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友達の存在...  作者: りす君
32/58

friends31:一眼…

藤浦との約束を果たす為、俺達は守備についた。

榎故の好投のお陰で、俺らは順調に2アウトを捕った。

しかし、俺らは一つ忘れている事があった…。

(1回裏、3組Aチームの攻撃)




(榎故…頼むぞ。)


2組チームの誰もが、榎故の配球を注目していた。そして、榎故が振り被った。


(ヒュンっ)

(バシっ!)

「ストライーク!」


一球目は、見事なカーブでストライク。そして、第二球目。


(ビュンっ!)

(ボンっ!!)

「ストライーク!」


榎故の得意な変化球、カットボールにより2ストライク。


(おい…榎故、初回から飛ばすのは良いが、約束を忘れるなよ。)


俺は、そう思いながら第三球目を見据えた。


(ヒュンっ)


絶妙なカーブ…それを相手のバッターは、(とら)えた。


(カキーンっ!)


打球は、ややライナー気味に真っ直ぐ飛んだ。しかし、それを易々と取り逃す内野守備陣では無かった。


「フンっ!!」


川端が見事なダイビングキャッチで、1アウト。


「ナイス、川端っ!」

「ヘヘっ、どんどん行こうぜぇ!!」

「「おー!!!」」


川端の気合いに、皆が木霊した。


(カキーンっ!)

「魚谷っ、ファースト!」

(ヒュンっ)

(バシっ)

「アウトっ!」

「ヨッシャー!!あと1アウト、打たせて行こうぜ!」

「ウォー!!」


皆のやる気は最高潮だった。しかし、そこまでだった…。俺達は、一つ忘れていた事があったのだ…。


「3番、サード…永山君。」


エセウグイス嬢の声を聴いた榎故の顔が急にこわばった。


「タイムっ!」


福本が主審にタイムを頼み、全員マウンドに集合した。


「どうした、榎故。急に落ち着かなくなってるぜ。」

「………。」


榎故は福本の問いに、終始無口だった。すると、榎故と一緒に野球部に所属してるファーストの瀬戸が口を開いた。


「榎故が緊張するのも無理もねぇよ。」

「どういう事だよ、瀬戸。」

と、俺は尋ねた。


「相手の3番、永山は野球部の主砲。 ここまで高校通算で打率4割をマークしてる。 ホームラン数も部内で1、2を争う強打者。榎故の球でも、甘くなれば簡単に芯で捉えて軽々と柵越えされるだろうよ。」

「と、いうことは…。」

「本気で三振を取りに行くか、あるいは四球(フォアボール)で歩かせるか、だな。」

「じゃあ、結果的に藤浦との約束は…。」

「はっきり言って、無理だな。」

「そんな…。」

「悔しいが多分、アイツはその事を前々から知っていたからこそ、こんな不条理な事を強いらせたんだ。」

「くっ…。」

「こうなってしまった以上、藤浦との約束は守らない。 皆、それで良いな?」


瀬戸の言葉に、他のメンバーは否応なく賛同した。ただ、1人を除いて…。


「なっさけない奴らだなぁ!」

「福本?」

「俺は、納得してないぞ。 易々と、あの生意気な転校生に屈服してたまるか!」

「気持ちはわかるが、どうしたよいきなり。」

「まぁまぁ、話を聞いてくれよ瀬戸。それに皆も。 つまりだな…。」


皆、福本の次の言葉に耳を疑った。


「ピッチャーを、いっそのこと交代しようと思う。」

「は? 交代だと?!」


福本の言葉に、榎故も顔を上げて福本を見た。


「ピッチャー交代って、榎故以外にあの永山っていう奴を抑えられる様なピッチャーはうちのチームには居ねぇよ!」

「バッカだな、瀬戸は。」

「何だと?」

「居るじゃねぇか、ほら。」


福本が指を差した方向は…ベンチだった。ベンチには、先生ともう1人。


「ふ、藤浦…?」

「あったりー! アイツ、どっかで見たことあんなぁって思ってて、ずっと考えてたら、やっと思い出した。アイツ、去年の夏の甲子園に出場していた神奈川県代表、栗桜高校の1年生エースなんだよ。」

「「な、何ぃー?!」」

「君達、もうそろそろ…。」


審判役の教師の声など、今の俺達の耳には届かなかった。


「って事は…、アイツなら永山を抑える事なんて。」

「簡単だって事さ。」

「さっすが、我がチームの司令塔。」

「どーんなもんだいっ!」


福本が得意気になっているなか、俺は一つ引っ掛かる事があった。


「なぁ、皆。」

「「何だ、高萩?」」

「藤浦…、簡単に了承して試合に出て貰えるのかな?」


俺の問いに、メンバーは一気に黙り込んだ。


「確かに…。 俺らに挑発した奴が、易々と了承して試合に出てくれるなんて無理だよなぁ。」

「やっぱ、俺らで何とかするしかねぇのか。」


皆が意気消沈としてる中、成は考え事をしていた。


「成、何考えてんだ?」

「いや…永山は榎故の球ばかり見てたんだよな?」

「多分。」

「だったら、俺らの球で何とか出来るんじゃねぇか?」

「確かにその考えは、一理あるな。」

「じゃあ、誰がピッチャーやるんだ?」


ライトの葎塔の発言に、皆が困ってしまった。俺は、その姿に堪らず言い放った。


「俺が、榎故の代わりに投げる。」

「「そんな無茶な!」」


瀬戸と魚谷が、同時に言った。


「無茶とか、そんな事言ってる場合じゃねぇんだ! 誰かが投げないと、試合は終わらねぇんだ!」

「うん、確かに。よし、ピッチャー交代だ!」

「ま、マジかよ…」

「俺は、本気だよ。」

「榎故、お前はいいのか?」

「俺は、今まで高萩の集中力の高さを見てきたんだ。高萩なら、俺の代わりに永山を抑えてくれるさ。」

「ありがとう、榎故。」

「高萩?」

「何だ?」

「永山の苦手なコースはな、ゴニョゴニョ…。」

「ん、了解。なるべくそこを狙ってみる。」

「頼んだぜ!」


そして福本は、主審にポジションチェンジを伝え、俺と榎故以外のメンバーは元のポジションに戻った。


「ここで、ポジション変更をお知らせ致します。2組チーム、ピッチャーの榎故君がセカンドに、セカンドの高萩君がピッチャーに入ります。」

「プレイっ!」


試合再開。俺は、福本のミットを睨みながら振り被った。


(ビュンっ!)

(カンっ!)

「ファール!」

(さすが、次期野球部キャプテン。そう一筋縄(ひとすじなわ)にはいかないか…。)


第二球目、福本は直球のサインを出してきた。


(また直球かよ、絶対に打たれるぜ。)


俺は、即座に首を振った。すると、福本は或る変化球のサインを出してきた。


(これなら…)


俺は、親指と小指でボールを挟み、後の三本の指で鷲掴みした。そして、そのまま押し出すように投げた。


(ヒュンっ!)


ボールは、無回転でゆっくりと左右に揺れながらミットを向かっていった。


「くっ!」

(ブンっ)

「ストライーク!」


永山は思いっきりフルスイングしたが、球はバットの下を通った為、見事に空振りを奪った。


「スゲェ! 高萩、お前…ナックル投げられるのか?」

「まぁ、使えるようになるまでには、福本の協力が必要だったけどな。」

「おい、お前ふざけんなよ!」

「っ?!」


永山は、俺を睨みつけながら言った。


「なんだ、今のヘナチョコなボールは! 次は、完璧に校外まで飛ばしてやる!」

「やれるものなら、やってみろよ!」

「高萩、気をつけろ! 」

「榎故。」

「腕振って、全力でねじ伏せろ! じゃないと、打たれるぞ!」

「了解。」


俺は精神を集中させ、福本のミットを凝視し、ナックルの握りをした。


「フンッ!!」

(ヒュンっ!)


全力で投げた球は、大きく左斜め下にゆっくり落ちた。しかし…永山は球筋をしっかり捉えていた。そして、バットにクリーンヒットした。


(カキーンっ!!)


打球は、右中間方向へ勢いよく飛翔し、俺を含む2組メンバー全員がホームランかと思い、肩を落とした。ただ、一人を除いて。

「オリャーッ!!」

と、外野から大きな声が聞こえた。そして次の瞬間…、

(バシっ!)

(ドサっ!!)

と、(にぶ)音が立て続けに聞こえた。


「うっ、うぅ…。」

「き、君…大丈夫かい?」

「くっ、大丈夫です。 それより、捕りましたよ…、ほら。」

「あ、アウトッ! 3アウトチェンジっ!」

「何ぃ?!」

「成っ!」


必死にホームランボールをダイビングキャッチしたのは、センターを守っていた成だった。しかし、キャッチした瞬間に左肩を地面にぶつけてしまった。


「大丈夫か?! 立てるか?」

「だ、大丈夫だ…。 これくらい、平気。」


そう言いながら、成は額に汗を滲ませながら左肩を痛々しく押さえていた。


「嘘つけ、我慢すんな。 成、大人しく保健室に行こう。」

「くっ、済まない…。」

「謝るな…良く頑張った、ありがとな。」


成は、先生達に付き添われて校庭から出ていった。


「さて、こうなった以上、試合は続けられないよな。」

「あぁ…、万事休すだな。」


皆が落ち込んでいると、1人の男がゆっくりとやってきた。


「よくやったな、出来損ないなりに。 素直に褒めてやるよ。」

「藤浦っ、テメェ!」

「止めろっ、魚谷!」

「だが高萩、コイツは有り得ねぇだろ!」

「今は何にせよ、試合を続けるかこのまま降参かの問題だ。なぁ、藤浦?」

「何だ?」

「お前、外野出来るか?」

「バーカ、俺を()めるな。 お前は、俺がピッチャーしか出来ないと思ってんの?」

「舐めてねぇし、そんな事は一切思ってないよ。だからお前に、外野を守れるかって聞いてんだ。」

「守れるに決まってんだろ。俺は、ピッチャーの他に、持ち前の強肩(きょうけん)を活かして外野を守る事があんだよ。」

「なら、やってくれるよな?」

「やんねぇよ。こんな相手じゃ、役不足だ。」

「ふーん...やっぱ、藤浦って本職以外である外野守備は下手なんだ。」

「何ぃ?!テメェ、もう一度言ってみろ!」

「藤浦は、ピッチャーしか出来ないんだ。」

「冗談じゃない! いいよ、やってやるよ! お前らに、俺の守備が超絶巧(うま)いって事を認識させてやるっ!」

「よし、これでメンバーは(そろ)った。これからどんどん点を採って、守備ではしっかりと1アウトずつ取っていこう!」

「「オー!!!」」




この瞬間、漸くチームが一眼となった。

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