friends55:茉山の実力。
5回に入り、全力投球してきた藤浦の体力はかなり消耗してきた時、あの茉山が勝負を仕掛けてきた…。
主審:
「プレー!」
前の回、代打千駄木によって2点追加した俺達。 だが、茉山達は動揺一つしていなかった。
高萩の心の声:
「しかも、交代時に茉山がナインを囲んで何か話してたのも気になる…。」
俺は、取りあえず藤浦にインコース高めのジャイロを要求した。
(ビュッ!)
石橋の心の声:
「…やはり、茉山の言う通りだ。」
(バシッ!)
主審:
「ボール!」
高萩の心の声:
「嘘?!」
俺は、明らかに動揺していた。
高萩の心の声:
「まさか…、アイツ疲れているんじゃ?」
俺は心配し、カーブを要求した。
(ビュッ!)
高萩:
「っ!?」
何と、藤浦のカーブの精度が落ちていたのだ。
石橋の心の声:
「貰った!」
(カキーン!)
藤浦:
「…あっ!?」
石橋の打球は、レフト前に落ちた。
高萩:
「タイム、お願いします!」
主審:
「タイム!」
俺は、藤浦の所に向かった。
高萩:
「大丈夫か?」
藤浦は肩を揺らしながら呼吸していた。 疲労しているのは、目に見えていた。
藤浦:
「大丈夫だ。 もし俺が降板したら、ピッチャーはお前がやれる。 だが、キャッチャーはどうする? キャッチャーがいないんじゃ、試合を続行出来ないんだ!」
高萩:
「だが…無理はするなよ。 これから、少し配球を考えてみる。」
藤浦:
「頼んだぜ…、名キャッチャー。」
高萩:
「ハハッ。」
俺は、藤浦の胸をポンと軽く叩いてキャッチャーの正位置に戻った。
ウグイス嬢:
「7番。 セカンド、日向君。」
主審:
「プレー!」
高萩の心の声:
「藤浦、踏ん張ってくれ!」
(ビュッ!)
日向の心の声:
「球速…キレ、茉山さんが指摘した通り、落ちている。 …なら。」
高萩の心の声:
「バント!?」
(コンッ!)
日向がバントした打球は、三塁線の深い所で止まった。
主審:
「フェア!」
高萩:
「っ!? 藤浦、サードに任せろ!」
藤浦:
「俺のミスを、他の奴に尻拭いさせてたまるかぁよっ!」
(ビュッ!)
藤浦:
「っ!! しまった!」
落合:
「うわっ!」
(パシッ!)
一塁審:
「セーフ、セーフ!」
藤浦:
「クッ!!」
高萩の心の声:
「藤浦の悪送球を、落合が捕るために、アイツの足がベースから足が離れていたんだ…。」
これで、ノーアウト、一、二塁になった。
その内の一人がスコアリングポイントに到達している。
高萩の心の声:
「ここでゲッツー(併殺)、最低でもアウト一つは取らないといけないな。しかし…。」
ウグイス嬢:
「8番。 ピッチャー、虔沼君。」
相手バッターは、先制点を入れた虔沼。 簡単にアウトを取れるとは、思わなかった。
主審:
「プレー!」
高萩の心の声:
「ここは、打たれて大量点を採られるより、フォアボール(四球)を選んだ方が良い。」
(パシッ!)
(パシッ!)
(パシッ!)
(パシッ!)
主審:
「フォアボール!」
虔沼:
「…分が悪くなっただけだな。」
(コン…コロロン…)
ウグイス嬢:
「9番。 レフト、野尻君。」
高萩の心の声:
「ノーアウト、満塁。 藤浦、コイツを何とか抑えよう。 最悪、点をあげても良い。」
(ビュッ!)
(カキンッ!)
美作:
「おりゃっ!」
(パシッ!)
(ビュッ!)
零園:
「オーライッ! …よっ!…と。」
(パシッ!)
二塁審:
「アウト!」
零園:
「落合っ!」
(ビュッ!)
落合:
「よっ! …と。」
(パシッ!)
一塁審:
「アウト!」
(芹沢勢ベンチ)
潮見:
「やった!」
(本塁)
主審:
「ホームイン。」
石橋の心の声:
「点をあげても、芹沢がリードしている。 だから…。」
高萩:
「ツーアウト、ツーアウト!」
(バッターサークル)
茉山の心の声:
「チャンスに滅法強い虔沼を歩かせて、確実に打ち取れる相手を選んで、被害を最小限に留めたっていう訳か…。」
ウグイス嬢:
「1番。 ライト、茉山 卓君。」
とうとう、茉山がバッターサークルに現れた。
(龍泉側ベンチ)
犀潟兄:
「茉山、俺を下ろしたからには、何としてでも点採れよ!」
(本塁)
主審:
「プレー!」
茉山は、バッターボックスに入ってから無表情だった。 マウンドには、宿敵である藤浦がいるのに、だ。
犀潟の心の声:
「未だ、ツーアウトでも三塁にランナーがいる。 一打打たれたらヤバいぞ、高萩、藤浦!」
俺は、カーブを要求した。
(ビュッ!)
茉山:
「フンッ!」
(カキーン!)
一塁審:
「ファール! ファール!」
茉山:
「チッ! 外したか。」
二球目、藤浦にフォーシームジャイロを要求した。
(ビュッ!)
(カキンッ!)
主審:
「ファール!」
バックネットに、打球が掛かった。
高萩の心の声:
「藤浦のフォーシームを楽々とカットしてる…何て奴だ!」
それから、藤浦がどんなに際どいコースに投げても、茉山にボール球として見送られたり、弾かれたりした。 もう彼の体力が残り少ないのを考え、俺は苦渋の決断をした。
高萩の心の声:
「藤浦、もう良い。 歩かせよう(四球)。」
俺は、そうサインして立ち上がった。 が、しかし…。
藤浦:
(首を横に振る。)
高萩:
「っ!?」
嘘だろ、と思った。 まさか、藤浦が勝負しようと思っているとは…。
高萩:
「主審、タイムお願いします!」
俺は、マウンドにいる藤浦へ駆け寄った。
高萩:
「どういうつもりだよ! もしホームラン打たれたら、同点になっ…。」
藤浦:
「打たせやしない!」
高萩:
「っ!?」
藤浦:
「打たせやしない。 必ずアイツを三振に仕留めてやる!」
高萩:
「だ、だがお前の残りの体力では…。」
藤浦:
「俺は、アイツと全力で勝負して、ぶっ潰したいんだ!」
高萩:
「ピッチャーは、藤浦しか居ないんだ! お前が降板したら、どうするんだよ!」
藤浦:
「その時は…高萩、お前がマウンドに上がれ。」
高萩:
「バカ野郎! 俺じゃ、龍泉打線を抑えられない!」
藤浦:
「それは、ヘボキャッチャーが恋女房だったらの話だろ?」
高萩:
「だが、そのキャッチャーすら、俺らのチームには居ないんだぞ!?」
藤浦:
「居るよ。 とっておきの、キャッチャーがね。」
高萩:
「えっ!? まさか…。」
藤浦:
「…解るよな。 もう俺にはまともに投球出来る体力は残っちゃいない。 次が俺のラストボールになると思う。 例え、アイツに打たれても同点。 大丈夫。 また打って、アイツらを突き放す。 行くぜ…全力投球、真っ向勝負だ、高萩!」
高萩:
「………。」
俺は、無言で藤浦にボールを渡し、キャッチャーボックスに戻った。
主審:
「プレー!」
俺は、勝負に出た。 ど真ん中の渾身のフォーシームジャイロボールを要求した。
藤浦の心の声:
「行くぜ、茉山!」
(ビュッ!)
茉山:
「バーカ。」
(カキーン!)
球場内に轟く金属音。
高萩の心の声:
「…よくやった、よくやったよ藤浦。」
藤浦や俺の目から、少し涙が出ていた。
(ガサッ!)
茉山の打球は、場外の雑木林に消えた。
(大歓声)
(茉山がホームに帰還する。)
主審:
「ホームイン。」
これで、とうとう同点に追いつかれた俺達。 このまま龍泉のペースに持ってかれてしまうのか?