friends32:敗色濃厚…
俺らは、成を失って意気消沈としていた。
相手チームはその隙に、どんどん点を採り、気が付けば俺らはコールド負け寸前の状態だった…
(2回裏 3組チームの攻撃)
(このまま炎上する事無く、9回まで持続できるのか…)
1回表で、いきなり一人の貴重な戦力を失った俺らは、次の回の攻撃時を三者凡退で終わらせてしまい、益々意気消沈となっていた。
「4番、キャッチャー…山岡君。」
(落ち着け、俺。いつものピッチングで行けば、三振は採れる。)
(ヒュン!)
(カキーンっ!!)
打球は、どんどんライト方向に上がっていった。
「っ!!ライトっ!」
…葎塔が走ったが、打球はライトスタンドにゆっくりと入った。
「…う、嘘だろ。」
福本が、唖然とライトスタンドを見ていた。
その後、俺は完璧に炎上し…気が付けば7回終了時に、0対7だった。つまり、次の回の攻撃時に俺らが点を入れなければ、自然的に俺らはコールド負けとなってしまう…。
「このまま、コールド負けかよ…」
「俺達…やっぱ雑魚だったんだな。」
皆が落ち込んでいる時に、一人だけ素振りしているのは藤浦だった。
「なぁ、藤浦。」
俺は、藤浦に助けを求めていた。
「………。」
「今までの回、お前だけがずっとヒットで出続けたんだよな。」
「………。」
「何故、ホームラン球を打たない?」
「っ!!」
そう…藤浦は、内角のストレートばかり打って出塁していたが、甘く入ったスローボールやカーブは全てカットし、ファールボールにしていた。藤浦の力でアレをホームランにする事など、容易いと思うのだ。
しかし、彼はわざとカットしてストレートを待っていたのだ。
「なぁ、何故なんだ?」
「…勝ちたくないから。」
「えっ?!」
「勝つのが面倒臭いから。」
藤浦の言葉に、魚谷がキレてしまった。
「藤浦っ!」
魚谷が藤浦に突っ掛った。
「止めろ魚谷っ!!」
「許せねぇんだよ、コイツが!!」
「馬鹿な奴だな。」
「何ぃ?!テメェ、ふざけんなっ!!」
魚谷は、藤浦に殴り掛った。が、しかし藤浦の方が一枚上手だった。
魚谷の拳を素手で簡単に受け止め、そのまま握り、一瞬の隙にそのまま横に魚谷の身体を投げた。
「ぐわっ!!」
「魚谷っ!!…藤浦、いい加減にしねぇと…」
俺は、怒り心頭の葎塔を押さえた。
「葎塔、無駄だよ。今ので解っただろ?藤浦は、お前が勝てる相手じゃ無い。」
「チッ…」
「藤浦、頼む。お前なら、ホームランを打てる筈だ。最終の9回に繋げてくれ。」
「断る。」
「へぇ…。じゃあ、この試合に負けた原因はお前一人の所為にして良い?」
「何っ?!」
「だって、お前がホームラン球をわざと打たないから勝てない…それで負けた。キッチリ理由になってるからな。」
「おい、ふざけんなっ!!」
「別にふざけてねぇよ。ただ、正論を言っただけさ。」
「ぐっ…」
「3番、センター…藤浦君。」
藤浦は、黙ってヘルメットを被り、バットを持ってバッターボックスに向かって行った。
(ヒュン)
甘く入ったカーブ…それを藤浦は見逃さなかった。
(カキーンっ!)
打球は、グングン上昇していき、そして。
(ポトリ…)
打球は、センター横のフェンスの上を通り越し、見事にスタンドイン。
「ヨッシャー!!」
「ナイス藤浦ぁー!」
(これで、コールドは逃れた…。)
藤浦のホームランで、1対7。
「4番、ファースト…瀬戸君。」
(ヒュン)
(カキーンっ!)
「よし、抜けた!」
「回れー、瀬戸ぉ!」
瀬戸は、見事な2ベースヒットを放った。
「5番、レフト…犀潟君。」
(ヒュン)
(ブンっ!)
「ストライーク!」
「犀潟ぁ!よく見ろっ!」
(ヒュン!)
(カキーンっ!)
犀潟の打球は、レフト方向に飛んだ。
「頼む、落ちてくれ!!」
彼の願いが通じたのか、レフトが捕り損ねて打球は落ちた。
「フェアっ!」
「走れっ、瀬戸!!」
瀬戸が全力で走り、三塁を蹴ってホームに。しかし、レフトも球を捕り、三塁へ中継して本塁に投げていた。
「瀬戸っ、突っ込め!!」
(ザザー!!)
砂埃が本塁の周りに発生し、ベンチから様子が見れなかった。
「だ…ダメか…」
砂埃が消え、瀬戸の手は捕手より先に本塁に触れていた。
「セーフっ!!」
「やった、2点目だ!」
「瀬戸、よくやった!」
「別に大した事じゃねぇよ。」
「6番、サード…魚谷君。」
魚谷…彼は、過去に野球の経験が無かったものの、持ち前の運動神経と反射神経を駆使して頑張った結果、サードのポジションを手に入れた努力者である。
「魚谷、打てよ!」
(ビュン!)
「くっ!」
(バシッ!)
「ストライーク!」
「あのスピードで…いきなり曲がりやがった。」
今の相手の球を見て、俺らは唖然とした。
(ビュン!)
(ブンっ)
(バシッ!)
「ストライーク!」
ボールは、ストレートと球速が何ら変わらないが、打者の手元でいきなり曲がった。
「あ、あれは…」
「瀬戸、あの球種を解るのか?」
「あぁ。魚谷が打てないのも解ったよ。」
「何なんだ、あの変化球は?」
「スライダー。しかも、ある程度の野球経験者じゃない限り、まともにバットに当てられない…高速スライダー。相手の投手は、それを最終兵器として隠してたんだ。」
「こ…高速スライダー?」
「普通のスライダーなら、球速もあんま無くて打てるが、高速スライダーはストレートと何ら球速は変わらない。だから、慣れてない人は、ストレートと混同して打てない。」
「そんな…」
(ビュン!)
(ブンっ!)
(バシッ!)
「ストライーク、バッターアウト!」
魚谷は、肩を落としながらベンチに戻ってきた。
「すまない…」
「ドンマイ、あれは初めて見た奴は打てない変化球だからな。」
「くっ…あれは、何だったんだ。」
「高速スライダー。俺達には、あれはまだ未知の変化球だったのさ。」
次の葎塔も三振し、福本は当てたが、判定はインフィールドフライだった。
「3アウト、チェンジ!」
俺達に残された攻撃は、次の回のみ…つまり、最終9回しか残されていない。
この5点差を、果たして俺らは覆す事が出来るのか?