friends45:不自然…
到頭、芹沢学園高校の経営存続の運命を賭けた、茉山率いる龍泉高校との試合が始まった。
先攻は龍泉で、1番バッターとして現れた奴は意外な人だった…。
「プレイボール!」
サイレンが鳴って、本格的な試合の雰囲気が出た。
ここは、茉山家が所有している特別スタジアム。自然芝で地面の土も悪く無い。寧ろ、最高級。得点版も電光式で、俺らの打順とポジション番号まで映ってる。まるでプロ野球並だ。
「一回表。龍泉高校の攻撃は、1番…ピッチャー、犀潟 真空君。」
ウグイス嬢の声と共に、先頭バッターがバッターボックスに入ってきた。
ウグイス嬢のセリフとそのバッターを見て、俺は困惑した。
(えっ?今、“犀潟”って聴こえたような…。)
すると、そのバッターがいきなりレフト方向に向かって叫んだ。
「久しぶりだな、我が弟よ!」
(えっ?!弟?まさか…)
「た、タイム御願いしますっ!」
俺は、主審にそう伝えてレフトの犀潟の所へ向かった。犀潟は、明らかにバッターを睨んでいた。
「さ、犀潟…あの人は?」
俺が言うと犀潟は、ためらいも無く言った。
「…アイツは、一家離散の時に別れた兄貴だよ。」
「えっ?!」
俺の驚いた声で、皆が犀潟の所へ集まってきた。
「それ…どういう事だよ。」
藤浦が、驚いた顔で言った。
「…昔の兄貴は、下の俺達兄妹に優しかった。兄貴は元々、野球をしていて、実力はプロ並だった。だけど、あの一家離散に遇ってから性格が変わった。
兄貴は、俺と妹の空莉を見捨てて、自分だけ良い生活をする為に、莫大な金が手に入る茉山のチームに入団したんだ。」
「そんな…。」
潮見は落ち込み、悲しい声で言った。
「君達、早くしなさい!」
各塁審に注意され、藤浦達はそれぞれのポジションに戻った。
俺が戻る時、犀潟に呼び止められた。
「高萩…兄貴を倒そう。勝とうぜ!」
「犀潟………あぁ、勝とうぜ!」
俺と犀潟は、御互いに拳を付けた。そして、俺はキャッチャーのポジションに戻った。
「プレイっ!」
(さて…どうしようかな。)
キャッチャーなど、初めてするから俺はどうすれば良いか解らなかった。
(取りあえず…。)
俺は、ストレートを示した。藤浦は、振り被って投げた。
(ビュン!)
伸びてくる球。犀潟の兄は、完璧に捉えていた!
「カキーン!!」
打球は、伸びてレフトに向かった。これは、入ったかと俺は肩を落とした。しかし…一人だけ違っていた。
(ガシャッ!)
「クソッ!」
(バシッ!…スタッ。)
「アウトっ!」
何と、犀潟がフェンスによじ登って打球を見事にキャッチして、ホームランを防いだのだ!
「なっ、何ぃ?!」
「ナイスっ、犀潟!」
犀潟は、彼の兄に向かって冷たく言い放った。
「久しぶりに会ったけど兄貴、パワー不足で打球をひっぱれない点は変わってないな。」
「ふっ、さすが我が弟だ。」
犀潟の兄は、鼻で笑ってベンチに戻った。
「2番…サード、上条 泰隆君。」
2番打者と打順で待ってる3番打者は、テレビで見覚えがあった。去年の甲子園に出場してた福島県立郡津高校の1番打者と4番打者だった筈だ。茉山のドリームチームは侮れないと、俺は感じた。
(ビュン)
(バシッ!)
「スットライーク!」
初球は、インの絶妙なストレートでストライク。
(ビュン)
藤浦が投げた瞬間、上条がバントの構えをした。
(コンッ)
絶妙なバントだった。藤浦が走って捕って一塁に投げようとしたが、上条は既に一塁に到達していた。
「は…速い。」
「3番…ファースト、霜尻 賢基君。」
3番打者の霜尻は、去年の甲子園で上条を一塁に置いた時はエンドランを良くやった事を憶えていた俺は、藤浦にインコースの球を要求した。
(ビュン)
(バシッ!)
「ットライーク!」
ベースの端ギリギリの、ストレート。さすがに、エンドランは出来ないはずだ。しかし、次の球を見ているかのように、霜尻の表情は崩れていなかった。
(ビュン)
(バシッ!)
「ットライークツー!」
藤浦の十八番のカーブで、ツーストライク。しかし、コレでも霜尻どころか俊足の上条が動かない。
俺は探りを入れてみる事にした。
(藤浦、牽制球を投げろ。)
俺が出したサインに藤浦は頷いた。
(ビュン!)
(ザザーッ!)
(バシッ!)
「アウッ!」
何と、一塁の上条が牽制球でタッチアウトになったのだ。あの俊足なら、あんな失敗はしないと思うのだが。
(ビュン)
(バシッ!)
「ットライーク!バッターアウッ!スリーアウト、チェンジ!」
俺は、明らかに茉山のチームの動きがおかしいと思った。あの霜尻が、見逃し三振するなど滅多に無いし、上条が盗塁しない事も疑問だった。
「1回裏、芹沢学園高校の攻撃は、1番…セカンド、美作 雅臣君。」
しかし、俺達に疑っている時間は無かった。