第5話:『未来の俺、なんでこの子にだけ修正しすぎ!?』
夜が明けた。
ヴォイドの気配は遠ざかったままだけど、
宿の外に出ると――“嫌な空気”が漂っていた。
「……なんか黒くね?」
「黒痕域。ヴォイドが近い証拠よ」
ルナの言葉に、背中がゾワッとする。
街の外れの草が、部分的に真っ黒に染まっていた。
霧みたいに煙が立ちのぼってる。
「やばそうだから帰ろうぜルナ」
「帰るのは賛成だけど……ユウ、待って」
「え?」
ルナが草むらを指差す。
黒い霧の中に、小さな影が倒れていた。
「おい……子ども!?」
慌てて駆け寄ると、兎耳の少女がぐったりしていた。
白髪に淡い桃色の瞳。
年齢は……十二歳くらい?
「ちょ、やばいって!? 息してる?」
「大丈夫。気を失ってるだけ」
その瞬間だった。
視界の端がざわっと揺れる。
浮かび上がった“修正跡”の量に、俺は息を飲んだ。
〈修正跡:ミルクの人生:
本来“街で両親と暮らす”
→ なぜか神ユウにより“10回以上書き換え”〉
〈修正跡:進路変更
本来“今日ここに来ない”
→ “ここでユウと遭遇”に再改変〉
〈修正跡:生死判定
本来“黒痕域で死亡”
→ “ユウの前で救助”へ変更〉
「未来の俺ぇぇぇ!?
なんでこの子だけ修正回数バグってんだよ!!」
ルナも驚いたように目を見開く。
「十回以上……?
あり得ない。普通は一度修正すれば済むはず……」
俺は少女をそっと抱き上げた。
軽い。
体温も低い。
だけど、その瞳は、薄く震えていた。
「う……ん……」
「起きた!? 大丈夫か?」
少女はぼんやり俺を見て、ぽつりと言った。
「……お兄ちゃん、光ってる……」
「光ってねぇよ!?(未来の俺のせいでたまに光るけど!)」
少女は少し笑って、ゆっくりと名乗る。
「……ミルク。ミルク・アルミナだよ。
えっと……助けてくれてありがと」
言葉はか細いけど、笑顔はしっかりしてる。
そして、ミルクの周囲に――
また数十個の修正跡が、淡い光で浮かんでいる。
〈修正跡:ミルクの過去:閲覧不能〉
〈修正跡:本来の出会い:破棄〉
〈修正跡:ユウに懐く流れ:固定化〉
「いやおかしいって!!
未来の俺、こんだけ修正したの何!?
この子……何者!!?」
ルナですら、ミルクの修正跡を見て顔をしかめる。
「……ユウ。
この子だけ、異常。
未来のあなたがここまで執着してる意味、絶対ある」
「うっわぁ……絶対めんどくせぇ伏線じゃん……」
ミルクは俺がガタガタ震えてるのを見て、首を傾げる。
「お兄ちゃん……怖いの?」
「怖いに決まってんだろ……未来の俺のやらかしの匂いしかしねぇ!」
でもミルクは、ぷにっと俺の袖をつかんだ。
「……ねぇ。
わたし、行くところ無いんだ。
ここ、黒くて……こわかった……」
言葉が震えてた。
ルナが柔らかく言う。
「ユウ。
あなたの選択で、未来は必ず変わる。
この子を助けるかどうかも、あなた次第」
——その瞬間、また視界が輝く。
〈修正跡:本来“ユウはミルクを放置”
→ 神ユウにより“必ず保護する”に書き換え〉
「未来の俺ぇぇぇ!!
俺にどんだけ保護者させたいんだよ!!」
だけど……
ミルクが小さく袖を握りしめる手を見たら、もう答えは決まってた。
「……わかったよ。
来い、ミルク。
行くところないなら、一緒に行こうぜ」
ミルクの顔がぱぁっと明るくなる。
「ほんと!?
やったー!!」
ルナも小さく微笑む。
「あなた、本当に未来のあなたと違うわね」
「そりゃ俺はまだ神になってないし……」
その時だった。
街の外れに、黒い裂け目が出現した。
バキィィン!!
“世界が歪む音”。
ルナが表情を険しくする。
「……ヴォイド。
でも……今までと、様子が違う」
黒い靄がゆらりと広がり――
そこから、声がした。
『……ユ……ユ……』
「え……?」
初めて聞く、かすれた声。
ヴォイドが“ユウの名前を呼んだ”。
ルナが息を呑む。
「……言葉……?
ヴォイドにそんな機能、無いはず……!」
ミルクがぎゅっと俺の背に隠れて震える。
「やだ……こわい……」
ヴォイドの声はもう一度響いた。
『ユ……返……せ……』
返せ?
何を?
俺は、一歩前に出てしまった。
「お前……俺に何を返せって――」
言い終わる前に、視界が強制的にバグった。
〈修正跡:閲覧制限〉
〈未来ユウによる封印〉
〈“この記憶はまだ開けるな”〉
真っ黒な霧が視界を覆い、強制的に意識を引き戻された。
ヴォイドの姿は、いつの間にか消えていた。
残されたのは、異常すぎるほど大量の修正跡だけ。
ルナは険しい顔で呟いた。
「ユウ……今の、一体……」
「知らねぇ……
でも……未来の俺が“隠してる”んだろうな」
胸の奥がざわつく。
ミルクは袖を握りながら小さく言った。
「ねぇユウ……
なんでヴォイド、泣きそうだったの……?」
「……わかんねぇよ」
ただひとつだけ確かだった。
未来の俺が隠してる“最大の改変”。
そいつが、今動き出した。
——この世界の“本当の運命”を暴く旅が、ここから始まる。
ごめんなさい〜!!ちょっと遅れました…ヽ( ̄д ̄;)ノ=3




