ショートショート
『最高のペット』
甲は、ある日、ペットショップで不思議な生き物を手に入れた。
店員の説明によると、それは最新のバイオ技術によって作られた「究極の愛玩動物」だという。
「この生き物は、あなたの精神状態を完全に感知します。あなたが寂しいときは寄り添い、怒っているときは静かに身を隠し、誰かに自慢したいときは、最高に美しい毛並みを見せつけてくれますよ」
高額だったが、独身の甲にとって、それは魅力的な買い物だった。
家に連れ帰ると、その効果はテキメンだった。仕事で疲れて帰宅すれば、つぶらな瞳で出迎えて癒やしてくれる。友人を招いたパーティーでは、愛嬌のある仕草で主役を演じ、甲の株を上げてくれた。
餌も手間がかからない。その生き物は、空気中の微細なホコリや、甲が出す生活排水のようなものを栄養源としていたからだ。
まさに、手間いらずで完璧なパートナーだった。
一年が過ぎた頃、甲はふと思った。
「これほど私に尽くしてくれるのだから、この生き物自身は、本当に幸せなのだろうか?」
甲は、その生き物が何を考えているのかを知りたくなった。そこで、再びあのペットショップを訪れ、動物の思考を翻訳する機械を購入した。
帰宅した甲は、ソファでくつろぐペットの頭に、そっと翻訳機のセンサーを当てた。
スピーカーから、機械的な合成音声が流れてくる。
『……ああ、なんて快適な環境なんだろう』
甲は満足して頷いた。やはり、こいつも幸せだったのだ。
しかし、音声は続いた。
『この人間は、私が寂しいフリをすれば餌をくれるし、機嫌をとれば最高の寝床を用意してくれる。排泄物の処理もしなくていい。ただ適当に愛想を振りまいているだけで、安全な生活が保障されるのだから』
甲は凍りついた。
翻訳機は、さらに無機質な声で、ペットの「本心」を紡ぎ出した。
『まったく、人間というのは、なんて扱いやすい「ペット」なんだろう』




