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赤子の入れ替えに気がついたのでこっそり我が子を取り戻しておきました

作者: マチバリ
掲載日:2026/10/10


「ふふ。誰も気がついてない。このまま幸せになるのよ、私のかわいい娘」


 うっとりとした笑みを浮かべながら赤ん坊をあやしているのは、私の親友、いや、親友だった女であるエリザだ。

 彼女の腕に抱かれているのは数日前に生まれたばかり私の娘。

 私はその光景を呆然と見つめていた。




 私、アンネリーゼは資産はないが歴史ある伯爵家の令嬢として生まれた。

 両親はちょっとお人好しだが善良な人で、私も兄も大切に育てられた。

 跡取りである兄は、両親のお人好しぶりを案じて自分がしっかりしないととよく口にしていたが、私にしてみれば兄は両親にそっくりな性格だった。

 両親や兄は家族の中では私が一番ぼんやりしているので心配だとよく言われていた。

 心外である。

 とにかく、私は家族が大好きだった。

 そんな我が家に家族が増えたのは私が10歳のとき。

 親戚筋にあたる男爵家の一人娘のエリザがやってきたのだ。

 彼女の両親が事故で亡くなってしまったため、我が家に迎え入れることになったと教えられた。

 遠縁ということもあり、私たちはよく似ていて、並ぶと姉妹に間違われることも多かった。

 おっとりしている私と違い、エリザはとてもしっかり者だし、頼りになった。

 華やかな集まりが苦手な私に代わって人との交流を助けてくれたこともあったし、嫌な子から守ってくれたこともあった。

 私たちは家族であり親友であった。


 16歳になった私は一人の青年に恋した。

 エリザと共に参加したパーティーで、華やかな人々になじめず壁の花をしていた私に声をかけてくれた優しさと気づかいに心を奪われたのだ。

 彼もまた友人に誘われたがどうにもなじめずに一人で過ごしていたらしい。

 私は彼に想いを打ち明けたが、彼からは「私は貧乏な男爵家の次男。あなたとは身分の釣り合いが取れない。きっとご両親も許さないだろう」とやんわりと断られてしまった。

 私はこの恋を諦めようとしたが、エリザが私の気持ちに気が付き、両親を説得するべきだと背中を押してくれたのだ。

 そのうち家族が折れ、私が好きな相手と結婚するのが一番だと言ってくれた。

 許しが得られたことを伝えると、彼は少しだけ困ったように笑いながら、私を大切にしてくれると約束してくれた。


 私が彼と結婚したのとほぼ同時にエリザも結婚した。

 相手は資産家で有名な伯爵家の跡取りで、社交界でもいつもたくさんの女性に囲まれていた男性だった。

 そんな彼がエリザを見初め、二人は結ばれたらしい。

 私はとても嬉しかった。

 二人で幸せになろうと約束したのだ。


 私は夫と小さな屋敷で質素だが穏やかな生活を送り、エリザは社交で華やかな暮らしを楽しんでいた。

 以前ほど会うことはなくなったけれど、お互いにとても幸せな数年だったと思う。


 そんな運命が大きく変わったのは、夫が国王の隠し子であったことが判明してからだ。


 国王陛下と王妃様の間には長く御子が恵まれなかったうえ、王妃様が流行病で命を落としたのだ。

 その直後、我が家に国王陛下からの使いがやってきて、夫を我が子として迎えると発表した。

 夫は、男爵家の次男ではなく、若くして亡くなった男爵家のご令嬢と結婚前の国王との間に生まれた王家の血を引く子どもだったのだ。

 夫の母が彼を身ごもったときには、国王は政略により王妃との結婚が決まっていたため、妊娠していたことすら明かさず身を引き、夫を産んですぐに命を落とした。

 彼の母の両親であった男爵夫妻は、夫を孫ではなく我が子とすることを決め、正体を隠し夫を育てたのだ。

 だが血は水よりも濃いとはよく言ったもので、夫の顔立ちは国王によく似ていた。

 だから国王は夫が我が子ではないかとずっと疑っていたという。

 とはいえ王妃の手前、夫に関わることはできず、ずっと苦しんでいたらしい。

 子どもができぬまま王妃を喪った国王は男爵夫妻を問い詰め、夫が我が子であると告白させ、ある方法を使い、夫が王太子であることを証明した。


 一夜にして貧乏貴族から王太子になった夫だったが、日頃の行いから優秀で善良な人物として有名だったこともあり周囲にはすぐに受け入れられた。

 彼の母親が国のためを思い身を引いたことも美談として、もてはやされたのも大きい。

 夫が王太子となったことで、私は身分の不釣り合いを理由に離縁されるのではと内心怯えていたが、それは杞憂に終わった。

 政権を揺るがすような派閥に属しているわけではなく、かつ歴史のある伯爵家だったこともあり、むしろ都合がいいと判断されたのか、私たちの結婚は継続されることになった。

 まさか自分が王太子妃になる日が来るなど誰が思ったことだろう。

 両親や兄は盛大に驚いていたが、私たちの幸せを願うのは変わらないと言ってくれて心強かった。

 妃教育は大変だったが周囲に支えられ、なんとか日々をこなしていた。

 そして念願の懐妊を果たした。


 そんな中、私の元にエリザが嫁いだ伯爵家が没落したという知らせが届いた。

 賭け事による散財や、投資の失敗により多くの資産を失った結果、爵位を返上し家土地を売るしかなくなったらしい。

 エリザの夫は借金取りから逃げるために失踪。

 そのうえエリザは私と同じでお腹の中に子どもがいるという。


 私は急いでエリザを呼び寄せた。

 行き場を無くしたというエリザを慰め、子どもが生まれるまでは王宮で暮らしたらいいと提案した。

 もうすぐ子どもが生まれることもあり、心を許せる相手は何人いてもいいと思ったのだ。

 夫は少しだけ難色を示していたが、私が懇願すると了承してくれた。

 最初は気落ちしていたエリザだったが王宮の暮らしに慣れてくると、以前のように明るい表情を見せることが増えた。

 そうして二人して産み月を迎え、私たちはそろって娘を産んだ。

 数日早く出産したエリザは安産だったが、私は出産のショックで数日寝込むことになった。

 ようやく起き上がれるようになってはじめて抱いた我が子は、まだ生まれて数日とは思えないほどにしっかりした子どもでよく泣いた。


(あら……?)


 私は我が子を抱きながら奇妙な違和感に襲われていた。

 それが何なのか分からず首を傾げる。

 周りの侍女たちがそれに気がついたのか、どうしたのか尋ねてくるので、素直にこの子が自分の子なのか実感が湧かないと告げた。

 傍に控えていた医者や産婆からは、人は生まれてすぐに母になるわけではないからそんなものだと教えられたが、私はどうしても胸のざわめきを無視できなった。


 ささやかな娘との触れあいを終えたその夜、私はやはり気持ちが落ち着かず、横に眠っていた夫を揺り起こした。

 夫に不安を告げると、彼は呆れたり責めたりすることはなく、優しく寄り添ってくれた。

 産後には気持ちが不安定になるのはよくあることだ、と前置きしてくれたうえで、一緒に子どもの寝顔を見に行こうと誘ってくれたのだ。

 夫もまた、産後に寝込んでしまった私を気づかう傍らで公務に勤しんでいたため、我が子との関わりは最低限だったこともあり、触れあいがたりないのを気にしていたと教えてくれた。

 家族三人でゆっくり過ごす時間を作ればきっと大丈夫と言われ、私もそうなればいいと思って了承した。


 人を起こすほどではないと判断し、夫婦二人で子ども部屋に向かった私たちは、そこで我が子を抱くエリザに遭遇したのだ。

 しかもエリザがその子を「我が子」だと口にしたのを聞いてしまった。


(ああ、そうか。ここは物語の世界だわ)


 私はこの瞬間、ある記憶を思い出していた。

 この世界が私が前世の人生の中で読んだ物語だということを。


 主人公は私が産んだ娘、リーナ。

 リーナは王妃の娘として生まれたが、王妃の親友であったエリザにより彼女の子どもと入れ替えられて育てられた。

 娘たちは二人とも母親似だったこともあり、露見しなかったのだ。

 エリザはリーナをまるで召し使いのように扱いながら育て酷く虐待した。

 養父やその家族からも虐げられていたリーナだが、とある事故でエリザが死んだことで自分がエリザの手により入れ違えられた王女であることを知るのだ。

 入れ替えられた娘であることがわかりリーナは王宮に迎えられるが、実の両親とはなかなか打ち解けることができないし、これまで王女として育てられたエリザの娘であるルネットからは憎まれ、苦難だらけの人生を送ることになる。

 物語の最後はハッピーエンドではあったが、そこに至るまでのリーナの困難は筆舌しがたい内容だった。

 何の非もないリーナがどうしてこんなに苦労をしなければならないのかと読んでいて胸が詰まった記憶が蘇る。

 本当ならリーナは両親に愛され誰からも好かれる王女として真っ当な人生を歩めたのに、と。


 エリザは私たちに気がついていないのか、娘を抱いてニコニコと笑っている。


「ふふ。アンネリーゼったら、すっかりあなたを自分の子と思い込んでいるわ。本当に馬鹿」


 くすくすと笑うエリザはまるで踊るように赤ん坊をあやす。


「あなたは王女として育つのよ。誰よりも幸せになるの」

「アンネリーゼの子は私がたっぷりとかわいがってあげるわ」

「ああ、本当に憎らしい女」

「幸せな家に生まれてのほほんと育って……!」

「私の方がずっと美しいのに男たちはみんなアンネリーゼアンネリーゼ!」

「あなたの父親だって最初はアンネリーゼを狙ってたのよ」

「だから身分の低い男と引き合わせて結婚させたのに」

「まさか王太子だったなんて」

「知っていたら私が結婚したのに!」

「どうしてアンネリーゼだけが幸せになるの」

「絶対に許さないわ」

「だから私の子を育てさせてあげるの」

「我が子じゃないとは知らずね」

「あははは」


 エリザの口から語られるおぞましい呪詛に身体がわななく。

 悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえる。


「ふふふ。無理矢理に先に産んでおいてよかったわ。かわいい我が子。あなたは私の宝よ」


 エリザは赤ん坊をベッドに降ろすとその額にキスを落として子ども部屋を出て行った。

 私は身体が震えるのをこらえきれずその場に座り込んでしまった。

 エリザがそこまで私をずっと疎んでいたなんて。

 物語では知っていたことだが、直接聞かされるとこれまでの幸せな思い出が黒く塗りつぶされていくほどの絶望が押し寄せてくる。

 物語の中でもアンネリーゼは真実を知りずっと苦しんでいた。

 親友に裏切られた怒り。

 我が子を我が子として育てられなかった悲しみ。

 信じて愛情を注いで育てた娘が他人で、しかも我が子を奪った仇の子であるという苦悩。

 憎みたくても憎みきれず、愛したくても愛しきれない。

 アンネリーゼは物語の中で非業の死を遂げてしまう。

 前世の私は、主人公であるリーナ以上にアンネリーゼが不憫でならなかった。

 まさかそのアンネリーゼに自分が転生してしまうなんて。


「なんてことだ許せない。娘を取り戻さなければ」


 夫の言葉に私ははっとする。

 きっと私のアンネリーゼへの気持ちが、この転生をなし得たのかもしれない。

 今ならまだ間に合う。

 物語で泣き暮れたアンネリーゼに代わり、我が子を取り戻せるのだと気がつき、冷え切った身体に血が通っていくのがわかった。


 夫は王家の兵を呼び寄せ、その日のうちに全ての関係者を調べ上げた。

 そしてエリザの言っていたことが事実であることが証明されてしまった。

 私が寝込んでいる間に、エリザは医師や産婆に金を握らせ、私と自分の赤子を入れ替えていたのだ。

 金を受け取った者たちは遠くに逃げていたが、兵士に捕まり全てを白状した。

 エリザは入れ替えた私の子の世話は乳母に任せきりで殆ど抱くこともなく、ミルクすら最低限しか与えられていないと知った。

 それを知った夫の顔はこれまで見たことのないほどに怒りに染まっていた。

 夫はすぐさまエリザを捕らえ子どもを取り戻すと息巻いたが、私はそれを止めた。


「どうしてだ。我が子が恋しくないのか」

「恋しいわ。でもそれ以上に怒っているの」

「ではどうするというのだ」

「私にいい考えがあるの」


 私はある計画を夫に告げた。

 それを聞いた夫は驚きながらも、頷いてくれた。


 その計画とは、エリザの子と我が子を再び入れ替えるというものだ。

 それもエリザには気がつかれないように秘密裏に。

 ここでもし騒ぎを起こしてエリザを追い詰めれば何をするかわからない。

 だからエリザには子どもの取り替えが成功したと思い込ませておこう、と。


 夫の采配により速やかに子どもは私たちの元に返ってきた。

 痩せてはいたが健康に問題はなく、元気ににこにこ笑ってくれた。

 その笑顔に私は胸の中がいっぱいになるのを感じた。

 エリザの子を抱いたときのような違和感は欠片も湧かず、我が子だと心から信じられた。

 夫も同じ気持ちだったのだろう。もう離さないと娘と私を抱き締めてくれた。

 ようやく娘を腕に抱けた喜びに私たちはむせび泣いたのだった。


 私は物語同様に、娘にリーナと名前を付けた。

 リーナという名前は物語でエリザが付けた名前ではあったが、あの物語の中で成長し幸せを掴むリーナという少女を否定するのは嫌だったのでそのままリーナという名前にしたのだ。


 エリザは私たちが子ども入れ替え直したことにはまったく気がついていないらしく、リーナに会いに来てはかわいいかわいいと褒めるばかり。

 しばらく様子を観察して探らせたが、本気でわかっていない様子だった。

 本当に我が子を愛していれば、入れ替わったことに気がついただろうに、エリザは勘づきもしなかった。

 やんわりとエリザの子どもを見せてほしいと頼んでみたが、何かと理由を付けて断られ続けていた。

 そのうちに、エリザは子どもを連れて城を出て行ってしまった。

 きっと成長に伴い、入れ替わりに気付かれることを危惧したのだろう。

 そんな心配などないのに。



 それから月日は流れ、リーナは16歳になった。

 リーナはすくすくと元気に育ち、今や国の宝と呼ばれるほどに美しい娘に育った。

 私たちの間には息子ともう一人の娘も生まれていた。

 あの物語ではなかった展開だった。


 どうやら夫は、エリザが口にした「他の男性が私を狙っていた」という話を聞いたことで、隠していた独占欲を爆発させてしまったらしい。

 私に押し切られる形で結婚したとばかり思っていた彼だったが、本当は出会ったときから私に惚れていたことを教えてくれた。

 だが身分の低さもあり自分からは言い出せなかったのだと。

 また、彼が国王の子どもであることが判明したとき、やはり私との離縁を命じられていたが、彼は私以外と結婚しろと言うなら王太子にはならないと周囲を黙らせていたこともわかった。

 まさかそこまで愛されていたとは知らなかった。

 絶対に他の誰にも触れさせない! と執着をあらわにし、私を溺愛するようになり……という嬉しい変化が起きたのだった。

 実際、エリザの発言は事実だったらしく、彼女の妨害工作により私はいくつもの縁談を潰されていたこともわかった。

 両親や兄はまったく気がついていなかったらしく、全て知って随分と落ち込んでいた。

 二度とエリザには関わらないとも誓ってくれた。

 なお、エリザの行いを知った夫は「憎らしいが、私とアンネリーゼを引き合わせたことだけは評価できる」と言っていた。

 なんとも皮肉な運命ではあるが、私も概ね同意見だ。


 即位して国王となったあとも、夫はずっと私を深く愛してくれて、子どもたちのよき父親だ。

 平坦な道のりではなかったが、二人だからこそ乗り越えられたこともあった。


 そして今日はリーナのデビュタントの日だ。

 国内外から同じ年頃の令嬢たちが集められ、社交界入りを祝う華やかな催し。


 リーナは真っ白なドレスに身を包み、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 その横には婚約者である公爵家の跡取り、デイビスも寄り添っている。


(うまくいってよかった)


 二人の婚約は私が取り持ったものだ。

 物語の中では、リーナと彼は一度は心を通わせるものの、エリザの娘であるルネットの画策により引き裂かれ辛い思いをするのだ。

 だからこそ私は二人を早々に婚約者にして、何の妨害も入らないようにした。

 やはり運命の恋人同士だからなのか、婚約してから一度も喧嘩らしい喧嘩もせずにいつも幸せそうに微笑んでいる。

 とても幸せな光景だった。

 だが。


「リーナ様は偽物です! 私が本物の王女よ!」


 一人の少女が高らかに声を上げた。

 周囲の視線が一斉に集まり、少女を見つめる。

 リーナが怯えた表情を見せると、デイビスが庇うようにその身体を背中に隠した。


「何者だ!」


 デイビスの言葉に少女がうっとりと微笑む。


「ああ、お可哀想なデイビス様! 偽物の女を婚約者と思うなんて!」

「偽物だと?」

「そうです! その子は私の育ての親が、王妃様を疎み我が子と入れ替えた偽物の王女! 私こそが本物の王女リーナなのです!」


 ふん! と鼻を鳴らしながら高らかに宣言する少女に周囲がぽかんとする。

 それから全員の視線が私へと向いた。

 少女の言葉が本当かどうか確かめたがっているのがわかった。

 私は夫と見つめ合うと、ひとつ呼吸を整えてから少女に声をかける。


「あなたが私の娘だという証拠はどこにありますか?」

「これが証拠よ!」


 少女が掲げたのは不思議な石のおさまった指輪だ。

 それを見た瞬間、会場は大変な騒ぎになった。


「それは王家の秘宝!」

「盗まれていたのか!」


 指輪は物語の中でリーナが本物の王女であることを示す大切なアイテムだった。

 エリザはいざというときのための保険に、王国の秘宝であるその指輪を盗んでいたのだ。

 あの指輪は王族の血液にだけ反応して輝く不思議なもので、リーナの血統を証明するのだ。

 この指輪の力があったからこそ、夫も王の子だと認められたのだ。

 だからみな指輪の存在は知っているから大騒ぎだ。

 少女は目をらんらんと輝かせている。


「さあ、これで確かめましょう!」


 いうが早いか少女は自分の指を傷つけると宝石に血を垂らした。

 物語の中では宝石が輝き、彼女が本物の王族であることが証明される。

 だが。


「あ、あれ? あれ、なんで??」


 宝石はまったく光らず、沈黙を守り抜いた。

 少女は訳がわからないという様子で指輪を振ったり掲げたりしたが、やはり変化は起きなかった。


「に、偽物よぉ!」


 とうとう指輪を投げ捨ててしまった。

 私は兵士に命じ指輪を拾わせると、丁寧に洗浄して手元に持ってこさせた。

 そしてリーナを自分の元に呼び寄せる。


「リーナ、少し痛いですが我慢できますか?」

「はいお母さま」


 私はリーナからほんの少し血をもらうと、宝石に垂らす。

 すると先ほどとは違い宝石はまばゆい光を放ちはじめる。

 周囲が大きくざわめき、少女はぽかんとたちつくした。


「見よ! 指輪の力により、リーナは間違いなく我が子と証明された! そこの娘は王族を名乗る重罪人! 捕らえよ!」


 夫の命令で少女は取り囲まれ、連行されていった。


「嘘よ! どうして! 私が本物なのに! 私が幸せになる物語でしょう! なんでなの!」


 少女の叫びが遠ざかっていくのを見つめながら私は胸をなで下ろしていた。


(まさかエリザの娘が転生者だったなんて)


 エリザが我が子を連れて城を離れたとき、指輪を盗んでいったのには気がついていた。

 夫は奪い返すべきだと言っていたが、それはいつでも可能だったので放っておくように言ったのだ。


 夫の手配によりエリザたちはずっと監視下にあった。

 私としては何の罪もないエリザの娘が酷い扱いをされないように妨害するためだったのだが、どういうわけかエリザは我が子を虐げるどころか酷く恐れていて距離を置くようになった。

 そのうちにどんどん衰弱していったエリザは、あっという間に命を落としてしまったのだ。

 観察を続けると、なんとエリザの娘は自分はエリザによって取り替えられた王女だと信じていることがわかった。

 彼女はそのことでエリザを犯罪者だ、最低だといじめ脅迫し、追い詰めたのだ。


 夫はエリザの娘はエリザに似ておそろしい人間だと思っていたが、私にはわかった。

 エリザの娘は私同様に前世の記憶があるのだろう。

 自分が取り替えられた子どもだと知っていて、いずれは王女になれる未来をわかっているのだ。

 まさか私が入れ替えを阻止していたなど知らずに。


 物語の知識を使って周囲を思うがままに操ろうとする姿は、エリザによく似ていた。

 そして指輪を手に入れた彼女は意気揚々とパーティーに参加し、騒動を起こしたのだ。

 少しでも思慮深さがあれば、事前に指輪の力を試せただろうに。


「世の中には頭のおかしい人間がいるものですね」


 引きずられていく少女を見つめながらデイビスがリーナの肩を抱く。


「デイビス。あのような不敬の者からリーナを守ってくださいね」

「もちろんです王妃様。私が愛するのは何があってもリーナただ一人ですから」


 にっこりと微笑むデイビスに寄り添い、リーナは安心したように微笑んでいる。

 何の憂いもなく我が子を愛せる喜びを噛みしめながら、私もまた愛しい夫に微笑みかけたのだった。



リハビリもかねて勢いだけで書きました


10月14日に「未亡人エレン」の2巻が発売されます

とっても素敵な表紙なので是非表紙だけでも見てやってください……!

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