friends36:青天の霹靂(へきれき)…
いつものように部活から帰宅した成増。しかし、迎えてくれた母親の顔が悲しみに満ちていた…
(成増家)
(ガチャ)
「只今。」
俺は、テニス部の練習が終わって帰宅した。
「龍、ちょっと。」
いつものように、靴を脱いで2階へ続く階段を上がろうとした時、お袋に止められた。
「何、お袋。」
「…ちょっと来て、お父さんから大事な話があるの。」
お袋の目は、何故か悲しみに満ちていた。
「…解ったよ。」
居間のドアを開けるとソファーに腰掛け、テレビの野球中継を見ている親父がいた。親父は、テレビを眺めながら話し始めた。
「龍、済まない。」
いきなり親父に謝られた。一体、親父は何をしたのか?
親父は、少し間を置いて話し始めた。
「父さんな、会社で左遷を命じられた。」
「さ、左遷?!」
左遷…その言葉自体、高校生でも解る。でも、どうして…
「会社の重大プロジェクトが上手く軌道に乗らなくてな。その責任を取らされて、父さんが宮城の子会社に飛ばされる事になった。」
「…そんな。」
昔から、俺ら家族の生活を支える為に必死で仕事をしてた親父。そんな親父を、俺は誇らしく感じていた。
しかし、今の父親にはそんな誇らしげなモノは一つも無い。
「龍、今日学校の先生と話してきたの。」
「俺…俺…」
嫌だ…その一言が言えなかった。
「…嘘だろ?左遷なんてそんな…」
「…残念ながら現実なんだ、龍。」
俺は、暗闇に堕ちた。
家族間内でしばらく沈黙が続いていた。
「ゆ…結花は?アイツは何て言ってた?」
結花は、俺の妹の名前である。
「…結は、さっきから部屋に閉じ籠ったままだわ。」
可哀想に…
「…俺達、あと何日ここにいられる?」
単身赴任でもして貰いたいのだが、あいにく俺の家の稼ぎ手は父親か俺しかいない。例え、俺がバイトしたとしてもお袋と妹と3人の生活費には足りないだろう。と、いう事は…
「…2、3日にはここを出るつもりだ。」
「…龍と結の転入先の学校にはもう話をつけてるの。」
…俺のテニスバッグが、哀しげな音を立てて床に落ちた。
(千駄木家)
「只今ぁ。」
外が夕闇に包まれた頃、私は帰宅した。
「お帰り。今日、ちゃんと貰ってきたわよ。」
「ありがとう、ママ。」
クラスの皆にはまだ話してなかったが、私はこの夏からイギリスへ長期留学するのだ。そのためのパスポートを母から受け取った。
私は既に、学校からは卒業認定を貰っている。
「あっちに行ったら、いつ帰ってくるんだっけ?」
「今の学年の人達が、順調に大学へ進学したら、大学2年になった春頃かな。」
「そんなに帰ってこないんだ…ママ寂しいな。」
「大丈夫、あっち行ったらちゃんと手紙送るからネッ!」
そろそろ、クラスの皆に話した方が良いかもしれない…そう私は思った。