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友達の存在...  作者: りす君
11/58

friends10:潮見

潮見の誕生日の日がやってきた。

高萩は潮見と待ち合わせをして、潮見家にお邪魔する事に…

2月14日、土曜。

天気、曇りのち降雪


世間では、今日は“バレンタインデー”であり、女性が好きな男性にチョコレートをあげる日である。 しかし、俺には関係ない。 でも、約束はある。


潮見の誕生日を祝ってやる約束。


潮見にプレゼントとして書いた、短く(つたな)い手紙を片手に、約束の待ち合わせ場所である流星公園。園内にある時計塔の針はもうすぐ13時を指そうとしていた。


高萩の心の声:

「潮見、大丈夫かな…。」


心配する俺の前方に、一人の少女が見えた。潮見だった。パーカーとズボンを履いていた。



潮見:

「今日は来てくれて、本当にありがとう…。 嬉しいな、高萩君に祝って貰えるなんて…。」

そう言った潮見は、少し照れていた。


高萩:

「本当に、俺で良いのかよ? 実は、後悔してるんじゃないか?」


そう尋ねると、潮見は首を横に振った。


潮見:

「後悔なんてしてないよ…。あたしは、高萩君に誕生日を祝って貰えるなら、心から幸せだと思っているんだから。 エヘッ。」


そう言って、小さく舌を出して微笑んだ潮見。俺は、その姿を見て一先(ひとま)安堵(あんど)した。


潮見:

「じゃあ、行こっか? あたしの家に。」


潮見が、立ち上がって言った。


高萩:

「おい…、俺が麻衣の家に上がり込んで本当に大丈夫なのか?」

潮見:

「うん、大丈夫。」


俺の不安そうな言葉に、潮見は断言した。


潮見:

「今日、義父と義兄は外出中。二人共、明後日まで帰ってこないから。 これで、あたしと高萩君の二人だけで誕生日パーティーが出来るね。それじゃあ、行こっ!」


そう言った潮見にいきなり手を握られ、俺は呆気に取られた。


高萩の心の声:

「潮見…、以前はこんな活発な奴じゃ無かったのに。 徐々に打ち解けてきたのかな。」


そう思いながら、俺は潮見に連れられて彼女の自宅に到着した…。


潮見は、玄関で丁寧な事にスリッパを用意してくれた。俺は、履き替えて中に入った。


高萩:

「おっ、お邪魔します…。」


俺のぎこちない姿に、潮見は笑っていた。

それから俺は、潮見に応接間へ案内され、ソファーに座った。座り心地が良く、肩の力が抜けた。

リラックス状態の俺に、キッチンにいた潮見が声を掛けられた。


潮見:

「コーヒー、紅茶、オレンジジュースがあるけど、どれが良い? 」

高萩:

「とんでもない、用意しなくて良いから。今日は、麻衣が主役なんだからさ。」


俺は断ったが、それでも彼女は微笑みながら、


潮見:

「そんな、遠慮なんてしないで。 じゃあ、コーヒーで良いかな?」


俺は了承し、彼女がコーヒーを用意してくれた。


潮見:

「わざわざ来てくれたのに、飲み物も出さないなんて悪いでしょ。じゃあ、ここにクラッカーがあるから鳴らしてよ!」


俺は手元にあった、数個のクラッカーを鳴らした。


(パーン!パーン!パーン!)


高萩:

「誕生日おめでとう! 今日で、麻衣も16歳だな。」

潮見:

「ありがとう、高萩君。 あなたに祝えて貰って本当に嬉しい…。…あれっ?」


潮見が突如涙を流したので、驚いてしまった。


高萩:

「おっ、おい、大丈夫か?」


すると、潮見は涙を拭って少し笑いながら言った。


潮見:

「うん…、大丈夫だよ。ありがとう、高萩君。」

一段落して、潮見は突如何か思い出した様子だった。


潮見:

「あっ、そうだ! あたし、今朝から手作りケーキを作ってたんだっけ。高萩君に食べて欲しくて作ったの、食べてくれると嬉しいな。」


潮見の努力に、自分が恥ずかしく情けなく感じてしまった。


高萩の心の声:

「潮見が俺の為に一生懸命、ケーキを作ってくれたのに俺はこんな拙い手紙をプレゼントとして渡すなんて…。」


益々、自分が情けなくて俺は潮見の目を見れなかった。 そんな俺を見た潮見が心配しているのか声を掛けてくれた。


潮見:

「ど、どうしたの?」

「いや…別に、何でも無い。」


俺は、苦虫を噛んだような口調で言った。 潮見に、申し訳ないと感じていたから。


高萩:

「そうだ。 そのケーキ、(いただ)いて良いかな?」


苦し紛れに、俺はケーキの話に戻した。 潮見は冷蔵庫からケーキを取り出し、俺の目の前に置いてカットしてくれた。 チョコレートケーキだった。


潮見:

「はい、どうぞ。 高萩君のお口に合うかどうか解らないけど…。」


俺は切り分けられた中から一つ貰い、口に運んだ。


高萩:

「…美味しい。美味しいよ、このケーキ!」


あまりの美味しさに、思わず声がデカくなってしまった。


潮見:

「えっ? 本当に? 良かったぁ…、嬉しい! 高萩君に“美味しい”って言われるなんて、本当に作った甲斐があったわ!」


潮見は笑顔で嬉しそうに言った。俺の方も、幸せな気分になっていた。


高萩の心の声:

「もう迷う事は止めよう。」


意を決した俺は、潮見へ手紙を渡した。


潮見:

「えっ? 手紙?」


俺は、うつ向きながら言った。


「そう。 一生懸命悩んだあげく、こんな拙い手紙になっちゃった…。 ごめん!」


手紙を開き、文面を読んだ潮見。


潮見:

「嬉しい! ありがとね、高萩君!」


そう言ってくれた潮見に、俺は感謝した。


ケーキも食べ終り、(しばら)く互いにたわいもない雑談をしていた。

かなりの時間が経ったと思う。俺と潮見が時間を忘れて話して盛り上がっていたその時、


(ボーン、ボーン…)


時刻を知らせる音色が聞こえた。 時刻を見ると午後7時を回っていた。

さすがにこんな時間だし、俺は帰ろうとした。 しかし、外は雪がちらついていて、更に少し積もっていた。


高萩の心の声:

「あぁ…、どうしよう。」


俺は、困ってしまった。 自転車で帰ろうと思ったが、乗ったとしてもこれじゃあ危険で事故を起こす可能性を考えると、この案は却下された。

すると、外の銀世界を見ていた潮見が驚きの言葉を言った。


潮見:

「良かったら高萩君…あ、あたしの家に泊ってく?」

高萩:

「えっ?!」



俺の頭の中では、道徳と欲が戦っていた。


高萩の心の声:

「クラスメートである女子の家に泊まるなんて、言語同断な行為。しかし、この雪の中を歩いて帰るなんてキツいしな…。 親に電話して迎えに来てもらう…、無理だよな。」

潮見:

「…萩君? 高萩君? 大丈夫?」

高萩:

「へっ?」


頭の中で葛藤していた俺に、潮見が心配そうに見つめていた。


高萩:

「外はこんな様子だし…、高萩君の家はここから遠いでしょ? こんな中、帰るなんて無謀だよう…。 あたしの家族の事なら前に言った通り、帰って来ないから大丈夫だから。」


しかし、まだ俺の決断に道徳心が決断を鈍らせていた。


高萩:

「で、でも俺は、男だぞ? 麻衣だけしかいないこの家に、男である俺を泊めるなんて…。」

潮見:

「大丈夫。」

高萩:

「えっ?」


潮見は、真面目な顔付きだった。


潮見:

「高萩君は、何もしないって信じてるから。 (小さな声)でも、何かあっても良いかも…。」

高萩:

「何もしないって。」


そう思われていたのかと思うと、ホッとした。

俺は、彼女の言葉に甘えて泊まらせてもらう事にした。 一応、家族に事情を説明しに連絡を取ってから。


潮見:

「嬉しいな! 高萩君が、あたしの家に泊まってくれるなんて!」


潮見は、さっきからこんな調子だった。俺は、ソファーに座りながら黙って外の景色を見ていた。すると、潮見が突如言った。


潮見:

「お風呂…、どっちから入る?」

高萩:

「あっ、俺はどっちでも。 麻衣に任せるよ。」

潮見:

「じゃあ…、高萩君が先に入って。」

高萩:

「了解。 それじゃあ、お借りするよ。」


潮見に脱衣所に案内されて、脱衣所の手前で潮見と別れた。


[潮見家:脱衣所]


高萩の心の声:

「ふぅ…、潮見には厄介になってしまったな。」

そう思いつつ、脱衣所で服を脱いで浴室に入った。


頭を洗ってお湯で流そうとした時、突如背後からガラッという音が聞こえた。次の瞬間、俺は信じられない光景を目にする…。


潮見:

「高萩君? 背中、流してあげようか?」

高萩:

「な?! まっ、麻衣ぃ?!」


何ということだ…。 いきなり、俺が入っていた浴室に潮見が入ってきて、更に背中を流すと言うとは思わなかった。


高萩:

「ひっ、必要無いから…。」

潮見:

「別に、遠慮なんてしなくて良いよ?」


言葉が詰まってしまった。


高萩:

「麻衣って、何て言うか…その…、気にしないのかい?」


そう聞くと、潮見の声色が変わったのが解った。

潮見:

「別に…、気にしないよ。」


言葉が出なかった…。


潮見の哀しい声…。今まで、性的な事で家族から苦しめられた彼女。 弱くて何も出来ない彼女の事を思うと、胸が締め付けられる思いだった…。

彼女は、ずっと苦しんでいた…。

それを、理解してあげられなかった俺って…。


潮見:

「うっ…、ぐすん…。」

高萩:

「ま、麻衣?」


そうだ、潮見の味方は俺なんだ。


高萩:

「麻衣。」

潮見:

「…えっ? 何、高萩君?」

高萩:

「俺は、お前の味方だ。 嫌な事があったら、俺はいつでも相談に乗るから、何でも話してくれよ。」

潮見:

「…うんっ。 ありがとう、高萩君…。」




やっと、潮見の境遇を知れた。 だからこそ俺が、潮見を守らなくちゃいけないと思った…。

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