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夜叉九郎な俺(不定期更新)  作者: FIN
第4章 奥羽の将星
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第47話 竜より先んじて





 ・唐松野の戦い






   ④F

    ③→          GC

      B    ↑

      ⑥   EAD   ⑤⑦

           ①②   

 

         

  



 戸沢家(合計2675)

 ① 戸沢盛安(足軽320、騎馬480、鉄砲100)      900

 ② 矢島満安(足軽140、騎馬95、鉄砲50)       285

 ③ 的場昌長(足軽50、鉄砲150)             200

 ④ 鈴木重朝(足軽90、騎馬100、鉄砲250)       440

 ⑤ 戸沢政房(足軽115、騎馬40、鉄砲25)        180

 ⑥ 前田利信(足軽120、騎馬30、鉄砲20)        170

 ⑦ 大宝寺義興(足軽370、騎馬130)           500




 安東家(合計3365) 

 A 安東愛季(足軽700、騎馬250、鉄砲150)      1100

 B 南部政直(足軽380、騎馬150、鉄砲90)       620

 C 安東種季(足軽280、騎馬90、 鉄砲95)       465

 D 嘉成重盛(足軽170、騎馬120、鉄砲40)       330

 E 泉玄蕃(足軽180、騎馬190)              370

 F 五十目秀兼(足軽150、騎馬80、鉄砲30)      260

 G 三浦盛永(足軽130、騎馬90)              220






「敵勢は余り積極的には動こうとはしておりませぬな……。それがしがもう一当て致しましょうか?」



 盛安の判断により、奇襲という形で火蓋を切った唐松野の戦い。

 天候がいま一つ安定せず、数の上で劣る戸沢家が安東家に勝つには機先を制し、戦の流れを掴む事が肝要だ。

 それに従い、戸沢家の諸将は盛安と満安が一気に攻め掛かった事を合図に戦を開始したのだが――――。

 義興と政房が交えた相手は如何も積極的に反攻しようとする気配はない。

 仕掛けた段階でこそ混乱していたためか暫くのせり合いが見られたが、敵方が軍勢を立て直してからは中途半端な膠着状態へと陥っている。

 何を考えてそのような状況に持ち込もうとしたのかの思惑はいま一つ解らない。

 何を考えてそのような状況に持ち込もうとしたのかの思惑はいま一つ解らない。

 だが、敵方に何かしらの策がある事も決して否定は出来ない。

 かといって動かなければ戦況を動かす事は叶わない。

 それに業を煮やした政房は近場で戦っている義興の下へ出向き、如何にすべきかを尋ねているのだった。



「いや、こうして牽制するだけでも充分です。盛安殿の居る方向へ行かせなければ、それだけでも有利になる」



 盛安が一気に攻勢に出ている現状で戦線が膠着するのは好ましくないが、義興はこの状況を維持させるべきだと判断する。

 戦が始まる前こそ気付かなかったが、こうして対峙してみて愛季以外の安東家の旗印のものが”湊安東家”のものであると気付いたからである。

 愛季は檜山、湊の両安東家の統一を果たしているが、湊安東家に関しては道季が若年であるという理由から愛季に取り込まれた経緯があり、不穏な動きも僅かにあった。

 恐らくは盛安の盟友である津軽為信が裏で動いている影響なのだろうが、何れにせよ湊安東家は一門でありながら曖昧な立ち位置にあるといえる。

 安東家から離反する可能性が高いと思われた浅利勝頼がこの戦に居ない今、新たなる不穏分子となる可能性があるのは湊安東家の軍勢だけだ。

 そのため、義興は意図的に湊安東家に属する軍勢に関しては適度に戦う事とし、後々に備えて僅かでも疑念を植え付けるべきと考えたのである。



「解りました」



 義興の判断に何かしらの裏があるのだろうと判断した政房はそれ以上は何も言わずに頷く。

 戸沢家中で最も安東家の事情に詳しい義興が対峙している軍勢の旗印を見ながら判断したのならば間違っているとは思えない。

 寧ろ、此処は義興の言う通り、愛季の軍勢と戦っている盛安の軍勢の所へ行かせない事が重要だろう。

 敵勢と交戦して此方の戦場でも動きが出てきたのだから、向こうでも状況が動き始める可能性は充分に考えられる。

 盛安が動くべきであると判断し、一気に戦を動かしてきた事から、此処は戦線を維持し続ける事を優先させるべきである。

 仕掛けた側である此方が先に劣勢となってしまっては目も当てられない。

 ましてや、目の前の敵勢の方が鉄砲を多く揃えているのだ。

 安東家は奥州の大名の中でも畿内との繋がりが強く、その扱いにも慣れている大名。

 今まで戦ってきた相手と同じように戦うのは命取りにしかならないのだ。

 兄である義氏と共に幾度となく安東家と戦ってきた義興はその事を良く知っている。 

 戦線が膠着し、距離を取られた現状では撃ち合いで逆に遅れを取りかねない。

 現在の此方の手勢が率いている鉄砲隊の数は敵方の半分にも満たないのだから、火力で覆すのは不可能だ。

 単純に見えて、難しい戦である事を実感しつつ、義興と政房の率いる軍勢は戦線を維持する事を優先させるのであった。











「強い……寡兵でありながらも未だに崩れぬとは流石は前田利信殿」



 盛安の軍勢と戦っている愛季から離れた所で戦っている政直は前田利信の軍勢と戦っていた。

 戸沢家の重臣である利信と安東家の重臣である政直の戦は数の上で大きく勝っている政直が有利な状況で進んでいる。

 だが、圧倒的に数少ない兵力でしかない利信の軍勢は半数近くにまで減るに至っているのに関わらず退く様子を見せない。

 戦では率いる軍勢の3割ほども失えば士気を維持するのも難しいのにも関わらずだ。

 それを踏まえれば余程、鍛えられているのであろう。



「しかし……このままでは不味い」



 寡兵でありながら、未だに押し切れない現状に苦虫を潰したような表情で政直は呟く。

 利信が還暦に到達する年齢でありながらも武将として優れた采配の持ち主である事は知っていたし、苦戦する事も予測はしていた。

 だが、此処にきて側面から夥しい数の鉄砲による銃声が近付いてくる。

 政直の率いる軍勢も相当な鉄砲を揃えているが、聞こえてくる音から判断するにその数を上回っているだろう。

 しかも、方角から察するに雑賀衆と交戦していたはずの五十目秀兼の率いる軍勢のあった方角だ。

 相手は彼の織田信長を相手に武名を轟かせた雑賀衆である。

 流石に率いている人物が何者かまでは解らないが、もしかしたら既に秀兼は敗れたのかもしれない。

 時折、聞こえてくる銃声は押し切られようとしている事を証明しているような気がする。



「仕方がない。少し下がるべきか……」



 前方では一歩も退く事なく、挑んでくる利信の軍勢。

 それに加え、側面から近付いてきている軍勢の足音。

 もし、秀兼が押し切られたのならばそれを助けなくてはならない。

 政直がそう考えたその時――――150ほどの兵力と思われる軍勢の姿が政直の視界に現れる。

 その軍勢は騎馬を手勢に入れていないようだが、政直の率いてる軍勢の持つ鉄砲よりも更に多い。

 今までの銃声を鳴らしていた軍勢とは違うものと思われるが、それでも信じられない数の鉄砲だ。

 何しろ、軍勢の7割以上が鉄砲を備えているのだから。



「何という……。小勢でありながら、あれほどの数を揃えるとは」



 視界の先に現れた軍勢の姿に政直はこれが雑賀衆なのか、と思わずには居られない。

 畿内の事情を知っている身であっても足軽の数よりも鉄砲隊の方が数が多い軍勢なんて初めて目にするからだ。

 如何に雑賀衆が有名であってもこれは流石に予測は出来なかった。

 噂に違わぬ鉄砲集団であると言うべきだろうか。



「くっ……この距離で撃ってくるのか!」



 余りにも見事な鉄砲備えに感心する間もなく、現れた雑賀衆の軍勢は一斉に射撃を開始する。

 しかも、その距離は火縄銃の有効射程距離とされる200メートルの距離を超えているにも関わらずである。

 更には射手を次々と交代させつつ、軍勢を進めるという信じられないような運用方法を行なっている雑賀衆の軍勢に政直は戦慄せざるを得ない。

 射手を交代させる事により射撃の間隔を短くする術は有名な長篠の戦いの噂で聞いているが、このように銃列を前進させながら射撃を行う術など聞いた事もなかった。

 雑賀衆の軍勢が射撃と共に前に進んでくる度にその距離は少しずつ縮まり、距離が短くなると共に政直の率いる足軽達の倒れていく人数が増加していく。

 まるで、悪夢のような光景だ。

 軍勢を進めながらも狙いを外さず事なく、進んで来る目の前の軍勢――――。

 旗印こそ八咫烏ではないが、雑賀衆でも名のある人物が率いているものであろう。

 盛安が起こした先の庄内平定の戦では噂も聞かなかった恐るべき人物の率いる雑賀衆の軍勢の前に政直は兵力で勝りながらも退く必要性がある事を嫌でも実感させられる。

 まさか盛安や満安以外で寡兵を以って、意図も容易く大兵を制するほどの相手に遭遇する事になるとは思いもしなかったからだ。

 今、まさに未知なる強敵とも呼べる存在との戦に政直は態勢を整えるべく軍勢を動かすべく命を下すのであった。











   ④F

      ③ ↑       GC

      B→   A

      ⑥   E D   ⑤⑦

           ①②   

 






「愛季が距離を取り始めたか! 騎馬隊は鉄砲の準備だ!」



 奇襲という形から怒涛の勢いで乱戦に持ち込んだところで愛季の軍勢が牽制しながら退く事にいち早く気付いた俺は騎馬隊に装備の変更を指示する。

 愛季が一度、態勢を立て直し、騎馬隊を突入させてくる事は容易に想像出来たからだ。

 本来ならば騎馬隊に対処するならば足軽を並べて槍衾にて突撃を抑えるのが基本的な手段だが、それだけでは流れを一気に引き寄せる事は出来ない。

 愛季も此方が足軽を前面に押し出してきたならば、すぐに別の手段を取ってくるだろう。

 そうなれば、距離を取り終えた段階で鉄砲を多く抱えている愛季の方が有利になる。

 従軍している諸将の軍勢を合わせれば戸沢家の方が火力の面で上回っているはずだが、雑賀衆の2人が率いる軍勢に数が集中しているためその条件は成立しないのだ。

 雑賀衆の率いている鉄砲隊を除いた場合だと全体でも200前後の数となるからである。

 その上で鉄砲の数のうちで半数は俺が率いており、残りは満安達にそれぞれ一部ずつ預けている。

 単独では軍勢の練度においては上だとしても、火力におけるアドバンテージがあるとは言い難い。

 俺は此処で愛季を打ち破るには相手にとって奇策とも言うべき戦術を用いるしかないと判断した。



「今こそ、騎馬鉄砲隊の力を示す時!」



 俺が用いる事を決めた戦術は家督を継承して以来より準備を進めていた騎馬鉄砲隊を前面に出す事。

 その数は俺が率いている手勢の持つ全ての鉄砲の数と同数である100の数。

 虎の子とも言うべき戦力だが、今が戦の勝敗を決する絶好の機会であると判断した俺は躊躇う事なく前面に押し出す事を決断する。

 切り札は最後まで取っておくのが常識だが、愛季が相手となればそんな余裕はない。

 機を逃せば、敗北するのは俺の方になるのは間違いないからだ。

 そもそも、俺と愛季との戦は常に際どい段階で行われていただけに尚更である。

 正攻法だけで勝てる相手ではない存在に対しては大胆な戦術があってこそ勝機を見い出せるのだから。

 


「皆の者――――俺に続け!」


「おお――――っ!!!」



 愛季の率いる騎馬隊が突入を開始し始めた頃合いを見計らって俺は陣頭に立って弓を携え、準備を終えた騎馬鉄砲隊に号令する。

 それと同時に沸き起こる兵達からの歓声。

 騎馬隊に対して騎馬鉄砲隊をぶつけるという今の段階では常識の範疇外にある采配に躊躇う事なく応える兵達の声が頼もしく感じられる。

 これも今が勝負どころである事が解っているからだろうか。

 皆の様子は待っていたと言わんばかりに勇んでいる。

 士気は充分であると判断した俺は騎馬鉄砲隊の射撃の後に残りの騎馬隊にも突撃を開始するように命じ、自身は愛季の命で突撃を開始する騎馬隊の前へと躍り出る。

 そして――――



「撃て――――!」



 俺が弓を構え、撃ち放ったのを合図にして騎馬鉄砲隊による一斉射撃が行われる。

 耳を劈くような轟音と共に開始された馬上からの射撃は時折、その狙いを外しながらも敵方の騎馬隊を次々と貫いていく。

 馬上であるためか鉄砲による射撃は流石に一度しか行う事は出来ないが、騎馬隊が騎射以外の手段で射撃を行うとは予想していなかったらしく敵方の騎馬隊の足が止まる。

 それを見た俺は後に続いて突撃を行うように命じていた騎馬隊を突入させ、自らも引き続き陣頭に立って敵勢を次々と斬り伏せていく。

 夜叉とも鬼とも呼ばれる身である戸沢盛安の本領発揮といったところか。

 このまま、一気に突き崩せば愛季の首を取る事も決して不可能ではない。

 奇襲による先手から更なる流れを引き寄せる事に成功したのを感じた俺はその勢いを落とす事なく愛季が居るであろう旗印の下へと馬首を向ける。

 今一度、進み始めた流れを確実なものとするためには此処で押し切る必要がある。

 後は宿敵である愛季の旗印を目指すのみ。

 彼の人物さえ、打ち破ってしまえばこの戦の勝利は揺るぎないものとなる。

 だが――――



「殿の首を渡す訳には参らぬ! この泉玄蕃が御相手仕る――――!」



 これ以上は進ませないとは言わんばかりに俺の行く手を阻むかのように泉玄蕃が立ち塞がったのであった。
















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