝えていた。


「すぐにでも義重様を御呼びしよう。いよいよ、時が来たとな。それに戸沢からの使者も通すように」


 時、来たれり。

 戸沢家と最上家の戦に介入する頃合いを待ち続け、漸くその時が巡ってきた。

 此処で戸沢家が勝利すれば出羽の覇者が決まるだけでなく、上杉家にとっても後顧の憂いの一つが無くなると言う事である。

 長年に渡り、敵対してきた奥州の諸大名の中でも奸智に長け、勇猛果敢な武将としても名高い最上義光を抑える事はそれほどまでに大きな意味を持つ。


「後は兼続殿より御預かりした例の物も一緒に持ってきてくれ」


「承りました」


 繁長からの命を受け、この場を後にする傑山雲勝。

 以前より最上家との決戦準備を進めていたが、上杉謙信亡き後の混乱や伊達家、蘆名家の介入。

 そして北条家との関係悪化に伴う武田家との同盟をはじめ、最上家に対して有効な策を講じる事は出来なかった。

 正直、盛安が混乱期に介入し、事態を収めるのに一役買ってくれていなければ今頃は如何なっていたかは解らない。

 特に新発田重家に関する恩賞については上杉景勝の直臣を優先させるか否かで大きく悩んでいただけに盛安の介入が及ぼした影響は考えている以上に大きい。

 織田家と対峙しつつ、北信濃を警戒し、最上家、蘆名家の動向を伺う。

 御館の乱の後、こうして各方面に対して、有効な一手を打つ事が出来るのは盛安の御陰と言っても過言ではない。

 その事を踏まえれば此度の援軍要請はその時の借りを返す絶好の機会である。

 義には義を以って報いる、それが今の上杉家の在り方だ。

 戸沢家に助力する事は何の躊躇いもない。

 出羽の覇権を巡る戦――――その重要性を理解しているのは上杉家もまた同様であったのだ。











「遂に来たか。やや後手に回ったようだが、盛安殿も本気になったようだな」


 戸沢盛安様からの要請が届いた旨が本庄城に滞在している私達のもとに届けられる。

 戦の推移を見守りながら動向を見極めていた義重様は盛安様が方針の転換を行った事を察したみたい。

 私、甲斐も盛安様からの要請の話を聞いた事でそれを理解したのですが……。

 織田信長様の事を思うと少し複雑に感じます。

 盛安様は間違いなく、時代を揺るがす事になる『あの事件』に備えていたのは明らかだから。

 一通りの状況と盛安様らしくない采配の話を聞く度に早期の決着を望んでいた事、私でも考えれば気付く事を見落としていた事等を踏まえると焦っていたのは間違いありません。

 遠い先の時代で私達は信長様があの事件の後も生き残り、無事に天下人として全う出来たとしたら――――と話していたからこそ、それが解ります。

 そして、盛安様が上杉家に援軍を要請したという事はその夢が果たされる事が無くなった事も……。


「今までは別の思惑があったように思えるが、此処にきて覚悟を決めたように見える。甲斐は如何、思う?」


「……私も義重様と同じ意見です。盛安様は明らかに違う思惑を抱えて動いていました」


「やはり、甲斐もそう思うか。今までの盛安殿の思惑についてだが……恐らく、畿内のきな臭い情勢に気付き何らかの手を打とうとしていたのだろうな」


「きな臭い情勢、ですか?」


「うむ……疋田豊五郎殿と柳生宗厳殿からの報告でな。仔細は話せぬが大凡の情勢は察している」


「え……?」


 義重様との問答の中で驚くべき解答が出てきて思わず呆然とする私。

 それにたった今、義重様が口にした疋田豊五郎と柳生宗厳という名前にも驚きを隠せない。

 新陰流と柳生新陰流というそれぞれの流派の剣豪である事は勿論、知っているのだけど……。

 義重様がこうしてやり取りをするくらいに親しいとまでは想像していませんでした。


「まぁ……流派の繋がる剣を扱う者同士のやり取りと言ったところだがな。氏幹殿も俺と同じだろう?」


「ああ。難しい話は解らないが、義重殿と同じように俺も同門の林崎甚助殿から同様の報告を聞いているな。盛安殿の件も含め思う事があるらしい」


「……そうなのですか」


「うむ。俺は義重殿や甲斐殿のように細かい事を考えるのは苦手だが、甚助殿も盛安殿を気に掛けられていた事は感じていた。此度の同行もその件があっての事だしな」


 氏幹殿も義重様と同じように他の方々とやり取りをされている様子。

 同門だと仰っていた林崎甚助殿は確か林崎新夢想流という居合の流派の開祖として知られていますが……。

 確か上泉信綱殿と同じく剣聖とも評された剣豪である塚原卜伝殿の弟子でもあるとか。

 氏幹殿も塚原卜伝殿に師事した後に霞流棒術の開祖となった剣豪ですし、林崎甚助殿と面識があっても可笑しくはありません。

 義重様も新陰流の前身とも言える陰流の剣豪でもありますし、私のような身の上ですら解らない繋がりあるという事なのでしょう。


「話がずれてしまったが、盛安殿が義光殿に対して向き合い方を変えたのは間違いない。あの若さで夜叉とも鬼とも謂われる所以を直に見る事になるのは此処からだろう」


「はい、そうですね……」


 此処にきて遠い先の時代を知る私達の目線だけでは決して知り得ないところで事態が動き始めている事を改めて実感します。

 盛安様が自分で気付かなかったと思われる部分から最上家との戦に突入したように。

 剣豪同士の繋がりからくる知られざる情報が存在しているように。

 きっと数多くのこうした事があるからこそ、信じられない出来事が多く存在しているのでしょう。

 成田家から佐竹家に身を寄せるようになって、今はこうして越後に居る。

 そして、盛安様の居る奥州まで後少し。

 盛安様が上杉家へと援軍を要請した事で事態が大きく動こうとしている事は最早、明白な事だったのです。











「これより、戸沢家の要請に応じ出陣致す。それに伴い此度の戦についてだが……義重様、貴殿に采配を御願いしたく存じます」


 戸沢家からの要請に対して開催された軍議にて――――。

 本庄繁長殿からいきなり驚きの提案が告げられます。


「俺がか? 引き受ける事自体は吝かでは無いが……それは景勝殿や兼続殿も承知している事なのか?」


 此度の戦において、義重様に采配を御願いすると言う事……それは他家の当主に軍勢を委ねると言う前代未聞の事です。

 義重様が訊ね返すのも無理はありません。


「はい。此度の件については正式に許可を頂いております。それに……此方も」


 それに対し、景勝様の書状とある物を取り出して頷く雲勝殿。

 訊ねるまでもなく、既にこのような事態になった際の事は上杉家中で織り込み済みだったみたいです。

 しかし、雲勝殿が取り出した物、それは――――。


「……毘の旗、か。それを掲げて戦う事の意味を理解した上での話か?」


「はい。全て理解した上での事にございます」


「……そうか」


 『毘』の一字が書かれた一つの旗。

 これが何であるかは私にも解ります。

 上杉家にとって大きな意味を持つ旗で今は亡き、上杉謙信様が掲げていた物。

 それを見て義重様は考え込むようにして目を閉じます。

 

「義重様……」


 毘の一字が書かれた旗が義重様にとってどのような意味を持つのかまでは私には察する事が出来ません。

 ですが――――嘗て『軍神』と呼ばれた上杉謙信様の旗を掲げるという事は『軍神』が再び舞い戻った事を示す行為に他ならない。

 だから義重様はすぐに返答を返す事が出来ないのかもしれません。


「繁長殿、雲勝殿、出陣準備を。俺も暫しの後、すぐに行く」


「ははっ……!」


 そう言って場を後にする義重様。

 後について行こうしたら「独りにして欲しい」と告げて断られます。

 この義重様の対応に私は漸く、佐竹義重という人物と上杉謙信という人物の間にある特別な関係を察します。

 『坂東太郎』、『鬼義重』とも呼ばれる義重様。

 『毘沙門天の化身』とも『軍神』とも呼ばれる謙信様。

 この御二人の間に何があったのかは私には解りません。

 ですが――――義重様の様子からして、只ならぬ何かがあった事だけは確信出来ます。

 遠い先の時代で語り継がれる名将である佐竹義重様と上杉謙信様。

 成田甲斐が生を受ける前から続く、その特別な関係が誠の意味でこれから先の歴史に大きく関与する事になるとは今の私には知る由もありませんでした――――。











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