friends21:彼の死…私の思い。(10)
2学期が始まるが、依然として佐伯は学校に行きたくなかった。
そんなある日の午後。佐伯は気分転換にと、外出した。しかし、立ち寄った公園で不覚にも眠ってしまう。
彼女の名前を呼ぶ声に気がつき、佐伯は目を開ける。彼女の目に映ったモノとは…
まだ夏の蒸し暑さが残っている9月初旬…
2学期に突入しても、私は学校に行かなかった。ママには、“スクールに通わない?”と誘われてるが、私は断り続けていた。
何故か解らない。何故か解らないけど、私は高校を休学してまでスクールには通いたくなかった。
…多分、まだ“あの人”の側に居たいという気持ちが、私の判断を鈍らせているのだろう…
(彼は今頃、学校で何しているのだろう?)
相変わらず、彼の事ばかり考えてしまう私。周りから見れば、“そんなに彼の事考えてしまうなら、学校行って彼と会えば良いじゃん。”と思うだろうが、それは…出来ない。
あの日から、榮波君から電話やメールが来なくなった。
別に寂しくない…って言ったら嘘になる。ホントは…寂しくて…彼が居ないと辛く、死にたくなる。
今の私はまるで、飼い主からほっとかれたウサギのようだった。
2学期は、体育祭や文化祭、1年生秋季短期旅行が木原高校の行事となっていた。だけど、私は参加したくない。参加しても楽しくないから。
そんなある日の午後。私は、ママには無断で外出していた。
並木通りに植えられた木々の葉が徐々に、黄色く色付いていた。
いつの間にか私は、“あの日の”公園の前にいた。足先は、自然に公園内へ向かっていた。
私はベンチに腰掛け、たまたま持ち合わせていた読み掛けの小説を読み始めた。
この頃やっと風が涼しく感じられるようになり、心地よい。無意識の内に、私の瞳は瞼でカバーされていた…
……き?…い、…えき?…丈夫か?
聴き覚えのある声に、私はゆっくりと目を開けた。そして見えたのは…
「佐伯っ!!」
「っ!!」
「ふぅ…やっと目を覚ましたか。こんな所で何やってんだよ、ったく…しかもこんなトコで寝てたら風邪ひくぞ。」
「さ…榮波…君?」
(榮波君…いつの間に…。はっ!まさか…私の寝顔見られちゃった?そうだったらサイアクだぁ…)
私は、恥ずかしさのあまりにうつ向いてしまった。
「佐伯…ゴメンな、いきなり目の前に現れて驚かせて。」
私は、首を横に振った。
「…ううん。でも…どうしてここにいるの?」
「え?…あぁ、ここは俺がいつも帰りに寄っていく秘密の場所なんだよ。」
(ここが榮波君の秘密の場所…)
周りを見渡すと、確かに人気は無く、静かな公園だった。
「で、佐伯の方は俺の秘密の場所で何してたんだい?」
「えっ?!」
(ここで、ただ転寝してた…なんて言えないし、どうしよう…)
私が戸惑っていると、榮波君が私に顔を向けて口を開いた。
「佐伯…折り入って御願いがあるんだ。」
彼の顔はいつもの柔らかい感じじゃなくて…至って真面目な顔だった。
「な、何?」
私が尋ねると次の瞬間、彼は深呼吸して何かふっきったような顔で言った…。
「来月の短期旅行の自由行動中、俺の最期の思い出に“親友”としてずっと一緒にいてくれないか?」
「えっ?」
(榮波君の最期の思い出?それに、“親友”として?)
私は榮波君が言った言葉が、よく理解出来なかった。何故、その旅行が彼の最期の思い出なのか?それに、私が彼を嫌っている事を承知済みで彼は私に御願いするのか…
「そ、それじゃな。頼むぜ!」
「ちょ、ちょっとま…あぁん!」
私の言葉は届かず、彼は足早に去って行ってしまった。
「一体…私はどうしたら良いの?」
彼には、“親友”と視られていて、私は彼の事を恋愛対象として視ている…
私と榮波君…この2人の違う思いが、後にあの辛い出来事へのカウントダウンの口火を切る事となる…。