friends35:試合終了後のグラウンド。
試合が終わり、各自教室に戻っていく中、藤浦だけグラウンド内で立ち尽くしていた。
(平成…度 秋季高校野球関東大会 準々決勝戦)
「はぁ…はぁ…」
「踏ん張れ藤浦!あとストライク一つだぞ!」
(ビュン!)
「し、しまった!!」
(カキーン!!)
打球は、センターフェンスを越え、ホームラン。
「何と!最後の最後で、大月学園の7番バッター湍水が放った打球が逆転サヨナラホームランになりました! 栗桜の1年ピッチャー藤浦、まさかのサヨナラ弾を喫しました!!」
「そ、そんな…」
(試合終了後のベンチ裏)
「やはり、急造で大月学園は倒せなかったな。」
「済みませんでした、監督。最後の最後で…あんな無様な投球をしてしまって…。」
「いや藤浦、君は良くやったよ。栗桜での君の最後の大会に怪我した佐賀の代わりに、ピッチャーを引き受けてくれてありがとうな。」
「礼なんて、とんでもないです。佐賀先輩は、もう直ぐ復帰しますし…俺は失礼します。」
「藤浦、向こうでも野球するのか?」
「さぁ…まだ考え中です。それじゃ監督、お元気で。」
「藤浦も、達者でな。」
「…い、藤浦!気付けよ藤浦!」
「…はっ!…幻か?」
「何言ってんだよ藤浦?さぁ、試合も終わったし、教室に戻るぞ。」
「あ…あぁ。」
俺は、ゆっくりと得点板を見た。3組との試合は、あれから瀬戸と犀潟が奇跡のシングルヒットで進塁し、最後は魚谷の2点タイムリーで、俺らが逆転勝ちした。しかし、1組との試合は0対8、7回コールドで俺らの完封負けだった。
「おい、藤浦。置いてくぜ!」
「先行ってろ、あとで行くから。」
「解った。」
…栗桜では、いろいろあった。
甲子園常連校であった栗桜高校に俺が入学した時は、学校は荒れていて、決して良い学校じゃなかった。学校中の窓ガラスは常にどこか割られていて、非常階段にはタバコの吸い殻が見つかる始末。不良の中に野球部員もいたから、野球に入部した時は先生やクラスメイトから白い目で見られていた。
それでも監督は、めげずに俺達を指導してくれた。だから、俺が1年夏の時に神奈川の強豪横浜綱領を破り、甲子園の切符を手に入れたのだ。結局、甲子園1回戦で敗れたが良い思い出だった。
夏の甲子園が終わって、9月の下旬。俺は秋季関東野球大会が開催される前に、父親から転勤の話をされた。4月に東京の駒宮市へ移住するという話だった。
俺は勿論、反発したが高校生の分際で、モノが言えるはずが無かった。
結局俺の家族は、高2の4月に駒宮市へ引越して来た。そして、ここの“私立芹沢学園”に編入する事となった。
(キーン…コーン…)
俺は、急いで教室に戻る事にした。