friends2:優しいヒト
高萩は、また憂鬱な世界史の補習を受けていた。そんな中、千駄木が倒れるが高萩はただ見てるだけで何も出来なかった。その時、彼に後ろから声を掛けてきたのは気と声は小さいが心優しい女子、潮見だった…。
教室では、昨日のクリスマスの事で話が盛り上がっていた。 正直、俺には関係無いと思っていたので、その話に加わなかった。
ふと、横を見ると千駄木が具合が悪そうな顔をしていたが、彼女なりに明るく振る舞っていた。
少し気にしつつ、取りあえず世界史の補習授業が始まるまで冬休みの課題をやり始めた。
???:
「お、偉いなぁ。待ってる間に宿題やってるよ。」
クラスメートの川端 康介が、そんな俺の姿を見て言った。
高萩
「何だ、川端か。そういや、蒲原と一緒じゃねぇのか?」
川端:
「何故に四六時中、俺と蒲原は一緒に居なくちゃいけないんだ?」
川端にそう言われて、俺はこれ以上詮索するのを止めた。
また、いつもと変わらない世界史の補習に退屈していた。 当然、これっぽっちも理解などしていない。 この日の補習も、それとなくやり過ごした。
補習が終わり、教室を出ようとした時だった。
(バタッ)
いきなり、横で補習を受けていた千駄木が倒れたのだ。 側にいた女子数人が千駄木を保健室へ連れていった。俺は、その光景をただ呆然と観ているだけだった。
唖然としていた俺に、不意に後ろから声を掛けられた。
???:
「…た、高萩君? だっ…、大丈夫?」
その声に俺は我に返った。
声の主はクラスメートの潮見 麻衣だった。 入学以降、潮見と話した事が無かった。
高萩:
「えっ…あっ、うん。 大丈夫。」
潮見:
「なら、良いけど…。」
潮見の性格は、大人しくて誰にでも優しい女の子と周囲の人間から言われている。 144cmと背が低く、女子高生とは普通では到底思えない程の妹系のロリ顔。 彼女の笑顔はクラスの男子から“天使”と称されている程の人気。
反対に女子からは、あまり気に入られていない様である。 元々、気も小さくて声も小さかった事が災いに転じ、一時期クラスの女子から虐めのターゲットにされて学校に来なくなったが、現在は何とか学校に来ている状態だった。
話のネタが思い付かず、苦しみ紛れに出した言葉は、現状の潮見の事だった。
高萩:
「今は、大丈夫なのかい? その…精神的に苦しんだり、病んだりしてないか?」
潮見は、一瞬驚いた顔をして少しうつ向きながら答えた。
潮見:
「う…うん、今は何とか…。 ねぇ、高萩君?」
高萩:
「何?」
潮見:
「あたしと、お話するの...嫌?」
高萩:
「えっ?」
驚いて聞き返すと、潮見の様子がおかしい事に気付いた。 潮見はうつ向きながら少し肩が震えていた。
高萩:
「し、潮見?」
潮見が、涙を流していた。
潮見:
「ごめんね…。 嫌いだよね、こういう風に直ぐ泣く子は…。」
高萩:
「潮見…。」
どうしたらいいのか解らず、ポケットからティッシュを取り出して潮見に渡した。
潮見:
「ありがとう…。ごめんなさい、高萩君に迷惑掛けちゃったね…。」
高萩:
「そんなに自分自身を責めるなよ。」
今、自分に出来るのは自己嫌悪に陥っていた彼女を慰める事だ。
潮見:
「…うん、ありがとう。」
数分後、落ち着きを取り戻した潮見は自分のバッグから紙とペンを取り出して何かを書いた後、その紙を俺に渡した。
潮見:
「これ…、あたしの携帯の番号とメルアドなの。迷惑じゃなければ、高萩君に受け取って欲しいな。」
高萩:
「えっ...、潮見?」
潮見:
「やっぱり、迷惑だったかな...。」
高萩:
「あっ、いや...。 ありがとう、潮見。」
若干戸惑いながら、俺は彼女から紙を受け取り、自分の携帯のアドレス帳に潮見の名前を入れた。同時に潮見に俺の携帯のメルアドを教え、彼女はアドレス帳に登録した。
潮見:
「これから、宜しく御願いします。」
高萩:
「こちらこそ。」
彼女に、笑顔が戻った。
帰り道、部活帰りだという成と駅まで歩いた。 成と帰る方向が違うので改札で別れた。 高架のプラットホームに上がると少し騒がしい声が聞こえてきた。
川端:
「おいっ、ふざけんなよ!」
福本:
「やるか? てめぇ!」
何と、プラットホームで福本と川端が睨み合い口論をしていた。しかも、今にも一触即発の状態だった。 更に二人の近くには、困り顔の蒲原がいたのだった…。