friends24:重責…
佐伯から榮波の死を伝えられ、高萩は無言で肩を震わせうつ向きながら静かに涙を溢している。
佐伯はその姿を見て、榮波を死なせてしまった自分に重責を感じてしまう…
(高萩君…、やはり彼にこの事を伝えたのは間違いだったかもしれない…)
先程、私は榮波君の死を高萩君に伝えた。すると、彼はうつ向いたまま何か唱えている。第三者から見たら彼は鬱病者に見える…まるであの時の私のように。
「蔵瀬…何でだよ…何で死んじまったんだよ…」
私は、滅多に嘘はつかない。その事を彼は前々から承知していた。だから彼はあんな風になってしまったのだ…
「高萩君。」
「………。」
彼の目の下には、一筋の透明な線が出来ていた。
「榮波君…高校に入ってからも彼はクラスメート数人にいじめられてたの。」
高萩君は、何も言わずにうなだれて肩を震わせながら聴いてくれていた。
「私…彼の側に出来るだけ居たけど、結局何も出来なかった…。」
「………。」
(高萩君…)
「突然だけど…高萩君にカミングアウトするよ。私さ…榮波君の事を、誤解していて一時期嫌いになってた時があるんだ…」
「っ?!」
「そりゃ、驚くよね…。自分で言うのもなんだけど、あんなに彼にベタベタしてた私が彼の事を嫌いになるなんて…中学時代に私達の事を見てた人なら驚くよね。」
私は一気に捌いた。この事を言って、相手が何と言おうが思おうがどうでも良くなったから。
「…何でだよ…何でさ?」
高萩君は、声を震わせながらも言った。
「正直言っちゃうとね…榮波君にヒドイ事を言われちゃって…“ウザい、死ね”ってね。」
「っ?!…う、嘘だ!そんな事…」
「そう…“いつもの”榮波君なら言わないわ。だけど…あの時の榮波君は、何ていうか…精神異常状態だったの。」
「精神…異常…だと? 」
私はコクリと頷いた。
「夏休みに入る前ぐらいから榮波君…私に対する態度と口調が急に変わったの。最初は、私の事を嫌いになって突き放したかったのかなって思った。けど…」
「………。」
「夏休みに入って数日経ったある日、彼から急に呼び出されて…私行ったの。そしたら、榮波君が急に謝ったから、理由を聴いてみたの。」
「…イジメを受けて、心身共に辛いから佐伯につい暴言を吐いた…そういう事か?」
(高萩君…何故、あなたはそこまで榮波君の事が解るのよ…?)
私は、何だか敗北した気分だった。そこまで彼の事が解ってる高萩君に対して、私はずっと彼の側にいたのに少しも解らなかったから…。
「…で、自殺する素振りを見せたのはいつ頃からなんだ?」
高萩君が聞いてきた。
「私を呼び出した時から、その兆候があったわ。」
「佐伯…」
「えっ?!」
いつの間に、高萩君が私の目の前にいた。そして…
(ガシッ!)
「何故、止めなられなかった!!佐伯っ、答えろ!」
高萩君は私の服を掴み、私に怒鳴った。周りの客が私達の方を向いていたので慌ててそれを制した。
「ちょ…高萩君、声が大き過ぎるよ…周りの人達も見てるから…理由はあとで話すから。と…とにかく恥ずかしいから、早くここを出ようよ。」
「くっ…」
…私は、あんなに怒った高萩君は今まで見た事が無かった。
(…榮波君の事がホントに解ってるのは高萩君かもしれない。)
そう思いつつも、私と高萩君は会計を済ませて足早に喫茶店を立ち去った。
私達は、駅前の喫茶店から“ある場所”へお互いに無言で歩いていた。
私は、話し掛けようとするも、何だか話し掛けづらくて…ずっと黙り続けていた。
ある場所へあと半分近く来た所で、突如高萩君が口を開いた。
「佐伯…」
「ん、何?」
「さっきは取り乱してゴメンな。」
「ううん、あれは別に気にしてないから謝らなくていいよ…。それより…聴かないの…あの事。」
「…もういいよ。」
「えっ?!」
「元々、佐伯は悪くないし…今更佐伯に問い詰めてもお互いに辛く苦しくなるだけで…意味ないと思うからさ。」
「た…高萩君…」
私は、高萩君に対して申し訳ない気持ちで一杯だった。ほんの少しで、私自身が潰れそうだったから。
「…で、これから行くんだろ、蔵瀬の墓に。」
「…うん、お水とかあげにね。」
「…そうか、ありがとな佐伯。」
彼が私に言ってくれたその言葉が、私の背負っていた重責を取り除いてくれた。その瞬間、私の感情の奥から何かが出てくるのを感じた。
「う…うわぁーん!!」
私は到頭、感情を抑えきれず、道端の側面で顔を伏せて泣き出した。
「佐伯…今まで辛かったよな…すまない…。」
高萩君がぽつりと呟いた。
私は、感情が抑えられるまで延々と泣き続けた…。