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秘密基地

作者: 明日咲霞苆
掲載日:2026/03/04

 未明の京都は風が強く、雨上がりの流れ雲は足早だった。陽気を期待して薄着で来てしまったのは間違えだったのかもしれない。身を刺すような冷気から逃げるようにコンビニへ歩く。たまらなくなった私はポケットから煙草を取り出し、ライターを手に取る。普段なら歩きながらでも付けられるのに、今日は火の着きが悪い。いらいらしながら、一度歩みを止め、何度も擦りやっと火がつく。二日ぶりの煙草、その一吸い目は本当に美味しかった。強く燃やさないように丁寧に吸いながら、わざわざ外に出てきた理由を見上げる。

 この日の思い出はきっと他の人より多いだろう。私は曾祖母の代から受け継がれてきた十二段のお雛様を思い出す。兄と父が嬉々として骨組みを立てている横で私はよく小さな鼓で遊んだものだ。ミニチュアにしてはとても良く作られており、刀も抜き差しができた。食卓は別に普段と変わることはなかったが、お菓子の時間に色とりどりの金平糖が食べられたのはとても嬉しかった。

 一番の思い出はその時にだけ広がる雛段の裏だ。私の背丈よりも大きい雛の骨組みを覆うように真っ赤な布が引かれ、その骨組みの裏には背の小さい私しか入れない空間ができる。そこはまるで舞台袖のようにほんのり暗くそして暖色に囲まれた秘密基地になる。お雛様が置かれるこの一週間ほどしか存在しない秘密基地に、私はせっせと自分の好きな物を押し込んだ。カワウソのぬいぐるみや着せ替え人形の服、好きなアイドルの楽譜など大好きで囲まれた空間を作った。そしてその空間で大の字で寝ることが大好きだった。防虫剤なのか箪笥と人形の香りに囲まれて好きな物を抱えて寝るのが好きだった。

 たまたま今日がひな祭りであり、満月であることを知った。一人立ちしてからそういう文化とは無縁であることに寂しさを覚えて、わざわざ服を取り出して夜を散歩した。今の自分は人目が気にせず好きな物を部屋に集めることができる。あの頃のような秘密基地は今もあるだろうか。短くなった煙草に新しい煙草をくべて、味気のない満月に煙をあげる。

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