friends6:人との関わり方。
高萩は、昨日成増に殴られた事を潮見に話す。潮見は話を聴き終わるとクスリと笑った。何故、彼女は笑ったのか高萩には解らなかったが彼女の口から答えが出される。
一段落した後、高萩は潮見にある御願い事を頼まれる…
成に殴られた。
何故、彼が俺を殴ったのかは不明のまま朝を迎えた。 別に成に一発殴られて、奴の事を一発で嫌いになった訳では無い。 しかし、理不尽に殴られてはこちとら納得もいかず、今は彼と話したくは無い。
俺は、授業中にお腹が痛いからと嘘をついて教室から抜け出した。 保健室に行くフリをして、潮見のいる特別教室へ向かった。
何故かこの頃、何かしらが起きるとその都度彼女に話しに行く事が多いような気がする…。
今日、特別教室にいた人は潮見だけだった。 入室してきた俺を見た彼女は、読んでいた小説を綴じて椅子から立ち上がった。
潮見:
「どうしたの? 授業、受けないの?」
そう潮見に尋ねられた俺は、本当は授業をサボってきたと話せずに適当にはぐらかして、本題である昨日の出来事を話した。
話を聴き終わった潮見は、クスリと笑った。俺は、潮見のそのリアクションが不思議に思えた。
高萩:
「何故に笑う?」
潮見:
「あっ、いや…、高萩君は鈍感だなぁーって思って、つい可笑しくって笑っちゃった。 ごめんね。」
潮見が、苦笑いしながら慌てて謝った。
高萩:
「鈍感? 何が?」
怪訝そうな表情をした俺を見た潮見は、少し間を置いて溜め息混じりにこう言った。
潮見:
「恋だよ、高萩君。」
高萩:
「えっ、コイ?」
鯉? 恋? どっちの『コイ』の事なのか、最初解らなかった。
高萩:
「へっ? こ、コイって…まさか、恋愛の方の?」
潮見:
「そう、恋。 これはあたしの想像だけど、きっと成増君は千駄木さんの事が好きで、高萩君が千駄木さんと仲良くしてた事にヤキモチを妬いて我慢出来なかったんだよ。」
高萩:
「はぁ…。」
俺は、潮見が出した結論にただ困惑するだけだった。 潮見は、窓の外の景色を眺めながら言った。
潮見:
「良いなぁ…、千駄木さんが羨ましいよ。」
高萩:
「恋、ねぇ…。 てか、ヤキモチ妬いたぐらいで殴る事は無いだろうけど。」
潮見:
「フフ、それも一里あるね。」
潮見が笑った。 やっぱ、彼女には泣き顔より笑顔が似合う。
しばらく憮然としていた俺に、
潮見:
「ねぇ…、高萩君?」
潮見が不意に話し掛けてきた。
高萩:
「えっ? 何、潮見?」
俺がそう返事すると、潮見は少し不機嫌な声で、
潮見:
「高萩君、また[潮見]って言った。 何で、あたしの事を[麻衣]って呼んでくれないの?」
潮見は、小さく頬を膨らませた。 そして、微笑んだ。
高萩:
「悪い、でも…。」
別に彼女と付き合って訳では無いし、かと言って幼馴染みでも無いから躊躇する。
潮見:
「でも?」
高萩:
「いきなり、下の名前で呼ぶのはちょっと…。」
潮見:
「高萩君なら…、良いよ?」
俺は、友達が居なかった。 仲間は居たが、親友じゃなかった。 今まで、クラスメートや仲間を上の名前でしか呼ばなかった。 それも、もうおしまい。
高萩:
「潮...、おっと。 まっ…、麻衣、だったな。」
俺のぎこちない言葉に、潮見はクスリと笑った。
そして、顔をこちらから背けながら潮見は小さな声で言った。
潮見:
「たっ…高萩君、ば…バレンタインデーの日は…ひっ、暇?」
高萩:
「えっ? あぁ、その日は暇だけど、何かあるの?」
すると、潮見はうつ向いて体をモジモジしながら、たどたどしく言った。
潮見:
「2月14日は、あたしの誕生日なの。 それで…そっ、その…良かったら、あっ…あたしの家で一緒に祝って欲しいの…。」
高萩:
「えっ?!」
どういう事だ?
潮見の身内でも、ましてや友達、幼馴染、恋人じゃ無い奴が、彼女の誕生日に招待されるとは。 しかも、いきなり彼女の家に招待されるとは。
潮見:
「だ…、駄目かな?」
高萩:
「いや…、別に構わないけど。 潮見の方こそ、大事な誕生日に、おっ、俺みたいな奴に祝られて良いのか?」
驚きのあまり、俺の方も言葉が震えてしまった。 潮見は顔を赤らめて小さくコクリと頷いた。
潮見:
「…うん、高萩君に祝って貰えるならホント嬉しいの。」
高萩:
「じゃあ…、14日の13時に流星公園で待ち合わせでどうかな?」
潮見は、その時間で了承した。
高萩:
「もしかしたら、俺の所為で残念な誕生日になってしまうかもな…。」
潮見:
「そんな、悲しい事を言わないで…。」
高萩:
「いや、冗談だって。」
潮見:
「必ず来てね。来てくれないと、あたし泣いちゃうから。」
高萩:
「お…脅すなよ。」
こうして俺は2月14日に、人生初である女子の家に上がる事となった。
潮見なら、初めて人と上手く関われる相手になるかもしれないと感じた。