friends51:振出(ふりだし)。
龍泉勢に、先制点をあげてしまった芹沢勢。
その裏、龍泉勢がピッチャー交代の申し立てをしたのだ。
犀潟兄に代わり、ピッチャーを務めるのは意外な選手だった…。
(スコアボード)
龍泉:1-0:芹沢
到頭、俺達は茉山率いる龍泉に先制点を許してしまった。
何とか、続く9番を三振に仕留め、1番バッターの犀潟兄もセカンドゴロで抑えてチェンジになった。
犀潟:
「…あーあ、先制点あげちまった。」
犀潟が電光得点板を見て、溜め息混じり言った。
潮見:
「ま…まだ3回だし…や、野球って9回の裏まであるょ…。」
高萩:
「まぁ…潮見の言う通り、まだ3回だ。逆転は充分に有り得るぜ。」
藤浦:
「そうだ、次のバッターは…。」
藤浦が電光得点板を見た途端、唖然とした。
藤浦:
「ピッチャー…交代だと?」
高萩:
「えっ?」
ウグイス嬢:
「ここで、龍泉高校の守備変更をお知らせ致します。ピッチャーの犀潟君がライト、ライトの野尻君がピッチャーに入ります。」
野尻:
「………。」
龍泉勢の動きが全く読めない俺達は皆、呆然と守備交代を見ていた。
アナウンス:
「3回裏、芹沢学園高校の攻撃は7番ショート、零園 彪岔君。」
主審:
「プレイっ!」
あの1年のライトが、一体どんな球を放るのかを藤浦を含め、チーム全員が見つめていた。
野尻:
「…っ!」
(ビュッ!)
彼の投げた球は、ストレートの速さで真っ直ぐの軌道からベースの近くでいきなり急激に落ちた。
(スパンっ!)
主審:
「ットライーク!」
フォークボール…しかも、落差も大きい。敵が、そんなのを隠し持っていたなんて思いもしなかった。
藤浦:
「こりゃ、攻略が難しそうだな。」
岩原:
「…猿の一覚えか。」
高萩:
「何か言いました?」
岩原:
「いや、別に…」
そう言うと岩原は、一旦ベンチを出ていった。
高萩:
(?…何だ?)
(スパンッ!)
主審:
「ットライーク!アウッ!」
バットを提げながら、零園が帰ってきた。
零園:
「駄目だったッス。あの落ちる球に、全く当たらなかったッスよ。」
潮見:
「うー…エイッ!」
(ブンッ!)
(スパンッ!)
主審:
「ットライーク!アウッ!」
潮見も、あのフォークに手も足も出ず。
岩原:
「そろそろ…あのガキの調子鼻をへし折ってやるかな。」
いきなりベンチに戻ってきた岩原は、バットを持って打席に入った。
ウグイス嬢:
「9番。センター、岩原 克彦君。」
主審:
「プレイッ!」
主審が言い終わると、野尻はワインドアップで球を放った。
(ビュッ!)
やはり、決め球のフォークだった。だが、岩原はバットを短く持って待ち構え、そして…。
(カキーンッ!)
心地よい快音が、球場内に聴こえた。
藤浦:
「う…嘘だろ?」
打球はグングンと伸びていき、ライトとセンター間のフェンスを…越えた。
芹沢側ベンチ:
「「うぉー!!」」
何と、岩原があの落差の大きいフォークをいとも簡単にホームランにしたのだ。
野尻:
「………。」
岩原:
「…フンッ!」
(龍泉高校側ベンチ)
茉山:
(ほぅ…やはりあの長身の根暗男は要注意だな。)
藤浦:
「凄いですね、先輩。」
岩原:
「別に。」
これで、1-1の同点に追いついた。
美作:
「だぁー!」
(ブンッ!)
(スパンッ!)
主審:
「ットライーク!バッターアウッ!スリーアウトチェンジ!」
しかし、この回は岩原のソロホームランで終わった。
藤浦:
「皆、同点に追いついた。まだ4回だが、油断するな。深く守れ。外野は…まず犀潟、お前は三遊間(さんゆうかん:サードとショート)を抜かれないようにしっかり守れ。」
犀潟:
「了解。」
藤浦:
「岩原先輩は、ニ遊間(にゆうかん:セカンドとショートの間)と若干のライト方向は潮見だけじゃ危ないんで岩原先輩、捕れそうだったらお願いします。」
岩原:
「面倒だな、この嬢ちゃんは。」
潮見:
「むぅ…。」
高萩:
「で…潮見は、ファールライン際にいて出来るだけ捕れ。捕るのが無理そうな打球は美作か先輩に頼め。」
潮見:
「う…うんっ、出来るだけ捕れるように…あたし頑張るぅ。」
藤浦:
「内野の美作以外は、間を抜かれないようにしっかり守れ。」
落合・美作・零園・屋代:
「「はいっ!!」」
高萩:
「しっかり守って、逆転しようぜ!」
岩原以外全員:
「「オーッ!!」」
岩原:
「…フッ。」
こうして、試合は振出に戻った。