friends16:彼の死…私の思い。(5)
榮波の前に現れた少女、沼田麻衣。彼女とは昔から友達だった榮波。だけど、沼田に対する榮波の思いは“友達”として…じゃなくて。
「何よ…その驚いた顔は?さては…何故、あたしがここにいるのか、でしょ?」
僕の目の前にいる少女の名は確か…沼田 麻衣。彼女は昔、僕の家の近所に引っ越してきた家族の一人娘だった…。
「麻衣…何故ここに…。」
僕が尋ねると、麻衣は少し顔色が曇った。
「ま、麻衣…?」
「…実はさ…あたしの両親、離婚したんだ。」
「そうなんだ…って、えぇっ?!」
(麻衣の両親は、あんなに仲が良くて、近所で評判になる程の夫婦円満なはずだったのに…何故?)
疑問が積もるばかりだ。
「…で、今ね…あたし、お父さんの家にいるんだぁ。」
麻衣の家庭環境は、彼女の父親がここいら辺では名家と称されていた沼田家へ嫁ぎ、彼女の父親は沼田家の婿養子になった。て、いうことは…
「麻衣…名字が変わるんだ。」
麻衣は、コクリと頷いた。
「うん。お母さん家の名前の“沼田”からお父さんの旧姓“潮見”に変わる…だから、あたしの名前は潮見 麻衣になるの。」
(潮見…か。)
「でね、蔵瀬…。」
「うん?」
僕が振り向くと麻衣は、哀しそうな顔をしていた…。
「あたし…この街から去るの。」
「えっ?!」
麻衣は、僕と同じ街に住んでいたが通っている学校は違った。
「…そうなんだ。」
「ねぇ…蔵瀬。悲しい顔しないで…。あたし…辛くなるじゃん。」
「あ…ゴメンな…ゴメン…」
麻衣が、歪んで見えた、あぁ…
「蔵瀬、いつまでも…いつまでも友達だから…友達だからネ!」
麻衣がニコッと笑った。僕は…どうすれば良いんだ?
「ま、麻衣…あのさ…。」
「ん、何?」
僕の前には、飾らない笑顔の麻衣…。
言うぞ…
“麻衣が好きだから行かないでくれ!”
と。
「ま、麻衣…」
「おーい、麻衣。そろそろ行くぞ。」
時間切れ…。
「あ、お父さん。…じゃ、行くね。」
「あ…うん。げ、元気でな!」
「うん!」
そう言って、麻衣は僕の前から去っていった…。
…麻衣がもう行ってしまっても、僕はその場から動けなかった。夜になって周りが見えなくなって良かったと思う。涙でクシャクシャな顔を、見られたくなかったから。
しかし、僕が泣いたって彼女は決して戻ってこない…。
だから…空に向かって叫ぶんだ。
「麻衣っ!僕達ぃ、ずーーーっと友達だからなぁ!!!」
きっと、僕の声は彼女には届かないだろう。
だけど、彼女の心には届いて欲しかったんだ。