friends53:ガチンコ勝負!!
野尻の変化球、フォークに岩原以外の芹沢勢は悪戦苦闘していた…。
氷石の心の声:
「そ、そんな…。 まさか、あれがハッタリだったなんて…。」
(ビュッ!)
(スパンッ!)
主審:
「ストライークツー!!」
高萩:
「どうした? 打たないのか?」
氷石:
「…ふ、ふざけるなっ!! ぼ、僕はこのチームの4番打者なんだ…。 さ、三振してたまるかっ!!」
高萩:
「来いよ、チームとか4番とか関係なく…俺達の球を全力で振ってみろよっ!!」
(ビュッ!)
氷石:
「ウォーッ!!!」
(ブンッ!)
藤浦が投げたボールは、氷石のフルスイングしたバットの下を通り抜けた。
(スパンッ!)
龍泉勢:
「あぁっ!?」
(シュ…。)
主審:
「す…ストライーク!!バッター、アウッ!!」
氷石:
「っ?!」
内野勢:
「ナイスピッチ!!」
俺が、氷石へ向けて藤浦に投じさせたボールは、三球全て直球だった。
(龍泉勢ベンチ)
茉山:
「どうした? 珍しいじゃないか、君が三球三振とは。 全部、ストレートじゃなかったか?」
氷石:
「えぇ。 でも、このチームで茉山さん以外の人が一打席で打てませんよ、あの球は。」
茉山:
「ふぅ…厄介だな、あのバッテリーは。」
(スパンッ!)
主審:
「ストライーク!!バッター、アウッ!! スリーアウト、チェンジ!!」
(芹沢勢ベンチ)
千駄木:
「スゴいじゃん!! あの氷石君を三振に仕留めるなんて!!」
高萩:
「ま、まぁな…。」
千駄木に言われ、俺は性に合わず照れてしまった。
(パコッ!)
高萩:
「痛っ! …な、何すんだよ、藤浦!?」
藤浦:
「デレデレしてる暇があったら、あの落差の大きいフォークの攻略法を考えとけ!!」
高萩:
「わ、解ってるさ!!」
潮見の心の声:
「…高萩君。」
俺達は、何とかしてあのフォークを打ちたかった。 だが、そう簡単に打てる球では無かった。
ウグイス嬢:
「4回裏。芹沢学園高校の攻撃は、2番。レフト、犀潟君。」
(ブンッ!)
(スパンッ!)
主審:
「ストライークツー!!」
高萩の心の声:
「やはり、犀潟でも無理か…。」
(スパンッ!)
主審:
「ボール!」
(スパンッ!)
主審:
「ボール!」
高萩:
「…ん?」
(スパンッ!)
主審:
「ボール!ツー、スリー!!」
石橋:
「た、タイムお願いします!」
主審:
「タイム!!」
先程から、相手ピッチャーのピッチングが定まらなくなってきていた。 フォークが、ストライクゾーンより下など地面スレスレだったり、ワンバウンドだったり…。
ようやく相手バッテリーの話も終わり、キャッチャーが戻ってきた。
主審:
「プレー!!」
(ビュッ!)
高萩:
「振るな、犀潟!」
犀潟:
「…えっ?」
(パシッ!)
主審:
「ボール…フォアボール!」
石橋:
「…チッ!」
高萩の心の声:
「…やはりな。あのピッチャー、フォークをあまり使い慣れていない!」
ウグイス嬢:
「3番。サード、屋代君。」
俺は、彼がバッターボックスに入る前に呼び寄せた。
屋代:
「何ですか、先輩?」
高萩:
「良いか? ゴニョゴニョゴニョ…。」
屋代:
「…解りました。」
高萩:
「よし、行ってこい!!」
俺は、屋代の背中をポンッと押した。
主審:
「プレー!!」
(芹沢勢ベンチ)
高萩:
「ちょっと一塁コーチャーに行ってくるわ。」
(一塁)
犀潟:
「…た、高萩!?」
高萩:
「シー! …良いか?俺の合図で、走れ(盗塁しろ)!」
犀潟:
「大丈夫か? 刺されないか(アウトにならないか)?」
高萩:
「二盗は、大丈夫。 あのピッチャーなら、パスボール(補逸)も有り得るからな。」
犀潟:
「…解った。 合図、頼んだぞ。」
高萩:
「…行くぞ。」
俺は、相手ピッチャーのモーションを見ながら走るタイミングを図った。
高萩:
「よし! リーリーリーリーリーリー…。」
(ビュッ!)
高萩:
「バック!!」
(ザザー!!)
(パシッ!)
一塁審:
「セーフ!」
さすがに、相手バッテリーは警戒しているようだ。
再び、モーションに入る。
高萩:
「リーリーリーリーリー…。」
その時、ほんの一瞬だけ相手ピッチャーに大きな隙が出来た。
高萩の心の声:
「わ…ワインドアップ!」
高萩:
「ゴー!!」
(ダッ!)
俺の合図と共に、犀潟が二塁へ走り出した。
石橋の心の声:
「盗塁!? させるかよ!」
(ビュッ!)
(パシッ!)
(ビュッ!)
相手キャッチャーのクイック投法も完璧だったが、犀潟の方が一枚上手だった。
(ザザー!!)
(パシッ!)
二塁審:
「セーフ!セーフ!」
高萩:
「ヨッシャー!!」
(二塁)
犀潟:
「ヘヘッ、儲けたぜ。」
野尻:
「………。」
野尻が、無言で足でマウンドの土を蹴り散らした。
野尻:
「…盗塁された…盗塁された…俺から盗塁された…ブツブツブツ…。」
石橋:
「た、タイム!!」
野尻:
「…うぉぉぉぉぉー!!!」
高萩:
「っ?!」
いきなり野尻が雄叫びを上げ、場内は騒然となった。
(龍泉勢ベンチ)
茉山:
「チッ、…ったく。」
石橋:
「落ち着け、野尻!!」
野尻:
「うるせっ!!邪魔するなぁ!!戻れぇー、ヘボキャッチャー!!」
石橋:
「っ!? の、野尻…。」
石橋は、キャッチャーボックスに戻った。
主審:
「プレー!!」
野尻の心の声:
「俺は…俺は…誰よりも強いんだぁ!!!」
(ビュッ!)
(スパンッ!!)
主審:
「ストライーク!!」
藤浦の心の声:
「さ、さっきより…速くなってないか?」
高萩の心の声:
「嘘だろ?! ここで立ち直られたら、俺達はまた三振でねじ伏せられちまう!!」
(スパンッ!!)
主審:
「ストライークツー!!」
俺は、必死にアイデアを考えた。
高萩の心の声:
「…そうだ!」
一か八か、俺は賭けに出た。
高萩:
「犀潟っ!! 走れぇ(三盗しろ)ー!!」
(二塁)
犀潟の心の声:
「えっ!? 三盗だと!?」
(ビュッ!)
(ダッ!!)
野尻:
「サードッ!!」
石橋:
「っ?! …あっ!?」
(カッ!)
石橋のキャッチャーミットが、暴投気味のフォークを捕らえられず補逸した。
(ザザー!!)
高萩:
「っ!? やったー!!」
(三塁)
三塁審:
「セーフ!セーフ!」
犀潟:
「…三盗成功。」
(本塁)
石橋:
「っ?! そ、そんな…。」
(龍泉勢ベンチ)
茉山:
「…使えねぇバッテリーだな。 おい滝本、そろそろ準備するから、ブルペンの奴らに連絡だ。」
茉山の部下、滝本:
「ハッ!!」
茉山の心の声:
「楽しいよ、こんなに俺を不愉快にさせるゲームなぞ、今までに無かった!! たっぷり楽しもうじゃないか…。」
(マウンド)
野尻の心の声:
「あっ、あれは滝本さん! ふ、ふざけるな!! こんな奴らの所為で、易々と交代させられてたまるかよ!!」
(ビュッ!)
高萩:
「打て、屋代!!」
屋代の心の中:
「…中学三年間、俺は補欠のそのまた補欠の身だった。 だから、チームの為に必死にバットを振る事なんて考えた事が無かった。 だけど…。」
石橋の心の声:
「っ?! お、落ちない!!
野尻の投球は、ホームベース付近で落ちずに進んでいった。
屋代の心の声:
「今こそ俺は、皆の為に全力で…。」
石橋:
「っ?!」
屋代の心の声:
「打つ!!」
(カキーン!!)
高萩:
「あっ!!」
バッテリー(野尻・石橋):
「「な、何ぃ?!」」
茉山:
「…フッ。」
屋代の打球は、レフト方向に大きなアーチを描いた。
屋代:
「落ちろー!!」
藤浦:
「…っ!?」
芹沢勢:
「「入れぇー!!」」
(ガサッ…トンッ…トンッ…。)
屋代の打球は、レフト後方のフェンスを越え、スタンドインした。
屋代:
「や…やったぁー!!」
芹沢勢:
「「入ったぁー!!」」
芹沢の電光得点板に、2の数字が光った。
俺は、ダイヤモンドを回り終えてきた二人に、ホームでハイタッチした。
高萩:
「よくやった、屋代!!」
屋代:
「お、俺…役に立ちましたよね?」
高萩:
「あぁ! 凄かったぜ、あのホームランは。」
(ブルペン)
茉山の心の声:
「滝本、伝えに行け。」
滝本:
「ハッ!」
俺と屋代が話している途中で、アナウンスが場内に響いた。
ウグイス嬢:
「龍泉高校。 ポジション、並びに選手交代のお知らせを致します。」
高萩:
「えっ?!」
ウグイス嬢:
「ライト、犀潟 真空君に代わりまして、茉山 卓君。 キャッチャーの石橋君がファースト。 ファーストの霜尻君が、キャッチャー。 ピッチャーの野尻君が、レフトに入ります。」
芹沢勢:
「っ!?」
高萩の心の声:
「あいつ…ピッチャーも出来たのかよ?!」
俺は、虔沼の才能に半ば羨ましい気持ちだった。
ウグイス嬢:
「4番。 ピッチャー、藤浦君。」
主審:
「プレー!!」
俺は、バッターサークルに入って、虔沼から打てる球を見極める事にした。
(ビュッ!!)
(スパンッ!!)
主審:
「ストライーク!!」
高萩の心の声:
「な、何なんだ…あの変化球は!?」
藤浦の心の声:
「スクリューボール…。 厄介だな。」
(芹沢勢ベンチ)
潮見:
「先輩? 今の変化球って何ですか?」
岩原:
「スクリューボール。 左ピッチャーが投げられる、右ピッチャーが投げるシュートと対称的な変化球だ。 右打者だとベース付近で手元で沈んで見えにくくなるから、空振りになりやすい。」
潮見:
「凄い…。」
(パコッ!)
潮見:
「いたーい!!」
岩原:
「感心してる場合じゃねぇ。 俺でさえ、攻略に困難な変化球だ。 いかに打てるか、考えろ!」
潮見:
「グスン…ふぁ、ふぁい。」
(本塁)
藤浦の心の声:
「マジかよ…、スクリューは右打者にとって打ちにくいんだよな。」
(マウンド)
虔沼の心の声:
「俺の球は、これだけじゃねぇぞ!」
(ビュッ!)
(カキーン!!)
一塁審:
「ファール!ファール!」
高萩:
「追い込まれた…。 藤浦、打ってくれ!」
(マウンド)
虔沼の心の声:
「変化球って、決まった変化はしないんだよ。」
(ビュッ!)
藤浦:
「っ?!」
(ブンッ!)
(パシッ!)
主審:
「ストライーク!! バッターアウッ!!」
高萩:
「う、嘘だろ!?」
虔沼の心の声:
「一丁上がり。」
何と、藤浦が空振りしてしまったのだ。果たして、虔沼が最後に投げた魔球とは…。