friends48:新たな強敵。
2回の裏、芹沢学園高校の攻撃。
いきなり、先頭バッターの藤浦が空振り三振した。これに調子に乗った犀潟兄に対する高萩は、彼の挑発の言葉に惑うが潮見に奮起され、彼の投げた渾身の高速スライダーを無心で打つが…。
2回裏。俺達、芹沢学園高校の攻撃。
俺は、岩原を問い詰めていた。
「先輩、あの送球は先輩がやったモンなんですよね?」
「…知らねぇよ。」
岩原は、さっきからシラを切っていた。
「あれは、レーザービーム…いや、それ以上ッスよ!見直しました!」
「うるさい!…俺は送球してない。ライトの嬢ちゃんが投げたんだ。」
「あ、あたしは、あんなの投げられないよぉ!」
「黙れ。てか、次のバッターはテメェじゃねぇのか?」
岩原に言われて、俺はようやく気付いてヘルメットとバットを持って待機した。
「2回の裏。芹沢学園高校の攻撃は4番…ピッチャー、藤浦 成一君。」
「プレイッ!」
バッターは、強打者の藤浦。しかし、ピッチャーは巧投手の犀潟兄。まともに、球がバットに当たるかどうか…。
(ビュッ!)
(ボンッ!)
「ットライーク!」
外角のカーブで、1ストライク。
(ビュッ!)
(ボンッ!)
「ボール!」
彼の選球眼は、舐めたもんじゃない。ベースから少し離れたスライダーを、見逃せる余裕さがあった。
「さすが、藤浦君。俺の球を良く見てくれて、ありがとよっ!」
(ビュッ!)
犀潟兄が投げた球は、進行方向に螺旋回転していた。しかし、フォーシームジャイロの速さを大きく下回っていた。
(ボンッ!)
「ットライークツー!ツーワン!」
(な、何だ?あのフォーシームジャイロの遅いバージョンは一体…。)
「藤浦、良く見て打て!」
俺は、藤浦に言った。
(ビュッ!)
また、あの変化球だった。
「くっ!」
(ブンッ!)
(ボンッ!)
「ットライーク!バッターアウッ!」
(そ、そんな馬鹿な!藤浦が三振するなんて。)
俺は、驚愕していた。すると、犀潟兄が叫んだ。
「ダサっ!あんなスローボールも打てないとは、茉山の目も疑えるよ。ハハハっ!」
「くっ!」
藤浦は悔しく、バットを持って先端を地面に一回叩きつけた。
「5番…キャッチャー、高萩 荊太郎君。」
まさか藤浦が三振するとは、思わなかった。
俺は、取りあえずストレートかスライダーを来るのを待った。
「君だっけ?あの武里から、奇跡のヒットを打ったのは。」
犀潟兄は、俺を見下すように言った。
「お前、あんな奴からヒットを放ったって、凄くも何とも無いぜ!フッ…フハハハハ!」
高らかと笑い声を上げた犀潟兄は、大きく振り被った。
「今からな、本物の高速スライダーを投げてやるよ!俺は、お前のような奇跡野郎が大っ嫌いなんだよっ!」
(ビュッ!)
風を切り、唸りを上げた剛球がベースの手前で急激に曲がった。
(ボンッ!!)
「すっ…ストライークッ!」
(う…嘘だろ…。)
「ヒャハハッ!打てねぇだろ?所詮、お前はマグレ野郎だったんだよ!」
「っ!!」
俺は、愕然としてしまった。
「マグレ野郎は、ホンモノの前に、脆くも崩れ去るだけなんだよっ!」
(ビュッ!)
(ボンッ!)
「ットライークツー!」
俺の頭の中は、既に真っ白になっていた。
「フッ!愚かな臆病者め!手を出さないなら、終わりにしてやるよっ!」
(ビュッ!)
こっちへ向かってくる剛球。俺は、もう打つ気が無かった。
だが次の瞬間、誰かが放った一言で、俺の真価が発揮された。
「高萩君っ!マグレじゃない事を証明してよっ!」
(ま…麻衣…か?)
ベンチから潮見が大声で放った言葉に、俺は我に返った。次の瞬間、俺は何も考えずにバットを思いっきり振った。
「ウォー!!」
(カキーン!)
(ヒュンッ!)
「な、何ぃ?!」
渾身の打球は左中間に落ちた。
「行けー!高萩っ!」
俺は、一塁を蹴って二塁に行こうとした。しかし、思わぬ奴が俺の進塁を阻んだ。
(シュッ…)
(パシッ!)
(ビュッ!)
「…えっ?」
(パシッ!)
「アウッ!」
俺は、呆気に取られた。
「な、何で…。あの打球なら二塁まで行けた筈なのに…。」
「ナイス、レフトッ! 」
俺はハッとして、レフト方向を見ると、暗い雰囲気をかもしだしている男が立っていた。
身長170ぐらいで、緑と黒色の混ざった色で剣山のような頭髪の男が、俺をツリ目で睨んでいた。
その男の身体からは、強い殺気を感じられた…。
俺は、電光得点板に映されている茉山のチームの打順を見た。
(8番。レフト、虔沼 亮也-けんぬま りょうや-)
(け…虔沼っていう奴が俺をアウトにしたのか?)
俺は、ベンチへゆっくりと帰った。ベンチに戻ってきた俺は、驚いた。
何故かベンチには、千駄木の姿があったのだ。
「せ、千駄木?!何故、ここにいるんだ?」
俺が声を掛けると、千駄木が気付いて振り向いた。
「あ、高萩クン。惜しかったね!」
俺は、ポカンと口を開いたままだった。
「やっぱ、凄いよ…アイツ。」
「えっ?」
千駄木の意味深な言葉に俺は我に返り、彼女の目線の先を見た。
「うん?…え、えぇっ!」
彼女の目線の先は、何とあの虔沼だったのだ!
「…千駄木、つかぬ事を聞くが。」
「何?」
「あのレフトの…虔沼っていう奴を知ってんの?」
すると、千駄木はサラリと言った。知ってるなら、それ以上何も言わないが、しかし彼女は驚くべき発言をした。
「うん。だって、私はアイツの“元カノ”だもの。」
「そうなんだぁ…って、えぇー!?」
俺を含む、ベンチにいた皆が驚いた。
「嘘じゃないよ。私、アイツと一緒の中学だったし。」
「あ…あぁ、そ、そうなんだ。」
俺は、動揺を隠せなかった。
「あのレフトの事で、知ってる事があったら教えて貰えないかな?」
藤浦が、千駄木に言った。
「えっと…中学時代は2番で外野を守ってて、俊足で50m走で6秒4を出して良く白く四角い板の間を走ってたわ。
あと…私が言うのもなんだけど、アイツ結構打ってたよ。見てる私の方も、爽快な気分にさせられたしね。」
「千駄木の言った事は要するに…盗塁も良くやるし、三振も少ないって事だな。」
「レフトの虔沼っていう人、かなり強敵ですね…。あ、落合。」
零園の言葉に皆が振り向くと、6番打者の落合がうつ向いて戻ってきた。
「…その様子だと、三振したんだな。」
「す…済いません。」
落合は、弱々しい声で謝った。
「良いよ、しょうがねぇよ。さっ、攻守交代だ。」
「「オー!!」」
…藤浦の言葉に皆、奮起してフィールドに出ていったが、俺だけ新たな強敵、虔沼の事を考えながらキャッチャーボックスに入った。