friends12:彼の死…私の思い。(1)
この話から数話、高萩の中学時代の仮ダチである佐伯と榮波の中学時代の話が続きます。暫くは、高萩や千駄木、成増、潮見などは出てきませんのでご注意下さい。
………。
…もう、嫌。
こんな残酷な結末なんて…、嫌だ。
榮波君が…、死んだ。
朝、私はいつもより早く起きてしまったので、いつもより早く家を出て登校した。昇降口で上履きに履き替えて階段を上り、私は教室に到着した。
教室には、既に榮波君が登校していた。 確かに、彼はそこにいた。 だけど、私が見た榮波君は...。
佐伯:
「おはよう、さか...っ⁉︎」
私が見たのは、既にロープで首を吊っていた状態の彼だった…。
佐伯:
「さっ、榮波君っ!!」
私は、急いで職員室に先生を呼びにいった。
佐伯:
「せ、先生!」
私の青ざめた顔を見た先生は恐ろしい事態が起きた事を一瞬で把握したのか、急いで職員室から駆け出していった。
私は、力無く床にへたり込んだ。
佐伯:
「ねぇ、これって...夢、だよね?」
私は、自分の右手を少し強めに床を叩いた。ヒンヤリとした冷たい感触と同時に、手に鋭い痛みを感じた。この瞬間、私は悟った…。
これは【現実】なんだ、と...。
佐伯:
「い…、嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」
泣き崩れた私の意識は、徐々に薄れていった…。
目が覚めると、私はいつの間にか誰かに保健室のベッドに運ばれていたようで、側にはうつ向いてる先生が座っていた。
佐伯:
「…うぅん…せ、先生?」
佐伯の担任:
「佐伯…気が付いたか。」
先生は、哀しい目をしていた。私は怖くなり、恐る恐る質問した。
佐伯:
「先生…、榮波君は?」
しかし、先生の口から出た言葉は残酷な結末だった。
先生は、黙って首を横に振った。
「残念だが、亡くなったよ…。搬送先の病院で。」
ショックだった…。必死に声を出そうとしても出なかった…。
先生は泣きながら静かに言った…。
「榮波は…、もう帰ってこない。」
私は目の前が真っ暗になった。
彼が亡くなった日のその夜、私は堪えきれず声を上げて号泣していた。
枕が涙で濡れていた…
(榮波君…どうして…)
私が、彼の死に人一倍悲しんでいたのは理由があった。それは…
榮波君は、私が以前から好きだった...ううん、大好きな人だったから…。
中学に入学してから直ぐの事、性格が暗くて周りと馴染めなかった榮波君はクラス内で主に決まった男子数人から酷いイジメを受けていた。そのまま地元の公立高校へ入っても彼に対するイジメは止まなかった。
彼は、誰にも相談出来ずに一人で耐えていた。ただひたすらに、イジメから耐え続けた…。
私と榮波君は中学、高校と一緒で、更に同じクラスだった。
彼が、男子達からイジメられていたのは知っていた。けれど、私はそのイジメに対して見て見ぬフリをしていた。彼を助けようとすると、今度は私がイジメのターゲットにされてしまうから。 今思うと、本当に情けないと後悔している。
榮波君から“卑怯者”と言われても仕方がなかった…。
だって過去に、榮波君が私を助けてくれた事があったから…。
…それは、中学2年の時だった。
私はクラスの女子の1グループからイジメのターゲットにされていた…。
私が、そのグループの人達に何もしてないのに、
「あの娘、少しいい子ぶってて生意気だから。」
という理由でいじめられていた…。
私に対するイジメは、徐々に酷くなっていった。私の持ち物が盗まれていたり、教科書が刃物でズタズタに切り裂かれていたり、私の机の上に菊の花が添えられていたこともあった…。
「もう…イヤ…。」
毎日、クラスメートから視られる嫌な視線…。
「あーあ、またあの子いじめられてるよ。」
「別に…俺らには関係ねぇじゃん。関わると面倒くさいからアイツから無視してようぜ。」
そう言われて、私はイジメに参加してない周りの人達に助けを求めても、無視され続けていた。挙げ句の果てに、担任の先生までも私の事を無視し始めたのだ。
だけど…たった一人だけ…私を無視せず優しく接してくれたヒトがいた。それが…榮波君だった。
ある日の放課後、私は筆記用具などが入っていた通学鞄をグループの一人に隠されて、必死に探していた。
「私の鞄、一体どこにあるの?」
その時、後ろのドアから教室に誰かが入ってきた。私は、あのグループの一人がやってきたのかと思い、過剰反応してしまった。
「だっ、誰?!」
すると、相手はゆっくりとした口調で返してきた。
「えっ…えっと…その…忘れ物を取りに…」
その声を聞いて私は、ひとまず安心した。入ってきたのは榮波君だった。
「…榮波君?」
「へっ?そっ…そうだけど…何か?」
「ううん…何でもない。」
「あの…佐伯さん?」
「はっ、はい?」
私は少し驚いた。初めて榮波君に、話し掛けられたのだから。いつも周りを気にして、自分から発言しない彼が…
「佐伯さんは…何してたの?」
「えっ、わ、私?」
「うん。」
すっかり、キョドっている私に飾らない自然な笑顔で話す彼…。
私の初恋は…始まった。