friends1:俺に対して、妙に馴れ馴れしい女…
高萩は依然として、クラスメート相手に心を開かない。そんな中、冬休みが始まり、補習初日であるクリスマスの日がやって来た。
到頭、憂鬱な冬休みがやって来てしまった…。これから冬休みが終わるまで、家で世界史の予習をしてから、学校へと足を運ぶ日々が俺に課せられる。
高萩の心の声:
「冬休みぐらい、ずっと布団で寝てたいのに…。」
しかも補習は、クリスマスイブの日から始まったのだった。
高萩の心の声:
「今日、世間では大切な人と過ごす日なのに、俺は世界史と過ごさなければならないのか…。まぁ、別に良いけど。」
トボトボと駅から歩いて15分、見慣れた…いや、見飽きた5階建て校舎が現れた。
俺は溜め息を吐きつつ、学校の中へ入っていった。
上履きに履き替え、階段を重い足取りで上り、5階の一番端のクラスに入った。
???:
「よぉ、高萩! 今日も、さみぃな。」
馴れ馴れしく話し掛けてくるこのデブが、福本 秀太だ。一応、俺の“仮”のダチだ。
今までの学校生活の中の教訓として、学生で真っ先に必要なのは調和らしく、一匹狼は何かと不便らしい。なので、仮としてでも俺は要らないと思っている仲間を作らざるを得なかったのだ。
高萩:
「あぁ…。あれ、成は?」
福本:
「おいおい、忘れたのか? アイツは優秀だから、補習なんて受けないよ。世界史なんて、こないだの期末で92点採ってクラスのトップだったんだぞ。ひゃあ…、実に羨ましい!」
高萩の心の声:
「そうだった。アイツは、頭が良かったんだ。」
成増 龍樹は、俺の“仮”のダチの一人である。入学してから、学力は学年のトップクラス。それでいて、運動神経も抜群。入部したテニス部では、期待の新人とも呼ばれ、更にはいつも人には(てか、先生や女子に対してが多い)低姿勢を保っているので、男女共に人気だ。多分、次のバレンタインデーには、学校内の女子からチョコをわんさか貰えるだろう。
???:
「おはよー、高萩クン。」
後ろのドアから入ってきたのは、あの千駄木だった。2学期の終業式まで話した事が無かったのに、最近妙に話し掛けてくる。何か企んでいるのか…。
こうして考えている間に、補習を受ける奴らが登校してきた。しかも、その中にはクラスの女子では成績優秀、更にクールビューティで男子からの人気を千駄木と競う、蒲原 理佳もいた。何故、彼女がこの場にいるのかは疑問だ。
こうして、1教師対15人たらずの生徒達での世界史の補習が始まった。
俺は世界史なんか、興味無かった。自分が興味ある教科は地理、理科の天体部門などだ。一応、理科系のテストはいつも80点代を採っていた。俺は、世界史の単調な説明に飽きてきた。世界史なんてどうでも良い、早く2年になって選択教科で地理を受けたいと思う程に。
高萩の心の声:
「あぁ、眠い。 ふぁ...、やべ、欠伸も出ちまった。」
次第に眠くなってきてしまい、やがて睡魔に負けた俺は無様に眠ってしまったのだった。
[夕刻]
目を覚ますと、退屈な補習の時間はとっくに終わってしまっていた。俺は、しまったと思いながら頭を掻いた。
高萩:
「あぁ、クソッ…。 つい寝ちまったよ。」
???:
「あれぇ、起きたぁ?」
その声に驚いた俺が振り向くと、後ろに千駄木が立っていた。
千駄木:
「高萩クン、寝てたから配られたプリントを渡し損ねちゃってさ…。」
高萩:
「...あぁ、わざわざどうも。」
彼女に軽く会釈し、荷物をまとめ、さっさと家へ帰ろうとした時、
千駄木:
「待って! 折角だから、駅まで一緒に帰ろうよ。」
と、彼女が言ってきた。
高萩の心の声:
「はぁ? 何故、一緒に帰らないといけないんだよ。」
高萩:
「ごめん、一人で帰りたいから。」
正直面倒臭くて、抑揚の無い声で言った。すると彼女は、一瞬だけ驚いた表情を見せたがすぐに微笑み、
千駄木:
「えー、つれないなぁ。 一人で帰るより、二人で帰った方が楽しいと思うな。」
と、言った。
高萩:
「何で、俺と帰りたいの?」
非常に鬱陶しいと思いながら、彼女に言った。すると、彼女はふと哀しそうな顔して言った。
千駄木:
「理由なんて、無いよ。 高萩クンと一緒に帰りたい…、これじゃダメ?」
俺は、女子とは帰りたくない。周りから変な風に思われたく無いからだ。クラス中の男子からモテている女子が相手なら、尚更そうだ。
高萩:
「いや、でもまだ明るい方だし。千駄木さんはバスでも使って一人で帰りなよ。それじゃ。」
俺はそう彼女を諭して、そそくさとその場から立ち去った。
冬場は、夜に掛けて冷え込みが厳しくなり、暗くなるのが早い。俺は鞄からいそいそと手袋を取り出して手に填めたその時、
千駄木:
「高萩くーん、待ってぇ!」
何と千駄木が、後ろから走り寄ってきた。追いつかれたくない俺は急ぎ足にしたが、それでも追いつかれてしまった。
千駄木:
「はぁ...はぁ...。高萩クン…、何で逃げんの?」
千駄木は、息を切らしながら俺に質問する。
高萩:
「別に…、寒いから早く駅に行きたかっただけだよ。」
と、俺は彼女に素っ気なく答えた。すると、千駄木は彼女のコートのポケットから携帯を取り出して、
千駄木:
「ねぇ、高萩クンのメルアド教えて。」
と、言ってきた。 本当は嫌だったが、昼間の件もあるし、メルアドぐらい教えておいても損は無いかと俺はズボンのポケットから携帯を取り出し、千駄木とメルアド交換をした。
千駄木:
「これからは、友達だね!」
微笑みながら言う彼女の顔は、実に嬉しそうだった。
高萩の心の声:
「別に友達では無い、単なるクラスメートの一人だろ。」
そして俺は、内心嫌々ながら千駄木と一緒に駅まで歩き、改札の所で別れて、ベンチに座って列車を待っていた。ふと、ポケットにしまっていた携帯が振動したので確認した。 メールが、一通入っていた。相手は、何と千駄木だった。
千駄木のメール:
「高萩クン、急だけど明日暇?」
と、打たれていた。
高萩のメール:
「特に予定は無いけど、何かあんの?」
と、送信した。 すると、数分後に千駄木から返信されてきた。
千駄木のメール:
「じゃあ、補習受けてる皆で明日カラオケ行かない?」
と、打ってあった。カラオケ自体苦手だし、女子がいる時点で行く気が失せた。
高萩のメール:
「ゴメン、行かない。」
と、打った。
すると返信されてきて、
千駄木のメール:
「そっかぁ…、残念。でも、また今度行こうよ!」
と、打たれていた。
高萩の心の声:
「今度は、と言うか一生無いよ。」
俺はそのメールに返信せずに携帯をポケットの中へしまった。
一夜明けて、クリスマス。俺は昨日と同じく、学校へ行く。今日の補習の時間は何故か真面目に受けたと思う。そして、補習が終わり帰ろうとした時、
???:
「おい、高萩。カラオケ行かないのか?」
と、カラオケ好きの魚谷に止められた。
高萩:
「悪い、俺パスするよ。」
と、答えた。
魚谷:
「そうかぁ、残念。 あっ...まさか、彼女とか出来たんじゃ?」
俺は、魚谷の質問に苦笑いしながら、
高萩:
「冗談言うな。 この俺に彼女なんか出来るか?」
と、肩を竦めながら答えた。
魚谷
「ハハッ、そうか! じゃ、お互い良いクリスマスを!」
魚谷はそう言って、カラオケへ行く仲間の所へ走って行った。
俺は一息ついた後、帰宅しようと学校から出て、近くのバス停から駅へ向かうバスに乗車した。車内は、冬休みだからかかなり席が空いていた。
何だか変な気分だった。自分が選んだ事なのに、選んだ事を後悔しないようと必死にしている自分が、何故だか切なかった…。
駅から電車を乗り継ぎ、家に到着すると、居間のテーブルの上には、恐らくクリスマスケーキと思われる箱が置いてあった。
俺はそれを一瞥して階段を駆け上り、2階の自分の部屋へ入った。
俺の部屋は衣類で造られた山と机、テレビとゲーム機、ベッド、そして何となく観葉植物としておいたサボテンが置いてある。俺は、私服に着替えて一目散にベッドへ潜り込んだ。そして音楽プレイヤーで好きなアーティストの曲を聴いた。この瞬間が1日の中で一番幸せだと感じる。心地よさに浸る俺は、いつの間にか夢の中に入っていた…。
俺は中学生に戻っていた。 あれは…そう、榮波だ。 彼は、複数の奴らにいじめられていた。俺は助けようとした。が、その結果、俺もいじめられてしまった。
(イヤだ、誰か助けてくれ! 誰か助けてくれ! 誰か…。)
(バッ!)
「ハァハァ…、夢…だよな?」
起きた時は、全身が汗びっしょりだった。なので、即行でシャワーを浴びた。その時に、窓の外の暗さでもう夜になってたんだと解った。
着替えてから居間で夕食を採り、部屋に戻って電気も点けずにわざと暗くしたまま、俺はベッドの上で体育座りしてしていた。ふと気がつくと、携帯のランプが光っていた。確認してみると、一通のメールが入っていた、カラオケの光景の写真付きで、送り主はまたしても千駄木からだった。
(カラオケ、超楽しかったよ! 高萩クンも来れば良かったのに…。)
と、打たれていた。
この、なんも変哲もない彼女からのメールの文面に、何故から目から涙を流していた…。