friends46:鎮圧。
1回の裏。高萩達の攻撃が始まった。
相手ピッチャーは、あの犀潟の兄。さすがに、実力が違いすぎた…。
「プレイッ!」
1回裏、俺達芹沢学園高校の攻撃が始まった。
打席には、こっちのトップバッターである1年の美作。そして相手投手は、あの犀潟の兄。果たして、どういう球を投げてくるのか。
「そういや…肝心の茉山がフィールドに居ないじゃねぇか。」
藤浦が、相手チームの全体ポジションを見て言った。
「確かに。電光得点板の打順にも、載せられてない。」
「一体、アイツはいつ出てくんだ?」
藤浦が、少々いらついて言った。
「さぁな。それより、今は相手投手の球を見ようぜ。」
俺は、藤浦を諭した。
(ビュッ!)
(ボンッ!)
「スットライーク!」
「は…速い。」
俺は、思わず言葉を漏らした。
「外角低めのストレート。140後半は出てるな。」
藤浦は、今の球を分析していた。
(ビュッ!)
(バシッ!)
「ットライークツー!」
内角に切れるスライダー。犀潟の言う通り、アイツの兄貴は只者じゃない。
(ビュッ!)
(ブンッ!)
(バシッ!)
「ットライーク!バッターアウッ!」
「最後のはカーブか…容赦無いな。」
藤浦は、溜め息をつきながら言った。
「だが、次の打者は出るんじゃねぇか?」
俺は、犀潟を見て言った。兄が投手なら、弟は兄が投げる球種がある程度解っている筈だ。それに犀潟自身、選球眼が優れているし、セカンドゴロやショートゴロ、サードゴロでもセーフになる俊足の持ち主だから。
「2番…レフト、犀潟 空平君。」
(ビュッ!)
(バシッ!)
「ボール!」
犀潟への第一球目は、カーブだった。
「兄貴、ちっとも変わってないな。」
犀潟が言った。彼の兄は、弟の言葉を無視した。
(ビュッ!)
「俺が、4年前と同じだと思うなよ!」
(カキーンッ!)
「ファールッ!ファールッ!」
「おっしぃー!」
今の犀潟の打球は、レフトポールより少し切れてファールだった。
「犀潟、打てるぜ!」
藤浦が、犀潟に激を飛ばした。
(ビュッ!)
(カキーンッ!)
「ファール!」
またもファールだった。
(次は打てそうだな。)
俺はそう思っていた…だが、それは甘かった。
(ビュッ!)
球は、ゆっくりなスピードで、先ほどのストレートと違い、山なりに落ちていった。
「くっ!」
(ブンッ!)
「ットライーク!バッターアウッ!」
「っ?!」
何と、犀潟が空振りしてツーアウトになってしまったのだ。
「犀潟、どうした?あれは打てるぜ!」
ベンチに戻ってきた犀潟に、藤浦が言った。すると犀潟は、悔しそうに呟いた。
「2年前とは違う組み立てになってた。しかも、チェンジアップを投げていた。」
「ちぇ…チェンジ…?」
潮見が、全く解らない顔をして言った。
「チェンジアップ。別名、パームボール。スローボールの代用で、多くの投手が投げる変化球。山なりの軌道になって、ホームベース付近で急激に落ちる。これを直球と一緒に使われると、バッターの打つタイミングもずれる。だから、空振りしたり打ち損じてゴロになりやすい。」
藤浦が、細かく説明した。
「だから、犀潟君はいきなり投げられたチェンジアップに対応出来ずに空振りしたのね!」
潮見は、理解したようで手を叩いた。
「しかし、藤浦。まだ犀潟の兄は、変化球を隠してる可能性はあるぜ。」
俺が言うと、藤浦は腕を組んで考えていた。
「3番…サード、屋代 光太君。」
バッターボックスに立った1年の屋代に、藤浦が言った。
「屋代、スト2まで待て!」
それを聴いた屋代は、困惑した顔をしたが直ぐ様、バットを握って構えた。
(ビュッ!)
(バシッ!)
「ットライーク!」
直球…一球目からど真ん中。
(ビュッ!)
また同じ直球の軌道。俺は、思わず叫んだ。
「屋代!打て!直球だ!」
俺の大声でびっくりした屋代は、フルスイングした。
(カキーン!)
屋代の打球は、ライナーになってサードに捕られた。
「アウトッ!スリーアウト、チェンジ!」
(う、嘘だろ…。)
屋代が、肩を落として帰ってきた。
「済みません…無様で。」
藤浦は、肩を叩いて無言で屋代を諭した。
「馬鹿じゃねぇのか?お前ら。」
いきなり、後ろのベンチに座っていた岩原が言った。相手は先輩だったが、俺は我慢出来ずにつっかかった。
「何ぃ?!」
「落ち着け、高萩!」
犀潟が、怒っている俺を必死に止めてくれた。
「俺らはあのバッテリーに、まんまとハメられたのさ。」
岩原は、サラリと言った。
「それ…どういう事ッスか?」
藤浦が、冷静に尋ねた。
「相手のバッテリーは、1、2番に対して変化球を投げていた。しかし、3番のクリーンナップから直球しか投げて無いだろ?」
「確かに…。」
「屋代は、元々野球をやっていたんだろ?」
「はい、先輩の言う通りです。」
屋代が頷いた。
「敵は、何らかの方法で彼が野球経験者である事を突き止めた。ということは、彼に甘い変化球など軽く打たれちまうと敵は最初っから解っていたんだ。だから相手キャッチャーは、あえて打ちにくいコースの直球を投げさせた。そして、この馬鹿が打ちにくい直球を無理矢理打てと叫んで、屋代が打ってしまったのさ。」
「くっ…。」
岩原の言う通りだった。俺は、何も言い返せなかった。