friends30:チームとしての誇り…
体育の時間。
高萩達のクラスは、他クラスと野球の試合をする事になった。
3組のAチームとの初戦。高萩は見事にヒットを放ったが、得点には繋がらなかった。
1回表の終了時、突然控えの藤浦が口を開いた。
藤浦の言った言葉に、成増は激怒して…
(野球の詳細が解らない方は、この話を飛ばしてお読み下さい。この話を読まなくても物語上に支障はございません。)
体育の時間。
高校の体育は、結構ハードである。例えば、サッカーにおいて、もちろん技術も必要だが、戦略も考えないといけない。このような事から、ハードと言える。
しかも、今日は体育の時間を利用した学年球技大会なのだ。
「あーあ、球技大会ならサッカーが良かったな。」
体操着に着替えていた福本が、隣にいた成に話し掛けた。
「しゃあないだろ、体育の石岡が無類の野球好きなんだから。」
「だな。」
「で、1回戦と2回戦の相手は何組なんだ?」
「えーと…一回戦は3組のAチーム。まぁ…俺らがマグレで勝てば1組のBチームに2回戦で当たる。」
「はぁ…両方とも強いチームだな。」
「まぁ…こっちには榎故がいるし、うちらのクラスには、丁度9人しか男子が在席してねぇんだから。文句は出来ねぇよ。」
「確かに。」
「だからよ、気軽にやろうぜ。」
「あぁ。」
俺は同意した。
「でもよ…」
「ん?」
福本が、困ったような顔をしていた。
「俺らのクラスに…転校生来たじゃん。」
「…あっ!」
(そうか…藤浦が居たんだよな…)
クラス内を見渡すと、藤浦はもう教室には居なかった。
「アイツのポジションは、一体何処にするんだ。」
「取り敢えず…控えじゃん。」
「控えピッチャーか?」
「いや、代打要員。」
「成程な。しかし、アイツがピッチャー出来れば案外頼もしいかもな。」
「そんなに控えピッチャー要らねぇよ。第一、もうセカンドと兼任している高萩もいるし…なぁ高…」
「………。」
「高萩…どうした?」
「…いや、何でもない。」
「お前、顔色悪いぜ。体育休むか?」
「休むもんか。第一、下手くそな俺は休んだら成績が危ないからな。」
「そうか…」
(キーンコーン…)
「おい、高萩ぃ…成。チャイム鳴ったから早く行かねぇと。」
「そうだな、よし行くか!」
俺らは、教室を後にしてグラウンドへ向かって走り出した。
「お互いに、礼っ!」
「「お願いしまぁーすっ!!」」
まず、俺ら2組対3組のAチームとの試合が始まった。先攻は、俺ら2組。
打順、各ポジションは以下の通り。
1番、ショート(遊撃手):川端
2番、セカンド(二塁手):高萩
3番、センター(中堅手):成増
4番、ファースト(一塁手):瀬戸
5番、レフト(左翼手):犀潟
6番、サード(三塁手):魚谷
7番、ライト(右翼手):葎塔
8番、キャッチャー(捕手):福本
9番、ピッチャー(投手):榎故
「1回の表。 先攻チームの攻撃。」
「プレイボールっ!」
審判が高だかに声を上げたと共に、試合が始まった。
藤浦は、ベンチ(選手控え場)で座って、何やらブツブツと呟いていた。
(ヒュン!…バシっ!)
「ストライクっ!」
(思った以上に球が速いな。)
(ヒュン!)
(ブンっ!)
「ストライクっ!」
(川端…打てよ。)
しかし、俺の願いは届かず…
(ヒュンっ!)
(ブンっ!)
「ストライクっ、バッターアウト!!」
「早速…1アウトかよ…」
バットを持ってベンチへ戻る川端が、俺にこう言った。
「予想以上に速すぎる。無理矢理打っても、フライ(飛球)か精々ゴロだな、ハハハ。」
(はぁ…)
俺は、溜め息をつきながらバッターボックスへ向かった。
(さて、第一球目は…)
(ヒュン!)
(バシッ!)
「ストライクっ!」
一球目は、まず珠筋を見るために見逃した。
(内角低めの直球か…結構ウザいな。)
俺は、狙い球を変化球に絞る事にした。
(ヒュン!)
第2球目は、インハイ(内側の高め)のスローボール…判定は、ボール。
(あのピッチャー…、緩急で抑える気だな。)
俺は勝負に出た。バットを横に寝かせて構えた。そう…バントの構えだ。
相手のピッチャーもこちらがバントだと解り、わざと打たせて捕る気満々だ。
(ヒュン!)
(ひっかかったな!)
相手のピッチャーが投げた瞬間に、俺はすぐにバントの構えを止め、そして…
「うりゃっ!」
(カキーン!!)
相手の内野陣は、バントシフトで前に出ていた。しかし、俺はバントではなく、ヒッティングに切り替えて強く叩いた。
その結果、レフト前ヒットで出塁した。
「ば…バスター?!」
相手のピッチャーは悔しがっていた。
俺が今やったのは、バスターという打法。これは、相手のバントシフトに対して意表をつくのに有効なのだ。
「ナイス、萩ぃ!」
「やるなぁ…アイツ。」
「3番、センター…成増君。」
(成…打ってくれ。)
俺はそう思いながら、リードの構えを取った。
成は俺に気づき、一回頷いた。
(ヒュン!)
(ダッ!)
俺は二塁へ向かって走り出した。相手は、盗塁したと思っている筈だが実は違う。
(カキーン!!)
成は、見事なバッティングを見せてくれた。
打球は、ライト前に落ちた。ライトが捕って三塁へ投げようとしたが、俺は既に三塁へ到達していた。しかし、一塁を蹴って二塁へ向かおうとした成が相手の見事な中継プレーで一、二塁間に挟まれてタッチアウトとなった。
(これで2アウトか…)
「4番、ファースト…瀬戸君。」
(ヒュン!)
(カキーンっ!!)
残念ながら彼の打球は伸びず、センターのグローブに収まった。
「3アウト、チェンジ!」
ベンチに戻ると、何故か藤浦が笑っていた。
「ハハハっ!…笑っちまうね、このチームは!」
「何だとっ!」
藤浦の言葉にキレた成は、藤浦に掴み掛かろうとした。
「止めろ、成っ! 藤浦も、ちょっとは言葉を考えろ。」
しかし、藤浦は謝る様子が無い。 それどころか、更に成をキレさせてしまう言葉を放った。
「俺に指図すんな。しっかし、こんな草野球レベルじゃあ勝てねぇよ!」
「テメェ!! いい加減にしろよ!!」
「成! やめろ!」
「うっさい!」
「まぁ、そんなに怒るのなら見せてくれよ。」
「何をだよ!」
「次の相手の攻撃時、そこにいるピッチャーは、打者にわざと打たれやすい所へ投げる。それを連続で3回、ヒット、エラー無しでやってのけたらお前らの力、認めてやっても良いぜ。」
「フン! そんなの簡単じゃねぇか。んじゃ、頼むぜ榎故。」
「おいおい、冗談じゃねぇよ。わざと打たれる所に投げるなんて、野球部で一応ピッチャーやってる俺のプライドが許す訳ねぇだろ。」
榎故は、成の発言に呆れながら言った。
「なぁ、藤浦。」
俺は、藤浦に話し掛けた。
「何だ、高萩…」
俺は、藤浦に少し聴きたい事があった。
「お前は、過去に野球した事あるのか?」
すると、藤浦は嘲笑うかのように言った。
「精々、お前らより野球はやって来たと思うぜ。」
「その時のポジションは?」
俺が尋ねると、藤浦はいきなり得点板の方に指を差した。
「もうそろそろ、相手の打者が準備出来た頃だろ。 行って来いよ。」
「…あぁ、約束守れよ。」
「フッ…まぁ、精々頑張りな。あ、そうそう。」
「何だ?」
「さっき俺が下したテスト、クリアしたら俺が昔やってたポジション、教えてやっても良いぜ。」
「偉そうに。 行くぜ、皆!」
「オー!!!」
俺らは、チームとしての誇りを持って守備についた。